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第178話 スラムの孤児院

 皆のシルバーランク試験まで、あと五日だ。

 今日はライトレイクから帰ったばかりで、時間も少ない。ゆっくり休んで明日、最後の追い込みでも行うとしよう。


 ケントは既に家で寛いでいる。

 ミルファとメイは直ぐにアトリエ――調合部屋に駆け込み、調合や付与を行い始めた。

 ルナは特にやる事がなく、困ってるようだ。


「レイジくん、ウチも何か出来ることが欲しいのです……何かウチにも出来そうな事はないのです?」


「うーん……てか、シルバーランク試験って筆記試験もあるんだろ?大丈夫なのか?」


 アトリエ内でそんな話をしていた為、ミルファもメイもそれが聞こえていて作業の手を止めた。


「そ、そうなのです!一つも勉強してなかったのです。ギルドで資料を買ってくるのです!」


「待って、ルナ!私達も行くよ!」


 慌ててアトリエを出ていこうとするルナをミルファが引き止める。

 どうやらミルファもメイも、筆記試験の存在を忘れていたらしい。

 メイは急いでケントを呼びに行き、ミルファがアトリエの片付けをして、四人で至急ギルドへ向かう。

 一人取り残され時間の出来たオレは、特にやる事もないので、散歩でもする事にしたのだった。


 一口に王都といってもかなり広い。歩いて全部回るとなれば何日掛かるか見当もつかない。

 今までのオレ達の行動範囲は全て東側であり、西には一度も行った事がない。

 用事が無かったといえばそれまでなのだが、王都の南西部は所謂スラム街になっており、観光やショッピング目的で行く者は誰一人として存在しない。

 これは案内所でも説明がされており、人を近寄らせないのが、国の定めた方針でもあるからだ。

 因みに北部は貴族街であり、オレ達一般人は近付くだけで警備兵を呼ばれるので、行ったことがない。

 そんななので、一度スラム街がどのような場所なのか、一度見に行ってみようと思う。


 家から一時間ほど西に歩いたら、かなり寂れた町並みになってきた。

 この辺りは既にスラム地区に入っているのだろう。

 そこら辺に屯している奴等もそれ風の男たちばかりだ。

 一応そういう奴等が手出しをしてこないように、一流冒険者風の装備で来ている。

 その為か、チンピラ風の男たちも、遠巻きに見てくるだけで何も手出しはしてこない。


 少し歩いてきたが、まだ子供には出会ってない。

 ロードプルフで出会った孤児院の子供達の事を考えたら、王都にもそういった環境で過ごす子供がいるのか気になってしまったのだ。

 此処まで子供がいないとすると、やはり国でしっかりした福祉整備がされているのだろうか。

 となると、このスラムの住人は単に自堕落した人間だけの集まりという事だろう。

 ならば特に気にすることもないか。


 そんな事を考えていたら、また一風変わった地域に来ていた。

 立ち並ぶ建物はボロボロのスラムそのものなのだが、行き交う人々がとても元気な地域だ。

 そんな見た目と違い落ち着いた雰囲気の街を歩いていると、何処からともなく子供たちの笑い声が聞こえてきた。

 どうやらこの地域には子供がいるらしい。

 オレは声の聞こえる方へと歩みを進めていた。


 子供たちの笑い声がかなり近づいてきている。

 そんな時、後方より声が掛けられた。


「おい、見慣れない顔だが、こんな所で何をしている?格好を見る限り、冒険者か……人攫いではなさそうだな?」


 見ると、二人の男が立っていた。

 話しかけてきた男は三十歳くらいのガッチリした体格で、騎士団の鎧を着ている。

 もう一人は二十歳くらいだろうか、同じく騎士団の鎧を着ていて、既に抜剣し此方を警戒しているようだった。


「……ああ。オレは冒険者をやっている。王都に来たのは最近で、スラムがどんなところなのか一目見たくてな。ほら、ギルドカードだ。」


 男たちにギルドカードを見せて身分を確認してもらう。

 シルバーランクである以上、粗相な扱いはされないだろう。


「確かに冒険者……しかもシルバーランクか。若いのに対したもんだ。済まなかった、俺の名前ははリモンド。王国守衛騎士団に所属している。コイツは部下のライアンだ。ライアン、もう剣を下ろしていいぞ。」


「は、はい。」


 ライアンはリモンドの命に従うように、構えていた剣を下ろし鞘へと戻していく。

 やはり二人は騎士団員だったようだ。


「で、騎士団がオレに何のようだ?」


「ああ、申し訳ない。俺達は普段から、スラムの中でも特に弱い者が集められたこの地区の警備を担当しているのだ。その為この近辺に住んでいる者の顔はすべて把握していてな。

 そんな中、今まで見たことのない男が歩いていて、ましてや、孤児院に向かって歩いていたからな。人攫いの感じではないもの、一応警戒しなくてはならなくて声を掛けた次第だ。」


 つまり、オレは怪しくはなかったが、見た事のない人間だったから職質をしたという事か。こいつらもしっかり業務をこなしていたのだ。しっかりした者達のようだ。


「そうか、そりゃ特に用もなく彷徨いていたら警戒もするよな。今後気を付けよう。」


 騎士が見回りをしているなら問題はないに違いない。

 オレは踵を返し、この場から立ち去ろうとした。


「なんだ?孤児院に向かおうとしたんじゃないのか?」


 リモンドが不思議そうに訪ねてきた。


「そう思ったんだけどな。あんたらみたいなしっかりした人達が見回りをしてるなら特に問題はないのだろう?それが分かったから行く必要がないだけの話だ。邪魔したな~。」


 リモンドとライアンは顔を見合わせ、慌ててオレを引き止める。


「ま、待ってくれ!すまないが一度一緒に孤児院に来てくれないか?少し見て欲しいんだ。」


 リモンドが必死なのは分かった。オレに出来ることなど金以外にはないのだが、とりあえず二人についけ行くことにした。

 そこは先程の場所から目と鼻の先だった。

 このスラム地域から隔離するように作られた高い壁。その中は周囲とは打って変わった景色だった。

 スラム地域を色で表すならば、完全なモノクロだ。だがこの孤児院の敷地内だけは七色の輝きをしていたのだ。

 これは比喩でも何でもない。事実、本当に七色の庭園がそこに存在していた。


「何だ此処は?一瞬、別の世界に来たのかと思ったぞ!」


 オレもかなり驚いてしまい、目を丸くしていた。


「ああ、俺達も始めて来た時は驚いたさ。実はこの孤児院出身の騎士や冒険者は多くて、そういった人達の寄付でここまでの庭園が出来たらしい。凄いよな。」


 庭園を進みながら、リモンドがこの孤児院について説明してくれた。

 建物の裏はもっと面白い事になっているという。だがその前に要件を聞いて欲しいらしい。

 孤児院の建物へと入っていき、応接室へと通される。そこで少し待って欲しいと言われ、一人残された。

 暫く待っていると、リモンドと共に白髪の初老の男がやってきた。

 どうやらこの孤児院の中でも、かなりの有権者だと思われる。

 この初老の男を中心に、リモンドとライアンが左右に並び、オレの正面に座った。


「初めまして。私がこの孤児院の代表をしております、ラーゼンと申します。」

いつも読んでいただきありがとうございます。

現在更新が遅れております。

しかし、少しずつですがしっかり進めておりますので、長い目で見て戴けると幸いです。

今後もよろしくお願いします。

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