第177話 再び別れ……
「エイル、私はエイルの事が好き。アンタとマリーの事は分かってるわ。でも、私の事も受け入れてもらえないかしら?」
ダンジョンから帰還し、その夜、アブ爺さんの宿で夕食の為皆が集まった時、ソレは突然始まった。
ダンジョン内で宣言した通り、ソニアがエイルに想いを伝えたのだ。
当のエイルはかなり困惑した様子で、どうしたものか考えているようだ。
「ちゅーか、マジで言ってるのか?いや、確かにソニアはいい女だけど、俺の事をそんな風に見ていたなんて、全く思いもしなかったからな……」
エイルの視線はチラチラとマリーを見ている。
個人の気持ちもさる事ながら、マリーを第一に考えているのだろう。
そんなエイルの様子にマリーも気が付く。
「私の事は気にしないでいいわよ。ソニアの気持ち対しアンタ自身の考えと気持ちをそのままソニアに言えばいいのよ。」
エイルは少し考え込む。
が、直ぐに顔を上げ、真っ直ぐにソニアの顔を直視した。
「ガキの頃から俺が好きだったのはマリーだ。それは今も変わらねぇ。」
ソニアはそんな答えが分かっていたのか、俯きながらも小さく頷く。
「だが、どんな時でも傍で笑いかけてくれてたソニアには少なからず感謝してるし、好意を抱いているのも事実なんだ。
俺にはお前を幸せにしてやれる自身はねぇ。でもそれでも俺の傍にいてくれるというなら、出来る限りその想いには答えたいと思う。それでいいか?」
ソニアは俯いたままだが、大きく頷いている。
エイルはそんなソニアに近づき、そっと抱きしめた。
マリーも後ろからソニアを抱きしめ、「これからもよろしくね~」なんて言っているし、ルナはソニアの幸せを自分の事のように喜んでいる。
ディルはオレの隣でその様子をただ眺めていた。口元が薄らとだが笑みを浮かべて見える。ディルはこの結末が分かっていたのかもな。
ともあれ、ロードウインズの形がまた少し様変わりし、ディルが寂しくなるパーティとなるのだが、当の本人は一人部屋でゆっくり出来るから問題ないとの事だ。
オレ達は明日にはこの街を出て王都へと戻ることになる。
今後のロードウインズがどうなっていくのかは分からないが、これからも楽しくやっていければいいと思っている。
エイルとソニアが落ち着きを取り戻し、皆で夕食となった。
ルナやケントは今日一日エイルと共に探索してみてどうだったのか。
この席で手応えを聞いてみると、思いの外いい手応えだったとの答えが返ってきた。
「エイルさんの動きはかなり参考になったのです。あの動きが出来ればウチはもっともーっと強くなれそうなのです。」
「俺に必要なのは筋力みたいだ。ディルさんが言うには、片手で槍を扱えるようになって盾を駆使出来れば、攻防のバランスのとれた前衛になれるらしいんだ。言われてみれば、スピードのない俺に防御力がないのは致命的だよな。そんな訳で、これからは盾術も取り入れていくからな。」
「私は……ふふっ、実践で見せたいから此処では教えないよ。楽しみにしててね。」
ルナとケントはかなりいい感じだったようだ。
だがミルファのはかなり気になる。てか、とっとと教えて欲しい。
「おう、ミルファのはスゲェぞ!コイツ、いきなり……」
「ダメーー!!ケント!絶対言わないでよ?言ったらタダじゃ済まないから!」
鬼の形相でケントに釘を刺すミルファ。
いや、鳩尾に一撃ストーンの魔法を打ち込んでいる。ケントは蹲って声を出せないでいた。
これには流石のオレも身震いをしている。この時、本気でミルファを怒らすのは止めようと、強く心に誓ったのだった。
ともあれ、ミルファも何かしらの成長が見られたという事だ。
エイル達、現ロードウインズの方々には大変世話になった。
この二日間の魔物素材は、今日換金に出しておいた。明日にでもエイル達が金を受け取ればいいだろう。
最初はこの金もしっかり分けようと言われたが、オレ達は全く金に困ってないからな。
ロードウインズの今後の資金に回してもらえればそれでいいと思っている。
これで少しでも今回の恩を返す事が出来ればそれでいい。
この日の夜、ルナはオレと一緒に寝るようだ。
「ソニア姉さまは今夜、うんと幸せになるのです。ウチがいたら邪魔になるのです。」
どうやらソニアの為を思って、近くにいない決断を下したようだ。
何とも師思いの良く出来た決断をしたものだ。
そんな憂いらしいルナを、今夜はしっかり可愛がって上げなければ……。
翌朝、オレは早朝から一人、外へ出ている。
アブ爺さんの宿の裏手に建設中の醤油工場。その建物の建設状況を確認している。
基礎工事が終わり、いよいよ建物を建て始めるといった具合だろうか。かなりしっかりした建物になるようだ。
この世界の建物に基礎工事などないと思っていたから、それをしているのには少々驚いた。
いや、冷蔵庫がないこの世界だからこそ、どんな建物にも地下貯蔵庫がある。それを作る上で自然と基礎が固められているのかもしれないな。
「こんな早い時間に見学かの?出資者殿。」
振り返ると、そこにはアブ爺さんが立っていた。
「いやー、待ち遠しくてさ。そんな早く出来るわけないってのは分かってるけど、それでも気にはなるからな。」
「少しだけど製造は既に始めてるぞい。宿の一角でやってるからホントに少しだがの。」
「マジか!ホントに楽しみだ。出来る日を楽しみにしてるわ。」
これでライトレイクで確認すべき事は全て終わった。
会えていない者もいるが、それは仕方ない。また今度来た時の楽しみとしておこう。
朝食後、再び別れの時がやってきた。
「それじゃあ、オレ達は王都に戻りますね。色々とありがとうございました。」
「おう、オレ達はもう少しこの街に滞在するからな。その後の予定は未定だけど、この国を出るなら一度王都に顔を出すさ。その時は王都案内を頼むぜ。」
笑顔のエイルとガッチリ握手を交わし、別れを告げた。
冒険者をしている以上、また何処かで会えるだろう。必要以上に別れを惜しむ事なくオレ達はライトレイクを発った。
帰りも勿論、二回に分けてシームルグで飛んでいく。
昼前には王都の自宅で寛いでいた。




