第175話 ロードウインズとしての一日(2)
76階層からは従来の、かつてオレ達五人で活動していた頃のやり方で進んでいく。
最前衛にエイルがいて、オレが追従していく。
ミルファとディルが二人で弓矢で牽制して、マリーが最後方で全てのサポートを担う。
あの頃のオレは魔法剣を使えなかったが、今このスタイルで魔法剣を使うと、簡単に魔物を討伐出来ている。
これだけで当時との違いが自分でも分かってしまう。
偶にミルファとディルが同時にパワーアローを放った時には、それだけで魔物が吹き飛んだのには流石に驚いた。
こんな事が出来る弓兵などそう滅多にいないだろうな。
マリーのサポートも完璧だ。
当時は何もしてないんじゃないかと思ったこともあったが、そう思わせる技術に舌を巻く次第だ。
そしてエイルは攻撃した際に、オレの追撃が確実に当たるように魔物を誘導するように仕向けていた。
もしかしたらオレが気付かなかっただけで当時からこんな事をしていたのかと思うと、技術面では到底適いそうにないと、脱帽するしかなかった。
何より驚いたのがこの三人の魔力管理だ。
ジョブ技であろうと武技だろうと、少なからず魔力を消費して技を放つ。
それは魔力を用いて技にブーストを掛ける事でその威力を増す役割を担ってるからであって、魔力を使わなければ通常の攻撃と何ら変わり無い攻撃となるのだ。
そして三人とも、それを知ってか知らずにか、使いどころがハッキリしていて、決して枯渇する事がないようコントロールされているのだ。
マリーとディルはともかく、エイルまでもがそれを行っている事に、オレは何よりも驚いていた。
そんなオレの様子を見たエイルから、「お前、失礼な事考えてるだろ?」なんて言われたが、全力で誤魔化しておいた。
どうして分かったのだろうか。顔に出していない自信はあったはずなのだが。
「それで、ゴールドランクの資格とも言うべきアレは使えるのか?」
ゴールドランクの資格とも言うべきアレ、つまりは武器スキルの事だろう。
勿論使えるようになっているのだが、まだエイル達の前では使っていない。
それを使うに値する魔物が現れていないというのもあるが、一番の理由は只の出し惜しみだ。
今回それを使う場面は既に決めてあるのだから。
「それを見せるのはそれ相応の状況じゃないとな。」
そうしてたどり着いた80階層のボス部屋。相手はダークオーガである。
部屋へと入りその姿を確認すると、ディルとミルファによる攻撃が仕掛けられた。
だが、前回同様この攻撃は黒い瘴気よって阻まれてしまう。
これは予想通りで、この展開を見越してエイルに走ってもらっている。
二本の矢が黒い瘴気に阻まれるその瞬間、エイルはダークオーガの足元に滑り込み足元を数回斬りつける。
これにはダークオーガの瘴気は間に合わず、足元から鮮血が舞う。
この間にオレは早期決着で片付けるべく、大技の準備をしていた。
既に間合いは十分。そこから放たれるオレの剣技【飛断】――。
それを読んでいたかのように瘴気を前面に集めるダークオーガだが、それも織り込み済みだ。
集まった瘴気を消し去るべく、マリーによって放たれたホーリーが瘴気を消し去っていく。
そして無防備になっているダークオーガに向かって飛んでいく斬撃。
一瞬にしてその身体は真っ二つに引き裂かれ、ダークオーガは倒れていった。
「レイジ……完璧じゃねぇか!」
「ありがとうございます。皆の完璧過ぎる流れがあったからこそ決まったんですけどね。」
一度戦ってるからこそダークオーガの動きは読めたものの、一切の狂いもなく、完璧なまでに事前の指示通りの攻撃を行ったエイルらの技術には脱帽するしかない。
最後のマリーによるホーリーに至ってはその最たるものだった。
あれより早ければ再度瘴気を構築されてた可能性もあるし、遅ければオレの飛断の方が先に瘴気にぶつかり失敗していただろう。
あのタイミングこそが完璧であり、あのタイミングになるように精神力の構築を合わせた技術こそが、何より素晴らしいと思った。
「あのレイジくんがこの短期間でここまで強くなるなんてね。」
「……ああ。始めて会った時は単身レッドウルフの縄張りに入って殺されかけてた、本当の新人冒険者だったのにな。」
その事を蒸し返すのは止めてほしい。我ながら本当に無知だったと思う。
しかし、あれがあったからロードウインズというパーティと出会う事ができ、しかもそこの一員になる事が出来たのだ。
今思えばいい出来事だったと思う。
「ミルファも、俺と同時のタイミングで完璧な精度の矢を射るようになったな。完璧だ。」
「あ、はい!ありがとうございます!」
ディルはミルファの技術に合格点を出したようだ。
「レイジ、ミルファ。突然二人がパーティを抜けなければいけないような事態になった事、本当に申し訳なかった。あの時、最後にパーティとして活動する事なく終わってしまった事がずっと心残りだったんだよな。
でも、今回こうしてまた一緒にパーティを組む事ができて、心から良かったと思っている。今の二人を見るからに、全く心配なさそうだしな。」
エイルの両隣にはマリーとディルが立っている。
三人はあの時、パーティとして活動せずに突然の解散宣言をした事をずっと悔やんでいたようだ。
その事をオレとミルファに謝罪した。
そして今回、共にパーティを組んでオレ達の能力を確認した事で、安心出来たようだ。
さしずめ、卒業試験を行ったってところだろうか。
「でも何かあったら迷わず言いに来いよ。ウチから巣立っていった唯一の弟子なんだ。その時は真っ先に駆けつけてやるからよ。」
照れているのか、エイルは顔を逸らしながらそう言ってくれた。
マリーはそんなエイルをからかっているが、多分同じ気持ちなのだろう。ディルはそんな二人を微笑を浮かべ眺めている。
少しの間、余韻に浸ったあと、オレ達はダンジョンより帰還したのだった。
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