第171話 スキル向上
翌日、この日で確実に片手剣スキルをレベル9にするべく、気合を入れてダンジョンに臨んだ。
現在の片手剣スキルはこうである。
片手剣LV8(588/650)
技能の指輪のお陰で以前に比べてかなり上がりやすくなっているので、場合よってはあと数日でこのレベルは10に到達出来るだろう。
オレの予想ではそこで極になると思っている。
暫く魔法は封印し、確実に片手剣スキルをそこまで育ててみせる。
冒険者ギルドの受付までエイル達と共に行く。
エイルらロードウインズは現在65階層付近で戦っているらしい。
昨日71階層で鍛えていた旨を話した際にはエイルもマリーも、更にはソニアまでショックを受けていた。
しかし、昨日は60階層スタートで71階層まで移動した際に会う事がなかったのはタイミングが悪かったようだ。
オレもマップを見た際に冒険者の光点は無視するのが、余計に気付かなかった要因なのだろう。
なのでロードウインズの面々は60階層へ、オレ達は70階層へ移動する為、此処で一旦別れる事になった。
「んじゃあ、また夜にな。」
「はい。また夜に。」
71階層で戦い始める。
基本やる事は昨日と変わらないのだが、皆の心構えが全然違う。
ミルファはディルに本格的に弓士としてやってる事を伝え、様々なアドバイスを貰っていた。
ただ、今はその教えを実践しようとはしていない。飽くまでスキルを鍛える事を第一に考え行動しているようだ。
ルナはずっとソニアにベッタリだった。
寝る際もソニアの部屋で二人で寝たみたいだしな。
お陰でオレはミルファと二人だったので普段とは違う楽しみをしていたのだが……って話が逸れた。
師弟というより姉妹のような関係だったソニアと過ごした事で、ルナは気持ちの面でかなりリフレッシュされたのか、元々の素早い動きがより一層早く動けているようだ。
ケントはディルからマッドネスサイスのメンバーの言伝を聞いたらしい。
まあ、飽くまでもし会えたらくらいの感じで伝えていたようだが、その内容は結構事細かかったようで、特にパウロの槍の扱いや練習法など、マッドネスサイスならではのメッセージだったらしい。
ケントとしては抜けた自分に対してそこまでしてくれた先輩方の気持ちが何より嬉しかったようで、その期待に応えたい一心で今は槍を振り続けているようだ。
メイは同世代最強のヒーラーと名高いマリーに昔から憧れを抱いていたようで、実際に初めて会い、会話をした事で何かスイッチが入ったようである。
マリーは最初、ミルファからヒーラーの座を奪ったメイに不快感を示してたようだが、二人の関係とその役割になった経緯を説明すると、納得がいったのかそこからはメイと普通に話し込んでいた。
その後にメイの年齢を聞き同世代だと知った時は、メイのその若作りに再び嫌悪感が増したが、メイの普段から行っている美容法を教える事でまたまたマリーの機嫌が良くなり、その後は何の問題もなく色々な話が聞けたようだ。
そこで聞いたマリーの立ち位置を意識してメイは動いている。
従来のポジションより一歩後ろに下がり僅かに視野を広げ、仲間より相手の動きに注視する。それにより、相手の行動より先にその対処を先行させる事が出来れば、味方がより一層動きやすくなるといったものだ。
実はこれがかなり難しい。ミルファも一時実践しようとした事があるが、どうしても一歩遅れてしまうので諦めたほどだ。
だが今はその練習にはもってこいの環境だ。とにかく練習を続けるだけであった。
こんな調子で戦い続ける事半日、確実に余裕が出来てる事が分かったので、少し先へと進む事を決めた。
とりあえずの目標は76階層だ。75階層のボスでは一旦魔法も解禁予定である。
全く問題なく順調に進んでいく。時折現れる稀少魔物も魔法なしでも全く問題ない。
全員の強さがとんでもなく底上げされているようだ。
75階層のボス、鎧の騎士は今のオレ達の力を計るのにもってこいの相手だった。
結局魔法を封印したままで問題なく倒せたのだが、小さい問題点が浮き彫りになり、今後はそれも意識して動くよう考えさせられる戦いだったようだ。
まずルナは野生の勘に頼ってる動きの所為で、それを逆手に取られ追い詰められる場面があった。
今後はもう少し自らの考えでの動きも取り入れなければ厳しくなるかもしれない。
ケントは盗賊を止め暗黒騎士にした分、やはり速度が落ちている。ならばやはりメイのように先読みの力が不可欠になってくるだろう。それを考慮し直す必要がある。
ミルファは単純に一撃の威力不足だろうか。
実際魔弓士と弓兵では火力に不安がある。狙撃手を獲得すればそれも解消されるのだろうが、今の状態ではそこに不安が残るようだ。
メイは変わらず判断力と判断速度の向上だ。というよりヒーラーは誰しもがそれが永遠の課題なのだろう。
判断力という意味ではオレも同様だ。自分で言うのも何だが、オレのステータスにはスキル以外には穴はないだろう。
だからこそパーティを指揮する判断力が問われると思う。
しかし攻撃しながら指示は思いの外難しい。攻撃してる最中は周囲が見えないのでどうしてもその後の判断が遅れてしまうのだ。
今までは魔法を使うのに距離をとっていたので周囲がしっかりと見えていたのだが、近接戦闘だけとなると、視野が極端に狭くなるな。
これは少し考えを変えなければならないようだ。
この後それぞれが課題と向き合いながら76階層で戦い続けた。
そして腹時計を目安に、本日の鍛錬は終了した。
流石に魔物素材が溜まり過ぎてるので、ここらで一旦処分する為倉庫へと向かった。
そこで職員に声を掛けた。
「はいよ。どんな魔物を……あーーーーーっ!!」
職員がオレの顔を見るなり大きな声で叫び上げた。一体どうしたと言うんだ?
「アンタまさか……大量か?」
ああ、そういう事か。どうやらオレの顔を覚えていたらしい。
そして以前のようにとてつもない量の魔物を持ってきたと読んだらしい。そしてそれは正解だ。
「想像通りだな。出すぞ。」
そこに二日分、約500匹の魔物を出していく。
「来やがった……エマージェンシーナンバー7発生だ!手の空いている職員は集合しろ!」
相変わらず素早い動きで、その魔物を次々と運び出していく。
そして周囲の冒険者たちの注目も一瞬にしてオレ達へと向いたのである。
その中には見知った顔もあった。
「ガハハハハ!戻ってきたかと思えばいきなり目立ちやがって……相変わらずだな、レイジ。」
見ると、そこにいたのはソロのシルバーランク冒険者であるハロルドだった。
「ハロルドのおっさん!元気だったか。ってそんな経ってないな。てか、一人なのか?珍しいな。」
ごつくて傷だらけのその身体の所為で所見の冒険者は逃げがちだが、実は若い冒険者の事を思いやる心優しい男、それがこのハロルドである。
ソロでやっているのだが、大半は他のパーティの臨時メンバーとしての活動がメインであり、一人でダンジョンに潜ったという話は聞いた事がない。
だが、今は一人で此処にいるようだ。
「ああ、最近俺自身の能力が向上したようでな、ソロで高額魔物をそこそこ討伐出来るようになってきたんだ。お陰で笑いが止まらねぇぞ。ガーハッハッハッ。」
多分ハロルドはレベルが上がり、狙ってる魔物を一撃、または二撃で倒せるようになったのだろう。
素材売却金を独占出来れば儲けは全然違うからな。
ハロルドとそんな話をしながら職員から番号札を受け取る。
明日の夕刻には金を受け取れるようにしておくそうだ。
その後ハロルドと別れ、アブ爺さんの宿へと帰る。
夕食前にジョブ確認をしたところ、ミルファは狙撃手になれるようだ。
これにはミルファはかなり嬉しかったようで、即チェンジを希望した。
オレの片手剣スキルはレベル9になっていて、残り三百匹の魔物を倒せばレベル10だ。
予想ではそれで極になると思うのだが。
その後夕食にしたのだが、オレ達が食事をしている間に、エイル達が帰ってくる事はなかった。
次回21日、火曜日更新予定です。