第168話 鍛冶師としての成長
今日も朝から鍛冶の続きだ。今日中に依頼の鋁爪剣を完成させる。
依頼主であるラウハイーツは夕方にでも取りに来るようだ。
早速焼鈍から初めて行く。これに今日の大半の時間を要するつもりだ。
時間は掛かるが手が空いてる事が多いので、その間はミルファ達の様子を見に行く。
ミルファは相変わらず調合を続け、なんとメイが付与にチャレンジしていた。
聞くと、どうせ素人から始めるなら、既に中級回復薬まで作れるミルファはそのまま調合を継続し、付与はメイが引き受けた方が効率がいいのではないか、との考えから二人で決めたらしい。
今は売っても二束三文にしかならないゴブリンなどのクズ魔石で練習をしているが、使用中の武器への付与となるときちんと考えて役立つ効果が付与されるようにしなければならない。
その事を考えると、今後は魔物を討伐した際に魔石を売らずにキープしとかなければいけないな。
そしてこの屋敷についてもだ。
王都での生活を終えまた旅に出る際には売ろうと思っていたが、鍛治や調合、付与まで出来る場所などそう易々と手に入るわけではない。
拠点として残し、偶に戻ってきてこの施設を使うのもいいかもしれないな。
まあ、まだ先の話だ。そんな急いで結論を出す必要はないので、ゆっくり考えるとしよう。
ミルファとメイは自分のスキルを伸ばす為、一心不乱に頑張っている。
ルナとケントはどうなんだろう。気になるので一度様子を見に行ってみる。
実はこの日、トマスとフィオーラが来て、二人の模擬戦の相手をしてくれている。
レイヴィンが若手三人を連れ、イーザリア大平原で三人のレベリングと実践勘を鍛えに行っているらしい。
トマスとフィオーラの二人はそれについて行ってもいざという時の手助け以外する事がないので、この日は遊びに来たようだ。
ルナとケントはこれを丁度いいと判断し、今までの一対一に更に二対二のバトルも想定した訓練に打ち込めるとしたのだ。
これにはトマスとフィオーラもノリノリで、四人での鍛錬はそのライバル意識も相まって効率よく集中して取り組めているようだ。
しかし四人になっても倒れるまでやってしまうという不安は全く拭えない。なので、ミルファが作成したミドルポーションを好きなだけ使えと持って行く事にしたのだ。
これで今日は一日頑張れるだろう。
全員の様子を確かめたので、オレも鍛冶作業の続きへと取り掛かる。
とは言っても焼鈍は終わらないので、鍛冶スキルを上げる為に他の武器の制作でもしてようか。
昨日のミスリルランスでミスリルの取り扱いについてはある程度把握出来たので、今回はミスリルメイスに取り掛かってみようと思う。
ミスリルメイスは現在ルナが使用している武器だ。これをそのまま作ったのでは芸がない。なので錬成を駆使して魔物素材を付け加えれば、今のミスリルメイスより強力な武器になるのではないだろうか。
そんな考えから先ずは普通のミスリルメイスを作るべく、錬成である程度形を決めていく。
その状態から焼入れをしている間、付属する魔物素材を厳選していく。
そうして決めたのが、今回カスケイド山地の渓谷で相当数討伐したイエローリザードの牙だ。
大した物ではないがかなりの数を所持している為、突起を付けるのであればかなり向いているだろう。
熱されたミスリルメイスにこれらイエローリザードの牙をそのまま取り付けていき、急冷した後錬成でしっかり固定する。
これで強度と共に攻撃力としてもかなり強化されてると思う。
鑑定結果としては【ミスリルメイス改】となっている。完成でいいだろう。
ある程度時間も経っているのでジュラルミンもそろそろいいだろう。
後は今までに錬成した各爪とこのジュラルミンを錬成でしっかり繋いでいくだけだ。
これが出来上がると、最後にキラータイガーの爪を切先に合わせて錬成し接合させれば完成だ。
以前とは手順が違うが、前回はバランスが分からなかった為最後にバランスを取る作業をしたのだが、今回はその必要がない。なので刀身を先に完成させてから切先の仕上げで問題ないのである。
鑑定結果は問題なく【鋁爪剣】となっている。完成だ。
ラウハイーツが来るまでまだ時間がある。
少し体を動かしたいのでルナ達の鍛錬に混ぜてもらおう。
四人は丁度休憩中だった。
「お、レイジ!その格好はもしかして一緒にやろうってのか?」
胸当てを付けたその装いからオレも一緒に鍛錬に来たのが分かったのか、ケントが直ぐに反応を示した。
そうすると誰よりも元気になったのがルナだ。最近は夜意外はまともに相手出来てなかったからだろうか、真っ先に駆け寄ってきたのだ。
「レイジくんの最初の相手はウチがするのです。絶対譲らないのです。」
「ああ、ルナ。相手してくれるか?」
「勿論なのです。いっぱい、いーっぱい相手して欲しいのです。」
こうしてルナと対峙したのだが、戦棍の扱いが以前とは段違いで良くなっている。
オレの片手剣の扱いの方が稚拙な為、単純な武器の取り扱いだけならば一方的に押される始末だ。
一応それ以外のスキルの差で何とか盛り返しているが、ここまでルナが強くなってるとは思っていなかった。
カスケイド山地での経験がルナをかなり強くしたのだろう。心強い限りだ。
そんな互角の戦いを三十分。引き分けという形で終了した。
「はぁ、はぁ……やっぱりレイジくんは強いのです。全然押しきれなかったのです。」
「ルナも最近一気に腕を上げたな。そんなルナにプレゼントだ。」
アイテムボックスから作ったばかりのミスリルメイス改を手渡す。
「ちょっと作ってみたんだ。今使ってるミスリルメイスよりは性能が上のはずだ。しかもこの突起で相手を抉る事も出来るから、今まで苦手としていた打撃無効のスライム系にもダメージが通るはずだからな。」
ミスリルメイス改を受け取ったルナはどういう訳か固まってしまった。
もしかして突起付きは嫌いだったのか?
「これ……レイジくんが作ったのです?はは……嬉しいのです……絶対大事にするのです……うわぁぁぁん。」
感極まって泣き出してしまったルナ。
まいったなと思いつつそっと肩を抱き寄せた。
少しして落ち着きを取り戻すと、突然恥ずかしくなったのか慌てて距離をとり蹲ってしまった。
周囲にはそんなルナをニヤニヤと眺めるトマスとフィオーラが。ケントは仕返しが怖いので決して弄ったりしない。
とりあえず落ち着くまではそっとしとこうと思い、残りの三人と手合わせをしていく。
ケントは槍の使用期間が短いからか、やはり技のキレが足りない印象だ。
トマスとフィオーラは根本的にレベルが足りないのと、やはり防御が稚拙な印象だ。
攻撃自体も多少力不足感はあるのだが、ギリ及第点といったところか。もう少し攻防のバランスが取れればシルバーランクとしてもやっていけるだろう。
それぞれにその指摘をすると、今後の鍛錬方針が決まったと喜んでいた。
ルナを含め四人が切磋琢磨していけば、シルバーランク試験までの残り期間で十分通用するレベルに成長出来そうだ。
そして西の空がオレンジ色に染まった頃を見計らい、模擬戦方式の鍛錬を切り上げた。
鍛冶場へ戻ろうとした時、門の前には見知った顔がいくつもあるように見えた。
レイヴィンらケルベロスの雷のメンバーとラウハイーツとエリスが揃ってやってきたようだ。
「皆仲良く揃って来たのかよ。」
そう言うと、本当に今そこで一緒になったらしい。
皆を引き連れ鍛冶場へ向かう。
「これが頼まれていた鋁爪剣だ。性能はオレのと同等。素材の性質上、中級クラスの魔法剣に耐えられるのは確認済みだ。」
ラウハイーツに鋁爪剣を手渡す。
ラウハイーツはそれを直ぐにエリスに渡すと、エリスはその剣をまじまじと眺めている。
「……凄い。本当にこの剣を頂いても構わないのですか?」
「ああ。ラウハイーツさんがしっかり報酬を支払ってくれるからな。」
依頼として受けた以上報酬は貰う。当たり前だ。
「本当にレイジの剣と同じだね。羨ましいよ。」
トマスとフィオーラを迎えに来ただけのレイヴィンが羨ましがっている。
レイヴィンの得物も片手剣だ。実は使ってみたかったのかもしれない。
エリスはラウハイーツにこれ以上ない程に感謝している。が、ラウハイーツは護衛にちゃんとした武器を与えるのは当たり前だと言い、感謝は不要としていた。
それでもエリスからしてみたら奴隷の身分でいるにも関わらず、これだけの剣を与えてくれる主人に対し、大いに感謝するのも頷ける事である。
エルフであるククルフィンとエヴァラフィアの二人は、一直線に調合室へと向かっていた。
種族柄なのか調合にも付与にも興味があるようで、その作業に目を輝かせている。
コリンは魔導にしか興味がないようで、黙って待っているようだ。
「そうだ、レイヴィン!これ、お前の取り分な。」
オレがレイヴィンに手渡したのは3000万Gを入れた袋だ。
中身を確認したレイヴィンは何事かと驚き固まっている。
「これは何の取り分なんだ?俺はレイジに貸しなんてないはずだよ。」
「この間渓谷で共闘しただろ?その時のお前らが討伐した魔物分だよ。まあ、運搬費はしっかり貰ってるけどな。」
ケルベロスの雷で討伐した分はしっかり渡しておく。
そうしておけば今後も対等な付き合いが出来るだろうからな。
レイヴィンは困った顔をしながらも自分達が討伐した分だという事でその金を受け取っていた。
トマスはそれを見てバカ騒ぎをしていたのは言うまでもない。
この後、時間も遅いという事でこのメンバー全員で外に食事をしに行き、その後解散した。