第166話 王子の帰還
レッサーグリーンウルフが消え去った跡に光の柱が出来ている。
多分これが地上への転移陣になっているのだろう。
オレ達は全員でこの光の柱の中に入ると一瞬にしてその視界は真っ白になった。
次の瞬間にオレ達はダンジョンの入口前に立っていた。
「此処は……入口前か。どうやら戻ってこれたようだな。」
リック王子は周囲を確認する事もなく、その場所を判断すると騎士団がテントを張っている場所へと歩き出した。
「お、王子だ。王子が帰還なされたぞー!」
見張りをしていた兵がオレ達…いや、リック王子の姿を発見するなり、辺りは一瞬にして騒然となった。
既にこのキャンプを離れている騎士団長に変わり、近衛騎士の二人が出迎える。
「王子の帰還、心より嬉しく存じます。兵士一同も同様の思いの事でしょう。さあ、お疲れでしょう。テントへご案内致します。」
近衛騎士の普段の仕事は王族の護衛である。但しそれは公的な理由の場合に限る。
今回は言ってみればリック王子の勝手であり、一切国が関わっていない為、本来近衛騎士の同行は認められていない。
だが今回の行き先は強力なドラゴンの住処であるアルトミラ山脈の麓であり、そこは国境にもかなり近い。
色々な意味で危険が潜んでいるという理由から、今回近衛騎士二人の同行が認められたようだ。
「冒険者の皆様も此方へ。宜しければ道中の王子の様子などをお聞かせ頂ければ幸いです。」
近衛騎士は何処かの騎士団長とは違い友好的に接してくれる。
オレ達は誘われるまま一番大きなテントへ入っていく。
「先ずは今回のリック王子の護衛、誠にありがとうございます。同時にフリードリヒ騎士団長による貴方方への暴言の数々について、心より謝罪申し上げます。」
この二人の近衛騎士のうち、一人はあの時いなかったがもう一人はあの場にいた。
だが、近衛騎士の仕事は飽くまでリック王子の安全の確保だ。あの時のフリードリヒ騎士団長の暴走ともとれる発言に対しどうこう言う立場では無かった為、あの怠慢ともとれる態度に一切反応を示さなかったらしい。ある意味プロの仕事をしていたと言えよう。
だが、リック王子の怒りを見て、先にフリードリヒ騎士団長を諫めなかった自分の落ち度だと反省していたらしい。
それが今の謝罪に繋がってるという訳だ。
「あの騎士団長をしっかり処罰してくれるなら別にどうでもいいさ。それよりも王子の事の方が気になるんじゃないのか?」
近衛騎士の二人はフリードリヒ騎士団長の処罰を約束してくれ、この日は近衛騎士を含む同行している一定以上の地位のある騎士達にダンジョンでのリック王子の様子を伝えた。
リック王子は始め照れくさそうにしながらもその話を聞いていたが、段々辛くなったのか話を辞める様催促してきたりもした。
勿論辞めるはずもなく、恥ずかしそうにしているリック王子を見て楽しんでいた。
本来は不敬罪に当たるような行為だが、現在のリック王子は冒険者という立場だ。ならば不敬罪など適用されるはずもなく、騎士たちもそれを分かっているのか、オレを諌める様子もない。
実際聞いている騎士達はリック王子を本当に誇りに思ってるようで、その眼差しは英雄譚を聞く子供のようだった。
リック王子が騎士や兵から心から慕われてるのだと思い、思わず笑みが溢れてしまったが、幸いにも誰もそれに気付いていない。いや、ミルファだけは気付いたようだ。温かい目でこっちを見ている。まあ、別にいいのだが。
このキャンプで一泊し、ダンジョンでの疲れを癒すと、翌朝王都ファスエッジへ向け帰還をするのだった。
翌朝、早くから朝食を済ますと王都へ向け一行は出発する。
帰路では問題になりそうな魔物は現れる事なく順調に進んでいく。
そして日が暮れる前には王都へたどり着くのだった。
「ダーツ達も、レイジ達も、今回は本当に世話になった。俺はまだダンジョンという場所が分かっていなかったようだ。それが分かっただけでも、今回お前たちに護衛を頼んだ甲斐があったな。」
「俺も今回は初心に返るいい機会だったぜ。もう一度ダンジョンにチャレンジしてみようなんて思う日が来ると思わなかったからな。」
王子の言葉にダーツが返す。ダーツは改めてダンジョンチャレンジをするようだ。行き先は湖畔のダンジョンだろうか。二人でどこまでやれるか楽しみだ。
「オレも手を貸す事だけが手伝いではないと学びました。ありがとうございました。」
「だーはっはっはっ。やっぱりサウザンドキラー様は一気に殲滅しないと気が気じゃないのかもな。」
ダーツが豪快に笑いながら背中をバシバシ叩いてくる。普通に痛いから止めてほしい。
「そうだ!それを聞きたかったのだが忘れていた。先日聞いたギルドで噂のサウザンドキラーっていうのはレイジの事だったのか?」
リック王子が思い出したかのように問いかけてくる。が、オレは初めて聞いたので全く分からない。
「おう。エミルが言うんだから間違いねぇわな。ちゅーか、本当なのか?一度に千匹の魔物を一気にギルドに持ち込んだなんて話は。」
「いやいや、そんなには持ってってないぞ。あの時はギルドに置くことが出来ないって言うんで二回に分けたし、それに、二回分合わせても八百ちょいくらいだしな。」
オレは事の真相を話した。サウザンドキラーって二つ名は気に入ってるが、流石に話が盛られてるからな。
だがそう言ったにも関わらず、リック王子もダーツも呆けた顔をしている。
「バッ……お前、そこまでいったら八百も千も変わらねぇだろうが!そりゃサウザンドキラーなんて言われるだろうよ。」
「レイジよ。初めて会った時から只者ではないと思っていたが、思った以上だったようだな。今後お前がどんな冒険者になるのか楽しみだな。」
更に言えば、オレ個人ではなくパーティでやったことだし、その内の百匹程はレイヴィンらケルベロスの雷で討伐しているのだ。決してオレの実績ではない。
リック王子からの期待には応えれるように、これからも冒険者稼業を頑張っていこうと思う。
とりあえずサウザンドキラーの二つ名の添えるよう、カスケイド山地の渓谷の魔物数が戻ったタイミングで、今度は本当に千匹狩りを実践してみようか。
カスケイド山地の魔物数が元に戻るまでは大体十五日だという話だ。鍛冶場が出来上がっていたら鍛冶をしながらその時を待っていればいいだろう。
こうしてオレ達はリック王子に別れを告げギルドへと戻った。
ギルドで今回の報酬を貰うとオレは直ぐにギルドカードの更新を行い、無事シルバーⅠランクへとランクアップを果たした。
これで無事ゴールドランク試験を受ける事が出来るようになり、早速申し込みを行うのだった。
「最初はどうなる事かと思ったけど、これで全員試験に参加できるね。」
ミルファがホッとし、胸を撫で下ろしている。どうやら相当心配をかけたようだ。
「心配させたな。でもこれで大丈夫だ。皆で無事試験に合格して、旅の続きといこうか。」
ルナやケントの表情にも自信の色が伺える。これは多分トマスやフィオーラと比べて自分達の戦闘能力が勝っていると実感できた事が大きいのだろう。
試験までの残り期間、慢心せずに準備をすれば問題なく昇格出来るだろう。
「そうか、お前ら皆、次の昇格試験を受けるんだな。」
一緒にギルドで報酬を受け取っていたダーツがオレ達の様子を見ていたようだ。
「無事合格すればレイジも俺達同様ゴールドランクの仲間入りか?その年でゴールドランクってこの国では最年少記録だろうな。そうなれる事を祈ってるぜ。んじゃ、またな。」
ダーツはダハハハハと豪快に笑いながら足早に去っていった。
エミルはオレ達に軽く会釈をしダーツの後ろを付いていく。
しっかりした考えを持っていて、芯の通った人達だったな。
「うっし。んじゃあ、オレ達も帰るか。」
この後ギルドを離れ、家へと帰る。さて、家ではそろそろ鍛冶場が完成する頃だと思うが、どうなっているのだろうか。
いつもありがとうございます。
書くペースが落ちており、ストックが減る一方です。
次回、12日の日曜更新予定です。