第165話 ダンジョン制覇
数時間眠り、残りの10階層を一気に進む為の準備は整った。
「では行こうと思う。よろしく頼む。」
リック王子がオレ達に声を掛け11階層へと足を踏み入れた。
11階層から魔物は多少強さを増したが、リック王子の相手ではない。
その槍捌きは間違いなくケント以上で、槍を振るう速度が全然違っている。
実戦経験が全然違うのでレベルは間違いなくケントの方が上だろう。
だが槍のスキルレベルはリック王子の方が数段上のレベルにあるようだ。
「おい、レイジ。お前の仲間の槍使いの兄ちゃん、随分と王子の槍捌きに夢中じゃねぇか?」
ダーツがオレの耳元でそんな事を言ってくる。
「ケントも思うところがあるんだと思う。アイツも槍を使い始めて一ヶ月ちょいくらいだからな。確実に自分の方が槍の扱いが下手なのが手に取るように分かるんだろう。見て盗める技術を少しでも盗もうと必死なんだと思う。」
「へ~。見た目に反して真面目なんだな~。ま、俺としてはレイジの本気の方が興味あるけどな。」
ダーツの目に僅かばかりの殺気が込められる。が、それが只の挑発だと分かってるのでオレは意にも介さない。
するとダーツはつまらなさそうに周囲の警戒に戻っていった。
「ふふっ、本当にダーツに気に入られたようね。それだけの若さでは珍しいわよ。」
後ろでオレ達を見ていたエミルが笑みを零しながら囁いてくる。
「うわっ!エミル?いきなり後ろから話しかけないでくれ。てか、珍しい事なんてないだろう?王都にはレイヴィンらケルベロスの雷だっているんだ。アイツはなかなかのヤツだぞ。」
ストンドラゴン戦でもあの防御力に助けられた。攻撃に関してはイマイチよく分からないが、あの防御だけで相当の腕だと分かったのだ。
「そうね。レイヴィンの防御は相当の力があるわね。……でも彼はそれだけね。守るだけで攻める事が出来ない。多分彼はここから上には行けずに苦労すると思うわ。」
じゃああの時オレに攻撃を譲ったのは単に攻撃に自信が無かったからなのか。
レイヴィンが守りトマスとフィオーラで攻める。あの二人がシルバーランクになっていないのは、レイヴィンの守りに対してトマスとフィオーラ二人で攻撃力を補ってるからという訳か。
何となく納得できたな。
「それに比べて貴方は一人で状況を打破出来る力を持っている。その上仲間との連携も忘れないよう心がけているわ。それはなかなか出来ることではない。人は力を持つとその力に酔いしれ、周囲を下に見る生き物だから。でもそうならない貴方は本当の強者。心の弱さが目立つけど、それは克服のしようがあるので大した問題じゃないわ。」
なんか凄く持ち上げられているけど、オレはまだそれだけの力を身に付けたとは思っていない。
初めてエイルに会った時のあの強さには、まだまだ及んでいないのだから。
「単にまだまだ師匠に及ばないのに慢心してられないってだけだぞ。あまり持ち上げないでくれ。」
ふーん、と言いながら流し目で此方を見てくるエミルに後方よりミルファとルナが駆け寄る。
「エミルさん、ダメですよ。あまりレイジさんに色目は使わないで下さいね。」
正面から抗議するミルファに、それに対して隣でただ頷いているだけのルナ。
エミルはそんな二人に目をやると、一瞬驚いたような顔を見せたが直ぐに笑顔になり、
「あら?貴女達は彼とそういう関係なのかしら?ごめんなさい。別にそういうつもりじゃないのよ。」
なんて言いながらオレから離れていった。
「うう~、やっぱり冒険者の女性は恐ろしいね。隙あらばレイジさんに言い寄ってくるよ……ルナ、二人でしっかり見張っておこうね。」
「大丈夫なのです。これからはしっかり見ておくのです。」
二人のガードがやたらと硬くなった気がする。原因はやはりジオラ魔石店のエリスがクォーターサキュバスだと話した事だろうか。
その事をミルファに教えた時なんて、「サキュバスってあの……」とか言いながら顔を真っ赤にしていたからな。間違いなくオレが何か卑猥な事をされたと思ったのだろう。
あれからオレに近づく女性に対して警戒するようになってるのかもしれない。
そんな緊張感のない雰囲気の中、リック王子は正面から来た槍モグラを簡単に倒していく。
これくらいの魔物ならば、不意をつく奇襲でもない限りリック王子が攻撃を受けることないだろう。
その後もリック王子は一人で無双しながら進んでいく。
横の通路から魔物が来ていて危険な状況もあったが、気配を察知ししっかり対処出来ていた。
これらも王城での各団長や将軍の教えによるものだろう。ぶっちゃけスキル補正がチート過ぎるレベルだと思う。
唯一の懸念は今まで対人しかしてこなかった事に因る、魔物特有の攻撃に対する判断だけだろう。
見る限りの魔物相手だと問題ないように思うが、最後のボス次第ではその恐れも考慮して護衛に付いていた方がいいと思う。
10階層より進み出してから七時間、遂に20階層への階段を発見した。
常にマップを確認していたオレは全フロア踏破に三時間あれば十分行けたなどと思いつつ、漸く此処までたどり着いた事に安堵している。
ただ、この19階層に通路が水没していて先に進めない場所があったのだが、マップを見る限りはその先にも道が続いていた事が多少気に掛かる事ではあった。
これがリック王子の護衛でなければ間違いなくその先を見に行っていただろうが、この状況では流石に行けない。かといってその為に態々また来ようとも思わないので、あの通路の先は謎のままだろう。
20階層へ降り、ボス部屋に入る前に小休止をする。
七時間歩き通しだったので、30分でも休む事で息を整える事は出来るだろう。
リック王子はそのまま行くと言っていたが、万全を期して望むのは冒険者としての基本だ。
多分休憩などせずとも此処のボスは討伐出来るだろうが、だからと言って同じ考えでファスエッジダンジョンに望めば間違いなく死ぬ事になる。
いや、抑もソロアタックなど出来るダンジョンではないのだが、それでもそういうダンジョンに挑む可能性を考えれば、自らの体力を考えながらの行動は身に付けておいて損はないはずだ。
「なあ、レイジやダーツは今まで制覇したダンジョンはあるのか?」
この休憩を利用して今まで殆ど話をしてこなかったリック王子が口を開いた。
「オレはないですね。最高はライトレイクの湖畔のダンジョンで65階層ですが、そこでも結構辛かったし。」
「俺は此処だけだな。湖畔のダンジョンは行ったが……50階層までだ……」
ダーツは俺の顔をチラ見しながら語った。
階層で負けてるのが悔しいのかもしれないが、二人で50階層なら十分大したもんだと思う。
「二人で50階層って凄くないか?50階層のボスって二人だと厳しいだろ?」
「ああ。何とか倒したけどギリギリだったからな。帰るだけで精一杯よ。やっぱある程度の人数は必要だよなぁ。」
ダーツはそこで二人パーティの限界を感じ、それ以降はダンジョンにはチャレンジしていないようだ。
リック王子はそんな話を真剣な眼差しで聞いている。
王城に居て仕入れることの出来るダンジョン情報は、このビギナルダンジョンしかない。
コモンランクでも問題なく踏破出来る。それがダンジョンという場所であるとリック王子は思っていたようだ。
だが今の話を聞いて、そうではないという事を理解したようだ。
「本当のダンジョンとはそれ程までに過酷なのか……どうやら舐めていたのは俺の方だったようだな。レイジもそれが分かってて最初にあれだけしてくれていたと気付かなかった。申し訳ない。」
ダンジョンに入った際にオレが余計な事ばかりしてリック王子に怒られた事を変に解釈し謝罪をしてくる。
あれは普通にオレの余計な世話だったから謝るのは止めてほしい。
「おいおい、王子様よ。あれは普通にレイジが無駄に世話を焼いただけだから気にしなくていいと思うぞ。それより、そろそろボスを倒してしまおうか。兵らも心配してるだろうし、先ずはこのダンジョンを終わらせてからにしようぜ。」
ダーツがこの気不味い空気を変えてくれたようだ。
リック王子もこれには賛同し、ボス部屋の扉を開ける。
此処のボスはレッサーグリーンウルフである。
オレは始めて見るが、爪に毒を仕込んでいるウルフ種でその強さはレッサーと名のつくウルフ種の上位であるものの、ウルフ種全体の中では下位であり、ブロンズランクであれば問題なく倒せる魔物だ。
この魔物がボスである事からブロンズランクへの登竜門と言われるのも納得出来る訳である。
「さあ王子。コイツを倒せば問題なくブロンズランクの実力と証明できるわけだ。見届けさせてもらうぜ。」
「ああ、問題ない。」
リック王子が一人前に出て手に持つ槍を構える。
レッサーグリーンウルフもいきなり襲いかからずにリック王子の前を左右に動きながら少しずつ近づいていく。
そしてギリギリ間合いに入った時、その勝負は動いた。
レッサーグリーンウルフが飛びかかろうと足に力を入れた瞬間、その槍が飛んでくる。
一撃目を躱すも間髪入れずに来る次の攻撃に反応できず、喉元にその槍が入る。
これによりレッサーグリーンウルフはその動きを止めると、リック王子が一気に勝負を決めに掛かった。
成す術なく倒れるレッサーグリーンウルフ。リック王子はこうして初のダンジョン攻略を成し遂げる事が出来たのだった。
少々書くペースが遅れているので明日は更新せず、次回は明後日、10日とします。
よろしくお願いします。