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第161話 一般兵として王子護衛

 二日経ち、今日は国の一般兵としての依頼の日である。

 昨日はしっかりと休み、夕刻にはギルドで魔物素材の売却金の受取を済ませてきた。

 その額は前日の6億Gを更に上回り、なんと10億Gに届く寸前だった。

 この金を各自3億Gずつ分配したのだが、装備代と家の購入資金だという事で各自1億Gをオレに渡してきた。

 別に今後は各自で揃えてくれれば良かったのだが、そうはいかないと頑なに渡そうとしてくるのでとりあえず受け取り、その金と残った1億Gをパーティ費用として別にしておいた。

 そんな訳で一先ず金に目星はついたので、これからは冒険者としての能力向上に努めるとしよう。


 先ずは今日から始まる一般兵としての仕事である。

 コレを受けた理由、その一つは、ジョブを増やす事にある。

 兵役を一度でも経験する事で、兵士(ソルジャー)弓兵(アーチャー)へのジョブチェンジが可能になる。

 そこからの派生で最終的には将軍(ジェネラル)といった上級職もあったりするのだ。

 ミルファがリック王子の護衛任務に目をつけたのも、そこに理由があったりする。

 ミルファが目指すジョブの一つである狙撃手(スナイパー)には弓兵が必須なのだから。

 因みに以前リック王子の護衛をしたのはカウントされていない。

 その理由は国家の正式依頼ではなく、辺境伯とギルドとの間で緊急的に纏められた普通のギルドの依頼だっただけだからだ。

 パウロが依頼を断った事がそれを明確に表しているので、分かる人には分かった事だろう。


 そんな訳で現在王城前の兵士詰所で依頼受理をしてもらい、兵としての装備を渡された。但し武器は自前のを使っているが。

 配置だが、オレは騎兵隊、ルナとケントは歩兵隊、メイは救護班でミルファは弓兵隊となっている。

 シルバーランク冒険者は優遇されるので騎兵隊だという事なのだが、騎乗攻撃をした事がないオレにとっては歩兵の方が勝手が良さそうだ。


 今回の依頼目的は、リック王子がビギナルダンジョンに行く際の道中の同行兵だという。

 ダンジョン内に潜るのは、王子と王子の護衛兵長、それと今回選ばれたパーティだけらしい。

 王子と共に行くのも楽しそうだが、こればかりは仕方がない。気持ちを切り替えてしっかり勤めを果たそうと思う。


「全軍前進!」


 掛け声が掛かると一斉に動き出す。

 先導騎兵を先頭に歩兵、騎兵、弓兵と続き、王子の乗る馬車が通っていく。そしてその後を追うように、オレ達冒険者を含む遊撃軍が殿となっている。

 遊撃軍は王国軍の中でも精鋭が集められた一個団であり、その実力は平均でシルバーランクの力があると言われている。

 その中に様々な冒険者が混じっているので連携に支障をきたすのではないかと思ったのだが、この王国軍の精鋭というのがなかなかの曲者揃いで、これくらいの扱いで丁度いいという。

 細かい事は伏せられたが、思うに実力のある問題児という事だろう。


 基本歩兵の足に合わせての行軍になるので、その歩みは非常にゆったりしている。

 一日掛けての移動というのはこういう事だったのかと納得出来た。


 しかしどういう理由があってこれだけの大軍が必要なのか。

 そんな疑問を持っていたのだが、聞くと極稀ではあるが、ダンジョン入口周辺にはかなり高ランクの魔物が現れる事があるという。

 それを聞いた瞬間、「これってフラグ立てたんじゃね?」なんて思ったのだが、これが現実になるとは流石に思いもしなかった。


 それはダンジョン間近にして野営の準備に入った頃であった。

 明日早朝のダンジョンアタックに備え、騎兵隊がダンジョンまで偵察に行った事から始まった。

 その偵察から戻ってくる騎兵隊がかなりの猛スピードで戻ってきていて、その様子のおかしさにマップを確認した。

 すると、その騎兵隊の後方ら騎兵隊を追うように迫り来る魔物が確認できたのだ。

 調べると、その魔物は【グレイトタランチュラ】という、ドラフィリオル帝国との国境にあたるアルタミラ山脈、その山麓に生息する魔物だ。

 三メートルはあるであろうその体躯に足だけで人間と同等の大きさである。

 ビギナルダンジョンはこのアルタミラ山脈のすぐ手前にあるのだが、本来これらの魔物は山を出る事はない。

 あるとすればその生息域を追われたか、それとも何者かにその生息域を脅かされ怒りのあまり飛び出してきたか、何れにせよ只事ではないのである。


「全軍、魔物の襲撃である!至急編隊を組み迎撃に当たれ!弓兵部隊前へ、攻撃開始!」


 逃げくる騎兵達が弓兵の射程から外れると同時に弓兵による一斉射撃が始まる。

 それでも尚迫り来るグレイトタランチュラに対し、騎兵隊が動き出す。


「弓兵打ち方止め。騎兵隊前へ。突撃!」


 素早く前列が入れ替わり、前へ出た騎兵隊が合図と共に一斉に突撃を開始する。

 すると今度は歩兵隊が前列へと顔を出した。


「騎兵隊、一撃離脱を意識せよ!歩兵隊準備、突撃かい……!」


 指揮をしていた王国軍隊長の次の指示が止まる。その理由が目の前で起きていた。

 突撃した騎兵隊が次々と蹴散らされていくのだ。

 振るった足に飛ばされる者や、口から出された何かによって倒れていく者。更にはその足を地面に叩きつけると騎兵達の前方の地面がせり上がり剣山が出来上がる。二人程は直接刺さり息絶え、その後方から来た者は馬が止まりきれず突っ込んでいき、その剣山の中に投げ出されて死んでいく。


「くっ……ほ、歩兵隊いけ!行くんだー!」


 隊長が慌てて指示するも歩兵は目の前の惨劇に恐慌状態に陥り動く事が出来ない。

 そうしてる間にグレイトタランチュラは接近している。王子退避の報告は未だ来ず、少なくともまだ足止めをしなくてはいけないようだ。


「レイジさん!これは拙いんじゃない?私達が出た方がいいんじゃないかな?」


 遊撃隊の弓兵達の中にいたミルファが此方にやってきてどうするのかを訪ねてきた。

 オレとしては前線に出て足止めなりをしたいところだが、この場でそのような勝手をしていいのか疑問である。


「レイジー!見つけたぜ。メイさんも直ぐに来ると思うぜ。さあ、やるなら何時でも行けるぜ!」


 ケントとその後ろからルナも此方へ来たようで、メイも来るという。

 パーティが揃うならやらざるを得ないだろう。

 ましてやこの緊急事態だ。誰も文句は言わないと思われる。


「……しゃーねぇな。んじゃやるか!」


 オレがそう言うと待ってましたとばかりに前線へ向かうケント。だがメイが来るまで待つよう引き止めた。

 そうしてると、周囲をキョロキョロしてるメイをルナが発見し声を掛けた。

 これで全員揃った。ならば後はやるだけだ。


「いつも通りやるぞ。ミルファ、頼んだ。」


 ミルファに弓で射掛けるよう促し、ルナとケントを引き連れグレイトタランチュラに近づいていく。

 メイはいつも通りガードを掛けるとケントにはスピードも掛け、グレイトタランチュラの行動に目を向ける。

 ミルファの射った魔力矢がグレイトタランチュラに命中するとグレイトタランチュラは漸くその足を止めた。


「今だ!三人で一気に仕掛ける。行くぞ!」


 オレを中央に、ルナとケントは左右に分かれ同時に攻撃を仕掛けた。

 勿論オレは魔法剣炎を使用している。

 その状態で前足を斬りつけると、右の前足が簡単に切断された。

 そのチャンスを逃すまいと、積極的に攻撃するルナとケント。

 いきなり足を飛ばされ動揺中に左右から攻撃され、その状況にグレイトタランチュラはたじろいでる。

 一気に決めに掛かろうと鋁爪剣を前方に構えたその瞬間、グレイトタランチュラが吐き出した糸に鋁爪剣ごとオレは絡め捕られた。

 これくらいの糸ならばファイア系で十分離脱出来る。そう思った時、事態は一気に動いた。

 王子付きの冒険者一行が前線に顔を出したのである。


「やれやれ……今日はもう寝るだけだってのに騒ぎ起こしやがって……」


「ホントね。今体動かしたら眠れなくなっちゃうわ。誰が責任取るのかしら。」


 戦士風の装備の男と三角帽子を被った如何にも魔道士風の女の二人組は、気怠そうにやってくるとグレイトタランチュラに目を向けた。


「仕方ないわね。行くわよ……フレイムサークル……」


 女が魔法を唱えると、グレイトタランチュラを囲むように炎が立ち上る。

 その炎の円は徐々にその範囲を狭めていき、グレイトタランチュラの動きを封じる。

 その間に男は一気にグレイトタランチュラに近づくと炎ごと斬りかかる。

 切り刻まれたグレイトタランチュラは最後の足掻きとばかりにまた剣山を出そうとするも、その間に炎の円が襲いかかった。

 これにより焼かれたグレイトタランチュラは前のめりに倒れていった。

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