第160話 リック王子の護衛依頼?
カスケイド山地より帰還した翌日、オレ達は揃って再度ギルドへ来ていた。
換金が目的であり、それ以外の用事が無かったので一人で来ようと思っていたのだが、全員家にいても暇だという事で皆で来る運びとなった。
手始めに解体広場へ向かい残りの魔物を全て出し渡す。
今回此処にはストンドラゴンが含まれていて大騒ぎになっていた。
「こ、こ、これって……ストンドラゴンじゃにゃいか?」
オレ達の専属担当となったギグライトはそこに無造作に置かれたストンドラゴンを見ると、そのあまりの迫力に腰を抜かし、若干噛みながら訪ねてくる。
「おう。よく知ってるな。レイヴィンにも手伝ってもらったからな。コイツの素材代の一部はアイツに渡そうと思ってんだよな。」
あそこでレイヴィンが来てくれなかったらオレは相当やばかったと思う。
レイヴィンにはホントに感謝だ。
「レイヴィンってケルベロスの雷の?知り合いなのか?そう言えばレイジもレイヴィンと同世代のシルバーランクだよな。ライバルってヤツか……いいよな~青春してるよな~。」
ライバルっていうより良き友人だと思っている。向こうはどうなんだろうな。
ギグライトはそんな無駄口を叩いてばかりで主任に怒られる有様だ。
周囲の職員もストンドラゴンに夢中で仕事の手が止まっている。
「おっと、コレが昨日の分の換金証明だ。ギルドカウンターで引換てくれ。」
「ああ。ありがとう。それもまた頼むわ。」
直ぐにギルドへ行き換金を済ませる。
最初の半分の売却額はこのパーティでの最高額である6億Gを超えていた。
単純に一匹15万G程という事だ。
となると明日は更なる金額を期待出来るだろう。何故ならストンドラゴンやハイオークが多く含まれているのだから。
金は後で皆と分けるとして、少し依頼掲示板を見に行く。
流石にまだイーザリア大平原に新しい依頼は出ていないようだ。
特に気になる依頼もないな。なんて思いながらいると、ミルファが一つの依頼を見て慌てたように声を掛けてきた。
「ちょ、レイジさん!これ見て!」
その依頼は【リック王子護衛依頼】であった。
「リック王子?王子の護衛を王国兵じゃなく冒険者に任せるのか?それじゃまるであの時の……」
以前ロードプルフを訪れたリック王子の護衛として、エイルらロードプルフのゴールドランク全員で務めた事があった。
途中ゴタゴタがあった事でパウロが抜けオレとミルファが務める事になったので、リック王子の事もそれなりには知っている。
あの時リック王子の護衛を冒険者が務めたのは、単に辺境伯軍に個人の強さを誇る人物がいなかった為だ。
だが此処は王都。そのような人材は有り余ってるはずだ。
「ゴールドランク以上募集……シルバーランクは要相談か……メンバーがブロンズでもいいなら受けてみたいな。聞いてみるか?」
そう。募集しているのは飽くまでゴールドランクであり、オレ達では受ける事が出来ないのだ。
だが一応シルバーランクは相談が出来るようなので、話だけでも聞いてみようと思ったのである。
「うん!リック王子元気かな~?出来る事なら会いたいな。」
ミルファもどうせ王都に来たのなら一度くらいはリック王子に会いたいと思っているだろう。まあ、普通に考えたら無理な話なのは重々承知だ。
とりあえずその募集用紙を持って受付へ向かう。
ダメだったらダメで仕方ない。別の依頼を探すか、適当に狩りをするだけだから。
「ちょっといいだろうか?この依頼を受けたいと思うんだけど、シルバーランクは要相談って書いてるからどうなのかと思って。」
「えーと……王子の護衛ですね。それでしたら本部長と面会の上決めさせて頂いてます。少々お待ちください。」
そう言うと受付嬢はその場を離れた。そして数分後、戻ってきた受付嬢に二階応接室で待つように告げられた。
◇
王都ギルドの二階へ行くのは初めてだ。
階段を登れば直ぐ目の前なので問題ないが、マップで見る限り相当入り組んでいて奥まで行くと迷子になりそうだ。
この応接室は冒険者パーティ専用の為、こちら側には椅子が六つ並べられている。
経験値の分配の理由から一つのパーティの人数は六人までが普通だからである。
六人までは取得経験値が分配される事なく全員がそのまま得る事が出来るが、七人以上だと人数で割られてしまいレベルが上がり辛くなるという。
ウソかホントかそう言われているので、ほぼ全てのパーティは六人までに抑えているのだ。
オレ達はその椅子に座って本部長を待つ。
そして数分後本部長がやって来た。
「やあ、昨日ぶりですね。どうでしたか?相当儲けたんじゃないでしょうか。羨ましい限りです。」
「どうも、本部長。早速だけど聞きたい事があるんだ。」
「ええ。聞きました。リック王子の護衛依頼ですよね。申し訳ありませんが、レイジさんにはお任せ出来ません。」
その言葉にミルファを筆頭に皆の動きが止まった。
「……理由を聞いても?」
「レイジさんの実力は一切疑っておりません。寧ろ下手なゴールドランク以上の力があると思っております。ですが、王都に来て数日の冒険者を王族の筆頭護衛に推薦する訳にはいかないのです。」
本部長のいう事はもっともだ。確かにどこの骨かも分からないような冒険者に王子の護衛を任せるなんて事は出来るはずがない。
ロードプルフでオレ達が共に行動出来たのはロードウインズとギルド長との繋がりがあってこそだったのだ。
「それはそうだな。時間をとらせて申し訳なかった。また何かあったら宜しく頼む。」
「いえ、こちらこそ……あー、そうだ!王子の直接の護衛は無理でも、一般兵の募集は残ってますが、どうです?一応顔を売る事は出来ますよ?」
別に顔を売りたいとは思わない。オレは王子と再会するチャンスと思っただけなのだ。
断ろうとした時、隣から声が掛かった。
「レイジさん、短期であれば受けたいんだけど……ダメかな?」
それはミルファだった。
どうしてなのか聞こうと思ったが、直ぐに理由が分かり納得した。
「……そういう事か。分かったよ。本部長、それって何時から何時までなんだ?」
「受けてくれるのかな?王子のビギナルダンジョンに入ってる期間だから……明後日から長くて五日程だと思いますね。短くていいと思いますよ。」
どうやら護衛依頼もこの一般兵の募集依頼も、同じ王子のビギナルダンジョン行きの同行の依頼のようだ。
その期間なら戻って来たくらいに鍛冶場が完成する頃だ。期間的にも丁度いいかもしれない。
「ケント達はどうする?」
「レイジが受けるならオレ達は従う。それだけだ。」
聞くまでもなかったな。一切問題ないようだ。
「分かった。宜しく頼む。」
「良かった~。実は冒険者からも出してくれって言われてたんですが、なかなか受けてくれる人がいなかったんですよ。助かりました。では明後日早朝に王城前の詰所にコレを持って行ってください。」
本部長から渡されたのは一通の手紙だった。
「それがギルドからの推薦状になりますので忘れないで下さいね。では宜しくお願いします。」
話を終え本部長はそそくさと応接室を出て行った。
相当忙しいのか、かなり急いでるようだ。
その後直ぐオレ達も応接室を出て行くと、昨日はしなかったシルバーランクとゴールドランク試験への受付をしにいった。
ところが此処で問題が発生する。
なんとオレにはまだゴールドランク試験を受ける事が出来ないと言われたのだ。
ゴールドランク試験の受験資格はシルバーⅠランクである事とある。これに引っかかったのだ。
オレは現在シルバーⅡランクだった。これではまだ資格がないらしい。
聞くと、実績は十分らしいのだが、国家依頼経験がないのがシルバーⅠランクなれていない理由らしい。
しかし本部長もオレのギルドカードを見たときにゴールドランク試験を受ける事が出来ないと分かっていたのではないか?
実は大半の冒険者は下積み時代に一度は必ず経験する事から本部長もオレは既に経験済みだと勝手に判断したようで、まさか僅か三ヶ月でここまで上がってきたが為に国家依頼未経験とは思ってもみなかったようだ。つまり単純に見落としだったという訳だ。
まあ、締め切りまでの間に国家依頼を経験すれがいいだけなので実はそこまで問題では無かったのだが、この時オレはそのショックからそこまで考える事が出来ずにいた。
そして、明後日から受ける一般兵としての依頼こそが国家依頼であるとは気付きもしなかった。