第159話 毎度お馴染み換金問題
カスケイド山地から王都へ帰還したオレ達は、その足で真っ直ぐギルドへと向かっている。
とは言っても、王都に入れば目の前にある建物が冒険者ギルドなのだが。
今回依頼は受けていないので受付へ行く必要はなく、そのまま解体倉庫へ行き素材を渡してくるだけだ。
千までいかずとも数百にも及ぶ魔物を持ち込み即日金銭を受け取れる訳もなく、今回は文字通り素材を渡すだけになると思っている。
オレ達がカスケイド山地を発つ際に、まだギルドの素材回収馬車はあの場にいたので、今はまだ合間の時間だと把握している。受付だけなら直ぐにしてくれるだろう。
「魔物を直接持ち込んだんだけどいいか?」
オレが声を掛けると、振り向いたのは前回受付をしてくれた男性だった。
「ういっす。総量はどれくらいで……ってアンタは!」
振り向きながら話し始めた男はオレの顔を見るなり驚きの声を上げた。
「あー、また持ち込みだよな?結構な量あるのか?」
「そうだなー……前回の倍以上……三倍くらいあるかもしれんわ。」
その言葉に男は持ち上げようとしていたコンテナをから手を離し、自分の足に落としてしまいもがき苦しんでいる。
周囲にいた職員達も前回の事は知ってるようで、前回の三倍という声に思わず作業の手が止まってしまう。
「……マジで?」
「マジで。」
念の為今一度確認をする職員の男。
「……なら場所が必要だな……奥になってしまうがあそこしかそれだけ置ける場所はねぇな。そこでいいか?」
流石はプロというべきか、直様頭を切り替え素早く指示を出してくる。
状況が分かっている他の職員も、今行ってる仕事を若手を中心に分配し始めこれから起こるであろう惨劇に備えている。
「此処ならスペースは足りるか。じゃあ出すぞ。」
オレはそう言うと何もない空間から次々と魔物を出していく。
このギルドではギルド長の前でアイテムボックスから取り出す姿を見せているので、今更隠す事無く堂々と出している。
前回はイーザリア大平原の魔物だったので小型の魔物が多く、数の割にはスペースを使わなかったが、今回は中型以上の大きさの魔物が大半を占めるカスケイド山地の魔物だ。同じ300匹程出した際に使うスペースは倍以上なのだ。
それでもまだ全体の半分にも満たない。尚も出続ける魔物に職員達は最早身動き一つせず見守るだけしか出来ないでいる。
そして400匹をこえたくらいで一度出すのを止め、職員の男に声を掛ける。
「これで大体半分だ。残りも出していいか?」
そう言われ、呆然と眺めていた職員の男が我に返る。
「……はぁ?これで半分!?ちょっと待ってくれ。一度上に確認を取ってくるから。」
そう言うとその職員の男は解体倉庫から出て行ってしまった。
ギルドにいる重役の職員に話を通してくるのだろう。
確かにこれ以上は他の業務にも支障をきたすのだから。いや、今更か……
そして10分後、戻ってきた職員が連れてきたのは本部長だった。
「あぁ~、やっぱり君達でしたか……」
移動しながら現状について聞かされていた本部長は、今回魔物素材を持ち込んだ冒険者がコングチャンピオンを討伐した冒険者であるオレ達だと確信があったようだ。
「どうも本部長。」
「それで、持ち込んだ魔物というのは……え?」
オレの背後にある魔物が積み上げられた山を見て、本部長は硬直する。
「もしかしてこれ……全部君達が?」
「本部長、これで半分だと言うんです。ですがこれ以上出されますと業務に支障を来たしてしまいますし、どうしようかという相談だったのですが。」
本部長が聞かされたのは「大量の魔物を持ち込んだ冒険者がいて仕事が追いつけそうもないので指示をお願いします。」との事だった。
それに対し本部長は大量といっても所詮100匹程だろうとタカを括っていた。
だが実際に来てみると目の前にある魔物は予想の四倍程の数量で、更にこの倍の魔物を持ち込んでいるらしい。
これには本部長も初めての経験である事から困惑してしまい、どうすればいいのか判断できずにいた。
「もし捌けないようなら残りは後日持ってくるぞ。別に素材は傷んだりしないから問題もないし。」
そんなオレの提案を聞き本部長の顔は一気に晴れやかになる。
「本当かい?なら申し訳ないけど今回はこれまででいいかな?残りは明日にでも出来るように手配しておくから。」
「ああ。分かった。明日また持ってくるよ。」
オレがそう言うと本部長も此処にいる職員も一斉にホッとしたように大きく息を吐いた。
「それにしても……これはカスケイド山地の魔物だね。これだけ狩ってきたら他の冒険者がありつけないんじゃないかな?」
「いや、それ以前に他の冒険者が殆どいなかったしな。まあ、暫くは魔物がいない状態になるのは間違いないと思うわ。」
「他の冒険者がいない?もしかして森林エリアに行ってきたのかい?」
「そうだけど……よく分かったな。」
「それは分かるさ。普通は不意打ちが多く常に危険と隣り合わせの森林エリアより見通しが良くて魔物単価がいい岩山エリアを選ぶもんだ。なのに冒険者がいないとなるとそれくらいしか理由が浮かばないからね。」
「だからあそこは人がいなかったのか。」
冒険者が非常に少なかった理由が判明し、スッキリしたところで話を進める。
「それで、これらの集計はどれくらいで終わる?」
これに答えたのは最初に担当した職員だ。
「そうだな……明日の昼までには何とかしておくようにする。その後の時間に換金と残りの魔物素材の引渡しに来てもらいたいな。」
「分かった。じゃあ明日の昼過ぎにまた来るようにするわ。」
踵を返しその場を後にしようとした時、本部長に呼び止められた。
「あー、すまないレイジくん。もう少しいいかな?聞いた話だと王都に住居を構えたそうじゃないか。それならば暫くは王都で活動するんですよねぇ?それならば今後もこのような事が多々起こるかと思うんです。なので、レイジくんのパーティに専属の担当職員を付けようと思うのです。」
つまりロードプルフでのオーグストンのような人物を付けてくれるという事か。
「以前ロードプルフでも同じ事をして貰っていたよ。その方が助かる。」
「ならば決まりですね。じゃあこれから宜しく頼みましたよ、ギグライトさん。」
「へ?俺?」
前回も、そして今回もオレ達の担当をした男、ギグライトが当たり前のように担当に指名された。
本部長直々に氏名されたのだ。断る事すら出来ずに困り果てている。
しかし直接異論を唱える事が出来ない為、沈黙を是と捉えられギグライトはオレ達の担当に決まったのだった。
本部長が後は任せましたと去ろうと歩き出すものの、直ぐに足を止め再度話し始めた。
「そうそう。シルバーランク試験とゴールドランク試験の日取りが決まりましたから、帰りにでも確認していってくださいね。ではまた。」
オレ達は皆顔を見合わせる。
そして一気にテンションが上がっていく。
「っしゃあ!やってやるぜー!」
「やっとレイジさんに追いつけるのか~……って、レイジさんもゴールドランク試験だもんね。隣に立てないよぉ……」
「頑張るだけなのです。」
「私は受ける事出来るのかしら?一度確認した方がいいわね。」
各自思い思いの言葉を口にし、シルバーランク試験へ意気込む。
この後ギルドへ行くと掲示板に張り出されていたシルバーランク・ゴールドランク試験の開催日時を確認した。
【シルバーランク試験 8/20.21】
【ゴールドランク試験 8/22.23.24】
シルバーランク試験まであと18日のようだ。




