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第156話 渓谷でのそれぞれの戦い

 ストンドラゴンは討伐したのだが、後方ではケント達の戦いが続いていた。

 押し寄せる魔物が減っていき、ある程度余裕が出来た事でレイヴィンをオレ達の下へ行かせたのが悪かったのか、残された四人は徐々に押されていた。

 ルナとケントはある程度の戦線を維持していたのだが、トマスとフィオーラは少々実力不足のようで、一分で一歩くらいのペースで後退を余儀なくされていた。


「おい、トマス!引くんじゃねぇよ!そっちが崩れたらこっちも挟撃食らっちまうんだ。戦線の維持だけはしてくれ!」


 徐々に下がっていくトマスに苛立ちを覚え始めたケントが一つ文句を言っていた。


「わかっちゃいるが……クッソが~!」


 ケントの言葉に少し腹を立てたが、悪いのは不甲斐ない自分であると理解している為、言い返す事なくその言葉を飲み込むトマス。

 そんなトマスの気持ちが痛い程分かってしまい、苦々しい気持ちでいるのがフィオーラだ。

 あの顔合わせの後、恋人であるトマスがアイツにだけは負けたくないと行っていた相手、それがケントだ。

 そのケントにいいように言われ、実際ケントは魔物に押される事なく戦い続けているのに対し、自分とトマスは魔物に押されている。そんな状況に悲痛な面持ちでいた。


「トマス、悪い……俺がもっと戦えていればこんな思いさせなかったのに……」


「フィオーラ、まだ俺達は負けたわけじゃねぇ!ここから押し返せば問題ないだろうが!」


 口ではそう言うが体はついていかず、その攻撃速度は少しずつだが落ちてきていた。

 そんな状況を打破すべく後方から支援が送られてくる。


「エネルヒール!」


 メイによるスタミナ回復魔法だ。

 これにより武器を振るう腕が再びその動きを取り戻す。

 更にスピードが掛けられ重騎士になる前の攻撃速度を取り戻した。


「これは……スゲェ……このスピードなら押される事はねぇ!」


 トマスは以前の慣れ親しんだ速度になると一気に加速していく。魔物を一匹倒すとすかさずその場所へ前進し戦線を押し上げていく。

 ケントとの差を取り戻すべく、一気に攻めるという選択をしたのだ。

 だがこれが間違いだった。エネルヒールはスタミナを全快させる魔法ではない。多少取り戻す程度の効果しかないのである。

 これはメイ自身もその回復量を分かっておらず、一瞬にして力を失っていくトマスを見て初めてその効果を知ったのだった。

 更にこの魔法は同一人物に連続使用は効果がない。一定時間を置かなければ効果を発揮させる事が出来ないのだ。

 その為、前進したその戦線は一瞬にして戻されていく。いや、それ以上に押され始めていた。


「お、おい……トマス!どうしたんだ?」


 ドンドン後退していくトマスを訳が分からずに見ているケント。どうにかしようにも自分の事で精一杯で助ける事すら出来ない。

 しかもその所為で自分達も魔物に囲まれ始めている。絶体絶命である。


「ケント……結構ヤバイのです。」


「ああ、後ろだけは取られないように後退しながら倒していくしかねぇな。」


 後退しながら戦っても徐々にその行動範囲を限定されていく。

 いよいよ背後を取られそうになったその瞬間、光の矢が背後を取りそうな魔物を撃ち抜いていく。

 オレとミルファ、二人による同時射撃だ。


「レイジくん!ミルファちゃん!」


「ルナ!大丈夫か!」


「はいです。ウチ……頑張ったのです!」


「ああ、よくやったな。もう少しだ。」


 以前とは違いオレがミスリルの弓で、ミルファがアメジストの弓を使っている。

 多分ミルファは魔弓士になった瞬間からこのアメジストの弓を使えたのだろうが、最近までは使おうとしなかった。

 理由はいい弓を使ってそれを自分の実力と勘違いしない為だという。

 だが今回はそのアメジストの弓を解禁した。それはこのピンチを脱する為であるのと同時に、ミルファ自身の成長を表すものであった。


 ある程度ルナ達の後方が確保されると、オレは接近しながらサンダーショットで広範囲の魔物を屠っていく。

 そしてルナとケントの下へとたどり着くと、魔法剣で次々と倒していく。


「レイジ、もう俺達は大丈夫だが、トマスらがヤベェんだ。何とかなんねぇか?」


「あっちも大丈夫だ。あいつらのヒーローがちゃんと助けに行ってるさ。」


 レイヴィンがその守りを担う事でトマスとフィオーラは本来の攻撃性を遺憾無く発揮し、戦線を押し上げていった。

 オレ達も加わり一気に盛り返すと、魔物たちの目に恐れが見えてきた。それから間もなく、残っていた魔物は撤退していき、漸くこの戦いは終わりを告げた。


「終わったー……あー、シンド……」


「レイジ、皆も、助けに来てくれてありがとう。皆が来てくれなかったら俺達は間違いなく死んでいたよ。」


「気にすんな。別に助けたワケじゃないから。」


「え?」


「ごっそり魔物がいたから稼ぎやすいと思っただけだ。だからしっかり魔物素材は戴いてくぞ。」


「ははっ、勿論だよ。どうせ俺達は持って帰れないんだ。全部持って行ってくれ。」


 実際ストンドラゴンはいくらになるのか楽しみではある。眼球を一つ潰してしまったのが悔やまれるが。


「ケント、あのよ……悪い。戦線を維持できずに危険な目に合わせちまった。」


「へへっ、気にすんなよ。一度やらかしちまったら次からは気を付けるようになるだろ?今後に活かせば問題ねぇさ。」


 トマスの謝罪を笑顔で受け取るケント。この一ヶ月でケントも随分成長したもんだ。


「なあルナ!お前スゲェスタミナだよな。どんな鍛え方をしたらそんなに戦闘を維持出来んだ?」


「ん~……普段から全力では戦わないのです。強敵が出たとかのいざという時の為に常に力は残しておくのです。」


「は~あ、なるほどなぁ~。俺は常に全力だからダメなのか。勉強になったぜ。また色々教えてくれよな。」


 フィオーラに質問攻めにあいながらもしっかり答えているルナ。ルナもまたこの一ヶ月で大きく成長した一人だろう。

 以前のルナは常に全力だった。それが今では後の事を考えた戦い方をするようになっている。これは間違いなくシルバーランクの戦い方だ。

 シルバーランク試験がたのしみになってきたな。


 それに対してケルベロスの雷サイドは今ひとつといった印象だ。

 多分レイヴィンがタンクの役割を担って、トマスとフィオーラがアタッカーをしていたのだろうが、防御の拙さゆえ乱戦に弱いという欠点が浮き彫りになった。

 トマスはペース配分の拙さが目立ち、スタミナが追いついていないのは問題外だ。

 フィオーラは良くも悪くも器用貧乏といったところか。存在が消えてる印象だったな。

 そしてレイヴィン……防御に関してはオレより上だった。聖騎士の特徴を掴んでいて、スキルの使い方が上手い。ただ、普段から攻撃をトマスとフィオーラに任せているからだろうか、攻撃に怖い印象は受けなかった。


「さて、そろそろ日も暮れる。上に戻って野営場所を探そうかと思うけど、レイジはどうする?」


「オレ達はこっちの森林エリアだからな。そっちに戻って野営場所を探すさ。」


「そうか……今回は本当に助かったよ。この借りはどこかで必ず埋め合わせするから。」


「おう。早くしないと利息が膨れ上がるからな。」


「ははっ、それは恐ろしいね。じゃあまたね。」


 レイヴィンらケルベロスの雷は岩山エリアから垂れ下がっているロープから戻っていった。

 残ったオレ達は討伐した数百匹にも及ぶ魔物を全て回収してから、元の森林エリアへと戻った。

 この時岩山エリアからこの様子を見ていた若手三人を含めたケルベロスの雷の面子は、全ての魔物が消えていく様子を何が起きているのか分からずただ呆然と眺めていた。


「さて、此処の魔物に魔物よけの効果があればいいんだけどな。」


 オレ達が使っている魔物よけは、一定以上の強さを持つ魔物には効果がない。一応使いはするが本当に魔物が来ないかは賭けみたいなものなのだ。


「私がセントフィールドの魔法を使えたらいいんだけど、試してもダメだったわ。」


 セントフィールドは中級白魔法に分類され、司祭であればスキル的には使用可能だ。それで使えないのであれば、熟練度不足か精神値が低すぎるのかのどちらかだと思うのだが、ダブルジョブならば後者はないと予想される。

 そうすると熟練度になるのだが、中級白魔法の使用頻度の低さからして大して育ってないと思われた。

 中級白魔法はミドルヒール以上、支援だとスピードだけがそれに当たる。普段使いしてるのはヒールやガードなどの初級白魔法の為、こうなるのも致し方ないのかもしれない。


「とりあえず見張りを立てるしかないだろ?俺とレイジは一人で見張りをするとして、女三人一緒でいいか。」


 オレはケントとメイを一緒にしてミルファとルナの二人でと思っていたのだが……確かに女性は三人での方が安心か。

 この後ミルファもルナも一人で大丈夫と言っていたが、それではオレが安心出来ないということで納得してもらい、この夜を明かした。

 結局魔物よけの効果が十分に発揮されたようで、一切魔物が現れずに済んだようだ。

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