第155話 ストンドラゴン
【ストンドラゴン】
その体長は10メートルを超え、四足歩行するその姿はドラゴンというよりはリザードに近い。
体表は石のように硬い皮膚で覆われ、あらゆる武器による攻撃を弾くと言われていて、事実これまで挑んだ冒険者はことごとく返り討ちに遭ってきた。
討伐経験のあるとある冒険者は語る。ストンドラゴンを相手するくらいならワイバーン数匹を同時に相手した方が全然マシだと。
オレの前方の魔物は粗方焼き尽くした。生き残っている魔物も無傷なものは皆無で、その動きを止めその目には恐れの色が浮かんでいる。
もはや此方を襲って来ることはないだろう。
「ミルファ、後方の様子は?」
「ある程度は倒してるけど勢いを止める程度みたい。強力な魔物が多くて一撃で仕留められないから時間が掛かってるみたい。」
つまりここからの脱出もストンドラゴンに人数を掛けることも不可能。
オレとミルファで何とかするしかないようだ。
「……ミルファは後方へ。タイミングを見て風属性の攻撃を試みてくれ。」
「はい!レイジさん、気をつけて……ガード。」
ミルファにガードを掛けてもらい前方から迫り来るストンドラゴンを見据える。
メイはケント達五人のサポートから動けない。オレのサポートもミルファに頼むしかない。
攻撃よりサポートを優先してもらう事で、ストンドラゴンのミルファへの攻撃意識を減らす事が出来ればオレとしては幸いだ。
「行くか……」
オレはストンドラゴンへ向け走り出す。その最中魔法剣嵐を掛けておく。
「ストームボール!」
嵐の吹きすさぶ球体を作り出し先制攻撃を仕掛ける。
ファイアボールが直径20センチの球体なのに対し、このストームボールはその直径は1メートルに及ぶ。
その巨大な球体をストンドラゴンに向け放ったのだ。
「ギュヤオオオォォォーーー」
地竜種にあたるストンドラゴンは風属性が弱点だ。その弱点属性の球体をぶつけられたストンドラゴンは、未だかつて受けた事のないダメージを受け叫び上げる。
勿論その歩みを止め、もがき苦しんでいる。
戦闘開始早々のこのチャンスを逃すわけにもいかない。オレはストンドラゴンに接近すると、風属性を浴びた鋁爪剣で連続で斬りつける。
その都度叫び声を上げるストンドラゴン。武器攻撃が効かないと言われているが、確かに効いている。
更に斬りつける事でストンドラゴンの動きが徐々に鈍っていく。鋁爪剣に付与された重力の効果が発揮されてるようだ。
攻撃を仕掛けストンドラゴンの身が弾けるタイミングで、ミルファの風属性が付与された矢が射抜かれる。
一方的に攻撃を続け最早ストンドラゴンが倒れるのも時間の問題だと思い、オレは一気に片を付けに行く。これが大きな間違いであった。
タメが大きくなった瞬間をストンドラゴンは見逃さず、その前足を振りかぶりオレを叩きつけたのだ。
「ぐっ!」
右肩を殴りつけられ大きく吹き飛んだオレは岩にぶつかりそこに倒れこむ。
吹き飛ばされたダーメージは少ない。だが、殴りつけられた右肩……上腕部のダメージは深刻で剣を持つ事もままならない。
どうやら上腕骨の根元付近で骨が折れているようだ。
それにいち早く気付いたミルファは回復すべく此方へ向かっている。
二人の接近を察したストンドラゴンはこれを機と読みその上体を起こすと勢いをつけ地面に叩きつける。
【グラウンドシェイク】と呼ばれるストンドラゴンのこの技は大地を揺らしそこに舞った礫を相手にぶつける最大攻撃である。
オレもミルファもその大地の揺れに耐え切れずにその場に倒れこむ。
そこに周辺の舞い上がった石や岩がオレとミルファに襲いかかる。
これは流石にヤバい。だが起き上がる事も出来ずに最早どうする事も出来なかった。
そんなオレ達の目の前に何かが覆うように目の前が暗くなった。
「くっ……大丈夫かい?」
オレとミルファに覆い被さるようにその攻撃を受けていたのはレイヴィンだった。
石程度はそこまでのダメージにはならないだろうが、中には直径50センチ程の岩も混ざっていた。そのダメージはかなりのものだろう。
その場に蹲るレイヴィンにミルファは直ぐにミドルヒールを掛ける。
直後オレにもハイヒールを掛け、右上腕骨の骨折も治っていく。
「……驚いた。ミルファは弓矢だけでなく回復の腕も一流だとはね。」
「いえ、それよりも助かりました。ありがとうございます。」
「オレからも礼を言う。マジで助かった。」
ミルファとオレの礼に照れ隠しなのだろうか、肩を竦め言葉を返す。
「ははっ、そこまでお礼を言われるとなんだか擽ったいね。元々は我々が助けられた立場なんだ。これくらい当然だよ。それよりも来るよ!」
ストンドラゴンは起き上がったオレ達を見るなり追撃体制をとり突っ込んできた。
「俺が受ける。レイジは攻撃を頼むよ。」
レイヴィンはそう言うと一歩前へ出て盾を構える。
「プロテクシールド!」
プロテクシールドは盾によるガード効果を大幅に上昇させる聖騎士のスキルだ。実はオレも覚えている。使う機会が見つからず忘れていたが。
これならストンドラゴンのこの突撃も防げるかもしれない。
オレは再度魔法剣嵐を使うと、レイヴィンがストンドラゴンを止めた瞬間を狙うべく構える。
但し、レイヴィンが止めきれないとオレも共に吹き飛ばされるだろう。
その位置にいなければ、オレの動きがバレてしまい対応される恐れがあるからだ。
ミルファだけは後方へ下がり、弓を構えていた。勿論その矢には風属性を付与させている。
「来い!俺がその攻撃を受けきってみせる!」
ストンドラゴンに掛けられた重力の効果は既に切れ、その突撃速度は本来のスピードになっている。
更に頭部に土属性の魔力を纏わせ、単純な防御力を無視したダメージを食らわせられるよう工夫されている。
その突撃がレイヴィンの構える盾に衝突した。
衝突の瞬間、レイヴィンは1メートル程その足は後退するも吹き飛ばされる事なく耐えてみせた。
ミルファは魔力による追加効果を予想しレイヴィンにマジックガードも掛けておいたのだ。
それもありレイヴィンには魔力分の効果は半減し、耐える事に成功したのである。
「今だよレイジ!やってくれ!」
レイヴィンの真後ろから飛び出したオレは魔法剣嵐による連続攻撃を仕掛ける。
二回、三回、四回……オレの攻撃は続く。
「うおらあああぁぁぁ!」
「ギャオォオオオォォォン」
雄叫びを上げるもなかなか倒れないストンドラゴンに対し、剣を振るうオレの体力が尽きていく。
「レイジさん!」
ミルファの声に反応し、オレは一旦距離を置く。
瞬間、ミルファの放った矢がストンドラゴンの口内と左目を射抜いた。
「ギャアアオオオ……」
「いい加減死ねよ。ストームランス!」
口の中を射抜かれ開いたままになっている口内に、嵐の力が凝縮されている一本の魔力の槍を突き刺す。
ストンドラゴンは最早叫び声を上げる事もなく、ゆっくりと倒れていった。
「ははっ……凄いや、ホントに倒しちゃったよ……」
まだ後方に魔物は残っている。そう思いながらもその場に座り込んだオレ達は少しの間その勝利を噛み締めていた。