第150話 武具付与
イーザリア大平原での討伐依頼を終えた翌日、現在新居に足りない家具や物資を買い揃える為に専門店街へとやって来た。
此処では家具は勿論ながら、雑貨や魔道具、戦闘小物まで幅広い商品が取り扱われており、各店舗では専属のスキル持ち職人を抱えている。
その職人は何れも曲者ぞろいで、自分が作りたいと思った物しか開発しない自己中心的な考えの持ち主ばかりだとか。
しかもそのレシピは隠匿され、その店舗のみでの販売とする事でその店に利益を齎してくれる。
お陰で王都の各店舗にはその店にしかない商品が多数存在していて、オレ達のように他の街から来た者にとっては何ともメンドくさい仕様となっていた。
「この店の魔道具は遠隔操作が出来るってよ。あの広い家ならこの方が楽じゃねぇか?」
「ねぇねぇ、こっちは世界最軽量って書いてあるよ。軽い方が楽じゃないかな?」
「この店のは色を変化させる事が出来るのです。これはこれで面白いのです。」
「これは凄いわ。住人一人一人の魔力を登録する事で、魔力を込めれば自在に操作が出来るみたいよ。防犯面にも役立つんじゃないかしら。」
今見に来てるのは家の照明である。ランタンではなく光を灯す魔道具を見てるのだが、これだけで各店舗で扱う商品の特徴が違っていて一つに絞る事が出来ないでいる。
どの商品に関してもその店舗オリジナルになる為、他の街で取り扱ってはいない。
ロードプルフは元より、今まで立ち寄った街にそういった技術が扱われていなかったのにはそういった事情があったようだ。
勿論王都にあるこれらの店に来れば買う事は可能だが、金額的な面も含めそこまでの需要がないという認識を持たれてしまっているのが普及を妨げられている大きな要因なのだろう。
とりあえず今回は、必要最低限の部屋に極普通の照明を設置するに留まった。
一応今回のメインであるダイニングテーブルを見に来たのだが、これもまた一癖も二癖もありそうな商品が各店舗毎に並べられている。
あの屋敷に合いそうな物だと、どうしても一定以上の高級感のある代物になってしまう。
最高級商品となると、数千万Gもの値段がする木工・石工スキルがマックスの巨匠が一年掛けて制作した力作だったりするのだが、そんなものは必要ない。
オレ達が欲しいのはとりあえず景観が損なわれない品の中で、オレ達五人が寛ぎながら食事を楽しむ事が出来るダイニングテーブルだ。
そんな中オレが目を付けたのは、ライトウッドストーンと呼ばれる美しい木目が特徴的な非常に軽い石で作られたダイニングテーブルである。
非常に軽い石とはいってもそこはやはり石なので、成人女性一人分の重量くらいはある。
この石は割れやすいという特徴があるのだが、それをシールドの魔法が施された魔石が埋め込まれ強度に関する不安は解消されている模様。
高級感がある質感や色合いながらもデザインは至ってシンプル。そこがオレ的には気に入った。
そして値段がかなり安い。椅子まで全てセットでも10万Gで済むのだ。
その理由はそのデザイン性にある。王都だけでなくこの世界の特徴として、訳の分からない変な装飾が施されてたりする物の方が高級であり、皆に支持される傾向にあるようだ。
従って、このようなシンプルな家具など全くもって愚の骨頂とみなされているらしい。
オレはそんな風潮の中、このようなデザインをした製作者を称えたいと思う。
皆もこれを買う事に賛同し、購入するに至った。
その後、オレ達とケント達の寝具一式を購入。ケントはスライムゼリーの寝具を希望したが、あれは激烈スライム亭の特注品らしく購入することはできなかったようだ。
オレはマットレスに少々拘り、反発性の少ない寝心地の良さそうな物を選んだが、ケントは逆に高反発の寝返りが打ちやすいタイプを選んだようだ。
最近ジョブの性質上、しっかりとした体つきになってきたケントには丁度いいのではないだろうか。巻き込まれたメイは可哀想だけど。
最低限必要な物を揃え終えたオレ達は、冒険者が多く集うハンター通りを散策していた。
現在武器・防具共に特に必要ないが、どのような品揃えなのか気になりこの通りに足を運ぶ流れになったのだ。
「基本的な取り扱い商品は他の街と然程変化はないみたい。ミスリル商品は多めだけど。」
「でもデザイン性だけを見れば流石は王都って納得出来てしまうわ。作りが凄く丁寧なのよ。」
同じミスリルアーマーでも他の街の物に比べると王都の物はデザイン加工が施されており、その見た目は段違いに格好良く仕上げられている。そのくせ値段は殆ど変わらないのだから、出来ることなら王都で買いたくなる。
この辺の心遣いは都会の特徴なのかもしれない。
「ねえレイジさん、この店ってどんな品を取り扱ってるか分かる?」
ミルファが見つけた店は【ジオラの魔石店】という店だ。
その名の通り魔石を取り扱ってると思うのだが、何故ミルファがそのような事を聞いてきたのか、その答えが店の前に張り出されていた張り紙にあった。
『あなたの装備に必要な効果を付与致します』との事。
すごく気になる。
「入ってみるか?装備強化の店なら役立つかもしれないし。」
店主に話を聞くだけでもいいしな。聞くだけで損はしないはずだ。
店内に商品は一切置いておらず、カウンターにも誰もいない。無人店舗だった。
だが入口の扉には鐘が取り付けられ、来客を知らせるようにされている。オレ達が店内に入ると共にカラーンと高い音が鳴り響き、奥から店員と思われる女性がやって来た。
「いらっしゃいませ~。ジオラの魔石店へようこそ!当店は初めてでございましょうか?」
銀色に輝くロングヘアーを靡かせ目の前に現れた女性は何とも美しく、天使を連想させるといっても過言ではなかった。
「あ、ああ……初めて……だな。」
「レイジさん?どうしたんですか?」
ヤバい、あまりの美しさに放心状態だったようだ。まるで魔法に掛かったかのように魅了されていたようだ。
「あら?どうやらお客様は魅了耐性をお持ちのようですね。失礼しました。」
その瞬間、彼女を美しいと思う気持ちが嘘のように消えていく。どうやら何かスキルを使われていたようだ。
そんな状況についていけずに放心状態でいると、奥から別の人物が慌ててやって来た。
「こら、エリス!またお客様に【魅惑】スキルを使っただろ!あれはもう二度と使わないって約束しただろ?」
眼鏡を掛けた物静かそうな男性だが、エリスという女性店員に対し叱咤している。
どうやら魅惑というスキルを使っていたようだが、先程のオレの彼女を美しいと思った気持ちに直結してるのだろうか。
「申し訳ありません。もしかしたら彼女を愛おしいとか、抱きしめたいとかそういった感情になったのでしたら、それは彼女のスキルの影響であってお客様の感情ではございません。どうか彼女に襲いかかることはご遠慮頂きたく存じ上げます。」
いや、そこまで思ってないし。確かにとても美しいとは思ったが、愛おしいとまでは思わなかったぞ。
「大丈夫だ。そこまでは思わなかったし。」
「そ、そうですか。お客様は耐性持ちだったのですね。良かった……」
「それ、彼女も言っていたが、耐性持ちとはどういうことだ?」
「お客様は【魅了耐性】のスキルを所持されていますよね?ソレがあれば【魅惑】の効果が薄れるんです。スキルレベルにもよりますが、レベル3もあれば綺麗だと思う程度に抑える事が出来るはずです。」
そうか。最近魅了耐性スキルのレベルは3になっていた。だからこの程度で済んでいた訳か。
逆に耐性が無ければ彼女を愛おしく思い襲っていたと?それは恐ろしいな。社会的に抹殺されていたところだ。
「なんて危険なスキルを使うんですか?あなたはレイジさんをどうするつもりなんですか!」
「ごめんなさい。どうするつもりもないんです。ただチヤホヤされたくて……」
ミルファに叱責され項垂れるエリス。その目には涙を浮かべている。
「本当に申し訳ありません。二度とこのような事はさせませんから。」
「もういいよ。そこまで被害はなかったし、気分を害するものでもなかったしな。」
オレの気持ちを誘導されたとは言え、不快にさせる類のものではなかったのでそこまで問題にはしたくない。
それに普通に見ても綺麗な女性だ。それだけで許してもいいという気持ちになる。いや、今は別に魅了はされていないはずだ。
それに少し気になる事もある。
「それに許さなかったらその娘ヤバいんだろ?」
「……お気づきでしたか……そうなんです。彼女は私の奴隷でして、この状態で衛兵を呼ばれるような問題を起こせば犯罪奴隷堕ちして強制労働に出されてしまうんです。それだけは避けたいのです。どうかご慈悲を……」
エリスの首には漆黒の首輪が付けられ、赤いドクロのマークが描かれていた。これは奴隷を表すもので、一般人では絶対にありえないものだ。
それを見てしまった以上あまり強く言えなくなってしまった。
「これくらいの被害で犯罪奴隷にさせるのは流石に良心が痛むからな。もう二度とすんなよ。」
「「はい!本当にすみませんでした!」」
エリスと共に店主も一緒に土下座をしている。この世界に於いても土下座は誠意を表す謝罪のようである。
「その事はいいが、この店は一体どういった店なんだ?」
「はい。此処はお客様の装備品に魔石の持つ特殊効果を付与し、装備そのものを強化させる店でございます。
例えばこの何の変哲もないロングソード。これにこのウインドイーグルの魔石を取り付ける事で、あっという間に風属性を持つウインドソードに早変わりするという事です。素晴らしいでしょう?」
なんかよくありそうな話だが、そんなに凄い事なのだろうか。
だがよくよく考えると魔石を取り付けた武器など見たことがない。実は物凄い事なのではなかろうか。
「少なくとも王都ではこの技術を持つ者は他にいません。私一人だけのオリジナルの技術です。どうでしょう?お客様の武器に付与してみませんか?迷惑料として1回だけ無料で致しましょう。」
無料ならば試してみてもいいかもしれない。やるならオレかケントだが、さてどうするか……
「オレは遠慮しとくわ。この槍には余計な真似は出来ねぇ。」
「じゃあオレのだな。この剣に、そうだな……重力とかの効果を付与する事は出来るのか?」
「問題ありません。今からですと夕方には完成出来ます。その頃にもう一度お越し下さい。」