第149話 王都冒険者ギルドの解体倉庫
「それにしてもよ、コングチャンピオンに比べると魔物の強さはイマイチな感じがしたな。」
ケントの言うとおりコングチャンピオンと比べればここらの魔物はその強さが格段に下のレベルだろう。
コングチャンピオンは実質ゴールドランククラスだったのに対し、この周辺の魔物は強くてもブロンズランククラスだ。フォレストタートルはその巨体が故にピンチもあったが、その強さ自体は所詮ブロンズランククラスだった。
それ故にコングチャンピオンと比べるのは間違いだろう。
「今日は飽くまで腕慣らしだ。数だけは稼いだから一先ず明日は休んで、その後はカスケイド山地で本格的にレベリングと素材で稼ぎに行くからな。」
「コングチャンピオン相手には殆ど何も出来なかったのです。今回はそこそこ魔物も倒したし、いいイメージが出来たのです。」
ルナは二匹目のコングチャンピオンに全力で殴り飛ばされ一度意識が飛んでたからな。今回はそんな悪いイメージを払拭するにはいい機会だっただろう。
「レイジさん、明日休みという事は……」
「ああ、折角家を持ったんだし必要最低限の家具は用意しておこうと思ってな。あと食材も。」
実はダイニングに食卓テーブルがないのだ。リビングは普通に使えるのだが、ダイニングとキッチンには何も置いていなかった。それらを購入しない限り使い勝手は悪いままだ。
ついでに布団だ。ベッドはあるが布団がない。昨夜はアイテムボックス内の以前から使っていた布団で寝ていた。あの家に住んでいながらあれはないだろう。それも買わなくてはいけないと思っている。
明日の予定を立てながらイーザリア大平原を王都に向けて浸走る。コモンランククラスの魔物はある程度倒していくが、アイアンランククラスの魔物は放置している為、会話に余裕が生まれている。
そんな時、メイが周囲を見渡しハッとして立ち上がった。
「あ!この辺がこの間ブロンズランク試験を行っていた場所だわ。流石に魔物は殆どいないわね。」
ブロンズランク試験の為魔物は掃討されたのだろう。マップを見ても魔物は殆どいないように思えた。
メイは今回のブロンズランク試験で唯一ブロンズⅠランクに昇格した人物だ。ライトレイクでのレベリングだけでなく、戦術的にもその行動が認められたという事だ。それは即ちこのパーティでやってきた事が間違っていなかったと証明された事に直結する。実に喜ばしい事だ。
夕刻前には王都に到着する事が出来た。ギルドが混み始める前で良かったと思う。
だが現実は違った。この時間でも採取依頼を受けていたパーティや王都内での雑用をこなしていたパーティは既にギルドへ戻ってきている。
依頼完了報告の窓口はこの時間でも大混雑していた。
「マジかよ……」
「これは時間掛かるね。早く帰るのは諦めようか。」
依頼完了報告のカウンターは三つある。しかしそこで魔物を出せる雰囲気ではない事に気が付いた。
「これってまずは解体に持っていった方がいいかもな。」
とりあえず総合案内で聞いてみる。
「あ、もしかしてマジックバッグ所有者ですか?でしたら一旦外に出て頂き、裏の建物へ行ってください。」
どうやら解体場は別にあるようだ。そこへ向かった方がいいらしい。
◇
そこは如何にもな倉庫であった。その広さはロードプルフやライトレイクのギルドの倍以上の広さがある。
腐る心配のない素材や採取品などはこの倉庫の別室に保管されており、解体した際の異臭はつかないよう考慮されていた。
巨大な入口からから入ると、そこは巨大な解体スペースとなっており、様々な魔物がそこで処理されている。
カスケイド山地にはギルド御用達の巨大馬車が出張していた。カスケイド山地で活動している冒険者は討伐した魔物はこの馬車に預け、更に狩りを続ける。ギルドは運搬料として素材売却料の二割を徴収するのだが、これが思いの外利用者が多くギルドの稼ぎの一部を担う程だ。
これが一日に三往復し、巨大な魔物素材が運ばれてくるのである。
「スゲェ倉庫だな。流石王都だわ。」
運ばれてきた魔物を解体し、それらを順次運んでいく。単純な作業に見えるがその動きは徹底され、無駄なく流れるように作業が進んでいく。
その動きは正しくプロと呼べるであろう。
「ん?あんたら個人での持ち込みに来た冒険者か?だったら馬車で直接来て良かったぞ。ギルドの馬車はあと一刻は戻ってこないだろうからな。」
「ああ、大丈夫だ。特殊な方法で持ち運んでるからな。何処に出せばいい?」
「そうだな……あそこのスペースで大丈夫か?それ以上あるなら面倒だが奥のスペースになるぞ。」
「うーん……小型の魔物が多いが数が数だからな。奥に置かせてもらうわ。」
一匹あたりは小さいが全部で300匹を超えている。かなりのスペースがないと置ききれないだろう。
奥の何もないスペースを使わせてもらいそこに討伐した魔物を並べていく。
職員が解体する際にやりやすいように種類別にしていく。スペースが限られているので同じ魔物は重ねていくが仕方ないだろう。
300匹全て出し終わり職員をみるとその状況に固まって動けないでいた。
この状況を見るのは久しぶりだな。説明が面倒だ。
案の定持ち運び方法について聞かれ、マジックアイテムなら10億Gで買い取るとか言ってきた。
勿論マジックアイテムではないので断ったが。
毎度の事だが、時間が掛かるので明日の昼過ぎに来て欲しいとの事で、この場では討伐依頼達成証明を発行してもらいこの場を後にした。
再びギルドに戻ると依頼達成報告をし、報酬を貰うとギルドを後にしたのだった。
この日は一旦家に帰り着替えを済ませると歓楽街へと繰り出した。
食事と酒を楽しめる店を探し、どのような店が並ぶのかも見ておきたかったからである。
歓楽街は初日にオレ達が泊まった宿がある娼館が立ち並ぶ通りの一本表に面した通りにあり、まさに王都の顔とも呼べるメインストリートである。此処で気をよくした他の街の商人達はその流れで裏の娼館へと向かっていく。そうしてこの街で得た収入の大半をこの街で落としていく為、良好な景気を長くに渡り維持できていた。
これには王族・貴族は一切関与しておらず、とある商会が一大プロジェクトとして周辺の商家を纏め上げた事から始まり、今に至るまで約50年この状態を維持してきた。
それは並大抵の事ではなく、今ではその商会こそがこの歓楽街の表と裏、全てを支配するに至っていた。
「やっぱ王都は違うよな。なんつーか、活気に溢れてるよな。呼び込みとか半端ねぇし。」
「都民も皆お金に余裕があるのかしら。立派なお店に入る人が随分多いわ。」
「王都の人口ってどれくらいだっけ?ロードプルフが10万人だったよな。」
「王都は100万都市って言われているわ。でもスラムにいる住人の正確な数は把握できないようで、120万とも80万とも言われているわ。実際はどうなのかは全くの謎みたいね。」
100万人だとすれば日本の政令指定都市の中では丁度中位にあたる規模だ。
だが王都の面積はその政令指定都市のどの市よりも小さい。何処にどうやってそれだけの人々が生活しているのか、全くの謎である。
「100万ってどれくらいなのです?よく分からないのです。」
「まあ、それだけ人がいればそれだけ色々な商品も揃ってるだろ。家具にも期待出来そうだよな。」
「家が凄く立派だからね。ちゃんとした物を選ばないと浮いちゃうよね。」
実際あの屋敷に置いてあった家具は、どれも貴族が使うような上等な代物ばかりだった。
その中に置くのであれば下手な安物は明らかに浮いてしまい家の価値そのものを崩しかねない。それも考慮しつつしっかり選ばなければいけないだろう。
「そんなことより今は飯だ。多少並んでもいいから美味そうな店にしようか。」
「100万……やっぱり分からないのです……」
ルナは一人、100万人の人が想像できず頭から煙を出していたが、小声だった為誰にもきこえていなかった。
歓楽街を30分程見て回り、その中でもそこそこ人気のありそうな店を選びこの日の夕食とした。
その店は普通に美味で、オレ達は十分満足し帰路に着いた。
途中八百屋を発見した為、十分な野菜や果物を仕入れ、自炊出来る体制も整ってきた。
王都での生活はなかなかいい感じの滑り出しで始まったのだった。