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第147話 イーザリア大平原(1)

 この日の朝、最初に視界に捉えたのは二つの双丘と見慣れぬ天井だった。

 元の家主が使っていたと思われる天蓋付きのベッド。サイズはクイーンサイズ程はある。

 何となく圧迫感があったので天蓋は撤去しておいた。

 広すぎて落ち着かないかと思ったこの部屋だが、ベッドに入るとそんなのは関係なかった。


 今日から少しずつ王都での冒険者としての活動をしていこうと思っている。

 手始めにギルドでの依頼が多く出ているというイーザリア大平原からスタート予定だ。

 オレが起きるのと同時にミルファとルナも起き上がる。多分この二人はその前から起きていたのだろうな。


 現在アイテムボックス内にある食材は肉ばかりで、魚や野菜が一切ない状態だ。

 朝食は昨日のパン屋へ行こうと思う。

 既に起きていたケント達と共に家を出た。


 厩舎にはパトリシオンが寛いでいる。柵は閉めているが、厩舎内は自由に動き回れるようにしてある。

 だがパトリシオンは中央で優雅に寝ているだけだった。

 そんなパトリシオンを起こすと外へと連れ出し馬車を繋ぐ。その瞬間スイッチが入ったようにシャンとするのだ。



 朝のギルドは物凄い賑わいだ。

 だがこの中で魔物討伐の依頼を受けるのは約半数だそうだ。

 一割は王都内の雑用仕事。一割は衛兵と共に周辺の警備。残りの三割が採取専門の冒険者という事だ。

 採取専門がいる事にも驚いたが、警備まで担ってるとは思ってもみなかった。

 そんな中依頼ボードを眺める。イーザリア大平原のブロンズランクパーティ推奨依頼を探していく。

 見るとそこそこの依頼があるようだ。

 聞くと、ブロンズランク以上はどうにもカスケイド山地に行きたがるようで、イーザリア大平原でのブロンズランク推奨依頼は残ってしまう傾向が強いようだ。

 見ていくと、ブロンズランク推奨であっても常設依頼も多数存在する。つまりそれだけ魔物の数が多いという事なのだろう。

 これらは依頼を受ける必要はない。討伐した際に部位を提出すれば依頼達成になる、それだけだ。


 その他の通常依頼もこのギルドでは番号で受注する。確実に達成させる為に、複数の冒険者が同時に受注出来るようにしているのだ。討伐は早いもん勝ち。その代わり失敗した際のペナルティも存在しない。

 揉め事を防ぐ為のルールもしっかり整備されているが、頭を使うのが苦手な冒険者が多く、大半がギルドの仲介でそれらは解決するのだ。

 そのギルドの決定に意を唱えればギルドカード剥奪という処分が下されるので、誰一人その決定には逆らわない。誰しもが自らの生活を守る為に、最低限の逆らってはいけない相手がいる事は理解していた。


「今日向かうのはイーザリア大平原。相当広いようだから一泊する事は覚悟しておいた方が良いかもしれないな。」


「ブロンズランク推奨依頼でいいかな?レイジさんはシルバーランク推奨依頼を一人でこなしそうだけど。」


「パーティとしてはブロンズランクだから、それらをやっていこう。見た限り依頼一つあたり、大体5万Gくらいだから、一般的には最低二つは受けなきゃ割に合わないよな。」


 王都の冒険者は馬車を使う者も多い。パーティにもよるが、ブロンズランク以上を一人見張りに残して魔物を狩りに行くのが主流になってるという。

 その分多くの素材を持ち帰れるので、依頼の受注は二つであってもかなりの収入になるようだ。


「魔物の居場所はレイジのスキルで分かるんだからある程度受けてもいいんじゃないか?ペナルティが無いなら尚更じゃねぇか。」


 そんなケントのナイス判断もあり、十個程あるブロンズランク推奨依頼を全て受ける手続きをしようとした。


「あの……流石にこれは受理出来ません。せめて三つ程に絞って頂けませんか?」


 受付で却下された。それはそうだろう。それがまかり通るなら皆そうしてる。受注システムが意味を成さないのだから。


「一応事後受注で、指定部位さえあれば二割引で依頼達成になるシステムもあります。受ける事が出来なかった依頼はそちらを利用するようにしてください。」


 都会は整備されてる面も多いが、逆にルールに厳しい。人が多い分規律だけは守らなければ収集がつかなくなるのだろう。

 結局金額が高く設定されてる三つを受け、それ以外は諦める事にした。

 

 ◇


 イーザリア大平原は王都を出た際に目の前に広がる草原地帯が全てそれにあたる。

 オレ達が通ってきた街道周辺には魔物はいないが、それより南は幾多もの魔物が犇めき合う魔物の巣窟だ。

 この土地には多くの魔力が溜まっており、雑草一つでも魔物の餌には十分な程である。

 そしてこの大平原には特別多くの魔力が溜まっているポイントが三ヶ所存在する。そのポイントにはゴールドランクでも苦戦するような魔物が住み着いているようで、『そのエリアへは近づかない事』それが此処で活動する冒険者の唯一のルールのようだ。


「さーて、始めるか!情報では南西の集落近辺に依頼の内二つが。残りの一つは最南端の海の近くだって言うから、まずはその集落へ行ってみようか。」


 今回はとにかく稼ぐ事を第一に考えて行動する。火属性魔法は厳禁で戦わなければいけない。

 ケントも無闇矢鱈に攻撃する事は禁止だし、ルナも部位を潰すような攻撃をしてはいけない。全ては素材をしっかり確保する為だ。実はこれらの部位破壊による査定減額は既に30万Gにも及んでいる。実力が伴ってきた今これらを見直し、より良い状態の素材を回収すべく討伐の仕方を考る時期なのだろう。

 魔法剣炎で首を落とすのが手っ取り早いが、あれは魔力の消費が激しいし皆の技術向上にもならないので極力使わないよう心掛けるつもりだ。


 その集落までは約10キロ。道中マップに映る魔物はできる限り討伐していき、素材と経験値を確保していく。

 魔物の生息状況を踏まえて、今回だけで200匹程狩ればそこそこの金になるはずだ。


「生息魔物の種類も分かればかなり楽になるんだけどな。」


 そんな事を言いながらマップに映し出されている光点をなにげにタッチしてみた。


【イビルウルフ】


 光点に魔物の名前が映し出される。


「おぉ!こんな機能あったのか!パネルタッチなんてしようと思わないよな。」


「じゃあこっちは何なのです?」


 ルナもタッチする。


【ニードルタイガー】


「あ!こいつは受けなかった依頼にあった奴だわ。倒してくか。」


 ルートからかなり外れていた為放置してきた魔物が、依頼にあった魔物だった。

 少し戻る形になってしまうが、このニードルタイガーを仕留めてくる。

 大体の魔物は顔は潰してもそこまで査定に影響はないので、ケントとルナで顔面狙いで討伐していく。

 少しミルファは暇そうだが、飛行系魔物相手の際にはミルファが相手するのがベストである。依頼魔物にもそれは含まれているので今は我慢してもらおう。


 そしてマップに集落が映し出された頃、北東に目標である【マンイーター】を発見した。

 マンイーターは人を食らう植物型の魔物だ。この集落の住民にまで被害が及び今回討伐対象にしていされたようだ。

 コイツはケントによって瞬殺され、一つ目の依頼は達成された。

 集落には立ち寄らずそのまま討伐を続ける。この近辺にはもう一つの依頼であるウインドイーグルがいるはずだ。

 ウインドイーグルはファスエッジダンジョンで討伐経験があるので、討伐自体は問題ない。

 周辺を移動しながらマップを確かめていく。すると、集落を過ぎた先にある岩山に魔物が纏まっていた。ウインドイーグルの群れのようだ。


「やっと私の出番ね。数が多いけど大丈夫かな?」


 ウインドイーグルは全部で6匹。ミルファは一気に二本同時に撃ち出すと、二本とも命中。状況が分からずに騒ぎ立てるウインドイーグル達だが、透かさずもう一匹を撃ち仕留めた。


「残り三匹だけどこっちに気付いたみたい。あと一匹が限界かも。」


「残り二匹だな。問題ない。」


 こちらに気付き攻撃体制を取るウインドイーグルの一匹にミルファの矢が命中し残りは二匹となる。


「ウインドレジスト!」


 メイが風属性攻撃を完全に打ち消す魔法であるウインドレジストを掛ける。

 いい判断だが攻撃はされる前に打ち落とす事を選ぶ。オレも弓を使えるのだから。

 魔力で作った矢を撃ちだし、残っている二匹を同時に撃ち落とした。


「あ!その技ってもう使えるのかも……」


 魔力矢は魔弓士レベル20で使えるスキルだ。ミルファは既に使えるだろう。

 矢の付いていない弓を構え魔力を込めてみると、そこに光の矢が生成されていく。

 やはりミルファは既に使えるようだ。


「もう使えたんだ……これからはもう少しショートレンジでも戦う事が出来そうかな。まずは慣れてからだけどね。」

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― 新着の感想 ―
[一言] ミルファは相当強いと思うのだけど、まだディルのレインアローは使えないのかな?(^^)
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