第144話 家購入
物件の場所を聞きオレ達はレイヴィンらと共に現地へ向かっている。
メリアは管理している者に鍵を借りに向かった。
着いたら先に周辺や庭を観ておいてくれとの事だ。
「君達って本当に何者?3億Gを簡単に出せる冒険者なんて聞いたこと……はあるけど、実際に見るのは初めてだよ。」
聞いたことあるのかよっ!オレとしてはそっちに驚きだわ。
オレはアイテムボックスがあるからダンジョンで討伐した魔物を全て持ち帰る事が出来る。その為、一回の素材売却額がとんでもない金額になる。
それだけの事を出来る冒険者が他にいる事に驚きを隠せなかった。
「レイジはゴールドランクの上って知ってる?」
「最初の講習で習う奴だろ?確かプラチナランク。」
「そう。そのプラチナランクはこの国に二人だけ存在する。その二人はこの王都で活動してるんだ。」
話にだけ聞いていたプラチナランク。そのランクの人間がこの王都にいる。
それだけで王都に来た甲斐があるというものだ。
「そのうちの一人を一度ギルドで見かけたんだ。その時はオークキングを一匹そのまま持って帰っていたよ。皆の前でそれを出し、その場で1億を受け取って帰っていった。その場にいた全ての冒険者が頑張ればそれだけ稼げると躍起になったもんさ。」
って、1億かよっ!だが一匹で1億だ。それなら簡単に数億、数十億と稼げるだろう。とんでもない事だ。
「それから暫くは死亡する冒険者も増えたんだけど。それでもあの衝撃は忘れないさ。」
プラチナランク冒険者……どんなジョブなのかも気になるところだ。
そして目的の物件に到着する。
確かに貴族の屋敷みたいだが、ロードプルフの辺境伯の屋敷から見たら半分もない。敷地全体で見たら二割程だろう。
貴族が住むには小さすぎるのかも知れない。
そんな敷地を外から眺めながら一周する。そして敷地に入り、庭や厩舎などを見ていく。
誰も住んでいない為手入れはされてないが、なかなかしっかりしているようだ。
「この厩舎ならパトリシオンも問題なさそうだな。」
「パトリシオンは気に入らないと蹴飛ばすからね。でも此処は大丈夫そう。」
ミルファもそう思うなら間違いないだろう。なにげに気に入られてるからな。
「やっぱり旅をするなら馬車は必須かー。俺達はまだまだだね。」
「お前の強さなら直ぐ稼げるさ。俺達もシルバーランクになれば依頼のランクも上げる事が出来る。そうなれば今まで以上に高額依頼にありつける。そうなればこいつらのように旅に出る事も夢じゃなくなるだろうよ。」
どうやらレイヴィン達も旅の冒険者になるのが夢みたいだ。
噂だけで実際の実力を知らないので下手な事は言えないが、ここまで面倒を見てくれるいい奴だ。是非とも頑張って叶えて欲しいな。
「それにしてもでっけぇ屋敷だよな。一冒険者の住む家ではないだろ?」
確かにケントの言うとおりだ。だが、ただ大きい家に住みたいだけではない。目的は他にある。
「ケントは戦闘の強さ以外に求めるものは無いのか?」
「戦闘以外か……考えた事も無かったな。」
「偶にやってるのを見た事があると思うけど、ミルファは調合スキルを鍛えている。そのお陰でポーションのストックは200本を超えてるからな。
んでオレは鍛冶だ。鋁爪剣はオレの自作だからな。」
「そういや前に言ってたっけ?自作の武器か……考えてみたらスゲーよな。俺には無理だわ。素材とか分かんねぇし。んで、それが家と関係あるのか?」
「旅の間は出来ないからな。鍛冶をする場所が欲しかった。」
鍛冶をするには専用の設備が必要だ。スキルだけで作れない事もないが、性能は格段に落ちる。今後も使える武器と考えれば、やはりしっかりした設備は不可欠だろう。
「お待たせしました。では家の中を見ていきましょう。」
鍵を持って来たメリアと共に家へと入っていく。
数年使ってなかったみたいで結構ホコリが溜まっている。だが傷んだ箇所はなく、掃除だけで済みそうなほど状態は良かった。
「これはかなりいいな。直ぐに住む事が出来るんじゃないか?」
「この物件を勧めた理由がそこにあるのよ。今は宿住まいなんでしょう?手直しやらをしていたら住むのがかなり遅れちゃうからね。此処なら掃除をすれば何時でも住めるのよ。」
一応オレ達が求めているのは『短期間住める家』である。改修や追加による工事で入居が遅れるならばそんな家は必要ないのだ。
だが一通り見て回った感じだと、鍛冶をする為の炉を備え付けるスペースは無いように思えた。オレにとって最大の誤算だ。
「うーん……かなりいいと思うんだけど一点だけどうも困った事があるんだよな。」
「何か不備でもあるかな?」
「オレは鍛冶をするんだよ。炉を設置したいんだけど、見て回った限りではそのスペースが見当たらなくてな。」
「え?だったら増築しちゃえばいいでしょ?外にあった倉庫に使う小屋を壊してそこに作るのがいいかもね。」
確かにそうすれば鍛冶場は出来る。しかしその為に金を払う気にはならない。
「それくらいは無料でしてくれると思うよ。この家ってかなりの良物件だけど、広さが中途半端な所為でなかなか売れないんだよね。新興貴族なんかは見に来るんだけど、野心家が多い所為かコレを狭く感じて買ってくれないのよ。」
やはり貴族の屋敷としては手狭なようだ。だから売れ残っているのだろう。
一通り見て回ったが、各部屋に寝具は設置されているし、ソファーやテーブルなどの最低限の家具は備え付けられている。
敢えて言うならダイニングテーブルと各布団だけは用意しなければいけないくらいか。
逆に言えば家具の分の費用は浮くという事だ。
あとは純粋な家の価格だ。3億払い、2億8千万で売れる。1ヶ月で出た際には月2千万の支払いだ。だが1年住めば、月166万の支払いという事になる。
この屋敷で月166万は破格の値段だ。しかも鍛冶もできて風呂も付いている。
オレの活動としては全て出来る最高の物件なのだ。
既にメンバーからはオレの判断に任せると言われている。後はオレの決断だけという訳である。
「……先程紹介された物件とは比べ物にならない程の好物件だよな。その分値段も馬鹿にならん。でも此処なら旅の間出来なかった活動が全て出来る!
決めたぞ。王都に滞在中はこの家に住む!この物件オレ達が買うわ。」
嘗てない程の高額の買い物だ。それだけ支払う価値があるのかは分からない。
しかし、少なくともこの王都に滞在中は一切不自由なく生活出来るだろう。
まあ、鍛冶が出来るようになるまでは少し時間が掛かるかもしれないが、それでも滞在中に武器の一つは作れると思う。それだけで十分だ。
「お買い上げありがとうございます!では事務所に戻って手続きを!」
メリアは嬉しさのあまり声が裏返っている。どうやらメリアにとって過去最高額の物件だったらしい。
レイヴィン達は驚きの表情を浮かべたまま固まってしまっている。かなりの出費だが、こいつらのおかげで住居が決まった訳でもあるからな。感謝すべきだろう。
逆にウチのメンバーは落ち着いている。既に感覚が麻痺してしまいオレのやる事だからという空気になっているようだ。
その後、メリアの事務所にて購入手続きを済ませ、あの屋敷はオレ達のものとなった。
オレにとっては前世を含め、初めての持ち家となったのである。