第143話 住居探し
「はあ?お前ら付き合ってるのかよ!」
不動産屋への道中、トマスとフィオーラが恋人関係にあると聞かされた。
レイヴィンのカップルへの嫌悪感はこの二人が原因なのではないだろうか。
「……まあな。昔から色々とフィーリングが合っていたんだが、パーティとして活動してたら……まあ、流れでな。」
確かに傍目に見ててもお似合いのカップルである。フィーリングが合うというのも頷ける事である。
「でも三人での活動でそれはレイヴィンにはキツイだろ?」
「それもあって新たなメンバーを三名入れたんだ。でもな……」
まあ、そんな状況なら新メンバーを入れるだろう。危うくケントをそんな状況にしようとしていたんだな。メイが来てくれた事に感謝しかない。
「今ブロンズランク試験を受けてるメンバーに女の子が一人いるんだが、レイヴィンはその子にも言い寄って振られている。どうにもこの非モテだけはどうする事も出来ないようだな。」
レイヴィンはイケメンでありながら全くモテる事のない特異体質の持ち主だった。
そして現在まで振られ続ける事22回。この記録はまだまだ序章であり、今後レイヴィンは連続振られ回数の世界記録を大幅に更新し、今後数百年に渡りその名を残す事になるのだが、それはまた別の話だ。
どういう訳かレイヴィンらパーティのプライベートな部分を聞かされながら不動産屋に向かう。
出会ったばかりなのにそんな話をするとは、地元の奴らには言えずに結構溜まってたんだろうな。
「ここだよ。去年俺達も世話になったんだ。凄く親身になって物件を選んでくれるから新人にも勧めてるんだ。」
レイヴィンを先頭にその店舗へ入っていく。
中はありふれた事務的な部屋になっている。接客をメインにやってるだけあって、椅子とテーブルは一定数用意されていた。
「いらっしゃ……なんだレイヴィンじゃない。どうしたの?またお客さん紹介してくれるの?」
「やあ、メリア。その通りなんだけど、今回は新人しゃなく俺達と同等のランクのパーティだよ。但し短期物件希望なんだけどね。」
「ふーん。旅の冒険者ってトコかな?初めまして。私はメリア。聴いてるかも知れないけど、家の紹介業を営んでいるわ。とりあえずそっちに座って。」
茶髪を三つ編みにし、黒縁眼鏡をした地味そうな女性だが、よく見ると整った顔立ちをしている。少し弄ればとてつもない美女になりそうだ。
この時トマスがこっそり耳打ちしてくれた事だが、レイヴィンはメリアにも告って振られていたらしい。
「部屋の間取りと予算、あとは住みたい期間を教えてもらえる?」
「そうだな。五人パーティなんだ。個室が五つあって馬車を置けるだけの敷地がほしいな。それを踏まえた物件の相場が知りたい。それと期間は未定だ。最低1ヶ月としか言えないな。」
「予算は?」
「特に決めていない。だから先ずは相場を知りたい。」
金はまだ数億はある。余裕はあるが無駄にはしたくない。だからこそ相場から知っておきたかった。
「そうね。場所にもよるけど、ギルドから徒歩圏内で五部屋だと……一月28万Gくらいかな?結構するわよ。」
「28万か……分かった。じゃあ月35万までで住み心地がいい物件を見せてくれ。」
「え?35万?……え、ええ。分かったわ。少し待ってもらえる?」
メリアは奥へ行き書類の山を漁り始めた。
「ちょ、レイジ?大丈夫かい?35万なんて相当頑張らないと払って行けないよ?」
冒険者はなんだかんだで金が掛かる。
ブロンズランク冒険者の平均年収は約300万である。その内飲食代で100万以上消費している。
装備の手入れに150万以上掛かり、ポーションなどの消費アイテムも必要だ。
そうすると、家賃として使える金は月々1万Gもない。
これが冒険者の現状である。
実際オレ達の装備は全員分で数億掛かってるのだ。
まあ、それを払えるなら年間150万Gくらいなんともないのだが、一般的な同ランク冒険者ではそうはいかなかった。
「あー、金には困ってないからな。だからといって無駄には払いたくないから35万Gに抑えておいたけど。」
ロードプルフでの2ヶ月の生活ではエイルが払ってくれていたのだろう。若しくはどこかで家賃分を差し引いたかだ。何せ払っていなかったのである。
「……君って実は相当大物だったりする?普通の冒険者はゴールドランクになるまでは相当お金に困ってるはずだよ?」
「別に……普通のブロンズランクパーティだよな?」
メンバーに同意を求めるが、皆一斉に顔を逸らした。
「あれ?」
「やっぱり普通じゃないんだ……それ以上は聞かないよ。何か怖いからね。」
うん、聞かないでくれた方が助かる。実際に神によってこの世界に連れてこられた訳だし、その際にユニークスキルも貰っている。ユニークスキルでもないのに、アイテムボックスは容量無制限(今のところ限界が分からないだけ)だし、他の人にはない鑑定スキルまで持っているのだ。普通なわけがない。
「お待たせ~。見つかったのはこの三件ね。一つ目がこちらで、月32万Gの物件。ごく普通のありふれた物件よ。特徴がない分住みやすさは一番だと思うわ。空いてる理由は、その値段ね。普通の癖に相場以上の値段だから誰も入りたがらないのよ。
二軒目が此処ね。部屋は六部屋、珍しくお風呂も付いてるわ。でも日当たりは最悪。家賃は30万Gなんだけど、一番のウィークポイントはこの物件が娼館に挟まれてるって事なの。そんな訳で売れ残り物件ね。
最後がこの物件。私的には一応オススメかな?間取りは個室五部屋に共同スペース。お風呂は無いけど地下室に排水設備があるので、水さえ引けば体を洗う事は出来るわ。庭付きなので思ってる以上に広く使えると思うわ。家賃は40万G。」
どれをとってもイマイチ決め手に欠ける物件だ。最後の物件にしてエイルのように風呂を作ってしまおうか。
しかし水を引く為の作業がよく分からない。それは専門業に頼むしかないのか。
「これより広い物件は一応あるけど、30部屋あったり元々盗賊が使っていたりと問題がある物件ばかりなのよ。時期が悪かったわね。」
時期が合えばもっと色々な物件があったのか。運が悪かったな。
しかし現実はこの物件から選ばないといけない。どうしようかと皆の顔を見る。だが、やはりしっくりこないようで首を傾げ考え込んでいる。やはり難しい問題だ。
「因みにだけどね。さっきお金には困ってないって言ってたのが聞こえたんだけど、余裕は結構あるのかしら?」
「人並み以上にはあると思うぞ。だからこそ、それなりにいい物件に住みたかったんだ。」
「そうなのね……それなら……うん。この物件はどうかしら?」
見せられた物件は貴族が住むような大きい屋敷だ。10部屋あり風呂も完備。食堂とキッチンが並び食事はしやすい。地下倉庫もあり、馬車も二台置けて厩舎付き。
何とも最高の物件だ。値段がネックになり出せなかったのだろう。この際だから月100万Gでも此処の方がいいと思う。それくらい魅力的な物件だ。
「いいでしょ?でも此処は賃貸ではなく売り出してる物件なのよ。その価格は3億G。普通は払えないわよね。ただ、現在その金額があるならば、購入後数ヶ月で売りに出した際に2億8千万で売れるわ。つまりは2千万で数ヶ月住むという事ね。かなり高くつくのでオススメはしないわ。」
それは高い。金は払えるが厳しい事は厳しい。かなり悩まされる物件だ。
「ははっ、メリア。普通に考えて旅をしている冒険者が3億なんてお金を持ち歩いてるはずがないよ。それよりも3億なんて俺達もまだ稼げてないんだからね。」
普通はそうだろう。そんな大金を持って旅をして、盗賊に盗まれたら一巻の終わりだ。野営中も気が気でないだろう。普通はな。
「皆はどう思う?」
「私はその前の三件よりは此処の方がいいかな?お金は私も出すよ。」
「俺は何も言えねぇな。その金を俺は出せねぇ!」
「ウチもなのです。」
装備の金を出してやってる分、今のところ素材売却額はオレが貰ってるので皆は大した金を持っていない。元々持っていた金は微々たるものだ。
そしてこの時ふと思ったのが、装備に数億出すなら家に数億掛けてもいいのではないかという事だ。
どうせ王都を発つ際には売却をするのだ。ならば実質2千万である。
住居に金を掛ければ休日にはかなりゆっくり出来るだろうし、金の使い方としてはかなりいいと思う。
「そうか……悪いがこの物件を見せて貰えないか?一応購入に前向きということでな。」
宿生活ならまだしも、家を持つならいい物件がいいだろう。此処でケチったら異世界に来た意味がない。
贅沢出来るトコでしっかり贅沢しなきゃな。
「ほ、本気なの?本当にお金はあるの?見に行ってやっぱりお金がありませんでしたじゃ済まないわよ?」
「本気さ、ほら。」
鞄から小袋を出しメリアに見せる。中身はプラチナ貨でピッタリ300枚3億G入っている。
これはオレとミルファ二人でファスエッジダンジョンに行った時の素材売却分だ。実際この三倍はあったので別にしておいた金である。
実はロードウインズとしてファスエッジダンジョンに潜った際の金は底を尽きかけているのだ。まあ、これだけ使っていたら無くなるだろう。
なのでこの金に手を付ける事にしたのだ。
「プ、プラチナ貨……初めて見た……」
「冗談じゃないだろ?宜しく頼む。」