第142話 レイヴィン
食後、一度ケント達と合流し、今後どうするのかを話し合っていた。
「先ずは明日、メイはブロンズランク試験だろ。それで、オレ達が全員ランクアップを目指すなら、最低でも1ヶ月は王都に滞在する事になるよな。それなら宿生活じゃなくて家を借りてもいいんじゃないかと思うんだ。」
ギルドで聞いた話だと、住居は整えた方がいいという事だ。
確かに長期間滞在するならそれでもいいと思っている。
「それじゃあ明日私達は物件探しかな?」
「って思ってるんだけど、メイ抜きで決めちゃっても大丈夫か?」
「私は構わないわよ。ケントが私の意見を代弁してくれるだろうしね。」
「メイさん……俺にはそれは無理だと思うぞ。」
オレもそう思う。口にはしないけど……
「大丈夫よ。ミルファちゃんやルナちゃんもいる事だし、女の子の意見は十分あるでしょう。だったら安心できるもの。」
「うん。メイちゃんの分もしっかり選ぶのです。」
「お願いね、ルナちゃん。」
「それじゃあ今後は暫く王都で活動するという事で決まりだな。」
その後どうするかはギルドで周辺の狩場や依頼状況を見て決める事にした。
先ずは家探しである。その為には王都がどうなっているのかを知らなければいけない。
それも含め、不動産業者みたいな人を訪ねれば全ての情報を得られるだろう。
明日の行動方針は決まった。今日はこれで解散し、其々の部屋へと戻っていった。
そうなるとこの宿に泊まるのは今日だけかもしれない。
それならばこの部屋ならではの数々のものを試さないといけない気がするのだ。
「ちょっとこの入浴剤を使って風呂に入ってみようか。スゲー気になってたんだよな。」
ルナが見ていた入浴剤だ。オレの予想通りの代物ならばかなりエロい。是非とも使ってみたかったのだ。
「入浴剤って何なのです?」
「そっか。風呂に入る文化が希薄だったっけ?入浴剤は浴槽内に入れるものなんだ。その芳香を楽しんだり、疲労回復効果があったりもするな。」
「それは凄いのです。直ぐに試すのです。」
「でもこれは少し違うかもな。多分ヌルヌルを楽しむ為の物じゃないか?」
「ヌルヌル?どういう事?レイジさんが知ってるものとは効果が違うの?」
「そうだな……試した方が早くないか?お湯も溜まったし入ってみよう。」
論より証拠だ。入って効果を見るのが手っ取り早い。
三人で入るには少々手狭だが、何とか入れた。
そしてスライムゼリー入浴剤の効果は……大方オレの予想通りだった。
所謂ローションプールに入ってるようだったのだ。
そのヌルヌルで二人に触れるだけで気持ちいい。この場だけで相当ハッスルしたのは言うまでもない。
それから風呂を出てもオレの勢いは止まらない。
ハッスルし過ぎてイマイチ記憶が曖昧だが、朝起きるとスライムゼリーベッドはローション塗れで、その中で三人裸のまま眠っていたのだから。
食事中の一杯しか飲んでいなくても記憶が無くなるくらいハッスルする事があると、この時初めて知ったのだ。
◇
翌朝、そんな状態でもしっかり時間には起きる事が出来た。
メイと共にギルドまで行き、しっかりエールを送り見送る。オレ達にはそれくらいしか出来ないからな。
三人揃って浴室へ行き、ウォッシュでローション塗れの体をキレイにする。ルナは平然としていたが、ミルファはかなり恥ずかしそうにしていた。
朝食は出ないので早朝営業のパン屋で買ってみた。これが結構美味い。ロードプルフのパン屋より柔らかく仕上がっていて、ほんのり甘味のあるパンだ。ギルドから近いのでこれからも贔屓にするかもしれないな。
ギルドの入口前には既に20人程の冒険者が集まっていた。これは全てブロンズランク試験の受験者のようだ。
オレ達の時と規模が全然違う。気圧されてないかメイを見てみたが、口元に僅かな笑みを零していた。気持ちの面では問題ないだろう。
「じゃあメイさん、頑張ってきてくれよ。メイさんなら余裕かも知れないけどな。」
「そうなのです。メイちゃんなら余裕なのです。」
「メイさんなら全く問題ないと思うよ。気をつけてね。」
「オレ達のヒーラーは最強だって見せつけて来ればいい。いってらっしゃい。」
皆其々の思いをメイに伝えた。
「大丈夫。絶対受かってくるわ。行ってきます。」
メイが受験者の中へと入っていく。オレ達は少し離れた場所から出発まで見守っていた。
暫くすると説明が始まる。オレ達が受けてからまだ1ヶ月程なのに、随分と前の出来事のように感じる。
思えばパトリシオンを購入したのもあの時だった。それが原因で色々大変だったのも今となってはいい思い出だろう。
受験者達は各班に分かれ其々出発していく。メイのグループは男女二名ずつの四名で編成されたグループのようだ。てか、オレ達と一緒だな。
メイが出発するのを見送り、オレ達も行動を開始する。先ずはギルドで不動産業者を紹介してもらうか。
「ねえねえ君たち。もしかしてパーティの仲間がブロンズランク試験を受けたの?」
突然話しかけてきたのは、オレ達と同世代と思わしき中性的な顔立ちの男だ。真っ赤な長髪を後ろで結び、爽やかな笑顔の青年。佇まいからしてイケメンだ。
「……ああ、まあな。」
「おっと、警戒させてしまったかな?俺の名前はレイヴィン。これでも冒険者だから警戒しないでほしいな。」
レイヴィン……そうだ!確か同世代のシルバーランク冒険者の名前がレイヴィンだったはず。コイツが噂の注目株のようだ。
「お前がレイヴィン?そうか……あ、済まないな。オレはレイジ。旅の冒険者で昨日王都に来たばかりでお宅の事も少し噂で聞いただけなんだ。」
「ははっ、やっぱりそうだ。君がコングチャンピオンを倒したんだろ?昨夜の事が既にギルドでは噂になってるよ。俺と君、どっちが上なのかってね。」
その時一瞬だがオレに向かって殺気が込められた。警戒スキルが働いたのか、いち早くそれに気付きレイヴィンを睨みつける。
「……別にオレが倒した訳じゃない。オレ達で倒したんだ。そこは勘違いしないでくれ。」
一匹目はルナとケント。二匹目はミルファの援護があって倒せたのだ。別にオレ一人の力で倒した訳じゃない。
「……そうだよね。パーティで戦ってるんだ。仲間の事を思えばそう言うよね。それより、俺の殺気を軽く受け流すその胆力。やはり君は只者じゃない。興味が湧いたよ。」
所々癇に障る言い方をするが、どうも喧嘩を売ってる訳ではなさそうだ。
純粋に興味だけで近付いてきたって事か。
「ところでレイヴィンのパーティメンバーは?」
「三人は今ブロンズランク試験を受けてるよ。残りのメンバーはギルド内の何処かにいると思うんだけど……」
ブロンズランク試験に三人か。どうやらレイヴィン一人がとびきり抜けた実力を持ってるパーティのようだ。
実際レイヴィンの強さがどれほどのものなのか気なるトコだ。
「ふーん。まあいいや。じゃあオレ達はもう行くわ。暫く王都に滞在するから住居を探さなくちゃいけないんだわ。」
「ああ、だったらいい不動産屋を知ってるよ。案内してあげようか?」
「いいのか?」
「問題ないよ。待ってて、今ギルドからメンバー連れてくるから。」
レイヴィンは基本いい奴なのかも知れない。裏があるかも知れないので警戒はしておくが。
暫く待っているとレイヴィンはパーティメンバーを連れて戻ってきた。
「お待たせ。紹介するよ。コイツがトマスでそっちがフィオーラ。二人共俺の幼馴染で、元々は三人で活動してたんだよね。」
トマスは細マッチョ坊主イケメン。フィオーラも女性でありながらボディビルダーのような肉体をしたビキニアーマーを着た女性だ。レイヴィンとは幼馴染と言っていたから同世代なのだろう。とてもそうは見えない。
「トマスだ。アンタがコングチャンピオンを倒したんだって?しかもレイと同じシルバーランクとか……同世代でもなかなかの奴がいるんだな。」
「俺がフィオーラだ。これでも重騎士なんだぜ。覚えとけ。」
フィオーラはまさかの俺っ娘だった。なかなかキャラが濃い。
「初めまして。オレはレイジ。宜しくな。で、こいつらが……」
ケント、ミルファ、ルナと自己紹介をしていく。
そんな中顔を赤らめているレイヴィン。その視線はミルファに向いている。
「き……綺麗だ……レイジ!このミルファって娘と懇意にしたいんだけど、ダメかな?」
「……馬鹿か。オレの女に手を出そうってのか?」
「え……?レイジと付き合ってるの?……そんな~……」
「ウチもなのです。レイジくんの番なのです。」
「二人共?君は一体何なんだよ……ケントも大変だね。レイジのハーレムに付き合ってるなんて。」
「別に?今ブロンズランク試験を受けてるのが俺の女だしな。」
滅茶苦茶勝ち誇ったように言うケント。俺の女ってセリフを言ってみたかっただけだろう。
「……このパーティは敵だね。トマス、殺っちゃおうよ。」
「そんなんで不貞腐れてないで早く行くぞ。悪いな、コイツ見てくれはいいのにモテないんだわ。お陰でカップルを見るといつもこうなる訳だ。メンドくさい。」
トマスとフィオーラで何とかレイヴィンを宥め、目的の不動産屋へ向け歩き出した。