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第140話 入都

 無事……ではないが、何とかコングチャンピオンを倒したオレはその場に座り込んだ。

 ケントもルナもダメージは大きかったようだが既に回復して貰い問題はない。

 だが、不意打ちとはいえ、一撃で戦線離脱してしまった事を恥じているようだ。まあ今回は運が悪かったと思って引きずらない事が一番かもしれない。

 あのコングチャンピオンの攻撃はそれだけ威力があったのだから。


「ミルファ、あの一撃には助かったわ。ありがとう。」


「役に立って良かった……あの攻防の中タイミングが難しかったから。」


 ルナの回復を一瞬で済ませ、そのタイミングをずっと伺っていたらしい。だが攻防の移り変わりが激しく、なかなかタイミングを掴めずにいたようだ。

 ケントは回復後も気絶していたらしく、気が付いたのはコングチャンピオンが倒される寸前だったとか。あの状態なら背後をとらない限りは横槍は邪魔だった可能性もあるので却って良かった。


 コングチャンピオンの強さは、湖畔のダンジョン65階層より遥かに強かった。

 そう考えるとゴールドランクを呼ばないと無理だという判断は正しかったようだ。

 まあ。結局はブロンズランクパーティであるオレ達が倒したのだが。


 二匹目のコングチャンピオンもアイテムボックスに収納し、今度こそ本当に馬車に乗り込む。

 そして発車しようとした時、辺りは歓声に包まれた。


「スゲー冒険者がきたもんだなー。」「これでやっと先へ進める。ありがとー!」


 両岸を合わせると50人以上の人が一斉にオレ達を称えだした。

 足止めを食らっていたこのファスエッジ大橋を漸く通れるようになったんだ。そうなるのも仕方ない。

 まあ、オレも賞賛を浴びるのは嫌いじゃないし、これはこれで気持ちいいもんだ。だがこれも度を過ぎると面倒事に発展する事を知っている。なので早めにこの場を離れたほうがいいだろう。


「うっし、行け、パトリシオン!」


 手綱で合図を出しパトリシオンが走り出す。後方よりオレ達を呼び止める声がするが、確実に面倒事に巻き込まれる予感しかしないので無視を決め込む。

 前方から来る行商や旅の者もすれ違いざまにお礼を言ってくる。これを笑顔で流しながら、王都へ向け歩みを進めていく。

 そして半日後、陽もすっかり傾きかけた頃、漸く王都正門前に到着した。


「ん?ファスエッジ大橋が通れなくて引き返してきたか?明日にはゴールドランク冒険者と第二騎士団が派遣される手筈になっているぞ。明日行けば通れるだろうさ。」


「ああ、その魔物は討伐してきたぞ。直に足止めされてた連中が一斉に来るから手続きが大変かもな。」


 そう。あそこで待たされていた30名程の人々がこの後来るはずだ。オレもそいつらに捕まって面倒に巻き込まれる前に手続きを済ませておきたい。


「倒したって……お前らが?嘘つくなよ。お前らみたいなガキどもに倒せるようならゴールドランクや、まして騎士団が呼ばれるような事態にはなってないはずだ。」


「うーん……まあいいや。とりあえず入れるか?ほら、冒険者カード。」


「ああ……それは問題ない……え?シルバーランク?お前が?」


「問題あるか?」


「……いや……済まない。その若さでシルバーランクだなんてのは一人しか知らないからな。珍しくて驚いてしまったんだ。気を悪くしないでくれ。」


 まあ、その反応も既に慣れっこだ。だがそれより気になる発言があったな。


「王都には同世代のシルバーランクがいるのか。会ってみたいな。」


「はっはっはっ。アイツはスゲーぞ。近いうちにゴールドランクになれるんじゃないかってもっぱらの噂だしなぁ。」


「へー。そいつはスゲーわ。」


「そいつの名前はレイヴィン。次代の英雄って言えば王都の人間なら誰でも分かるさ。」


 レイヴィンか……王都にいる間には会っておきたい人物だ。


「ププッ……レイヴィンとレイジ……さてどんな顔合わせになんだろうな。」


 何故か笑いのツボに入ったらしく一人笑いを堪える男がいた。

 よく分からないが、ムカつくので後で殴っておこう。


「よし!手続きはこれで完了だ。王都へようこそ!楽しんでいってくれ。」


 手続きが終わり王都の中へと進みだした。


「あ……ちょ……なんだあの馬車の軍団は!」


 どうやら他の連中も追いついたようだ。見つかる前に離れるとしよう。


 王都正門からメインストリートを進んでいく。

 流石は王都だ。大きい建物がズラリと並んでいる。今走ってる道も歩道と車道に区分けされていて事故防止対策もなされている。流石に信号は無いようだが。


「おい!此処が冒険者ギルドだぜ。折角見つけたんだ。寄ってこうぜ。」


 いきなり冒険者ギルドがあった。素材の持ち込みなどを考えたら門の近くにあるのが当たり前かもしれない。ロードプルフのように離れている方が珍しいのかもな。

 ギルド横には馬車専用の駐車場のようなスペースもある。此処に馬車を止め、ギルドへ入っていく。


 入った瞬間その熱気に身震いした。

 時間も遅い為か、そこでは冒険者達による晩餐が始まっていた。肉を中心とした料理に樽ジョッキで運ばれてくるエール。それらは他の街とは然程変わらないが、問題はそこにいる人数だ。

 今此処にいる人数だけでロードプルフで活動している冒険者と同等の人数なのである。

 此処で食事をしていなかったり、野営中の冒険者も数多くいるだろう。それらを含めると、この倍の人数は居ることになる。とんでもない人数だ。


 カウンターには一際混み合っている場所がある。そこが依頼達成報告の受付なのだろう。冒険者のやる気を駆り立てる目的なのだろうか、かなり美人のエルフが受付をしている。

 オレ達の正面にも受付がある。多分総合案内だろう。先ずはそこで話を聞く事にする。


「ちは。今さっき初めて王都に来たんだけど、此処での冒険者としての仕事ってどんな感じか分かってないんだ。教えてもらえるか。」


「はい。ファスエッジ冒険者ギルドへようこそ!……って、今さっき来たって言いました?もしかしてファスエッジ大橋を通ってですか?」


「ああ。ロードプルフからライトレイク経由で来たんだ。」


「って事は……え?コングチャンピオンはどうしたんですか!」


「倒した。」


「……しょ、少々お待ち頂けますか……」


 受付のお姉さんは大急ぎで何処かへ行ってしまった。

 話してしまえば面倒事になるが、コングチャンピオンを素材として売るのだから結局バレてしまう。それならさっさとバラしてしまった方が早いと思ったのだ。

 そして待つ事5分。受付のお姉さんが髭のおっさんを引き連れて戻ってきた。


「はあ、はあ……お待たせしました。此方このファスエッジ王国冒険者ギルド本部の本部長、ジョイスです。本部長、この方々がコングチャンピオンを倒したという冒険者です。」


「初めまして。私が本部長のジョイスです。以後お見知りおきを。早速だけど、コングチャンピオンを倒したというのは本当かな?」


「ああ。あの橋で足止めされていた冒険者がいたならそろそろ此処に来る頃だと思うぞ。そいつが証言してくれるだろうさ。」


 その時、ギルドの入口から勢いよく入ってきた一団がいた。


「やっと帰って来れたぜー!受付はまだやってるか?ファスエッジ大橋が封鎖されちまっててよ、足止め食らっちまっていたんだが、えらく若い兄ちゃんが問題を解決したらしくて漸く帰ってこれたってもんだ。がーはっはっはっ!」


 ファスエッジ大橋で足止めされていた冒険者みたいだが、あの口ぶりから察するに、オレ達の顔は見ていないようだ。これでは証言は難しいだろう。


「あの方々は君達を見てはいないようだね。だが、えらく若い兄ちゃんという部分は君達を表してるとも言える。コングチャンピオンの部位を剥ぎ取ってはいないのかな?あればそれが証拠になるんだけど……」


 部位どころか全身を持ってきている。だがこの目立つ場所で出したくはない。


「あるけど此処ではちょっと……あまり人がいない場所でなら出せるぞ。」


「……そういう事か。分かりました。付いてきてください。」


 流石は本部長。あれだけで此方の意図を察してくれたようだ。

 向かったのはギルド裏にある解体倉庫だった。何処のギルドでもやはりこの場所に連れてこられるようだ。


「ここならば職員以外にマジックバッグの存在を知られる事はありません。では出して下さい。」


 少々勘違いをされているようだが、訂正せずそのままアイテムボックスから二体のコングチャンピオンを取り出しその場に並べた。


 周辺にいた職員は「おぉーーーー」と声を上げていたが、本部長だけは不思議そうな顔をしたまま黙っていた。


「コイツがコングチャンピオンだな。……本部長?」


「……あ、はい。すみません。少しいいですか?今……何処から出しましたか?」


「……ええと、やはり勘違いしてたんだな。オレはマジックバッグではなくアイテムボックスという……何ていうのかな?虚空倉庫みたいな場所に保管出来るんだ。だからこそ人目は避けたかったから此方に連れてきてもらって助かったよ。」


「虚空倉庫……何ですかそれは?スキルですか?でも聞いたことないですね。まさかユニークスキル?そう考えたら辻褄が合いますね。いや、それでも……」


 本部長の興奮が収まらない。此方が反応しなくても延々と喋り続けている。

 どうやら興味の対象物を目の前にした際には、見境が無くなるタイプのようだ。

 そして数分後……


「いやー、申し訳ない。私とあろうものがつい……それで……そう、コングチャンピオンでしたね。確かに確認しました。

 それで、すみません。ギルドカードを拝見させて頂いてもよろしいですか?」


 ギルドでギルドカードの提示は当たり前だ。一切問題ない。


「ほう。シルバーランク……しかもまだ若い。レイヴィン君と同じ年齢とは……いやいや、同じ時代に二人の天才が現れる何て事があるんですねぇ。」


 此処でもレイヴィンの名前が出てきた。本当に凄い人物なんだろう。


「はい。ありがとうございます。聞いた話ですと、このコングチャンピオンには何人ものシルバーランクが犠牲になってたようです。それを君達は討伐した。その意味が分かりますか?」


 さっぱり分からない。


「ふっふっふっ……どうでしょう?少し先ですが、ゴールドランク試験を受けてみませんか?」

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