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第139話 コングチャンピオン

 前方の人々に道を開けて貰い、ファスエッジ大橋へと進んでいく。

 川幅50メートル以上にもなるこのセージ川に掛かるファスエッジ大橋は、その長さが300メートルにも及ぶ。

 雨季の増水時を見越して街道周辺は盛土され、大橋は高い位置に架けられている。その為氾濫が起きてもこの橋は崩落した事がない。

 因みに大雨で氾濫を起こした際の川幅は最大200メートルを記録し、そのときはこの大橋も結構危なかったとか……


 そんなファスエッジ大橋に足を踏み入れ、その安定性に驚いた。一切揺れがないのだ。

 支柱がしっかりしているという事だろう。重機などが存在しないこの世界に於いて、これほどの橋を作り上げるのにどれほどの時間と労力を費やしたのだろうか。素晴らしい作りだ。


 橋を進んでいくと、川の中心に当たる場所にコングチャンピオンが陣取っていた。

 その姿は限りなくゴリラに近く、だが立ち振る舞いは人の様であった。


「コイツがコングチャンピオン……なるほど……納得だわ。」


 姿が見えてからはずっと此方を見据えている。だが襲って来る気配はない。此方の出方を伺っているのだろうか。

 その距離30メートル程で馬車を止め、オレ達は歩いて近づく。

 今回は俺も前衛に加わり、ルナとケントへの攻撃を極力避けさせるつもりだ。

 寧ろ二人もサポートに専念してもらい、基本オレが相手するつもりでいく。

 多分それが一番被害を抑える方法だろう。ジョブの多さはそのまま体力の多さを表す。ワイバーンの時のような致命傷を避ければ、オレなら滅多な事では倒れはしない。後は手数で押し切る。


 武器に手を掛けるとコングチャンピオンは警戒態勢をとる。そしてその武器を構えた瞬間、一気に飛び出してきた。

 だがオレは先制攻撃を譲るつもりはない。オレも走り出し鋁爪剣を突き出した。

 コングチャンピオンの右拳にオレの鋁爪剣が突き刺さったかに見えた。だが激しい金属音と共に鋁爪剣は弾かれる。

 見ると、コングチャンピオンの拳には金属で出来たナックルガードが装着されていた。まさに攻防一体の拳という訳だ。


「ルナ!ケント!いつも通り左右へ展開しろ。隙があればドンドン打ち込んでいけ。」


 オレの指示通りルナとケントは其々左右へと分かれる。

 その間オレも次々と攻撃を繰り出していく。だが一撃たりともまともに当たってる手応えがない。

 よく見るとナックルガードは右手だけで、左腕にはアームガードが装備されている。これは間違いなく防御用だろう。

 其々片手だけという事は、コテコテに装備するのを嫌い、最低限必要分だけを装備しているようだ。

 見た目は悪いが実に合理的。魔物だからこそ出来ることなのかもしれない。


 コングチャンピオンもただ受け身でいる訳ではない。

 オレが剣を振り切った直後には必ず右拳が飛んでくる。大体が大振りなのでガードは容易い。タイミング的にオレのバランスが悪い瞬間を狙ってくるので、避けるには難しいのだ。


 コングチャンピオンが拳を振るって、オレがガードした瞬間、ルナとケントの一撃が飛んでくる。

 相手の左にはルナが仕掛けるも、これはアームガードで防がれる。逆にケントは無防備になっている右半身にチャージ攻撃が繰り出され、コングチャンピオンの右肩から激し鮮血が舞う。


「グオオオォォォーーーッ」


 この橋に来て初めて喰らうであろうダメージにコングチャンピオンの顔が苦痛に歪む。

 オレもこのチャンスは逃さない。この隙に魔法剣炎を掛け、真っ赤に染まった鋁爪剣を力一杯振り下ろす。

 ガードしたものの、左腕のアームガードは真っ二つに焼切れる。だが左腕は無事なようだ。これはあのアームガードの性能を褒めるべきか。


 これに怒ったコングチャンピオンは右肩から血をまき散らしながらも右拳を突き出してくる。だがそれも先程までのような威力がない。これをミスリルシールドで楽々受け止めると、左右からルナとケントの攻撃が仕掛けられた。

 先程のケントの攻撃が相当効いているようで意識が完全にケントに向いていて、ルナが無視される形になった。

 これにルナは腹を立てたようだ。怒りのままに脳天目掛けフルスイングでミスリルメイスを振り下ろす。


「ウチを無視するなです!」


 メキメキッと頭蓋骨が砕かれる音が聞こえ、その動きが停止する。その為ケントの攻撃を防ぐ素振りを見せながらも全く反応する事なく喉を突かれ、項垂れるように倒れていく。


「……コイツって言う程じゃなくね?」


 止めを刺したケントがどことなく物足りなさを感じたようだ。

 だが確かにゴールドランクを呼ぶ程の脅威は感じなかった。こんなのに他のシルバーランクは負けたのだろうか。少し拍子抜けだ。


「おかしいな。でも考えても仕方ない。これで通れるようになったし、先へ進もうか。」


 そう、これでこのファスエッジ大橋の通行は可能となった訳だ。

 先ずはコングチャンピオンをアイテムボックスに収納してしまう。

 そして馬車に戻ろうとした時に異変に気が付いた。

 周囲にいる人々がやけに静か過ぎるのだ。足止めをしていた魔物が倒れ、通行可能になったにも関わらずだ。これは少し様子がおかしい。何かある……

 そう思い周囲を見渡す。

 その時、橋の下から何かが飛び出し後ろを向いているケントに襲いかかった。


「ケント、後ろだ!」


 ケントが振り向いた瞬間、その飛び出してきた何かの拳がケントの顔面を捉える。ケントは吹き飛ばされ、橋の側面に叩きつけられた。

 見てみるとその相手はもう一匹のコングチャンピオンだった。


「一匹じゃなかったのか……」


 メイがケントに駆け寄りミドルヒールを掛けている。一先ず安心した。


「コイツ……これでも喰らうのです。」


 ルナが先程と同様に大きく振りかぶって脳天目掛けてミスリルメイスを振り下ろす。

 だが不意打ちにもなっていない馬鹿正直な攻撃は片手で止められてしまう。

 そしてコングチャンピオンはルナをみてニヤリと笑みを浮かべた。


「ヤベェ。ルナ!武器を捨てて逃げろ!」


 オレのそんな声は届く間もなく、ルナの鳩尾に強烈な一撃が入る。


「か……はっ……」


 不意の一撃にルナは一瞬呼吸不全に陥るも直ぐに回復。涎を垂らしながらもコングチャンピオンを睨みつける。

 そんなルナの顔面に横から拳が飛んでくる。頬を殴られ吹き飛ばされると、ルナは意識を失ったのか動かなくなった。


「ミルファ!ルナを頼む。」


 ミルファに声を掛けるのと同時に再び魔法剣炎を発動させる。

 その魔力を感知したかのように、コングチャンピオンはこちらに向かって猛ダッシュしてきた。

 異常な程のそのスピードにオレは構えるのに精一杯で体勢不十分だ。

 繰り出されるコングチャンピオンの右ストレート。避ける事の出来ない体勢、盾でのガードは体ごと吹き飛ばされてしまうだろう。それならば……


 左腕の盾で受けるフリをしながら腕を斬りつける。

 だが整っていない体勢で攻撃しても踏ん張りが利かず、体表を僅かに切っただけでその勢いは止められない。

 盾で受けた為ダメージは少ないが数メートル吹き飛ばされてしまった。


「くっ……馬鹿力クソ野郎だな。腕が痺れてるし……」


 倒れずに踏ん張ったが左腕のダメージは多少なりともある。

 右手に剣を持つオレにとって左腕は魔法を放つ際に使われる。この状態だと暫く魔法は放てないだろう。なにげにピンチだ。

 しかも魔法剣炎でも体表しか切れないその皮膚にも驚きだ。

 それでもまともに当たれば致命傷を与える事は出来るはず。今度は此方から攻めこむ番だ。


 オレは走り出しその間合いを詰めて一気に斬りかかろうとする。だがコングチャンピオンも間合いを詰めてきてまともに剣を振らせてもらえない。

 魔法剣炎の掛けられた鋁爪剣をアームガードで防いでいる。

 どうやら勢いがついていないと今までのようにスパッと斬ることは出来ないようだ。


 そのまま押し込んでこようとするコングチャンピオン。再度剣を振ろうとした瞬間、アームガードで攻撃してくるだろう。その為下手に攻撃に転じる事も出来ずにいる。

 一瞬でも隙が出来ればいいのだが……


 こんな時にオレを助けてくれるのはいつも決まっている。

 火属性が付与された矢がコングチャンピオンの左目に突き刺さる。


「ナイスだミルファ!」


 コングチャンピオンが仰け反った一瞬でその腹を斬りつけると、そこから四連続で斬撃を繰り出す。


「ギュアオオオォォォーー」


 初めてまともなダメージを与える事に成功すると、漸く痺れのとれた左手からサンダーショットを放つ。

 ゼロ距離から直接心臓に放たれる電撃に、コングチャンピオンは痙攣を起こしたかのように身体をビクビクさせながら後ろに倒れ込んだ。


「ふー……確かにコイツは強いわ。でも、オレたちの方が強かったな。」

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― 新着の感想 ―
[一言] コイツら皆んな敵か?普通は2匹いるなら、前もって情報を教えてくれるよね(ー ー;)負けて欲しかったんじゃなかろーか…
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