side story ロードウインズ(4)
11階層で数回戦い、ここではブロンズランクが一人でもいれば問題ないくらいだと判明したところで、転送陣を使いダンジョンを出た。
転送陣からの帰還ポイントは入口の真裏だった。
「あ!お帰りなさい。帰りの転送ポイントは此方だったんですね。」
警備をしていた冒険者が近くにいて、俺達を出迎える形になった。
「ギルド長に報告してきます。皆さんはゆっくり来てもらって結構ですから。」
警備をしていた冒険者は走ってその場を離れていく。
「忙しい奴だな。んじゃ、お言葉に甘えてゆっくり行くか。」
俺達が表に出ただけで大騒ぎとなっていた。そりゃそうだろう。唯一のダンジョンアタック者が帰還したんだ。これを皮切りに自分達もダンジョンに潜る事が出来るのだ。誰もが慌ただしくなるだろう。
「帰ったぞー。」
「早い帰還だな。とりあえず報告を聴こうか。」
10階層までに分かった事に加えて11階層の魔物情報を追加し、それらをギルド長に報告した。
すると、即座にアイアンランクの立ち入り禁止措置をとり、コモンランクにも制限を付けて一般冒険者のダンジョンアタックを解禁とした。
周辺にいた冒険者は待ってましたとばかりに雪崩込み、ダンジョン1階層は一時飽和状態となっていた。
俺達は半日以上ダンジョンに入っていたらしく、朝ダンジョンに入ったのにも関わらず、既に深夜になっていたらしい。
レイジのマップがないとこんなにも時間が掛かるんだと思い知らせれたようだ。
「ところでデインの叔父貴。ここからヒュバルツまでどれくらいなんだ?」
「あ?ああ、そうか。お前達はロードプルフからそのまま来たんだっけか。そりゃ分からんわな。」
此処に集まってる人間は皆ヒュバルツから来た奴らだ。知らないのがおかしいと思われたのだろう。
「歩いて大体二日ってとこか。案内に一人付けてやるぞ。報告も兼ねてな。おい!ピッピ!こいつらをヒュバルツまで案内して、ついでにギルドに現状説明してきてくれ。俺も直ぐ帰るからよ。」
「はーい。皆様、お疲れ様です。ご紹介に預かりましたピップスルトと申します。ギルドの皆さんからはピッピを呼ばれてます。宜しくお願いします。」
「コイツは新人ギルド職員だからよ。道中守ってやってくれ。どうせ出発は明日だろ?今日はゆっくり休んでくれ。」
これは道案内じゃなく護衛なのではないだろうか?
普通に依頼料取ってやろうか。まあ、しっかりしたやつだから問題ないか。
「おう。宜しくなピッピ。」
かなり遅い時間な為この日は休む事にし、明朝出発する事になった。
ピッピの道案内でヒュバルツへ向け進んでいく。
一度周辺の魔物は一掃している為、現れる魔物は極僅かだ。だが、その魔物が結構手強い。
とは言っても、此処まで来る道中に戦ってきた魔物と同レベルだ。今の俺達にとっては最早余裕を持って倒せる相手になっている。
「つかぬ事をお聞きしますが、エイルさん方はロードプルフからいらしたんですよね?ギルド長とはどのような関係でしょう?」
「ん?俺達の親父替わりの人の弟だな。だから……叔父みたいなモンだ。」
「あ、そうなんですか。だから叔父貴って呼んでるんですね。いやー、あのギルド長に叔父貴だなんて命知らずな冒険者だなーって思っていました。」
「あ、そういう意味ではコイツは命知らずで合ってると思うよ。」
「そうね。間違ってないわ。」
マリーとソニアは揃ってピッピの命知らずという言葉を肯定しだした。
俺はそんな事ないと声を大にして言いたいが、そうした瞬間、この二人に言葉攻めにされるだろう。
以前はマリー一人だったからいくらでも言い返していたが、相手が二人だとそうもいかない。やり返されるのがオチなので此処は黙っておく。俺も色々学習してるからな。そこら辺の状況判断力がかなり付いてきたようだ。
出てくる魔物を討伐しながらも、ピッピとの会話は途切れさせない。そんな状況にピッピも初めは顔を引きつらせながら相手をしていたが、何時しかそんな状況にも慣れてしまい、魔物が出てきても慌てる仕草すらしなくなっていた。
普通はそんな非常識な行動に疑問を持つのだが、ヒュバルツ冒険者ギルドのギルド長が似たような思考をしている為、ピッピはその事に疑問を抱く事はなかった。
ピッピがこの事をおかしいと気付くのはこれより1年後になるのだが、それはまた違う話である。
そして新規ダンジョンを発った翌日の夕刻、漸くヒュバルツの街に到着したのだ。
「此処がヒュバルツかー!でっけぇ街だな。」
実は俺達は誰一人としてヒュバルツには来た事がない。
始めて来た三大都市の一つの想像以上の大きさに度肝を抜かれていた。
「この街は邪人の森からの魔物を食い止める為に出来た街なので、鍛冶とかの産業が特に栄えてるんです。近くに鉱山もあるし、素材には困らないのも理由の一つですね。」
「へー、知らなかったな。ちゅーか邪人の森って?」
「先程までいた森ですよ?名前知らなかったんですか?」
「知らなかったわ。多分ロードプルフの奴は皆知らないと思うぞ。当たり前のように東の森って呼んでるからな。」
ロードプルフにある文献にも東の森と表記されている。
よくよく考えたら東の森なんておかしな名前が正式な名称な訳がない。ロードプルフから見て東ってだけで、ヒュバルツから見たら北西に位置するのだ。
あの名称は飽くまでロードプルフならではの呼称であり、正式には邪人の森というようだ。
「えーと、一旦このままギルドに向かってもいいですか?時間的にはもう遅いのですが、先に報告は済ませたいんです。その代わり皆さんの宿はギルドで責任を持って用意させて頂きます。」
「ああ、構わねぇよ。でもギルドで用意出来るのか?仮にも俺達はゴールドランクだぞ。安い部屋は勘弁して欲しいんだけど。」
「そこは安心してください。それも込みでの報酬と言われているので、いい宿をちゃんと紹介させて頂きますよ。」
まあ、ここでぞんざいな扱いをしてもギルド同士の対立にしかならない事は、デインの叔父貴も理解した上でこのような報酬にしたのだろう。
もし違う冒険者だったら扱いは悪かったと思う。そういう意味ではラッキーだったのかもしれない。
冒険者ギルドで報告を済ませ、俺達は結構な額の報酬を受け取る事になった。
更にはギルド御用達の宿のスペシャルルームへの宿泊も報酬にセットされていたようだ。なんとまあ、素晴らしい報酬なのだろうか。
「皆さんはこれからどうされるのですか?」
「そうだなー、どうせだから少しこの街で休養して、その後はあのダンジョンに少しチャレンジしてみるかもな。」
「そうですか。ではダンジョンに戻る際には当ギルドにお立ち寄りください。探索優先権を発行致しますので。」
それはいいな。あれだけの人がいたら邪魔だし、イライラもする。それを避ける事が出来るのは願ってもない事である。
とりあえずは休養だ。体力面より精神的疲労が溜まってるので、先ずはしっかり休もうと思う。
サイドストーリーを長々とやってしまっております。
あと一話ですのでご容赦をm(_ _)m