side story ロードウインズ(3)
次の日、俺達はこの新規ダンジョンへ入る為、ダンジョン入口前に集合した。
昨夜はギルドで用意した職員の就寝用テントでゆっくり休ませて貰い、肉体の疲労は回復する事が出来た。
とりあえず10階層という事で、配給された食事は二食分だ。これを持ち、いよいよダンジョンへ突入する事となった。
「では宜しく頼む。」
「ああ。俺達もあのスタンピードについて調べる事が出来るいいチャンスだ。任せておいてくれ。」
「兄貴には知らせの手紙を送っておいた。そちらについては心配する事は無いからな。」
「叔父貴……一々おっさんに知らせなくていいって。ガキじゃねぇんだから。」
「兄貴の中でお前達は何時まで経っても悪ガキのままだ。勿論俺の中でもな。」
そう言ってニヤリと笑みを浮かべるデインの叔父貴に思わずイラっとしてしまった。
だが、腕っ節ではとてもじゃないが敵いそうもない。幼き日に散々どつかれ、叔父貴に反抗出来ない様な身体になってしまっている。
それでもこの出会いのお陰で今回ダンジョンに潜る事が出来たのだから、感謝するべきだろう。
そんな思いからこの苛立ちを抑え、胸を張ってダンジョンへと突入する。
「ふーっ、まあいいさ。じゃあ行ってくるぜ。」
こうして俺達はこの新規ダンジョンへと足を踏み入れたのだった。
「アンタ、デインさんにガキ扱いされてよくキレなかったわね。」
「まあなー。俺も大人だしな。其の辺は弁えてるさ。」
口ではこう言ってはいるが、実の所叔父貴に逆らう事が出来ないだけなのだ。
あの人にはいいだけ痛い思いをさせられて来たからな。この苦手意識は一生消えないだろう。
ダンジョン内部はアゲトダンジョンのような洞窟作りのようだ。ただ、床は歩きやすいように平に均されている。
これを見るだけでダンジョンとして生きている事を証明している。
生きたダンジョンであるならば、無限に魔物は湧き出てくる。ならばそれはスタンピードにも繋がる事であった。
少し進むと最初の魔物が現れた。出てきたのはゴブリンリーダーが率いる4匹のゴブリンパーティだ。
勿論瞬殺だ。ゴブリンリーダーだろうと俺達にとっては只のゴブリンと何ら変わりはない。
そこから先もこの1階層でに出てくる魔物はそのクラスの魔物ばかりだった。
「1階層だけを見る限りでは最低コモンランクは必要ね。アイアンの子なら最初の魔物に殺されて終わりじゃないかしら。」
「だな。まあ、この先次第だけどな。2階層でいきなり強い魔物が現れたらコモンでも殺されるからな。」
ダンジョンによって出現する魔物の強さは区区だ。
この国には無いが、他国では1階層からドラゴンが出現するダンジョンもあると聞く。
そんなダンジョンであっても死なずに情報を持ち帰る為に、俺達が選ばれたのだろう。
ある意味これはゴールドランクの責務と言えるのかもしれない。
2階層へ降りても出現する魔物は大差なかった。
敢えて言うならゴブリンアーチャーが幾分か多く出現したくらいだろうか。瞬殺には違いないので差は感じられない。
そしてそれは3階層、4階層でも変わらなかった。
「ここまではゴブリンリーダーが率いるグループだけしか現れなかったな。」
「これって次の5階層がボスかもしれないわね。アゲトダンジョンと同じパターンに思えるから。」
アゲトダンジョンは4階層までメノウリザードだけしか出現せず、5階層がボスフロアでメノウグレートが現れる。
そのパターンならばこの次がボスフロアでゴブリンの上位種が現れるはずだ。
「お!階段だ。この先が5階層だな。」
階段を降って見えてきたのは大きい扉だ。これはボスフロアを表すものである。
「ボスだったわね。早速行きましょう。強くてもジェネラル程度でしょ。雑魚には変わりないわ。」
こうして俺達はボス部屋へ入っていった。
中で待ち構えていたのは、ソニアの予想通りゴブリンジェネラル率いるゴブリンソルジャー軍団だった。
問題はその数だ。実に30匹からなるゴブリンソルジャー軍団に対して、俺達は4人だ。マリーは支援なので戦うのは実質3人。
まあ、この後その人数はいきなり半分になる訳だが。
「ディル。多すぎるから減らして。」
「ああ。レインアロー。」
ディルが放った無数の矢がゴブリンソルジャーに降り注ぐと、半数程が息絶えていた。大体予想通りである。
ゴブリンソルジャーが怯んだ隙にソニアのスネークランページによって一気に薙ぎ倒していく。この技は威力は低いが、一定数の魔物を纏めて攻撃する事が出来るので、このような場面ではかなり有効だ。
この間もゴブリンジェネラルは余裕を持ってこの状況を眺めている。
その余裕が命取りだ。
「瞬影……」
俺の新技、高速で移動するだけの技であるが、相手とすれ違いざまに複数回斬りつければそれだけで技として成り立つだろう。
事実、この刹那にゴブリンジェネラルは体中から血を噴き出して倒れていった。
何匹か残っていたゴブリンソルジャーもこの間に討たれて倒れている。
矢が刺さっている事から、ディルがやったみたいだ。
「楽勝!」
「油断はダメよ。アンタがレイジくんによく言ってたセリフだよ。アンタがそんなんじゃレイジくんも困るわよ。」
あ、その通りだな。俺はレイジの手本で居続けなくてはならないんだ。
だからこそ、俺がレイジに言い続けたことは実践しなくてはならない。
「悪い。気を付けるわ。」
素直に謝り次のフロアへ。魔石はしっかり回収しておく。
6階層からは魔物が変わるようだ。
最初に出てきたのはアクアウルフ。レッサーウルフの一つ上位に位置する魔物で、名前から推測されるように水の力を有する。
個々の能力は低く、その能力はレッサーウルフと大差ない。だが、この個体が一度に5匹同時に襲いかかる。
「所詮は雑魚だよな。」
「こんなんじゃ強くなれないわね。早く先に進みましょう。」
俺達だと5匹を殲滅するのに10秒も要らない。息をするようにアクアウルフを討伐し、先へと進んでいく。
現在8階層を進んでいるが、ここまでに判明した事は、魔物は必ず複数で出現する事。
その魔物が一度に出現するのは3~6匹だという事。
4階層は基本同じ魔物が現れるという事。
ボス部屋は5の倍数の階層で出現する事。
大体これくらいだろうか。
ボスの種類については、この先の10階層のボスで大体判明するだろう。
ウルフ種の上位魔物だとは思うが、違う可能性もある。まだ断定するには時期尚早である。
そして9階層。同じようにアクアウルフが現れるが、問題なく倒していく。
そして10階層への階段に到着する。
ここまで希少種には遭遇していない。出てこないと判断するにも早すぎるので何とも言えない所だ。
勢いそのままにボス部屋の扉を開ける。
奥から姿を現したのは、ブルーウルフである。
ブルーウルフはレッドウルフの亜種でその強さはレッドウルフとほぼ同等。違いはその属性だけだと言われている。
俺達とまだ距離があるにも関わらず、水流による砲撃、アクアジェットを放ってくる。それも二本同時にだ。
前衛を担う俺とソニアは左右に分かれ、その攻撃を難なく躱していく。
「ディル!やっていいぞ。」
既に弓を構えていたディルがパワーショットを放つとブルーウルフの眉間に命中。一撃でブルーウルフは息絶えていた。
「あー、この素材はもったいねぇな。こうなるとレイジのありがたみがスゲェ分かるわ。」
「ホントね。その戦闘能力もだけど、ダンジョン探索に於いての便利な能力が、レイジくんの最大の特徴だったかもしれないわね。」
「でもこの先に転送陣があるなら持って帰れるか。ディル、持てるか?」
「ああ。だが、一応下見はするんだろう?その際援護は出来んからな。」
5階層に転送陣がなくても、大体のダンジョンの10階層には転送陣はある事が多い。
多分このダンジョンにもあるだろう。だが、次に入る連中の為に11階層の魔物情報は持ち帰った方がいいと思っている。
ブルーウルフを持たせているディルには申し訳ないが、少し我慢して貰いたい。
「じゃあディルの体力が尽きる前に行っちゃおうぜ。」
ボス部屋を出るとそこには転送陣が。これで帰る手段は確保した。
後は11階層を確認したら一旦戻ろう。