side story ロードウインズ(1)
レイジ達がこの街を去った翌日、俺達も家を引き払い修行の旅に出た。
ロードプルフを出る前にギルドへ顔を出し、おっさんに挨拶は済ませておいた。この街のゴールドランクが揃って街を離れるんだ。かなり迷惑を掛ける事になるからな。一応謝罪も含めてしっかりと挨拶をしたよ。
ソニアは最後の夜をブラッドローズではなく俺達と過ごしていた。パーティの方はルナの送別会と合同でやったから構わないとの事だ。
別に二夜続けてやってもいいと思うけどな。まあ、ブラッドローズのメンバーが尾を引かないようにとの配慮だってのは、マリーもディルも気付いてる事だからな。敢えて何も言わないでおいてやるのさ。
今回は武者修行という事で、東の森の魔物を討伐しながら向こう端まで突っ切ってみようと思う。
一応森の中心はゴールドランク推奨の魔の地帯と呼ばれる地域だ。そこを通過するだけでも本来命懸けのはずなのだ。
これを攻略出来れば俺達は今より遥かに強力な力を手に入れているはずだ。
東の森に入って二日間は強くてもオークレベルの魔物しか出てこなかったので問題なかった。
だが、三日目から状況は一変した。アイアンセンチピードが現れたのを皮切りに、火炎草やデビルプラントなどの強力な植物系魔物やマンティスソルジャーやアースビートルなどの昆虫系魔物、更にはパラサイトスネークという寄生型の蛇までもが現れる始末だ。
流石に逃げ出す事も視野に入れた。だが、ソニアもディルも一歩も引く事なく迎え撃っていた。
パウロとサフィアの仇であるオーディンを討つ為には、こんな奴らに苦戦してられないという意志の現れなのだろう。俺も負けてられない。素直にそう思った。
「まだまだよ。このレベルの魔物を瞬殺出来ないようじゃ、アイツに挑む事すら出来やしないわ。」
ソニアがかなり熱くなっている。そこまで気合い入れなくても戦っていれば自然と強くなれるって。
「エイル。アンタも少しはやる気出しなさいよ。そんなんじゃ次にレイジくんに会った時には抜かれちゃってるわよ。」
「分かってるよ。アイツの成長速度は異常だからな。師匠として抜かれないようにはするさ。」
そうだ。頭では分かっている。このままじゃ1ヶ月もせずにレイジの奴に抜かれてしまうだろう。
だがどうしてもそこまでのやる気が出ないんだよ。なんていうか、心に火を着ける為の油がないっていうか、やってやるぜ!……ってならないんだよな。
いや、原因は分かってる。レイジとミルファがいないからだ。単純に寂しいだけなんだ。替わりって訳じゃないけどその分ソニアがいるが、なんか違うんだよな。
今日も出てくる魔物は全て殲滅し、野営の準備に入る。
森の中でもかなり危険なエリアだが、マリーのホーリーフィールドを使えば大半の魔物は近づいて来ない。もしこの中に入ってこれる様な魔物ならば、抵抗しても俺達は殺されるだろう。
夕食を食べ終わった後、俺は早々に眠りに入った。一応見張りは2番目なので少しでも休む為、早めに寝る事にしたんだ。
しかし、なにか胸がつかえたような嫌な気持ちになり寝付けないでいた。そんな中、皆の話し声が聞こえてくる。
「エイルってばどうしちゃったの?やる気がないのは今に始まった事じゃないけど、やる事はやるはずなのに、今は上の空になってる時間もあるでしょう?」
「……単純に環境の変化に戸惑ってるんじゃないか?レイジとミルファがいなくなると同時にこうして修行の旅に出てるんだ。アイツは意外と繊細だからな。」
「繊細なのは確かね。でも理由はもっと単純じゃない?エイルは寂しいんだよ。レイジくんが来てからはホントに楽しそうにしてたからね。それがこんな形でいなくなって、心の整理が出来てないだけなのよ。
後はその事に関する罪悪感かしら。ああみえて責任感強いし……」
「ああー、ありそう。そういう意味では私もなんだけどね。ルナには申し訳ない気持ちしかないわ。」
「ルナちゃんは大丈夫でしょ?レイジくんにプロポーズしたっていうじゃない。ミルファちゃんとの関係が気になるわねー。」
「ふふっ、その事に関しては全く心配してないわ。あの坊やは凄くしっかりしてるもの。このパーティのリーダーと違ってね。」
なんか好き勝手言われてるな。的を得ているのはやはりマリーか。アイツには本当に隠し事は出来ないな。
ソニアの言ってる事も当たってる事もあるな。確かにレイジはしっかり者だ。今もメンバーを纏めてしっかりやってるのだと思う。
今回出発前にマッドネスサイスの奴らからあそこのメンバーだったケントという奴も付いていったのだと聞いた。そいつの彼女と共に。つまりレイジは今5人パーティでやってるのだろう。そのパーティを引っ張っていける器なのは間違いない。レイジはそれだけ凄い奴なんだ。
でも……でも俺はもう少しアイツと一緒にパーティを組んでいたかった。
「まあ、そんな頼りないリーダーだけど、いざという時はちゃんとやるヤツなのよ。ねえ、エイル!」
ん?いきなり呼ばれた?いや、俺は寝てると思ってるはずだ。そんな訳はない。
「起きて聞いてるんでしょ?いい加減全部吐き出してスッキリしたらどう?」
あ……やっぱりバレてるか。マリーには適わねえな。
「なんで分かるんだ?お前実は思考を読めるんじゃねぇのか?」
仕方ないので出て行く。どうせバレてるからな。
「そんな事はどうでもいいでしょ。今はアンタの事。このままズルズル引きずっていく気?」
「あー、マリーの言うとおりだな。寂しいんだよ!悪いか?こんちくしょう。」
「……なんだ。エイルもだったのか。」
え?予想外のトコから同意の声が聞こえた。
「ディル?お前もって?」
「……俺はあの二人の成長を見てるのが本当に楽しかった。教えた事は直ぐに覚えるし、日に日に強くなっていくのが分かる。見ていて清々しかったよ。」
「その気持ちは分かるわ。でも私は最後は怖かった。ミルファちゃんの成長スピードは異常で、抜かれるのは時間の問題だと思ったわ。」
「それは俺達も一緒だな。ちゅーか、多分俺はレイジに抜かれてたんじゃねぇか?」
「肉体の強さだけなら抜かれていただろうな。俺達の強みは経験と熟練されたスキルだ。その分で何とかなってたんだろう。」
今はソニアがいるから話せないが、レイジは5つのジョブを付け、そのステータスを全て反映させていた。
一つ一つの強さは普通のブロンズランクの能力だが、それが5つだと間違いなくゴールドランク以上の強さになるだろう。
「俺はさ。そんなレイジにもっとこう教えとけばとか、あそこでコレを教えておけばとか、そんな後悔しか出てこないんだよ。アイツはこんな俺を師匠と言ってくれたのによ。」
「だったら次に会った時にそれを全部伝えればいいじゃない。」
「は?いや、アイツはもう旅立ったから……」
そう、レイジはもう旅に出ていないんだ。だからもう教える事など出来はしない。
「私達だってこうやって修行の旅に出てるんだから何処かで会えるでしょ?」
……そうか。今後どこかの街で出会う事だってあるかも知れないんだよな。
だったらその時に失望されないように気合入れて強くなっておかなきゃやばいんじゃねぇか?
「そうだ……その通りだ、マリー!このまま進んでいけばヒュバルツに出るよな。そこからライトレイクに向かえばレイジ達がいるかもしれないよな。
うっしゃあ。何かやる気が出てきたわ。よし!じゃあ寝るわ。見張りの時間になったら起こしてくれ!」
そうだよ。お互いに旅をしてるなら何処かで出会う事だってあるんだ。その時に師匠として恥ずかしくないように、そして胸を張って再会出来るようにもっと鍛えておかなくちゃな。
まずはしっかり休んで明日からに備えなくちゃな。
「……単純な奴だ。」
「だよねー。」
「でも、あれがエイルでしょう?」
「まあ、これで復活したっぽいよね。明日からもっと厳しくなるかもだからちょうど良かったわ。」
「だな。明日本当の中心部を抜けることになる。何とかなる目処がついたな。」
「東の森の中心……何があるのかしらね。」