第135話 2回目の召喚契約
剣士像を倒した事で隠し部屋の出入り口は開いていた。
ここを通りボス部屋へ出る。オレ達がここにいる間はボス部屋の入口はしまったままだったようだ。待ってる冒険者がいたら悪い事をしたな。
ボス部屋を出て転送陣でダンジョンを後にする。帰還届けだけ出してギルドを出ていく。素材は今は止めておこう。セイレーンの元へ向かうのが先決だ。
清恋湖の湖畔でシームルグを呼び出す。水面浮遊具は二つしかないので、皆で行くにはシームルグしかないからな。
「あのな、レイジ。本来我は乗り物ではないのだぞ。しかも最近は五人も乗ろうとするのが当たり前になっておる。少しは遠慮しようとは思わんのか?」
「そうは言ってもセイレーンの依頼だったのはシームルグだって知ってるだろ?何があるか分からないから全員で行っておきたいんだ。」
「あ奴に限って変な企みはしないと思うがな。それよりも、依頼だった封印球の破壊はしてきたのか?」
「いや、どうするか迷ったんでとりあえず持ってきた。てか、シームルグは見てたりしてるんじゃないのか?」
「ダンジョンの中にいたらどうしているのか知ることが出来ないのだ。全てのダンジョンはダンジョンマスターの魔素で守られてるからな。」
そうなのか。てか、ダンジョンマスターなんてのは初めて聞いたな。だがそれよりも今はセイレーンの下にこの封印球を持っていく事が先決だ。
「そうなのか……まあ、とりあえず連れてってもらえないか?」
「仕方ないな。乗れ。」
五人全員でシームルグの背に乗る。やはり五人だときつそうだ。
これだと長距離移動ではお願いする事は不可能だな。その際には移動方法を考えなければいけないようだ。
「むう……いいか?行くぞ!」
オレ達五人を乗せシームルグは前回セイレーンと出会った地点へ向け飛び立つ。
乗ってる人数が多いのでスピードはかなり抑えている。それでも2キロ先の目的地まで僅か1分で到着した。
「セイレーン、いるか?約束の封印球は破壊せずに持ってきた。姿を見せてくれ。」
オレがそう言うと、前回同様辺りが霧で囲まれる。そして霧の中からセイレーンが姿を現した。
「今回は随分人間を引き連れて来たわね。……それで約束の物は?持ってきたんでしょ?」
セイレーンに促され封印球を見せる。
オレが出した封印球をセイレーンはまじまじと眺めている。心配しなくても偽物って事はありえない。一応鑑定で確認してるからな。
「……本物のようね。一応聞いていいかしら?どうしてこれを持ってくるという判断をしたの?私の依頼は封印球の破壊だったはずよ。」
「いや、だって言ってたでしょ?自分を戒める為に力を封じたって。だったら壊して開放するのをオレ達でするのも烏滸がましいんじゃないかって思ったんだ。」
セイレーンが自ら封じたのであれば、封印を解くのもセイレーン自らが行った方がいいだろう。少なくともオレはそう思ったんだ。
「だからほら。」
封印球をセイレーンに手渡す。
「壊すなら自分でやればいい。ただ、ライトレイクに被害が及ぶような事には気をつけて欲しい。それだけだ。」
「……ふふっ、シームルグが手を貸す理由が少しは分かったわ。」
直後セイレーンはその手に力を込め封印球を破壊した。
セイレーンの身体が青く光り出す。オレから見てもセイレーンの魔力が増幅していくのが分かる。これがセイレーンの本来の力なのだろう。
「これで私は本来の能力も使えるわ。レイジ、私と契約なさい。シームルグ同様、召喚に応じてあげるわ。」
セイレーンがオレと召喚契約を結ぶだと?それってとんでもない事なのではないだろうか。
「私の本来の力はサイレント。歌声で魔力を妨害し、一切の魔法を断絶させる事が出来るわ。船を沈める伝説なんかもあるようだけど、この力により方角を失った船が漂流する事から、そのような伝説になってるようね。」
まさか伝説の真相まで知る事が出来るとは……船乗りの話はオレも知っている。どうやらあっちの世界と同じような逸話があるようだ。
「我が魂をもってレイジを主とし、召喚に応じることをここに誓おう。契約。」
シームルグの時と同様の契約が行われ、セイレーンもオレの召喚に応じてくれる事になった。
「これで私もレイジの呼び掛けに応え、力になる事ができるわ。それと……これも渡しておくわね。」
セイレーンが渡してくれたのはフルートのような楽器だった。
一応見た感じだと何の変哲もない只のフルートに見える。
「そのフルートの音色を聴いた者は、10分間水中で呼吸をする事が出来るわ。但し、呼吸が出来るだけで泳げないと身動きはとれないし、深く潜っていくと水圧に負けてしまうからそれは気をつけるのよ。少し使い勝手は悪いけど、今後何かに使えるかもしれないでしょう?」
酸素ボンベなどのダイビングセットがないこの世界ではかなり役立つアイテムだと思う。いい物を戴くことが出来た。
「ありがとう。有効に使わせてもらうよ。」
「ふふっ、それと私は湖畔のダンジョンの100階層に復帰させて貰うわ。そこまで来れた際には手合わせ致しましょう。」
あのダンジョンの100階層?まだまだ行けそうにないな。その内行けるようになった際には胸を借りるつもりで頑張ろう。
「ありがとう。じゃあね。」
セイレーンはそのまま湖の中へと消えていった。
ひょんなことから思わぬ召喚契約がなされる事になったな。
しかし、お陰で戦力増強に繋がったのは間違いない。
特に対魔道士戦では無敵に等しい力を手に入れたのではないだろうか。
「よし、じゃあシームルグ。戻ってもらっていいか?」
「……やれやれ、我は働き損をした気分だな。」
「そう言わないでくれ。今度行った際にはもっと美味い料理を出してやるから。」
「そうか?うむ。極力早めに来い。なんならこの後来てもいいぞ?」
そんなに食物が欲しいのか。今は無理だけど、この国を出る前には一度行こうと思っている。
多分そこまで遠い未来の話ではないだろう。
「極力早めにな。ちゃんと待っててくれよ。」
「うむ。心得た。待ってるぞ。」
アブ爺さんの宿近くの湖畔に降ろしてもらい、シームルグを帰した。
かなり疲れたが、オレ達は65階層まで到達する事が出来たのだ。一応ブロンズランクパーティとなっているが、シルバーランクパーティの実力があると判断出来るフロアまで到達した事になる。
とりあえずタイミングが合えばメイはブロンズランク試験を受けてもいいだろう。ミルファ達三人もシルバーランク試験に受かると思うんだけどな。
ベロニカには及ばないが、ブリュードルくらいの実力はあると思う。問題は筆記試験だけだろう。怪しいのはケントだな。ちょっと受かる姿が想像できない。
まあ、それも次の街に着いてからだ。
今日は本当に疲れた。早くアブ爺さんの宿で休むとしよう。