第134話 封印球の守護剣士像
62階層でも61階層と同様の魔物が出てくる。
普通にオーガまで出てくるのには驚いた。
コイツは金になるのだろうか。スタンピードの時のオーガはゴールドランクの取り分となったので、金額を知らない。
オークほどの金額ではないのは間違いないと思うのだが。
他にもかなり巨大な犬のガルムが出てきた。コイツも強いが、直接攻撃主体の魔物の為、苦労する事は無かった。
最初に出てきたストーンビーストが異常に厄介だっただけらしい。そいつさえ気をつければ、余裕を持って進んでいく事が出来ている。
これは間違いなくオレ達は成長出来ているという事だろう。
63階層ではサーベルアントという身体全体が剣になっている蟻が現れた。この姿を見るからに、既に蟻ではないと思うのはオレだけだろうか。
この魔物も肉体が刀身になっているだけあって、なかなかの硬さを誇っていた。時間を掛けるのもアホくさいので、アイスボールで凍らせてからルナに砕いてもらう。思いの外簡単に倒せるようだ。
ここまでたまに魔法を使用しているが、自然回復だけで十分に回復は追いついている。
このペースでの戦闘なら70階層まででもいけそうな気がするな。
まあ、今回の目的は65階層の隠し部屋に行き、封印球を破壊する事だ。それが済んだら清恋湖に行かなければいけないので、ゆっくり探索もしてられないだろう。
64階層まで来た。ここを過ぎれば後は65階層のボスを倒すだけだ。
とは言っても、隠し部屋で何が起こるか分からないので、魔力はしっかり温存しておこうと思う。
それでもボス戦は全力で戦っても魔力に余裕がありそうだ。
まずはこのフロアをしっかり突破する事が大前提だが。
だが悪い事は起きるものだ。ここに来て希少種であるポイズンドラゴンが現れてしまう。
普段ならばドラゴン種は大歓迎だが、体力も魔力も温存したい今は非常に迷惑な存在だ。
「おお!ドラゴンだぜ!コイツはいい経験値と金になるんじゃねぇのか?」
「お金になるのです?だったら綺麗に倒すのです。価値を下げちゃダメなのです。」
アタッカーの二人は大歓迎といった感じか。だがポイズンドラゴンという名前からして毒持ちだろう。迂闊に近づいたら痛い目を見る事は間違いないと思う。
「多分毒持ちだ。むやみに近づいたらヤバイからな。」
メンバー全員に伝えると、ドラゴンに有効であるアイスニードルを放つ。
「ギャアオオオオォォォン!」
アイスニードルを受けたポイズンドラゴンは酷い叫び声を上げる。氷属性が弱点で間違いないようだ。
ミルファは水属性を付与した魔力矢を射っている。弱点ではないが有効ではあるいい攻撃だ。
ルナは毒を警戒してか距離をとりながら隙を伺っている。
ケントは正面から攻撃を仕掛け、反撃で毒状態になっているようだ。注意を促しても意味ないな。まあ、ケントのスピードだと隙を伺っての攻撃は無理かもしれない。ならばヘイトを稼ぐ意味でもそれで良かったのかもな。
アイスニードルで既に深手を負っていたポイズンドラゴンは、続く三人の波状攻撃で間もなく倒れた。
そしてそのまま65階層へと進んでいく。
漸く此処までたどり着いた。後はボスを倒すだけだ。
扉を開け、中へと入っていく。
それと同時にフレイムニードルを盛大に放つ。火属性で吸収されてもそれは仕方ない。再度違う魔法を放つだけだ。
それが命中しそこにいたであろう魔物は消えていく。どうやら悪魔系の魔物で、倒したら消滅するタイプだったようだ。
随分あっさり倒すことが出来たが、相性が良かったのだろうか。まあ、倒せたんだから深く考えるのは辞めよう。
「この部屋に隠し部屋への入口があるんだろう?皆で探そうか。」
床、壁、天井まで念入りに調べていく。
カチリ
「あ!あったのです。ボタンを押したのです。」
ルナがそう叫ぶと入口横に通路が出来上がった。
「ここが隠し部屋か。一応警戒しながら進もうか。」
誰も入ったことがないであろう通路だ。警戒するに越した事はない。
通路を進んでいくと、先に一際明るい部屋が見える。あそこが封印球がある部屋に違いない。
オレを先頭に、ミルファ、ルナ、メイ、ケントの順でその部屋へと入っていく。
正面に台座があり、それを守るように二体の剣士像が置かれている。台座の中央には虹色に輝く球体が浮いている。これが封印球だろう。
最後のケントが入ると同時に、通路に蓋をするように壁で入口が塞がれる。
「あん?なんだ?おい、レイジ!この部屋何かおかしいぞ!」
ケントが叫ぶ。それと同時に二体ある剣士像が動き出す。
「皆、戦闘準備!ミルファも支援を頼む!」
「ガード!」「スピード!」
メイとミルファが二人掛りで支援魔法を掛けていく。
「オレは左を受け持つ。ルナとケントで右のヤツをお願いできるか?」
「任せるのです。」「余裕だろ。」
二人共今ではその実力も申し分ないだろう。やる気も満ちている。充分任せられると思う。
オレは確実に一体仕留めてみせる。
「魔法剣風!ウインドニードル!」
石像であるなら風属性が弱点で間違いないだろう。鋁爪剣に風を纏わせてからウインドニードルを放つ。
小さい風の礫が剣士像を襲ってく。
剣士像はすかさず剣を構えひと振りすると、風の礫は一瞬にして消えていった。
「な……コイツは強いかも……セイレーンのヤツこんなのがいるなら言っとけよ!」
オレは走り出し、剣士像の懐に入り込む。メイのスピードが掛かってる為、一瞬にして到達すると右足を斬りつける。
剣士像はバランスを崩すが、そんな体勢のまま剣を振るう。
「くっ……マジかよ……」
オレはガードするも、その威力に吹き飛ばされてしまった。
そして再度剣士像に目を向けると、何事もなかったかのように悠然と歩き始め、こちらへ向かってきた。
強いな。ミルファに封印球の破壊を任せても、逃げる事が出来なくされている。やはり倒すしか道は無いようだ。
「今のオレなら使えるか……魔法剣嵐!」
暴風の力が鋁爪剣に宿り、鋁爪剣に螺旋の紋様が入った。
見た目の変化はそれだけだが、感じる魔力がとんでもなく大きい。多分魔法剣炎と同等かそれ以上。凄まじい力だ。
「ストームショット!」
ウインドショットを更に強力にした嵐が剣士像を襲う。その強烈な暴風に剣士像は身動きがとれず、抵抗するだけで精一杯になっている。
「これでどうだー!」
魔法剣嵐を纏った鋁爪剣でのメッタ斬りだ。一撃毎に2センチくらいずつ切れ目が入っていく。
「うおおおおおぉォォォォ!」
今までした事がないくらいに、とにかく斬りまくる。
ガコン
剣を持つ右腕がその場に落ちた。これで攻撃手段は奪った。後は倒すだけだ。
左手に魔力を集中させ、剣士像の腹部に叩き込む。
「ストームインパクト!」
暴風の力を凝縮させた玉は剣士像の腹部にめり込むと、その魔力を暴発させる。
体内で爆弾が爆発したかのように剣士像の上半身が消し飛んだ。
だがオレは喜ぶ間もなくもう一体を見据える。
そちらでは既にケントが倒れ、ルナが一人健闘していた。
「んなっ!ルナがヤベェ!」
休む事なくルナの救援に向かう。
既にミルファが援護をしているが、碌にダメージが通っていないようだ。
メイはケントにミドルヒールを掛けている。まだハイヒールは無理なようだ。
「ストームニードル!」
嵐を凝縮したような礫でもう一体の剣士像を攻撃する。礫が当たった箇所が崩れていくのが分かる。
そのお陰で剣士像の動きが鈍ってきたようだ。
「今だルナ!きっついのカマしてやれ!」
ルナは飛び上がるとその身体を縦に回転させる。
「喰らうのです!」
二回転した後、その勢いを利用してミスリルメイスで脳天を殴りつけた。
頭から顎までが削り取られるように落ちていく。だが剣士像は片膝を着くも、倒れずに尚も向かってくる。
「いい加減死んどけや!」
起き上がったケントがパルチザンを投げつけた。
一直線に飛んでいくパルチザンは剣士像の心臓部に刺さり込む。すると剣士像の身体は静かに砂になっていく。
どうやらコアとして使われていた魔石に傷をつけてたらしい。
これでこの部屋の驚異は無くなったはずだ。
オレ達は虹色に輝く封印球を見た。
さて、どうしたものか。
セイレーンからの依頼はこの封印球の破壊だ。だが果たしてここで破壊してもいいのだろうか。
「迷ってるならとりあえず持ち出しちゃえばいいんじゃない?」
考え込んでるオレにミルファはそう言った。
そうだよな。一旦セイレーンの元へ持っていき、再度確認した上で破壊してもいい訳だ。
「そうするか。じゃあ、これを持ってセイレーンの元へ向かうか。」