第129話 パワーレベリング
「今日も51階層でレベリングをしていいよな?」
昨夜皆のジョブを中級職に変更したので、ステータスは昨日までより落ちてるはずだ。
だからこそ一旦足を止め、鍛え直してから進まなければならない。
「それでいいと思うよ。私達皆レベルは低いからレイジさんに頼っちゃうと思うけど……」
昨夜部屋でミルファのオレに対する話し方を治すように猛特訓した。
そのお陰でこの通り、今までのような敬語ではなく普通に接してくれるようになったのだ。
「レイジ……ミルファが普通に接してくるようになったからって、顔がにやけ過ぎだわ。気持ちわるいぞ?」
「何を言うのです!レイジくんは気持ち悪くないのです。」
「そうだよ!レイジさんよりケントの方がキモいよ。」
ミルファよ。それは言い過ぎだ。
「まあまあ。私もレイジさんに賛成よ。51階層より先はただでさえレイジさんの魔法抜きでは厳しかったわ。私達はまだこの先へ進むレベルはないと自覚してるから。」
メイも同じように敬語は止めてくれた。
年の事には触れたくないが、仮にもメイは最年長だ。オレに敬語で話してるのも違和感だらけだったと思う。
「とりあえずハイマジックポーションを2つまでは使おうと思っている。それ以上は流石に勘弁して欲しいかな。」
「え?レイジさん、ハイマジックポーションを持ってるの?」
「ああ。一応な。でも秘密で頼むわ。」
「……分かったわ。」
何れは皆でファスエッジダンジョンへ行く事もあると思う。
その時にはこのハイマジックポーションの作成方法は分かる事だが、今はわざわざ伝えなくてもいいだろう。
「じゃあ行こうか。」
ギルドへ着くと昨日出した素材の代金を受け取り、受付を済ませる。
転送陣も5万Gも取られるようになっている。その分素材も集めなければ、赤字になりかねないからな。
51階層へ来た。
昨日と同じゴツゴツとした岩肌のフロアだ。
昨日と違い多少冒険者が来ている。多分シルバーランク以上の冒険者なのだろう。
発するオーラみたいな物が全然違うので分かりやすい。大半がベロニカクラスの実力者だと思う。
ただ、この人達は皆次の階層を目指しているようだ。俺達とは抑の目的が違うらしい。
「最初の20匹はオレが一人で対処するから絶対手を出すなよ。ジョブ一つはそのままでも一つはレベル1なんだからな。」
過保護で心配性だと自覚しているが、万が一を避ける為だ。こればかりは我慢してもらおう。
冒険者家業も命あっての物種だ。
今日の最初の魔物はシザークラウン。昨日も戦った蟹だ。
小型のドラゴンの首をもいとも簡単に切り落とす鋏が驚異だが、氷魔法で簡単に倒せる魔物だった。
今日も同じようにアイスショットで倒してしまう。楽な相手で幸先が良さそうだ。
その後出てくる魔物も、同じように魔法で倒すか、二匹同時なら魔法剣で魔力を節約して倒していく。
順調に倒していくが、16匹目に出てきたのは少し大型の魔物でどことなく見た事がある。
鑑定するとキングヴァルチャーらしい。あのヴァルチャーの王なのか。だとしたら強いかもしれない。
一応メイにガードとマジックガードを掛けてもらい、いきなり全力のフレイムショットを唱える。
キングヴァルチャーもウインドウォールで対抗するが、風魔法で炎魔法に対抗するのは不可能であった。
炎に包まれ消えていく。完全にオーバーキルだ。
「な、なあ。今のってヴァルチャーだよな?」
「いや、キングヴァルチャーだったわ。多分上位種。」
「メイさん……キングヴァルチャーの相場は?」
「1匹で20万Gね。でもこの状態じゃ価値はゼロよ。」
あー……そういう事か。燃やしちゃダメだって事だな。
それに関しては本当にすまない。次は凍らせて倒すので勘弁して下さい。
「ったくよ。1億も使ったんだから少しでも金にしなきゃダメじゃねぇか。頼むぜ、リーダー。」
ケントが怒らずに頼むと言ってきた。コイツも成長してるんだな。
それなのにオレは……申し訳ない。
「多分このフロアの希少魔物ね。次はなかなか現れないと思うわ。気長に行きましょう。」
なんかメイが敬語を止めたら言い方がキツくなった気がする。
あのままの方が良かったかな。まあ、今更だが。
そこからも魔物を次々と倒していく。
倒した魔物は100匹を超え、ハイマジックポーションも2本飲んでいる。
討伐数が150匹を超え、魔力が枯渇寸前になってしまった。
「悪い。これで打ち止めだわ。今日は終了でいいか?」
本当に限界だった。多分ファイア1発で意識を失うだろう。
それくらい限界まで魔力を使い果たしてしまっている。
「あの……ウチらだけで戦ってみたいのです。今日レイジくんが頑張ってくれて、ウチら皆強くなったのです。それを確かめてみたいのです。」
「……俺からも頼むわ。このまま何もしないで終わるのも釈然としないしな。1匹だけでいいから頼むわ。」
ルナもケントも前衛だからな。討伐は自分でやらなきゃ気が済まない気持ちはよく分かる。こればかりは仕方ないだろう。
しかも今回はパワーレベリングだった為、皆自分の現在の能力を把握出来ていない。それを知るためにも一度戦闘はしておいた方がいいと思う。
「1匹だけだぞ。多分まだ元々より強くはなってないだろうからな。絶対油断するなよ。」
「うん!分かったのです。魔物はどっちなのです?」
「まったく……丁度帰り道に1匹いるからソイツだな。行くぞ。」
なにげにミルファも凄いやる気だ。
まあ、皆冒険者だから仕方ないか。
そこへ行くと、現れた魔物はまさかのキングヴァルチャーだった。
あれから現れなかったのにここに来て希少種の出現とは、流石にピンチかも知れない。
「レイジくんは見てるのです。ウチらでもやれるのです。」
「そういう事だ。俺達に任せろ!ミルファ!先制攻撃カマしてやれ!」
「ケントに言われなくてもやるよ!これが私の新しいスキル!喰らいなさい!」
ミルファの構えた弓矢に魔力が宿っていく。
魔弓士のスキル、属性付与撃ちだ。
だが弱点の火属性で燃やしてしまっては価値が無くなる。どの属性でいくのだろうか。
矢の色が赤く染まっていく。やはり火属性だ。大丈夫なのだろうか。
ミルファの放った矢はキングヴァルチャーの足を射抜いていく。
そして火が着く事はない。
単純な事だった。属性だけ付与して火は使っていないのだ。
火属性が付与された武器で攻撃しても燃えたりしないのと同じ原理だ。
「バランスを崩して下りてくるから、ルナは羽をお願い。」
「分かったのです。任せるのです。」
ミルファの言うとおりにフラフラと落下してきたキングヴァルチャーをルナが追撃に掛かる。
狙いはミルファの言う羽だ。まずは完全に動きを封じる。それが狙いだ。
「喰らうのです!」
ルナのスイングで羽ごとその身体をぶっ叩いていく。
実はキングヴァルチャーはその羽に最大の価値がある。だからこそ斬撃ではなく打撃による攻撃を選んだ。
「ケント!羽はダメだよ!それ以外を狙って!」
ケントは皆が攻撃している間、ずっとその時に備えていた。
重騎士のレベル10で覚えたスキル、チャージを使って。
チャージは1分間パワーを溜め込むことで、一撃だけ二倍の威力の攻撃を放つ事が出来るスキルだ。
ミルファとルナでそのチャンスを作ってくれる。ケントは完全に信用していた。
そこにメイの補助魔法スピードがケントに掛けられる。
ミルファも使えない中級白魔法で、俊敏のステータス値を一時的に上昇させる事が出来る魔法だ。
これでケントの弱点である素早さが解消され、キングヴァルチャーに素早い攻撃が出来るようになった。
「これが俺の最大の攻撃だ。喰らいやがれ!」
キングヴァルチャーの腹部に強力な一撃が入る。
「キエエエェェェーーーー!」
その身体が翻り、のたうち回る。だが倒しきれてはいないようだ。
「これで終わりね。」
すかさずミルファが喉を目掛けて二射放つ。
叫ぶ事すら出来なくなったキングヴァルチャーは、項垂れるように倒れていった。
宣言通りにオレ抜きで、四人だけで討伐したのだ。
凄いとしか言いようがなかった。
「マジでスゲェわ!よく無傷で倒したなぁ。」
「お前にばっかりいいカッコさせてられねぇからな。俺達だってやれば出来るって分かっただろ?」
「ああ。皆一気に強くなったな。」
「レイジくんに褒められたのです。嬉しいのです。」
「やったね、ルナ!レイジさんに頼らずにしっかり倒せたよ!」
「最期のミルファちゃんの一撃最高だったのです。流石なのです。」
ミルファとルナとでお互いを讃え合っている。実に微笑ましい光景だ。
「メイさん、あの魔法って何だったんだ?」
「ビックリした?司祭になったなら使えるかなーって思って唱えたら出来ちゃったかな。役に立てて良かったわ。」
メイの魔法にはオレも驚かされた。オレの見た魔道書には載っていなかった魔法だったから余計に吃驚したな。
あの魔法は今後も非常に使える魔法だと思う。戦術の幅も広がるだろう。
多分時間的にも丁度いい頃合だ。
転送陣からギルドへ戻り、この日のダンジョン探索は終了した。