第128話 パーティメンバーのジョブ進化
「レイジ、お前実は少し苦戦してただろ。」
オレの無様な姿をケントに見られていたようだ。
いや、隠したい訳ではない。だが今少しほっといて欲しかっただけだ。
「……まあな。でかい口叩いて大した事も出来ず申し訳なかった。」
「だははっ。責めてる訳じゃねぇよ。ただ面白がってるだけだ。」
そっちの方が地獄だ。そう扱われるのが嫌だから素直に謝ったのに、考えが読まれたのか通じなかったようだ。
その時の俺の様子を知ってるミルファは何も言わない。何を言ってもオレを傷つけると理解してるのだろう。オレにとってはそれが何よりありがたい。
「今後はあんな醜態は見せないように善処するよ。ミルファにも心配かけたな。」
あの時ミルファの声で何とか自分らしさを取り戻せたんだよな。
こんな言葉だけじゃ足りないくらい感謝してる。
「いえ……私こそレイジさんの変化に気が付きももしないで恥ずかしいです……」
「えーと、何かあったのです?ウチはさっぱり分からなかったのです。」
ルナの突然の言葉に固まってしまった。
場の雰囲気を変えようとしたとかではなく、本当に気が付いていなかったのだろう。
ケントもそんな訳無いだろって顔をしているが、そんな訳あるのだ。
「そうですね。私も何も分からなかったです。どうしたんですか。」
メイのは嘘だな。滅茶苦茶棒読みだ。
でも、二人の言葉と気持ちには助けられたな。感謝してる。
「で、どうする?先へ進むか、戻って41階層か……」
「一旦進もう。51階層の魔物を見て判断する。」
「なんだ。もう元のレイジに戻ってるわ。ま、こうでなきゃ困るけどな。」
何時までも引きずってなんてなんていられない。戦闘での無様な姿は戦闘で払拭するしかないからな。
「さっきの話はもう終わったのです?じゃあ行くのです。」
本当に分かってなかったんだな。助かるわ。
ボス部屋を出て階段を下りていく。
51階層からは洞窟のような作りになった。これもファスエッジダンジョンと同じ仕様だ。
ファスエッジダンジョンでは魔物が強くて、魔法と魔法剣を全力で使ってレベリングをしていた。
同じ強さならばケントとルナには厳しいかもしれない。
まずはオレが出て様子を見るとしよう。
マップを確かめると、このまま真っ直ぐ行けば最初の魔物がいるようだ。そこから初めてみるか。
進んでいき、そこにいた魔物はパラライズトードという蛙だった。
その大きさは1メートル以上ある。
名前から察するに麻痺攻撃をしてくるのだろう。状態異常攻撃を主体とする魔物相手には距離をとって魔法攻撃が効果的だ。それも中級主体で一気に攻める。
「アースソード!」
これは地面が剣の形状に変化し相手に襲いかかる魔法だ。
初めて使うがなかなかえげつない魔法だな。
「ゲーゲッゲロッ」
不意をつかれたパラライズトードは叫び声を上げるが倒すには至らないようだ。
「任せてください!」
すかさずミルファが二本の矢を同時に放つ。
これが当たると倒れていった。
中級魔法でも一撃で倒せないのか。本当に強いな。
「かなり強いな。この先進むのは危険かもしれんわ。」
「でも戦えるよな?だったら此処で討伐を続けようぜ。」
確かに戦えない訳ではない。最初に魔法による先制攻撃は必要だが、その後はケントやルナでも余裕を持って戦えるはずだ。
「だな。まずはオレが魔法を一撃入れる。その後ルナとケントは攻撃開始してくれ。」
「任せるのです。」「おうよ!」
そこからはオレの魔力が尽きるまで狩り続けた。
魔力が尽きた頃、丁度腹が減ったので時間的にも丁度良かった。
倒した魔物は50匹程だが、その前に多少は魔力の消費もあったし、ジョブを僧侶から騎士にしたならば魔力値も大幅に落ちてるのでこんなもんだろう。
「悪い……もう魔力が枯渇寸前だわ……これ以上は勘弁してくれ。」
「あー、腹も減ったしこんなもんか。それにしてもあれだけの魔法を50回も使えるなんて信じられねぇよな。目の前で起きてるから信じるしかないけど、誰かに聞かされた話だったらぜってぇ信じねぇよ。
「そうなの?私はレイジさんが基準だから他の魔道士がどれくらいなのか分からないんだよね。」
「レイジさんの魔力量は常識を逸してるわ。多分多重に付けられたジョブがそれを支えてるのだと思うけど。」
オレの事を聞こえるように話すのは止めてほしい。てか、ミルファもメイもオレが会話に参加してなかったらラフに話すんだな。何となく疎外感を感じてしまう。
「二人共、オレにもそうやってタメ口で頼むって。」
「無理ですよ。レイジさんは特別なんですから。」
「私はそれでいいならそうしますけど……」
「じゃあメイだけでも頼むわ。ミルファは冷たいなぁ。」
「え……レイジさんはその方がいいんですか?だって、ケントと同じように話すんですよ?」
「その方が仲良さそうな感じじゃん。」
「うん、ウチもそう思うのです。でもミルファちゃんらしさもあるのでどっちでもいいと思うのです。」
「え?ホントに?……じゃあ、私もレイジさんに丁寧に話すの止めますね。あ、違う……、止めるね?」
照れてる感じが可愛いな。
でもその方がうんと近くに感じる。やっぱりタメ口の方がいいな。
「これからそれでよろしくな。」
「はい……じゃなくて、うん。」
ミルファは顔を真っ赤にしながら言い直している。
もしかしたらミルファは心苦しいかも知れないが、今後の事も考えるとタメ口の方が絶対にいい。
少し遅かったとも思うが、まあ仕方ない。
後はミルファと沢山話をして、慣れてもらうとしよう。
「んじゃ、帰ろうか。」
50階層転送陣まで戻り、ギルドへと帰還する。
帰還報告を済ませると、素材の売却へ。
倉庫では早くも職員に顔を覚えられているようだ。
「今日も来たな。どんだけ持ってきたんだ?」
この日の収穫を全て出していく。職員は表情を変える事なくそれを見ている。
「これで全部だな。よし!エマージェンシーナンバー7発生~!」
職員が言うと一斉に他の職員が集まってくる。
種類毎に分けながら、それらを運んでいく。
その動きはこれぞプロと言った洗練された動きである。
「スゲェ……」
「あー、どんなに動きが早くても集計には時間が掛かるから。これが番号な。明日の朝には集計終わってるだろうからその時に換金してくれ。」
「ああ。分かった。宜しく頼む。」
その場を離れようとした時、歓声が上がった。
何かあったのだろうか?
「おい!どうした?何かあったのか?」
「これ……これ見てくださいよ!ミスリルスライムの魔石じゃないですか?」
「……本物だ……おい!お前らちょっと待ってくれ!もしかしてミスリルスライムを倒したのか?」
歓声の原因はそれか。確かに1匹だけだけど倒したな。探してもそれ以上は見つからなかったけど。
「1匹だけだぞ。それ以上は見つからなかった。」
「すげぇじゃんか。インゴットは?」
「持ってるけど売らんぞ?」
「ダメか~……仕方ないな。でもこの魔石1つで50万Gだぞ。やったなー。」
それはいい事を聞いた。これで少しはやる気が出る。
その後、アブ爺さんの宿へと戻ってきたオレ達は、食事を済ませて全員で集まっていた。ジョブを変える事が出来ないか確かめる為だ。
「それじゃあミルファから見ていこうか。」
ミルファのジョブを変更しようと見てみると、新たに魔弓士が増えていた。
「やったな。魔弓士にチェンジ出来るぞ。」
「ホントですか!じゃなくて……ホントに!……もう普通に話したいですよ……」
「慣れるまでの辛抱だよ。この後いっぱい話そうな。
それで、魔弓士を付けるとして、もう一つはどうする?」
オレのスキル効果でパーティメンバーは2つのジョブに就くことが可能だ。
現在ミルファは狩人と魔道士で、それらのレベルが20になった事で魔弓士が解放されたのだ。
「えーと……新規に新たなジョブだとまた能力の低下が大きいと思うので、狩人はそのままにします。」
「ミルファ話し方。」
「……後で特訓しましょう。」
「ははっ。分かったよ。じゃあ、魔道士に変えて魔弓士だな。」
ミルファのジョブに魔弓士が加わる。
「ルナは……大丈夫だ。獣騎士が加わってるぞ。」
「ホントなのです?直ぐになるのです。」
獣騎士と獣戦士の二つを付けても困るだろうから、騎士を残すとするか。
騎士レベル30で開放ジョブがあるかもしれないしな。
「次はケント……重騎士だよな。」
ケントも騎士を残して戦士を外そう。戦士は元からずっとそのままだった分、かなりレベルが高かったはずだ。それを外せば能力は結構落ちてしまうが、致し方ない。
今後の事を考えればこうした方が絶対いいはずだから。
「メイは……あるな。司祭だ。……どちらを外す?これはオレも分からないな。」
「あ、修道女は残して貰っていい?確か他のジョブとの兼ね合いで聖女が派生するはずなの。」
それは知らない情報だ。聖女か……強そうだな。
これで全員のジョブを変え終わった。
因みにオレの騎士はまだレベル20には届いていない。
オレのジョブはそのままで、一旦皆のレベルを上げていこう。
全員中級職になったんだ。ある程度レベルを上げてしまえばオレの魔法抜きで51階層で戦えると思う。
明日でそこまで強くなってしまえば、また旅に戻れるだろう。