第13話 襲撃
頑張ってます。
明くる朝、まだ薄暗い中ギルドには沢山の人が集まり始めていた。
今回の討伐戦には冒険者だけでなく、辺境伯による領主軍も参戦している。その数200名である。
この日、天気は良いがかなりの強風、それも西風だ。
ゴブリンの集落は此処より東に位置している。つまり鼻がいい個体がいた場合は、その接近が露見してしまう恐れがあるのだ。
その為、今回ギルドと領主軍が考えた作戦は南北からの挟撃である。
ある程度実力のある者を正面から囮として接近させ、その後時間を置いてから両翼からの一斉攻撃という戦法らしい。
現在は集まっている冒険者をチームランク別に分けている。ちなみにオレ達はシルバーランクだ。
ここから正面の囮部隊を選出し、それ以外を南北それぞれの部隊に分け出発する流れだ。
囮部隊に選ばれるチームには魔道士がいる事が条件らしい。
これは包囲を抜けて集落近くまで接近した際に、火魔法による火計も作戦にあるみたいだ。
この強風を利用しない手はない、という事で急遽立てられた作戦らしい。
一時間程で部隊編成は終わり、迂回する南北の部隊から出発する。ちなみにオレ達は南側に入った。
それぞれの部隊は各冒険者20名程と、領主軍80名の100名からなっている。
この部隊の冒険者の平均ランクはコモンになる。それはウチのメンバーであるゴールドの三人がいる為。他のランクを少し低めに振り分けた為らしい。
森の手前の草原地帯から南北に分かれていく。
森に入るなり直ぐにゴブリンと遭遇し戦闘になった。
先頭を歩くのは領主軍、流石は歴戦の戦士である。即座にゴブリンを片付け先へと進む。
森の中は昨日よりゴブリンの数が多い。昨日オレ達が接近し相当数のゴブリンを殲滅させたのがバレているのだろう。
それでも100名からなるこの部隊には周辺の見張りなどは取るに足らないものだった。
森の中の集落が見える小高い丘に部隊は待機した。
正面の囮部隊の動きにより集落が動き次第、一斉攻撃するらしい。
「レイジ、大丈夫か?こんな大掛かりな殲滅作戦初めてだろ?緊張して動けないなんてことが無いようにな。」
エイルの言葉に強ばった表情は解れ、一つ大きく深呼吸をした。
「大丈夫です。やりますよ、オレは。」
そう言って拳を強く握り締める。
「ほら、無駄に力入ってる。そんなんじゃ実力の半分も出せないよ。もっと力を抜きなさいよ。」
「は、はい。」
そこに待機して一時間、眼下に見える集落には未だ動きが無い。
すると後ろより領主軍の伝令が走ってきた。
「正面の囮部隊、ホブゴブリンの襲撃にあい撤退しつつ応戦中。至急南北より挟撃せよ。」
「準備はいいか!攻撃を開始する。俺に続けー!」
領主軍の部隊長の言葉と共に集落へ向け一斉に走り出す。
戦いが始まった。
集落の手前まで近づいた時、こちらへ向け矢が放たれる。
「矢には当たるなよ。当たったらそこから壊死してくからな。」
ゴブリンの武器はその衛生面の悪さから菌が大量に沸いており、それが傷口に入ることで感染症などを引き起こす。
基本的にゴブリンの動きは遅い。攻撃は見ていれば簡単に避ける事が出来る。
それでも集落の中では集団で襲ってくる。
ディルの矢で数を減らし、エイルが残りを討つ。その間にオレは一匹倒している。
マリーはオレとエイルに防御強化の魔法を掛け、ディルの矢には命中補正の魔法を掛けている。
幾つかの集団を倒し、周囲を見渡す。
家から逃げるように出てきた小さい子ゴブリンに、一切躊躇うことなく剣を突き刺す領主軍に戦慄した。
それが集落の至る所で起きている。
オレはその光景に恐慌を惹き起し、慌てふためく。
「レイジ!しっかりしろ!何やってんだ。」
エイルはそう言うと、オレの視線の先に目を向けた。
「……ああやって全て殲滅しなければ、今度は人間に被害が出る。あの小さいゴブリンも一週間程で大人になるんだ。それがゴブリンが直ぐに増える要因さ。だからこそ子供でも殺さなくちゃいけない。理解しろ。オレ達は生きるために殺すんだ。」
オレは考えが甘かった。死なないために、生き抜く覚悟は出来たつもりだった。
しかし、殺すことについては、ゲームの延長みたいな考えだったのかもしれない。
襲ってきたものを殺すのに躊躇いはない。しかし逃げる者を殺すなんて事は考えていなかった。
目の前でソレは起きている。自分達が生きるために、その生活圏が襲われないように、その芽を摘み取っている。
それがこの世界の日常なのだ。
オレは剣を持つ手に力を込める。強く、強く……。
目の前の狼狽えているゴブリン目掛けてその剣を振り下ろす。
脳天から引き裂かれたソレは黒い液を撒き散らしそこに倒れこむ。
「あああぁぁぁーーーーー!!」
足元から響く咆哮をあげ、真っ直ぐ正面を見つめる。
「だ、大丈夫か、お前……。」
エイルはそう言い、オレの顔を見たあと笑みを浮かべた。
「大丈夫そうだな。いくぞ!」
「はい!」
正面の部隊を襲撃していたホブゴブリンも集落内部から挟撃する形で殲滅していった。
集落中央の一番大きな家にいたゴブリンリーダーは北の部隊長によって倒された。
突撃から二時間弱でこのゴブリンの集落は壊滅したのだった。
その日の夕方、ギルドの前から内部までお祭り騒ぎだった。
門の横にある解体スペースにもテーブルを設置し、臨時の屋台まで出ている。
流石に領主軍の騎士たちは帰っていったが、それでも60人ほどの冒険者とギルド職員、それと物資を提供してくれた商人がいるのだ。
最終的には参加しなかった冒険者も加わり、100人規模の打ち上げになった。
「ぷはーっ!やっぱ依頼後のエールは最高だな。」
「ふふっ、今までみたく一人で突っ走らないでレイジくんを気にかけながら戦ってたものね。成長したじゃない。」
「俺だって何時までもガキじゃねぇんだよ。後輩の面倒くらい見るわ。」
二人は相変わらずである。
オレはまだ子ゴブリンを殺す光景が頭から離れないでいる。
あまり言葉を発さずに飲んでいると、少し離れたところから声を掛けられた。
「レイジさーーん!こちらにいたんですか?いるんじゃないかと思って探しましたよ。」
ミルファだ。同じ日に冒険者になった、所謂同期だ。
「ミルファ?参加してたのか。て事はケントも?」
「はい!私達は北からの部隊でした。殆ど何も出来てなかったですけど。」
「オレも似たようなもんだ。どうしたんだ?一人か?」
ケントの姿が見えないのだ。一応気になる。
「ケントは同じ部隊のシルバーランクの剣士に惚れ込んじゃって、ずっと弟子にしてくれーって頼み込んでますよ。おかげで暇しちゃって。」
直情的に行動するとはケントは見た目通りの行動をするようだ。
「なーに?レイジくんの彼女?暇してるならここにおいで。一緒に飲も!」
「いいんですか?じゃ、失礼しまーす。」
「ま、マリーさん!この娘は彼女じゃないですよ。同じ日に冒険者になった同期みたいなもんです。」
「へー、あの講習会でナンパしたのか?お前はこのっ!このっ!」
エイルのヘッドロックで思わず落ちそうになる。
ミルファに三人を紹介すると、実は三人の名前は冒険者の間では有名らしく、名前を聞いてかなり驚愕していた。
「レイジさんがロードウインズの皆さんと知り合いだなんて吃驚ですよ。」
「知り合いってか、ウチのメンバーだよな?」
「え……?えーーーーーーーーっ!!」
「えーと、一応……。昨日からだけどね。」
「狡い……私も…………のに……。」
「何なら嬢ちゃんも来るか?何となくマリーの弟子に向いてそうだわ。」
「え?…いやいや、私なんて、そんな全然、無理ですよ。」
「うーん、見た感じだと精神力はありそうね。真面目にやれば神官になって白魔法使えると思うわよ?」
なんとマリーのお墨付きを貰ってる。
「ほ、ホントですか!いや、けど…」
「あー!いた!ミルファー!」
走ってきたのはケントだ。
「お!レイジじゃん。やっぱレイジも参加してたんだな。おっと、それよりもミルファ、喜べ。オレ達あのシルバーランクの『マッドネスサイス』に入れてもらえる事になったぞ。まあ、とりあえず荷物持ちだけどな。でもよ、とりあえずあそこで鍛えてもらえば俺達ももっと稼げるようになるんだ。すげーだろ!なっ!」
多分『マッドネスサイス』ってのはケントが惚れ込んだ剣士のいるパーティなんだろう。そこに入れるのだからこの喜びようもわかる。
けど、ミルファの意見を聞かずに一人で決めたのはよくない。
「……なんで?私、あそこに入りたいだなんて一言も言ってないよ?どうして一人で決めちゃったの?」
ミルファは肩を震わせながら小さく語りかけている。それはケントへの怒り、どちらかといえば絶望に近い感情、それを必死に押さえつけようとしているようだった。
「だ、だってよ、シルバーランクだぜ?あそこなら絶対稼げるだろ。メイさんを手助けしてやれるんだ。わかるだろ?」
「わかるよ、わかるけどそれはケントの個人的な理由でしょ。孤児院には恩があるし感謝してるよ。でも、冒険者としての行き方を一人で勝手に決めないで!」
「じゃあどうすんだよ!おれはマッドネスサイスに入る!もう決めたんだ。だからお前も来いよ。」
「……ミルファはオレと一緒にロードウインズに入るよ。」
オレは二人の間に割って入った。
「すみません、エイルさん、マリーさん、ディルさん、ミルファを入れて貰ってもいいですか?」
先程エイルがミルファを勧誘していた。マリーも乗り気みたいだった。でもオレは、こんな辛そうなミルファを見ていたくない。
単純にオレのエゴだ。それはわかっている。先程のやり取りがたとえポーズだったとしても、オレは自分の意思でミルファを誘いたいと思ったのだから。
「どういう事だよ。」
「ケント、私マッドネスサイスには入らないよ。ごめんね。」
「なんだよ……レイジ、お前が唆したんだろ?……ちきしょう……」
ケントはオレの方を睨みつけ、拳を強く握り締めたままゆっくりその場を去ったいった。
「んじゃ、兎も角、嬢ちゃん、いや、ミルファ。ウチに来るか?」
「……よろしくお願いします。」
ミルファは深々と頭を下げ、小さな声でお礼を言っていた。
「んじゃ、新たなメンバーに、かんぱーい!」
小さな遺恨を残したままその夜は更けていった。
毎度読んでくださりありがとうございます。
現在のステータスを入れたかったのですが、話が間延びしてしまいそこまでいきませんでした。
入れれる時には書きたいと思います。
そしてミルファがヒロインになるのかなぁ……私もわかっていません><;