第124話 湖畔のダンジョン(5)
「今回は全員でいこうか。オーバーキルかもしんないけど、連携を確かめる意味も込めてな。」
35階層、ボス部屋の扉を開ける。
現れたのはエイリアンスネーク。見た目は地球にもいるような極普通の蛇だ。
いや、名前からしてもしかしたら……想像したくないな。
ゆっくり近づいてくるエイリアンスネーク。その距離が残り2メートルまで来た時、状況が一変した。
「キシャアアァァァ!」
甲高い鳴き声と共にその顔は四つに割れ、オレ達を食いに掛かってくる。
やっぱりそうだった。そしてキモい。
すかさずストーンウォールを唱え、エイリアンスネークとの間に石の壁を作り再度距離をとった。
「な、なんですか、あれ?気持ち悪すぎます。連携実験とか止めて早く倒してしまいましょう。」
ミルファの顔が今まで見た事ないくらい引きつっている。
メイも顔面蒼白になっているし、ルナは……特に問題なさそうだ。
コイツはオレも嫌だからな。作戦変更だ。速攻でケリをつける。
「悪い!倒しちゃうわ。サンダーショット!」
雷がエイリアンスネークに向かって一直線に伸びていく。
「キシャアアァァァ……ァ……キ、キシャ、アァ……」
マジか。あれ食らってまだ生きてるのか。しぶといな。
生きてるのを確認したルナが、既にミスリルメイスを振り上げている。
ベコッ!
四つに別れたままの頭部がそのまま潰れ、ピクリともしなくなった。
「ナイス判断だ。やるなー。」
褒められて嬉しそうにするルナ。
てか、コレをアイテムボックスに入れるの?オレが?はぁ……仕方ないな。
嫌々ながらにエイリアンスネークをアイテムボックスに仕舞うと先へと進んでいく。
そのまま36階層へ。
ここではミルファが名乗りを上げた。
今までも攻撃してたけど、一人に任せたのは無かったからな。一度やっておきたかったのだろう。
進んでいき、現れたのはゴブリンプリンス。てか、王子さまかよ!
ミルファもガッカリしたように弓を引く。
だが、同時にゴブリンプリンスも弓を引いていた。
「え?嘘?」
ミルファは一瞬戸惑い、その分反応が遅れた。
「ウインドウォール!」
風の壁によりゴブリンプリンスの放った矢は巻き上げられた。
「ごめんなさい!相手の動きに判断が遅れちゃいました。もう大丈夫です。」
そう言うと、横に移動しながら再度弓を構え……放った。
その矢は喉に命中しており、ゆっくりと倒れていく。
「ミルファの判断遅れなんて珍しいな。気負ったか?」
「すみません。皆活躍してるから、負けたくない気持ちが前面に出過ぎちゃいました。」
「へー、ミルファでもそうなるんだな。」
「そりゃあ、焦りますよ。もう私はヒーラーではないんですから。」
「けど出来るだろ?普段は遠距離アタッカーだけど、いざとなればヒーラーとバッファーも出来る。そんなのはミルファだけだ。自信持っていこう。」
「は、はい。そうですね。」
「むむ~。レイジくんはミルファちゃんには甘いのです。羨ましいのです。」
皆の視線が刺さってくる。
ミルファに甘い?それはそうだ。差別?するよ。オレは自由な冒険者だからな。好きにするんだ。
いや、パーティとして問題があったり、命に関わる場合はしっかり注意するし、ペナルティも与える事になると思う。
しかし、今のは問題だった事柄を自分で把握していたから、オレが言う必要がない状態だった。
それをわざわざ指摘するのは只の嫌がらせだろう。そこの分別は意識してやってるつもりだ。ケント以外にはな。
「このレベルの相手だったらまだ全然大丈夫だな。40階層まで一気に行こうか。」
ここから39階層までの間はルナとケントもソロ討伐も試しつつも、基本は連携を確認するように進んでいった。
前衛にルナとケント。中衛にオレとミルファで最後方にメイ。
前衛二人には戦闘中バフを切らさないようメイには心掛けてもらい、オレとミルファで先制攻撃、ルナとケントで止めというスタイルを身体に染み込ませるように繰り返した。
オレの攻撃で魔物が死ななように魔力の加減が難しく、魔力コントロールの訓練にもなって一石二鳥だったしな。
ここらのフロアではレベリングをしてるであろう冒険者がそこそこ見られる。
多分ブロンズランクとしては丁度いい強さの魔物なのだろう。丁度いいという事は一気に強くなる事は出来ない。なのでオレ達はもっと先へ向かう。
目指すは50階層だな。
ここまできて確信した。このダンジョンはファスエッジダンジョンと魔物の強さは変わらない。
それならオレとミルファの二人でレベリング出来た50階層付近が丁度いいはずだ。
うん。そうしよう。
そして40階層。ボス部屋入口前で一組だけ待ってるようだ。
「お?お前、確かロードプルフから来たっていう……」
待っている冒険者のリーダー風の男が話しかけてくる。
その男はハロルド。此処の冒険者ギルドに始めて訪れた際に入口で話し掛けてきたシルバーランクの男だ。
「確かハロルド……だったよな?シルバーランクの。」
「覚えててもらえたか。えーと……だな……」
コイツ、覚えててもらえたかとか言いながらオレの名前忘れてるんじゃねぇか……
「オレはレイジだ。覚えててくれよ。」
「そうだそうだ。レイジだったな。シルバーランクの。」
シルバーランクという事は覚えててくれたようだ。ならば単純にど忘れとか?ならしゃあないか。
「え?コイツ……あ、いや、この人ってシルバーランクなんですか?俺達より年下じゃないですか!」
ハロルドのパーティメンバーはオレがシルバーランクだという事が信じられないようだ。
まあ、これが普通の反応だよな。
ハロルドは一度冒険者として一線を退いたのだが、特にやることも無い為後進を育てるアドバイザーのような事をしているらしい。
そして今回はこのブロンズランクになりたてのパーティで40階層までの説明をして回っていたようだ。
「そんな事までしてもらえるのか。大怪我や死亡のリスクは大幅に減らせるだろうな。」
「ああ。若い奴らの延命の為だからな。ほっとくと調子に乗ってすぐ死にやがる。たまにこうやって行動や立ち回りを見てやってるんだ。」
それでも先達の教えなど要らないと言い、自己流でやって死んで行く者も一定数はいるようで、まだまだ悩みは尽きないようだ。
「お!扉が開いたな。お前達もまだまだ若い。シルバーランクだろうが油断はするなよ。じゃあな。」
先輩のありがたい言葉だ。肝に銘じておこう。
「さて、誰もいないし軽く飯でも食うか?」
今回ボス部屋での待ち時間が殆ど無かった分、進むのはかなり早かった。
それでも既に半日以上は何も食べずに経過している為、相当腹は減っている。
「そうだな。とりあえず何か食いてぇな。でもこのフロアで今回は終わりだろ?軽くでいいわ。」
そう。アタック前に前回と同じ20階層と決めていたのだ。
21階層から始めて、このフロアで丁度20階層。此処のボスを倒せば、一旦ダンジョンを出る事になる。
なので、宿に帰って飯にするから軽くでいいとの事だ。
それはケントだけでなく、皆同じらしい。やはり宿で食べた方が味気があるからな。オレもそうしよう。
ハロルド達が入って20分後、扉が開く。
皆やる気は十分だ。
扉を潜ると、そこにあったのは1体の悪魔を型どった石像だけだった。
「ボスがいないのです。」
「皆集まって。」
オレは全員を呼び石像の前に立つ。
「ファイアショット!」
突然石像に向かって放つ魔法に、全員が驚いている。だが次の瞬間、その驚きは別のものに変わる。
「グオオオォォォー!」
石像は炎に包まれると突然叫びだした。
部屋に入った瞬間に石像を鑑定し、その正体に気が付いていた。
コイツはガーゴイル。悪魔の魂を宿らせた彫刻だ。
動き出す前に先制攻撃をさせてもらった訳だ。
だが、オレは選択を間違ったようだ。石で出来た魔物に火は効果が薄い。
一応属性相性でいえば、火と土は優劣なしとなっているが、石にはどうも火が効きにくい傾向がある。
元々土属性は風属性が弱点なのだから、そのまま攻撃すれば問題なかったのだ。
「悪い!属性誤った。多分弱点は風だ。」
そう言うと、ミルファが直ぐにウインドを唱えた。
小さい風の刃でガーゴイルが切れていく。
追い討ちとばかりにケントとルナが詰め寄っていき、同時に攻撃を繰り出した。
ケントの突きにルナの打撃の衝撃が加わり、そこから全体が割れていく。
あっけなく終わった事に二人共驚いているが、当然の結果だ。
メイの出番がなかったように思えるが、二人が飛び出した瞬間しっかりガードを掛けていたのを見ていた。まあ、悪魔系が相手だとマジックガードも視野に入れた方がいいのだが、それは今後教えればいいだけだ。
全員がしっかり動いての完勝はスッキリするな。
「終わったなー。帰って休もうか。」