第123話 湖畔のダンジョン(4)
「さて、二人はまだ全快していないようだし、此処はオレに任せてくれ。」
先程の冒険者の墓場での疲れが取れていないルナとケントは今回お休みだ。
ミルファは参戦してもいいのだが、多分オーバーキルだと思うのでオレ一人で十分だろう。
「ウチは全然いけるのです。一緒に戦うのです。」
「俺もだ。もう十分休んだからよ。」
「ダメだ。31階層からは魔物も強くなるぞ。お前達はそれに備えておけ。」
魔物が強くなるのは本当の事だと思っている。
此処までの魔物の強さが、ファスエッジダンジョンと大差なかったからな。それならこの先は魔物のレベルが一気に上がると判断したのだ。
「レイジさんの言う通りだと思うわ。一応私の聞いた情報だと31階層からが本番だっていうから。」
メイの情報でもそうなら間違いないな。
それなら余計にこの先の為に休んでてもらおう。
二人共納得したようだし、進もうか。
ボス部屋の扉を開けると、待ち構えていたのはキラータイガーだ。
途中出てきたベビータイガーの成体だ。
そう聞くとどうしてもゲレゲ○かと思ってしまうが、コイツは虎である。決してトサカとかは付いていない。
このダンジョンに来て始めて鋁爪剣を構える。
しかし先に動いたのはキラータイガーだった。
「ストーンウォール!」
オレとキラータイガーとの間に石の壁が出来る。
そう。以前も使った戦術である。
あの時はミルファと二人でやったが今回は一人だ。なので、キラータイガーを誘導する。
石の壁の左右にファイアを打ち込む。これによって相手は上からの攻撃に狙いをつけるだろう。
「グアオオオォォォ!」
そんな吠えながら来たら小細工しなくても分かってしまう。
タイミングを合わせ鋁爪剣を振り抜くと、キラータイガーは首が落ち倒れた。
知性のない相手だったらこの戦法ってかなり有効なんだな。
これからも使えると確信を得る事が出来たのは大きい。
「うしっ!行こうぜー。」
キラータイガーをしっかりアイテムボックスに回収し、先へ進むよう皆を促す。
「なあ、レイジ?今のキラータイガーの動きって見えていたのか?」
「そりゃあ見えてなきゃ首は跳ねれないだろ?何処に食いついてんだよ。」
あ、これはアレだ。自分だったどうするかを当て嵌めてみたら、あのスピードの中の相手に合わせる事が出来ないと判断したのだろう。
まあ、それは慣れと自らのレベルでどうとでも出来ることだと思う。
オレも最初は少し強い魔物の動きが見えなかったからな。
階段を下り、31階層。
景色は変わらずそのままだが、空気感が違って感じる。
なんていうか、魔物が発してる気みたいなものが辺りにあって、それが今までより重苦しく感じるのだ。
これも最初にファスエッジダンジョンに行った際には分からなかった事で、二回目にミルファと二人で行った際に少し気になる程度だった事だ。
それが意識すればしっかり分かるようになってるという事は、オレも成長出来てるという事だろう。
うん。実感出来たらモチベーションも上がるよな。気合いが入った。
「さて、このフロアから先行って大丈夫か、それぞれ戦ってみるか。誰から行く?」
「……俺だ。」
名乗り出たのはケントだ。ルナはケントの顔を見てたので譲ったのかもしれないな。
「じゃあ魔物のいるトコへ行ってみるか。」
マップを見る限り近いのは右の通路のようだ。
だが、左の通路は少し遠いが、2匹目が近い。そっちの方が効率がいいな。
という訳で左の通路を進んでいく。
そして現れたのはシルクスパイダー。その名の通り、出す糸が絹だという素材に優れた蜘蛛である。
糸を出させてから討伐すればかなり稼ぐことが出きるのだが、それを待つばかりに殺されてしまう冒険者も少なくないとか。
ダンジョン産の場合は討伐後、ダンジョンに吸収されるのを待てばドロップアイテムとして絹を落とすのでそれを待てばいい。但しその量は極僅からしいが。
「っしゃあ!行くぜ!」
いきなり飛び出していくケント。気負い過ぎのような気もする。大丈夫か?
間合いに一歩入ると同時にシルクスパイダーの眉間付近に刺突を繰り出す。が、同時にシルクスパイダーはパルチザンを目掛け糸を吐いていた。
パルチザンは絡め取られ弾き飛ばされてしまう。ここまでだな。
「ルナ!頼んだ。」
「はいです。」
右回りに走り出したルナは側面から殴りかかる。
シルクスパイダーもその動きを視界に捉えていたようで、タイミングを合わせて糸を出す。
此処はルナの方が一枚上手だったようだ。殴りに行ったのはフェイントで、糸を掻い潜ってからミスリルメイスを強振した。
背中が陥没したシルクスパイダーはそのまま死んでいたようだ。
消える前に吐いた糸をすべて回収しておく。
「ルナは問題ないな。ケントは気負い過ぎだ。動きが単調だから何をしようとしてるのかバレてしまっていたな。どうする?もう一回やるか?」
「……勿論だ!このまま先へ進んでも足を引っ張るだけなんだろ?皆が納得出来るまでやらせてくれ!」
やる気は伝わってくる。が、空回りしそうだな。どうするかな?
そんな中ミルファがケントに近づいていく。
ゴツン!
ミルファの鉄拳がケントの後頭部に直撃した。
「いっつ……何すんだ!アホか!」
「アホはケントでしょ?ガッチガチに固まった状態で戦ったところで本来の実力が出せるはずないでしょ。いくら背伸びしたってレイジさん程の強さになんてなれないの。自分の身の丈に合った戦い方をしないと、自分だけじゃなくパーティにも迷惑が掛かるんだから。しっかりしてよ。」
ミルファ……鬼だな。もっとオブラートに包んだ物言いはできないのだろうか。
男としては、言われたら結構キツイ言葉だと思う。
ゴン!ゴン!ゴン!
何の音かと思ったらケントが壁に頭突きをしている。とうとう壊れてしまったのか?
「ああ~、わりぃ、どうも焦ってたみたいだわ。もう一度チャンスをくれ。」
いやー、馬鹿の癖に妙に男前なんだよな。壁に頭突きして目を覚ますとか、漫画じゃねぇんだから。
実際それで目が覚めたみたくスッキリしてるってどういうことなのよ?
いや、間違いなく次は大丈夫だと思うから、全く心配してないしな。
一応この先にいるもう1匹と戦ってもらうけど、ほぼ問題ないはずだ。
という訳で通路の先にいたマミーを相手に再度ケントが挑む。
結果は完勝。一撃で、とはいかなかったが、相手の攻撃もしっかり捌きながら余裕を持って倒していた。
「最初からそうやれよ。」
うん。オレも普通に声に出してるからな。
ケントも申し訳なさそうにしてるので、これ以上は責めたりはしない。
ミルファの目線はかなり冷たいが、それは仕方ないと諦めよう。一応フォローはしておくけど。
何よりホッとした表情のメイの方が印象に残った。
多分メイが口を出すことで余計に状況が悪化するとでも思い、敢えて何も言わなかったのだろう。
それは正解だったと思う。ケントの性格上カッコ悪いところは見せまいとし、空回りしていただろうな。
耐えていたメイも陰ながら頑張っていたという事だ。
そこから先はオレとミルファも加わり一切の問題もなく進んでいく。
多少道を逸れてもある程度は魔物を倒しながら。
そして34階層では再び冒険者の墓場を発見する。
全員で入っていき、一気に討伐する。とは言ってもオレの魔法である程度殲滅してからのスタートなので、一人辺りの討伐数は3匹程なのだがそれは言うまい。
戦闘後探すと、やはりあった宝箱。中身はミスリルインゴットだ。
おっしゃあぁぁ~!と喜んだのだが、実はそこまで価値はなく、これ一つで10万Gくらいだとか。
実際鉱山でミスリルの塊を見つけたら、その塊一つからインゴットは5つは作れるというのだから、インゴット一つにはそこまで価値は無いと分かる。
まあ、ミスリル製武器の値段を考えたら確かにそうかもしれないな。
その先には35階層への階段があった。
さて、ボス戦だ。そろそろ全員で戦った方がいいかもな。