第121話 湖畔のダンジョン(2)
5階層ボス、ゴブリンリーダーはゴブリン5匹を束ねるリーダーと言われ、その強さはゴブリン2匹分である。
一応、単独でコイツを倒せたならアイアンランクⅠと言われる指針にもなる魔物だ。
「ゴブリンリーダーか。乗り気しねぇな。とっとと次行こうぜ。」
「ああ。ファイア。」
その歩を止める事なく、話しながら放ったファイアでゴブリンリーダーは倒れていく。
「行こうか。」
何も無かったかのようにそのまま進んでいく。
一応ボス部屋を抜けた先にダンジョン脱出用の転送陣があるのを確認しておく。
無かったらないで脱出のスキルを使うから問題は無いが、転送陣があればそれに越した事はないからな。
続く6階層、止まらずに来たからジェフリーの姿があるかと思ったが、誰の姿も見当たらなかった。
「いる訳ねぇだろ。クールタイムは10分だ。こんな所で10分も誰が待つんだよ。」
確かに……ケントの癖に的を得た事を言いやがって……
まあ、誰もいないなら仕方ない。マップを見ながら階段まで一直線だ。
このフロアからは普通に魔物と遭遇するようになった。
現れるのはファスエッジダンジョンにも現れた小さな木、リトルムーブツリーやホーンラット、そしてお馴染みのゴブリンなど、種類は豊富だが雑魚ばかりで素材にも経験値にも期待出来そうにない。
「ダメだなとっとと10階層は突破しよう。」
時間の無駄だからな。実際ファスエッジダンジョンでは、オレとミルファの二人で53階層まで行ったんだ。まあ、魔力をフルに使う全力でだけど。
それでもこの人数でならばこのダンジョンでも50階層までいけると思う。
一応5階層毎に魔物とそれなりに戦い強さの確認はしていくが……
そんな訳で目の前に現れる魔物以外はとにかく無視を決め込み、とにかく進んでいく。
そしてあっという間に10階層ボス部屋の前だ。
前に並んでいるのは3組。5階層より全然マシだった。
「10分で倒してクールタイムは10分、それが3組って事は1時間かー……しゃーねーな。」
「この先も進んでいくなら今のうちに何か食べておきませんか?」
ミルファの提案はもっともだが、人目がどうも気になる。
知らない冒険者達にアイテムボックスからの出し入れを見られたくないのだ。
それをミルファにこっそりつたえたところ、思い出したかのようにもの凄い勢いで謝ってきた。
いや、そこまで気にしなくていいんだけどね。一応頭に入れといて欲しいというお願いなだけだから。
しかし、流石に待ち時間が長いので適当なパンだけ出して食べておいた。
「あれ?レイジさんじゃないですか?」
ここでジェフリーが現れた。案外早かったな。
「早くないですか?僕達だって殆ど最短距離で来たんですよ?」
「そうなのか?だったらそれは最短距離じゃなかったんだろ。」
何も言えなくなったジェフリー。仕方ないだろ。こっちはマップを見てるんだ。
記憶を頼りに来るよりもずっと正確なんだから。
「その通りですけど……いや、流石ブロンズランクパーティと称えるべきですね。流石です。」
言動もイケメンか!どうも調子が狂わされるな。いい奴だが苦手かもしれない。
「ところでジェフリー達はどうして1階層から進んでいくんだ?もっと深層階からでいいだろ?」
「そんなお金もったいないですよ。10階層で一組1万Gですよ?ここに来るだけで1万Gも支払わなければいけないんです。そんなの嫌に決まってるでしょう。」
そうなのか?じゃあ50階層で5万Gか。オレなら支払ってそっちを選ぶな。
一人5万Gでもそっちを選ぶだろう。そこの魔物がオークだったとしても余裕で黒字だし。
「そうか。まあ、人それぞれか。頑張れよ。」
この話は価値観が合わないから早々に切り上げた。
その後はロードプルフの話などを聞いてきたので他の四人に任せた。
オレは2ヶ月しか住んでなかったからな。そこまで詳しくないのでパスだ。
そして並び始めて50分後、オレ達がボスに挑戦する番が回ってきた。
「じゃあ、頑張って下さい。僕達も直ぐに追いかけますから。」
ジェフリーがそう言うが、もう追いつかれる事は無いだろう。
オレ達は本当の最短ルートを通るからな。
10階層のボスはロンリーキャット。見た目は只の猫だ。
一匹狼ならぬ一匹猫とか、弱そうにしか見えない。いや、10階層だと普通に弱いのだろう。
コイツは次は自分の番だと飛び出したケントが一突きで倒し終えた。見た目通りの雑魚だったな。
滞在時間20秒で11階層へ。
降りるとすぐ横に転移門があり、そこから冒険者がやってくる。
大体がコモンランクだが、金をケチっているブロンズランクも混ざっているとの事。
ある程度減ってきていた冒険者も、ここに来てまた増えてしまった。
大半の人が通っているであろうルートを通り、ドンドン進んでいく。
人が増えた分オレ達の前に現れる魔物はいない。楽だけどつまらないな。
15階層のボス部屋の前には今までで一番の長蛇の列が出来ていた。
「お、おい。これマジかよ……」
並んでいる人数は約80人。一パーティ4人だとしたら20組、5人だとしても16組であり、5時間以上待たなくてはいけない。
「こんなに並んでても赤字だろ?何考えてこんな並んでんだ?」
それを聞いていた最後尾の冒険者が答えた。
「お前達はこの街の冒険者じゃねぇな。此処のボスはミニオークってドワーフくらいの大きさのオークなんだが、小さくてもオークだ。その味は普通のオークと変わらねぇ。1匹8万Gになるんだ。
稀にレアモンスターとして現れるブラックミニオークだと15万Gだぜ。1日2回も狩れば全然余裕で生活出来るからな。皆こぞってこのフロアに来てるんだよ。」
弱いけど価値のある魔物か。それだったらそうなるよな。
仕方ない。このフロアを超えるまでの辛抱だ。
一応進むのは早い。一組15分掛からずに進んでいってるようだ。
因みに4組後ろにジェフリー達は来ていたが、離れているので会話はない。
そして待つ事5時間弱。漸くオレ達が入る番だ。
ボス部屋の中へ。
中に入ると一同揃って硬直してしまった。
そこにいたミニオークは全身真っ黒だったのだ。
「これってレアモンスターのブラックミニオークですよね?」
ミルファは目の前のブラックミニオークを指さしながら少し震えている。
「レアボスの出現率は僅か3%です。それをこの高額素材で引き当てるなんて……」
メイは驚愕しながらも説明になってるので分かりやすい。そうか、3%なのか。
「じゃあ、次はウチの番なのです。」
レアモンスターの出現に皆が驚いている中、只一人ルナだけは何事もなかったかのように走り出した。
「食らえなのです!」
野球のフルスイングのように振られたミスリルメイスはブラックミニオークの頭部ににヒットし、見事に吹き飛び二回転して倒れ込んだ。
「やったのです。早く回収しないとダンジョンに吸収されるのです。」
そのままブラックミニオークの脚を掴みオレの元へと持ってきた。
「お、おお。流石だな。」
流石のオレも固まってしまったよ。レア系には慣れてないからな。
アイテムボックスに入れると皆も漸く我に返り、ボス部屋を後にした。
「ルナの胆力を身に付ける事が皆の目標な。」
おれがそう言うと、あそこまでは無理だという答えが返ってきた。
ルナ自身は金が絡んだ時だけは動きが素早くなると自覚しているようで、敢えて何も答えない。
まあ、オレはそれに多少気付いてるが。
そしてそのまま16階層へ。
ダンジョンに入ってから既に20時間程経過している。
「どうする?一旦戻るか?それとも20階層まで一気に行くか?」
「私は行きたいです。上手く行けば朝までには20階層まで行けるだろうし、その後1日休んでから続きという形がいいと思います。」
「俺もそれがいいと思うぞ。15階層って半端だしな。」
「ウチはどっちでもいいのです。とりあえず今倒せたのでスッキリしたのです。」
「進んだほうが良さそうじゃないですか?この時間に進む人は少ないかもしれません。」
うん。完全に進むが大多数だ。それじゃあ進もう。マップを頼りに最短ルートで。
まだまだ現れる魔物は弱い。ケントやルナでも余裕の一撃キルである。
急ぎたいが、20時間以上睡眠なしの所為で足取りが鈍っている。
これは間違いなく20階層で一時中断だな。
3時間後、問題なく20階層に到着。なんと一人も待っていない。
「誰もいないじゃん。直ぐに終わらせて帰ろうぜ。」
足を止める事なくボス部屋へ入る。
ボスはポイズンセンチピード。色からして毒々しいムカデだ。
早く帰りたいのでウインドカッターで切り刻んで終了する。
「疲れたわ。帰ろうぜ~。」