第120話 湖畔のダンジョン(1)
さて、今日は久々のダンジョンアタックだ。
この街にある湖畔のダンジョンとはどのようなダンジョンなのだろうか。
両隣の二人も目が覚めたようだ。
初めての畳に布団というスタイルでの就寝に二人共寝付けなかったみたい。オレは逆に伸び伸びと寝れたけどな。
朝食も見事なまでに和食を再現している。
納豆に焼き魚、漬物に……スープだ。流石に味噌汁は無かったか。残念……
「お前さん方、今日も泊まってくれるのかのぉ?」
「ダンジョン次第かな。篭もりっぱなしになるか、出てくるか……出てきたらまたお世話になりたいけど、大丈夫か?」
本当にそう思っている。食事も日本を思い出すし、たまには和室も最高だ。
「ああ、待ってるぞ。無理するなよ。無事を祈っておる。」
「はい。行ってきます。」
和風宿を出てギルドへ向かっていく。といっても目と鼻の先だ。直ぐに着いた。
「うーわっ、どいつもこいつもはえーなー。もうこんなに人が来てるのか。」
ケントが驚くのも無理もない。ダンジョンの受付には既に30人程の列が出来ているのだから。
「急ぐか。待ち時間もありそうだからな。」
今でこれだけ居るという事は、日中の一番混む時間ならどれだけいるのだろうか。あまり考えたくはないな。
ただ、思ったより早く列は進んでいった。
見ていたら、行きたい階層を伝え、それに応じた金額を支払って進んでいくだけのようだ。
「おはようございます。ギルドカードと行きたい階層をお願いします。」
全員のギルドカードを渡す。
「初めてなんだ。途中からって行けるのか?」
「初回アタックですね。では1階層からのスタートになります。進んでもらって結構です。いってらっしゃいませ。」
今までに無い程事務的に進んだな。こんなの初めてだ。
あまりの心無い対応にミルファも戸惑っている。
「失敗したら死ぬかも知れないのに、随分と淡々としてますね。なんか淋しいです。」
「人数を捌くのにそうせざるを得ないんだろう。気にしちゃ負けだ。行こう。」
転送用の魔法陣ではなく、1階層、ダンジョン入口に向かっていく。
此方に来るのはアイアンランクばかりの為、人が多い。
これはある程度進むまでは人目を気にしながらになってしまうな。
階段を下り湖畔のダンジョン1階層に入る。
大半の人が同じ方へ向かって歩いていく。多分そこに2階層への階段があるのだろう。
オレ達もその流れについていく。
「これはつまらないな。ダンジョンっぽさが全くないわ。」
「そんな事無いのです。普段の浜辺の洞窟はこんな感じなのです。」
「だよなー。逆にアゲトダンジョンは誰もいなくて焦ったな。」
普段から浜辺の洞窟に行っていた二人にはこれが普通のようだ。
オレ達ロードウインズは誰もいない場所を選んでいたのか。エイル達の凄さはこういうトコに現れていたんだな。今更ながら、改めて素晴らしいパーティだったと実感する。
その分こういう一般的な事が分からないままだったりするが、そんな事は些事だろう。
結局1階層では一切魔物に出会う事なく2階層へ行く事となった。
「なんか拍子抜けだな。もっと魔物が出てくると思ったんだけど。」
「一応このダンジョンについては調べておきましたよ。階層数不明、現在の最大到達階層は84階層。1フロア辺りの最大魔物数は50匹で10分に1匹ずつ魔物は生まれているようです。
最大数より20時間放置で溢れ出し、スタンピードになる恐れがあるようですね。」
思わぬ所でメイが素晴らしい活躍を見せた。
そう言えば情報収集とかした事無かったかもな。てか、ロードウインズでは情報収集をするにも、次の日何処に行くのかも知らされてもいなかったから仕方ないのかも知れないが。
エイルは情報収集より、知らない上での状況判断を優先して教えてくれていたのかも知れない。
だからこそ、ワイバーンの時のような不測の事態にも直ぐに反応出来たのだろう。
現在前後共10メートル先には冒険者パーティがいる状態だ。
これだと、タイミングよく横の通路から現れない限りは魔物と遭遇しようがない。
「参ったな。暫くは気楽に行くしかないか。」
「ボスは5階層毎です。それを過ぎれば魔物の出現もあると思いますよ。」
つまりそれまでは我慢か。前後の冒険者もどこまで潜るか分からないし、一応マップは見ながら行くか。脇に逸れたのに付いていっても意味ないしな。
そのまま3階層、4階層と進んでいき、1匹の魔物と出会う事なく5階層への階段にたどり着いた。
「並んでるな……これってもしかしてボス待ちか。」
「でしょうね。ボスは討伐から復活までのクールタイムは10分です。討伐に30分掛かっていれば40分待ちですから、場合によっては5時間以上待つ羽目になるかも知れないですね。」
「うーわっ、シンドいわ。」
5時間以上この場に足止めか。とにかく進んでいき、人の少ない階層を選ばなくちゃレベリングも出来そうにないだろう。
「あははっ、大丈夫だよ。此処のボスはゴブリンリーダーだから、時間掛かっても5分もあれば討伐出来るから。」
前にいる冒険者が話し掛けてきた。爽やかなイケメン君だ。年はオレ達と同世代だろう。
「悪いな。オレの愚痴が聞こえてたか?」
「まあね。聞いてる限りは初めてなんだろ?いきなりボスに来ないで、そこらの魔物で鍛えてからの方がいいんじゃないかな?ボスは倒せてもその先へ行くには厳しいかもよ。」
おー、他人の心配を出来るとは行動もイケメンか。まあ、要らぬ心配だけどな。
「ふふっ、優しいんですね。でも心配は無用です。」
「え?……いや、でも……」
イケメン君、確かにミルファは可愛いが、そんな顔を赤くして恋心を抱くんじゃないよ?
「心配は要らねぇって言ってんだ。もういいだろ。」
「ケント!この子は好意で心配してくれているの。そういう言い方は良くないよ!」
恫喝っぽい言い方でメイに注意を受けるケント。
「えーと、もしかして冒険者に成り立てではないのかな?」
「ああ。一応ブロンズランクパーティだからな。このダンジョンは初めてだからこのフロアにいるだけだ。別に初心者ではないから安心してくれ。」
ここはリーダーっぽく纏めてみせた。
「そ、そうなんですか?すみません。偉そうな事言ってしまいました。」
いきなり敬語になったな。ブロンズランクと言っただけでこうなるという事は、コイツはコモンランクかもな。
オレ達をアイアンランクだと思って、先輩として声を掛けたという事か。しっかりした少年だ。
「気にするな。お前、名前は?」
「あ、すみません。僕はジェフリー、先日コモンランクになりました。此処にいるのが僕のパーティで、エルミナとジークです。」
「あの……ジェフが生意気言って……ごめんなさい……」
「…………」
三人パーティで男二人に女一人。一人が無口でもう一人が人見知りかな?ジェフリーは対人関係でも苦労してそうだな。
「そうか。オレはレイジ。このパーティのリーダーをしている。ランクはオレ達の方が上だけど、年は同世代だろ?さっきみたく普通に接してくれ。」
オレもパーティメンバーを紹介した事で、ジェフリーの緊張も解けたようだ。
ボスまでの待ち時間をジェフリーとの話で費やして過ごす。
そして並んでいる列はジェフリーが先頭まで来ていた。
「え?じゃあレイジくん達はロードプルフから来たの?凄いなー、僕と同じ年とは思えないや。」
「世界を回ってみたかったからな。その第一歩が国内だ。」
その時、ボス部屋の扉が開かれた。
「おっと、僕達の番が来たようだね。色々話せて楽しかったよ。またね。」
ジェフリー達がボス部屋に入っていくと扉が閉まっていく。
「本来の同世代ってあんな感じなのかもな。」
「そうかも知れないですね。ロードプルフでもブロンズランク以上って年上だけでしたし。」
「本気で強くなろうとしてねぇだけだろ?甘えてる内は無理だと思うけどな。」
ケントの言うとおりだと思う。多分オレ達のようにダンジョンに篭もりっぱなしで1日100匹以上の魔物を倒し続けるとかは、絶対しないだろうな。
「まあ、人それぞれだ。オレは死ぬのも嫌だけど、痛い思いをするのも嫌だから強くなる。それだけだ。」
その時ボス部屋の扉が開かれる。
「アイツ等早いじゃねぇか。少し見直したぜ。」
「んじゃ、行こう。」
最近仕事が忙しくなってきて、毎日更新は辛くなってきました。
近く一日おきにするかもしれませんが、ご了承ください。