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第119話 和食

「お客さん、食事の準備が出来ましたよ。食堂へお越し下され。」


 焦った……いや、別にやましい事は無いよ。今はもうね。

 さっきまで?ノーコメントでお願いします。


 その事は置いといて、食事の時間だ。


「ルナ。飯だぞ。そろそろ起きろよ。」


「はい?朝です?」


「いや、夜だ。そこに座るなり直ぐに寝ちゃってたぞ。」


「……あ、そうなのです。……大丈夫……なのです。」


 何かを思い出したかのように顔を触ってみている。何かあったのだろうか。


「どうした?何かあったのか?」


「……いや、ヨダレ垂らしてないか気になったのです。大丈夫なのです。」


「へ?……あーっはっはっはっ!何?そんな事気にするんだな。」


「垂らしてたら恥ずかしいのです……レイジくんには見られたくないのです……」


 顔を真っ赤にして照れている。可愛い奴だ。


「うう……ルナちゃん可愛すぎ……狡い!」


「ええーー!何が狡いのです?分からないのです。」


 何て和やかな女子トークなんだ。オレの存在が薄くなりそうだわ。


「おーい!何楽しそうな事してんだ?飯行こうぜー。」


 ケント達も来たようだ。食堂へ向かうか。


 飯は囲炉裏を囲んで……ではなく、まさかの掘りごたつ風だ。


「掘りごたつ?マジかよ!最高だわ。」


 もうテンションが上がりっぱなしだ。

 でも自分の家にはいらないんだよな。不思議だ。


「ファーッファッファッファッ、お前さん掘りごたつを知っているのか。大したもんじゃ。」


 料理を運んでいるアブ爺さんがオレの知識に感心している。

 多分イージパン諸島の物なら殆ど分かる自信があるな。


「なあアブ爺さん、この料理は何だ?」


「これはもずく酢じゃ。イージパンの前菜料理じゃな。」


 やはりもずく酢か。……アブ爺さん、すまない。オレの数少ない嫌いな料理なんだ……


「ケント、オレのも食ってくれ。」


「え?レイジさんが食べないなんて、初めてじゃないですか?」


「どうしたんだ?大丈夫かよ?」


「オレの前世の話はしただろ?そこの料理でもあるんだよ。数少ない嫌いな料理の一つだ。」


 皆が顔を見合わせてから食べ始める。

 皆普通に食べれるのか。凄いな。


「普通に美味しいじゃないですか。レイジさん、今なら食べれると思いますよ。」


「ですよね。多分嫌な思い出の所為で余計に嫌だと思ってるだけなのでは?」


 ミルファもメイも勧めなくてよろしい。次のを待とう。


 魚料理は流石に和食っぽいだけで和食にはなってなかった。

 肉料理が来ると思ったら、此処でメインディッシュが来たようだ。

 出てきたのはまさかのカツ丼だ。いや、普通だな!と、思ったのだが、よく考えてみたら普通では考えられなかった。

 そう、米を使用したカツ丼だ。米が出てくる事自体普通ではなかった。


「アブ爺さん!これ……カツ丼だよな?米なんて入手出来るのか?」


「お前さん、ホントに何でも知っておるのぉ。確かに米じゃ。入手経路は秘密じゃよ。」


 まあ、そうだよな。これは絶対自力で見つけてみせるぞ。オレのアイテムボックスの中の米が無くなる前には絶対にな。


「はふっ、ほへ、はいほうにほいひいほへふ。」


 このカツ丼は熱々で来てるようだ。ルナが何言ってるのかさっぱり分からない。


「レイジさん以外にこの料理を知ってる人がいるんですね。これなら親子丼とかも出てきそうじゃないですか?」


「なぬ?お嬢ちゃん、親子丼を知ってるのか?イージパンに行った事は?」


「ないですけど、このレイジさんが作ってくれた事があるので。」


「お前さんが……では、スシを知っておるのか?」


 何か嫌な予感がするな。素直に答えるべきか、知らないふりをするか、どっちが正解だ?


「レイジさん、あの時作ってませんでした?」


 ミルファ!先に答えちゃダメだろ!クソ……もう誤魔化せないな。素直に言うか。


「そうだな。一応は知ってるぞ。てか、寿司にはまず醤油が……」


 その時オレにはある疑問が浮かんだ。

 もずく酢にもカツ丼にもさっきの魚料理にも、全ての料理に醤油が使われていた。

 この宿、アブ爺さんは醤油を持っているのか?


「なあ、アブ爺さん、醤油ってどうやって手に入れたんだ?」


「やはり醤油の事も知っておるか。儂が作っておるのじゃ。大豆も栽培してな。前菜に枝豆を出すか迷ったくらいじゃ。あれは素晴らしい食材じゃな。その過程毎に姿を変えるのに、どれをとっても素晴らしく美味い。何故広まらんのか理解が出来ん。」


 それに関しては凄まじく同意できる。枝豆、大豆、もやしの成長過程に加え、大豆からの進化先の量が半端ないのはよく知ってるからな。

 だが知ってるのは作れるという事だけであり、作り方は何一つ知らない。

 醤油、味噌、豆腐に納豆。どれをとっても作り方は分からない。

 なのにアブ爺さんは作り出したのだ。これ以上なく賞賛に値するだろう。


「なあ、アブ爺さん。醤油って大量生産して商品化ってしないのか?」


「そうじゃな。出来ることならしたいと思う。じゃが、先立つものがない。工場としてやっていくには初期費用として1億Gはないとスタート出来んわ。」


「つまり1億あれば商品化したいと。」


 今後の事を考えると醤油は必須調味料だ。今はオレの持つストックがあるからいいが、その数量は有限だからな。

 ファスエッジダンジョンに行けばいくらでも出せるが、あれは本来やってはいけない領域なのだろう。一応持ち出しも制限されてるからな。

 そう考えたら、いつでも入手出来る体制は整えておいた方がいいと思う。


「よし、決めた。オレが1億出す。その代わり、オレが欲しい分量の醤油は融通するようにしてほしい。どうだろうか?」


 1億くらいなら普通に持ってるからな。痛手にもならない。

 それに金は使わなきゃ意味ないよな。


「お前さん、そんな大金持っとるのか?あるなら願ったりじゃが……」


 アブ爺さんの目の前にプラチナ貨100枚を出してやった。現物があれば疑いも無いだろう。


「……いいんじゃな?ホントに作るぞ。そうなったら金は返せんぞ。」


「ああ。オレが欲しいんだ。宜しく頼む。」


「任された!この街を醤油発祥の地にしてやるわい。見ておれよ。」


 アブ爺さんの目に輝きが戻ったようだ。

 この地から醤油が広まってくれたら、オレの食事も豊かになるのだ。これはその為の投資という事で問題はない。


 順調にいけば1年程で出来るのかな?気長に待とう。

 イージパンに行けばいいとか、そんな考えは良くないからな。ちゃんと待ってるさ。


「それで、さっきの話じゃが、スシの作り方は知っとるのか?」


 アブ爺さんはしっかり覚えていたようだ。

 知らないふりするのも何だしな。本当の事を話そう。


「ああ。知ってる。アブ爺さんは知らないのか?」


「色々試行錯誤はしてるのじゃが、米の味が違う気がしてならんのじゃ。どうにかならんかのぉ。」


「え?只の酢飯じゃダメなのか?」


 寿司といえば酢飯だ。それ以外は作った事がある訳じゃないから分からない。


「スメシとな?……スメシ……酢飯……そうか!酢じゃ!酢を使うんじゃ!レイジよ。ありがとうのぉ。」


 それだけだったようだ。シャリに酢飯を使わなければあの味にはならないよな。

 これなら此処に泊まってる間に寿司も期待出来そうだ。


 食後、酒が出ると聞いて日本酒を期待していたのだが、出てきたのが普通にエールだった事に肩を落としつつも、十分に満足出来る食事だった事には変わりない。

 本当に美味かった事を伝え、部屋へと戻り明日の予定を話し合う。


「明日からダンジョンで徹底的に狩りをしようか。今のジョブのレベリングと、オレは使った金を稼がなきゃいけないしな。」


「っしゃあ!待ってたぜ。今回で重騎士(ヘビーナイト)まで一気にいってみせる!」


「ウチも獣騎士(ビーストナイト)になるのです。」


 字面はどっちも【じゅうきし】だが、読み方が違うんだな。

 二人のジョブをメニュー越しに見てるオレだけが抱く疑問だからこそ、誰にも言わずに一人で納得している。


「あの……私は今後成長出来そうですか?少し不安で……」


「メイはヒーラーとしてトコトン極めて行けばいいんじゃないか?神官から司祭になれるように、修道女(シスター)からの上位職があるかも知れないし。」


「あ!そうですね。うん。頑張ります!」


 何か思い出したように納得したが、修道女の上位互換ジョブを知ってるのだろうか?

 もしかしたら教会の知識で門外不出とかかもな。聞かない方がいいか。


「ミルファは先が長い。焦らずじっくり行こう。」


「分かってます。まずは魔弓士。全てはそこからです。」


 ミルファは魔弓士を目指しているが、ディルのように狙撃手(スナイパー)も考えているようだ。

 その為にはやらなければいけない事もあるが、とりあえず目の前の魔弓士を優先させるとの事。

 

 オレは出来れば騎士を育てたい。

 そんな話をした所、ケントがパルチザンを貸してくれるという。

 素振りに精を出し、槍スキルを無事獲得。僧侶を外し、騎士を5ジョブに設定し、明日からのダンジョンアタックの準備は完了した。

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