第117話 ライトレイク
ヘルゼストを出発して三日。予定では今日中にはライトレイクに到着出来るはずだ。
昨日からは周辺に魔物が現れ始め、ワイバーンの活動圏内を離れたと実感出来た。
とは言っても、一日を通して現れた魔物は5匹だけだ。まあ、そんな頻繁に魔物が出現していたら行商など出来ないからな。
今日はもうすぐ正午になろうかという時間だが、此処まで魔物は現れていない。
出来れば道中も少しレベルを上げたかったのだが、そう上手くはいかないみたいだ。
昨日一日ケントとメイに御者を任せていたので、今日はオレ達が御者をしている。
とりあえずはあの二人も問題なく操作出来るようになったので、昨日はオレも荷台でゆっくり出来た。
布団を出して敷き詰めているから、揺れも全然問題ない。ケントは羨ましがっていたけどな。
「もうすぐライトレイクが見えてくるかな。」
「そうなのです?」
ルナは御者台の上に立ち上がり周辺を見渡す。が、何も見えないようで肩を落として座り込んだ。
見えないのも当然だ。今は清恋湖から少し離れて途中の丘を迂回している最中なのだから。
今右手に見えている林が途切れて、清恋湖が再度見えるようになったら、ライトレイクも見えてくるはずだ。
そこから走ること5分。林が途切れようとしていた。
「あ!木がなくなるのです……うわぁ!」
眼前に広がる清恋湖に光が反射して光り輝いている。
「これは凄いな。ヘルゼストから見た景色に負けないくらいの絶景だわ。」
「綺麗……レイジさんとこんな景色見れるなんて、凄く嬉しいです。」
その景色のあまりの美しさにミルファはオレに寄りかかったまま、うっとりしている。ルナは放心状態になっているが大丈夫なのか?
「ルナ!おい、ルナ!大丈夫か!」
「は、はいなのです。凄く綺麗で見入っちゃってたのです。」
「さあ、このカーブを抜けたらライトレイクが見えてくるぞ。」
馬車は街道に沿って左へ大きく弧を描いていく。そして遥か前方に大きな街がその姿を現す。
「見えたのです!」
湖の町ライトレイク。人口は11万人とロードプルフと同等だ。まあ、この情報も本に書いてあった情報であり、何年前の情報か分からないけど。
湖畔に作られた町とは、なかなか洒落た事をするものだ。
街の入口は北門と南門の二箇所あり、今回オレ達は北門から街へと入る事になる。
南門は王都やヒュバルツ方面だな。街を離れる際には南門から出る事になりそうだ。
入街審査は商人も冒険者も全て一括で行われてる。勿論貴族だけは別に設けられているが。
現在入街審査を待ってる列は極僅かで、10分も待たずに審査を受ける事が出来そうだ。
「む!お前らは商人ではないな?旅人か?」
「まあ、旅人と言えば確かにそうだな。ほら、冒険者カードだ。」
宛は無いが旅をしてるのは間違いない。旅人かと問われたら旅人だと言えるだろう。その前に冒険者であるのでそれは必ず伝えるけどな。
「ほう。シルバーランク冒険者か。若いのに大したもんだ。全部で五人……間違いないな。よし!行っていいぞ。」
ヘルゼストのような過剰反応はしないな。それはそうか。ロードプルフと同等の大きさの街だという事は、シルバーランクやゴールドランクは結構いるはずだ。
シルバーランクが一人来たくらいで驚いてはいられないよな。
てか、ちょっと調子に乗って自意識過剰だったかも……少し自重しなければ。
聞くと、冒険者ギルドに馬車を預ける厩舎があるという事なので、まずは冒険者ギルドへ向かうとする。
街の中も、確かにロードプルフと同等の賑やかさだ。足りなくなってる物資は此処で買い足せば良さそうだな。
街に入って直ぐの所に冒険者ギルドがあった。だが、どこにも馬車を止める事が出来る厩舎などない。
おかしいと思いつつも、邪魔にならないであろう端に馬車を寄せ、冒険者ギルドへ入っていく。
扉を開け中へ入ると、何とも殺風景な建物であった。カウンター以外何もない。それどころか、魔物独特の嫌な臭いが充満しているのだ。
「いらっしゃい。早い帰りだね。そこに全部出しちゃっていいよ。」
ギルドの職員は何を聞く事もなくそこに出せという。何を出せというのか。
「あー、申し訳ない。オレ達は今この街に着いたばかりで何も知らないんだ。此処は冒険者ギルドでいいんだろう?」
「え?なーんだ。旅の冒険者かな?此処はギルドの素材買取専門の出張所さ。
この街は北と南に門があるし、メインは湖畔のダンジョンだからね。其々の場所の近くにこんな感じの買取出張所を出してるのさ。」
「そうだったんだ。それは持ってきた際は楽だな。わざわざ重たい魔物をギルドまで運ばなくていいから。」
「その通り。冒険者からの強い要望でこのスタイルになったんだ。ところで今この街に来たと言ってたろ?道中討伐した魔物とかあったら買い取るけど、何かないの?」
道中は馬車を止めないから倒した魔物も回収してないんだよな。
手ぶらもなんだし、オークマジシャンを1匹出しておくか。
「基本倒した魔物は放置してるんだけど、コレだけは回収しておいたんだ。どうだ!」
カモフラージュの鞄から出すようにオークマジシャンをそこに出した。
この小さい鞄からオークマジシャンが出てくるのは絵面的にもおかしいが、突っ込まれたら適当に言い訳するから気にしない。
「これ……オーク?あ、違う。オークマジシャンじゃん!どうしたんだ、これ?」
「あー、少し前にロードプルフでスタンピードあったのは知ってるか?その際にはぐれてたのがいてな。それを討伐したんだ。」
はい、嘘です。これはファスエッジダンジョンのオークマジシャンだ。51階層まで行ったとなったら面倒だからな。いざという時は仕方ないが、極力面倒からは避けていきたい。
「ロードプルフから来たのか。それにそれマジックバッグだろ?凄いな。
あ、ギルドカードはあるか?一応身分は確認しないといけないんだ。」
結構ラフな感じで話しかけてくるが、そこはしっかりしてるんだな。好感が持てる人だ。
「お!シルバーランク?その若さで……へー、凄い人がこの街に来たもんだな。はい、いいよ。
査定に20分くらい掛かるけど、どうする?街のギルド本部に顔出すなら先行ってきてもいいし。」
20分くらいなら待っても問題ないという事で、馬車で待つ事にした。
此処で待ってもいいが、この匂いの中ずっといるのは辛いからな。
20分も掛からずに査定結果が出たようで、その金額は60万Gとの事だ。ロードプルフと値段は変わらない。皆しっかりした仕事をしているという事だろう。
此処に金は置いておらず、査定が記された番号札を渡された。
「これを街の中心部にあるギルド本部へ持って行ってくれるか?そこで金は貰えるはずだから。」
「分かった。ありがとう。」
番号札を持ち街の中心部にあるというギルド本部を目指す事になった。どっちにしても行くつもりだったけどそこは目的が出来たという事で丁度いい。
それにしても面白い情報が入ったな。湖畔のダンジョンか……レベリングの為にも是非行ってみたいと思う。
ギルド本部とやらまでは約5キロ程あるらしい。思ったより遠いな。そりゃあ出張所を作るわ。いくらなんでも遠すぎる。
馬車で行くので辛くはない。ただ、石畳の地面の為揺れが大きい。雨の日は歩きやすいが、馬車には辛い作りだな。
暫く走っていると、剣と盾の看板が見えてきた。此処がギルド本部で間違いないだろう。
てか、ギルド本部という表現はなんとかならないのだろうか。別に此処が全ギルドの本部でもないのに、本部と名付けたら紛らわしいと思う。まあ、オレが言ったところで意味はないのだが。
ギルド本部に隣接されるように馬車用の厩舎があった。
そこに馬車を預けてギルドへと入っていく。
ギルドの中は活気に溢れていた。
換金する者もいれば、依頼を受ける者もいる。パーティメンバーの募集まで行ってる者もいた。
「凄いな!ロードプルフなんて比べ物にならないくらい賑やかだぞ。」
「ホントですね。これも街中にダンジョンがあるからでしょうか。」
「なんだ?お前達、この街は初めてか?」
横から現れ話しかけてきたのは30代くらいの渋いおっさんだ。元々アラフォーだったオレが言うのもおかしな話だけど、今のオレは17歳だから問題はない。
「ああ、ロードプルフから来たんだ。あんたは?」
「おお、悪いな。俺はハロルド。このライトレイクで新人教育活動をしているシルバーランクの高斧戦士だ。」
「オレはレイジ。シルバーランクの魔法戦士だな。このパーティのリーダーをしている。この番号札を何処に持っていけばいいか知りたいんだけど、教えてもらえるか?」
「お?換金か。外で狩ってきた魔物の換金札は4番の受付だ。しかし、この若さでシルバーランクとは恐れ入るぜ。まだまだルーキーだと思って話しかけたんだが、見当違いもいいとこだ。恐れ入った。」
「まあ、そこは努力の成果だな。ありがとう。助かったよ。」
「気にすんな。じゃあな。」
ハロルドか。気のいいおっさんだったな。
さて、4番の受付だったな。丁度誰もいない所だ。
「換金札の受付はここでいいのか?」
「はい、いらっしゃいませ。此方で間違いありません。」
換金札を渡すとかなり驚いた表情をしている。何かおかしい点でもあったのだろうか。
「これって外で狩った魔物素材の代金ですよね?それでこの金額ですか。信じられません……どんな魔物だったのか聞かせてもらえませんか?」
先程出張所でした説明をそのまま伝えると、納得した様子で換金を始めた。
外の野生の魔物で60万G稼ぐのはこの辺では珍しいのかもしれない。一応注意しておくか。
「お待たせしました。こちら60万Gお確かめください。」
「あ、聞きたい事があるんだけどいいか?」
「はい、ホントはそういうのは案内でやってるんですが、このカウンターは暇なので問題ないです。」
「オレ達は今日初めてこの街に来たんだけど、ダンジョンって誰でも入って大丈夫なのか?」
「入口でギルドカードの提示が求められますが、それだけですね。ランクに応じてオススメフロアが掲示されておりますので、そちらを参考にして頂ければ危険も少ないかと思われます。
初回はそのフロアまでたどり着くのに苦労はしますが、二回目からは移転装置で移動できますので、無駄なく魔物の討伐が出来るかと思います。勿論費用は戴きますけどね。」
「ダンジョンの場所は?」
「当ギルドの地下にダンジョン直通の入口がございます。あちらの扉から行く事が出来ます。」
受付嬢が示した場所には確かに扉があり、丁度冒険者が出てきた。狩りを終え戻ってきたのだろう。
「分かった。丁寧な説明ありがとう。」
「いえ、頑張ってください。」
換金も終え、ダンジョンの場所も分かった。後は宿探しか。
まだ時間もある事だし、ゆっくり街中で情報を仕入れよう。