第114話 ワイバーンをつまみにパーティー
獅子の咆哮亭へ戻ると、皆で集まりメイの話を聴く事になった。
話はかつてメイが冒険者をしていた頃の話だ。
「ケントとミルファちゃんは覚えてる?孤児院によく来ていた冒険者のマリウスさん。私はマリウスさんのパーティに入っていたの。孤児院に遊びに来た際に回復要員が欲しいと言ってたので迷う事なく立候補したわ。マザーは反対して私は追放される形になったんだけどね。」
メイが冒険者として旅たった経緯。そしてそこから約一年、ロードプルフを中心に冒険者家業をしていたようだ。
そして、ワイバーンの噂を聞き、ヘルゼストへ来たようだ。
「そこで出会ったのがあの巨大なワイバーン。同じ個体かは分からないけど、私達は恐怖で動けなくなり、とても戦闘をできる状態じゃなかった。そこで死ぬものだと思い諦めたわ。
そんな中マリウスさんは一人ワイバーンに立ち向かい、私達パーティメンバーに逃げるよう指示を出した。恐怖で一杯一杯だった私は必死で逃げたわ。
ヒルゼストに戻ってきて始めてマリウスさんが一人囮になってくれた事実を知ったの。そして、マリウスさんは様子を見に行った冒険者によって頭部だけが帰ってきたわ。」
ケントとミルファが幼き日に憧れた冒険者マリウス。その最期の姿がメイによって語られた。
今回の件で無念は晴らせたとメイは言っていたが、多分悔しさは残っているだろう。
2度目の遭遇で何も出来なかったのだから。だが、その事はメイ自身のこれからの成長に繋がるのだろう。
ワイバーンの討伐から一夜明け、オレの体も普通に歩けるくらいには回復していた
その為、とりあえず昨夜は入れなかった風呂に朝から入って、色々とスッキリさせておく。
風呂については昨夜は大変だった。ミルファとルナがオレを風呂に入れると言って聞かなかったからな。
二人にそこまでして貰えるのは大変ありがたいし嬉しい事なのだが、あの状態ではその状況を楽しむ事も出来ないし、何より二人にそこまでしてもらう訳にはいかないので遠慮しておいた。
勿論昨夜は何も口にしていない。傷を塞いだとはいえ、胃も腸も大半を失って飛び出てたくらいだからな。大事を取って昨日は何も食べなかった。
お陰で今は最高に空腹だ。今ならあの激辛シリーズでも普通に食べる事が出来そうだな。
食堂に行くと何やらざわついていた。何かあったのだろうか?
「お客様?あのワイバーンを討伐したっていうのは本当の事なんでしょうか?」
此方に走ってやってきたマーサが訪ねてきた。このざわめきはそういう事か。
「ああ。一応は。てか、きっつい反撃を受けたんであまり大っぴらにはしたくないんです。すみません。
えーと、食事いいですか?」
「あ、はい。申し訳ございません。どうぞこちらへ。」
こう言っておけばこれ以上追求される事もないだろう。
我ながらナイスなアイデアだな。
一日ぶりの食事は格別に美味かった。夕食抜きだなんてこの世界に来て初めての事だったからな。
食事を終えるとその足で真っ直ぐ冒険者ギルドを目指す。
ゆっくりしてもいいんだが、持ってる魔物素材の査定がある。また何時ものように時間が掛かるだろうから、早い時間に行き明日の朝には換金出来るようにしたい。
それにしてもこの時間のギルドがこんなに静かでいいのだろうか?
そんな事を思っていたのだが、冒険者達がワイバーンの解体を行っているらしい。
元から規模の小さいヘルゼスト冒険者ギルドでは、冒険者自ら解体をするのが当たり前になっているとか。オレには到底出来そうにない。
「あ、いらっしゃいませ、レイジさん。依頼達成報告ですよね。お伺いしております。何でも魔物を丸ごとお持ちだとか。
隣の倉庫でワイバーンを解体してますので、そちらに出して頂いても宜しいでしょうか?」
解体してるのは隣の建物だったのか。静かな訳だ。
ギルドを出て隣の建物へ向かうと、確かに声が響いている。
何人もの人がこの中にいるようだ。
扉を開けるとワイバーンの死臭が鼻を突いてくる。血の匂いも混ざりかなり酷い匂いだ。
「あそこのスペースでおねがいします。」
受付嬢に案内された場所に昨日倒した魔物を出していく。
アイテムボックスのカモフラージュ用の鞄も久々に使っている。
ジャイアントアントから始まり、イビルワームにストンポテト、サハギンにマッドドッグ、キラークラブと水鼬、水鼬はオレが一人で討伐してきた魔物だ。
オオダンゴムシ、人食いイナゴにゴブリン、アーマークロウ、全10種31匹とアクアスライムの魔石を2つを出した。
「その鞄にどうやってこれだけの魔物が?それってマジックアイテムなんですか?初めて見ました。凄いですね。」
受付嬢の驚きは、魔物ではなく鞄の方だったようだ。
この反応も新鮮だな。ロードプルフではオーグストンが担当になってからはそんな反応は無かったし。
「えーと……はい。伺っていた通り10種の依頼完了確認しました。これらの素材は売却でよろしかったですか?」
「問題ない。持ってても邪魔なだけだし。」
「畏まりました。では報酬をお渡ししますので、受付へお越し下さい。」
再び受付へ向かうのだが、この時初めて辺りが静かになってる事に気付いた。
ワイバーンを解体していた冒険者達がその手を止めて此方をガン見していたのだ。
その多くは羨望の眼差しであったが、中には嫉妬に近い視線もあり、明日この街を発つまではヤバそうな雰囲気となっていた。
とりあえずこのままじゃ闇討でもしそうな雰囲気だったので、殺気を込めてその数人を睨みつけておいた。
相手もその殺気を感じたのだろう。直ぐに目を逸らしていた。
受付の前で暫く待っていると、ギルド長ロランドと共にさっきの受付嬢が戻ってきた。
「昨日ぶりだな。よく休めたか?まあ、動けるようになって何よりだ。とりあえずこれが今回の報酬になる受け取ってくれ。」
そう言い渡された袋の中にはプラチナ貨が50枚以上は入っていた。
「思ったより多いですね。これだとギルドは赤字じゃないですか?」
「はっはっはっ。大丈夫だ。ギリギリだが赤字にはならない。それより今後あのモンスターイーターに悩まされる事が無くなった方が大きいからな。これにはその感謝も含まれてると思ってくれ。」
そういう事か。まあ、貰えるものは貰うけど。
「それと今夜は、この街の冒険者や近しい関係者で集まってワイバーン肉パーティーでもと思ってるんだ。お前達は討伐した本人だからな。是非とも参加して欲しいんだ。」
ワイバーン肉って美味いか分からないんじゃないのか?いや、別にいいけど。
パーティーと名のつくものは参加したい気持ちはある。だが、オレの体調と先程の連中が気になるからな。どうしたものか……
「メンバーで話し合って決めます。オレの体調も万全ではないので。」
「そうか。場所はこのギルド正面の馬車待機所だ。気が向いたら参加してくれ。」
一応参加しなくても顔だけは出す旨を伝え、ギルドを離れた。
「なあ、別に参加しても良かったんじゃねぇか?」
「ケントはさっきワイバーンを解体していた冒険者は気にならなかったか?」
「ん?なんかあったのか?オレは特に何も気になんなかったけど。」
「三人くらいだけどな。明らかに悪意を持ってこっちを見ていたぞ。参加してベロベロに酔っ払ったら間違いなく闇討に合うだろうな。」
「マジかよ!だったらよ……」
ケントは小声でオレに考えを伝えてきた。
身の程を知らない冒険者がいるならお仕置きをしてやろうと。
「分かった。じゃあ皆で参加するか。」
「やったのです!肉パーティーなのです。」
「ギルドのパーティーってゴブリンのとき以来ですね。楽しみです。」
「そうだな。あのケントがマッドネスサイスに入るのにミルファと揉めた時だな。」
「それはもういいだろ。勝手したのは悪かったよ。」
と、まあこんな感じでパーティーへの参加を決め、夜までは自由に過ごす事にした。
オレは体調が悪いままだったから、宿で休む事にしたのだが、ミルファとルナも一緒すると言って聞かず、三人仲良くまったり過ごす事にしたのだ。
いや、まったりでは無かったか……お陰で体調が全然良くならなかったのは内緒だ。
ケントとメイは外にデートしに行ってたらしい。オレ達三人だけしか部屋にいないんだ。その結果がこの通り。全く回復しなかったという訳だ。
パーティーに行く前にハイヒールを掛けて貰い、多少の戦闘なら問題ないくらいは良くなったので、襲われても問題ないはずだ。
そして、ギルドのパーティーへ参加した。
「おお!来てくれたか!ありがたい。丁度始まる所だ。レイジには開始前のスピーチをしてもらわねばならないからな。」
は?何?オレが開始前のスピーチを?聞いてないぞ。てか、無理だって!
前世でさえそんな事した記憶がないし、そんなキャラでもないだろ!
「ホント勘弁して下さい。そういう目立ち方はしたくないので。」
「そうか……無理矢理させる訳にもいかんな。ではせめて乾杯だけでもお願いできるか?」
「まあ、それだけだったらいいか。分かりました。それだけは引き受けます。」
「おお!じゃあこっちに来てくれ。」
ロランドに引きずられるように連れて行かれ、特別に設置された台の上に登らされた。
基本ロランドが話してはいるが、オレはその隣に立っているんだ。いるだけで目立ってしまっている。
これだったら断っても意味ないだろ!なんて思っても後の祭りだ。
「では、乾杯をワイバーン討伐の英雄レイジにお願いしよう。」
はあ……仕方ない。やるか。
「オレがシルバーランクのレイジだ。皆にはワイバーンの運搬から解体まで本当に世話になった。
ただ討伐しただけのオレがこの場で挨拶するのもおこがましいが、この乾杯を挨拶とさせてもらおう。
大いに騒いで飲みまくれ!カンパーイ!」
「うおおォォーー!!」
あー、こんなのオレのキャラじゃないでしょうに……
「お疲れ様です。レイジさん。素敵でした!」
ああ、やっぱりミルファは良い娘だわ。今すぐ抱きしめたくなるな。
しかし、あの冒険者三人はこの場であんな殺気立ててたら直ぐに気付かれるだろうに、それが分からないのか。
ここからの帰り道に確実に襲って来るだろうな。
まあ、酒は程々にして、適当に楽しむか。ワイバーンも味見してみたいしな。
それからは集まってる冒険者やギルド関係者、街のお偉いさん方が入れ替わり挨拶に来るのを相手しながらもその雰囲気を楽しんだ。
あの三人は既にいないな。襲撃準備でもしに行ったのか。じゃあオレ達も行動に移すか。
「ロランドさん、そろそろオレ達は宿に帰りますね。今日はありがとうございました。」
「もう帰るのか。夜はまだまだこれからだと言うのに。」
「ええ、もう一仕事残ってるのでね。まあ、直ぐに終わると思いますが、早く終わらせないと落ち着かないので。」
「そうか、無理せずにゆっくり休んでくれ。本当にありがとな。」
「ええ。明日出発前に今日出した魔物の売却報酬を取りに来ますから、お願いしますね。」
「おお、任せとけ。既に集計は終わってるから、金を準備して待ってるぞ。」
ロランドはオレ達が去るまで見送ってくれた。
多分直ぐに戻ってくると思うけどな。三人の襲撃犯を引き連れて。