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第113話 医療室にて

「ぐっ、ごほっ!」


「レ、レイジさん!」


 最後の力を振り絞りドラゴンクローを放ったワイバーンは、そのまま息絶えている。

 だが、その振り下ろされた爪はオレの脇腹に突き刺さり、内蔵までも深く抉りとっていた。


「待ってください。今回復させますから。」


 ミルファがオレを回復してくれるようだ。それなら一安心だな……

 その後の記憶はない。どうやら意識を失ってしまったようだ。

 その次に目を覚ましたオレが目にしたのは知らない天井だった。

 いや、口にはしていない。後から言えば良かったと後悔はしたけど。


「ん……どこだ、ここ?」


「あ、レイジさん……レイジさん、よかった、本当によかった。」


 目を覚ますなり、目の前にいたミルファがいきなり抱きついてきた。

 先ずは今がどういう状態なのかが知りたい。

 てか、苦しい。ミルファ!頼むから呼吸くらいさせてくれ!


「あ、すみません。苦しかったですか?私ったら嬉しくてつい……」


「はあっはあっ、いや、いいけど、先ず此処はどこ?」


「あ、ヘルゼスト冒険者ギルドの医療室です。レイジさん、ワイバーンを倒した後、お腹を抉られた傷が深すぎてそのまま気絶してたんです。

 一応ハイヒールを掛けて傷は塞いだんですけど、全然目を覚まさなくて……」


「どれくらい気を失ってたんだ?」


「4時間くらいですね。ルナとケントはギルド職員を引き連れワイバーンの回収に行ってます。

 メイさんはさっきまで此処に居たんですけど、ちょっと前に席を外してそのままです。」


 4時間か。結構長いな。て事はもう夜じゃないか?ルナは大丈夫なのか?」


「あ、既に夜ですけど危険はほぼ無いですよ。此処に来る際にも魔物は一匹も出ませんでしたから。」


 そうか。元からワイバーンによって減らされてた所に、オレ達が倒したから周辺の魔物がいなくなってるのか。

 という事はこの周辺は当面は平和な日々が続くかもな。


 そんな状況を聞いていると、メイが戻ってきた。


「ミルファちゃん、ケント達が帰ってきたよ。あ、レイジさん!良かった、目を覚ましたんですね。」


「迷惑かけたな。申し訳ない。とりあえず大丈夫だから。」


「大丈夫じゃないですよ!胃と腸が抉れて飛び出てたんですから!生きてるのが不思議なくらいですよ!もう少しミルファちゃんやルナちゃんの気持ちも考えてください。」


「あ……はい。すみません。」


「ふふっ、ケントが怪我する度この調子だから、ケントは余計にメイさんに頭が上がらないんですよ。」


「ああ、今少しケントの気持ちが分かったわ。アイツも苦労してるんだな。」


 怪我に対して非常に細かいメイに言い負かされたオレは、少しばかりケントに同情しつつも、命を決して軽んじないメイの姿勢に安心を覚えた。


「メイ、ワイバーンの事を知ってる風だったけど、どういうことだ?」


 言いたくないなら別に構わない。しかし、仲間として聞いておいた方がいいと思った。


「……すみません。それについてはケントも居る前でお話します。ケントやミルファちゃんにとっても無関係な話じゃないので。」


「んー、わかった。で、ケント達が帰ってきたって?オレも行くわ…………あれ?足に力が入らねぇ……」


「血の流しすぎです。貧血状態になってるんだと思います。一晩休めば動けるようにはなると思いますよ。」


「……マジか。しゃーないな。でも、討伐依頼の完了報告はどうする?」


「明日でいいと思いますよ。ケントが上手く話をしてくれると思います。」


 行ってるのがケントとルナだよな。オレ的には少々不安だ。


「ただいまなのです。……レイジくん?……目を覚ましたのです。よかったのです。」


 ワイバーンを回収しに行ってたルナが、帰ってきて直ぐに此処に来てくれたようだ。


「心配かけたな。すまなかった。」


「ウチの方こそごめんなさいなのです。あの時恐怖で何も出来なかったのです。ウチがしっかり動けてれば、レイジくんが怪我をする事は無かったのです。」


「そうね。私も同じです。私もしっかり動けてレイジさんにガードを掛けていれば怪我も半分で済んだのかもしれません。申し訳ありません。」


 ルナもメイも動けなかった事に責任を感じてるようだが、オレは逆にそれで良かったと思っている。

 オレとミルファ意外が攻撃を仕掛けて、ワイバーンの注意がそっちに向いてたら、その被害はこんなもんでは済まなかったはずだ、

 そう考えたら、あそこでスタン状態になってて良かったと思える。


「まあ、皆無事で何よりだ。ケントも戻ってるんだろ?今日と明日はしっかり休んで、その後この街を立とう。」


 そこは予定通り行けるだろう。

 明日も休めば、オレも回復して動いても問題ないはずだ。



「レイジが目を覚ましたって?」


 言ってた側からケントが戻ってきた。


「お疲れ。心配かけたな。もう大丈夫だ。」


「おお。ホントに大丈夫そうだな。……レイジ、任せっきりにしてしまって申し訳ない。もっと強くなって、お前と並んで戦えるようになってみせるから、許してくれ。」


 いや、そんな畏まって謝られてもな。別に怒ってもいないし。

 でも、どうせだからからかってやるか。


「そうだな。じゃあここで盛大にメイへの愛を叫んでくれ。それでチャラにしようか。」


「おう。そんな事で……ん?ちょっ……待て待て。それは違うだろ。もっと戦いに関することでな。」


「はあっ。ケントは所詮そんなもんか。自分の気持ちを言葉にする事すら出来ないんじゃあ、ワイバーンにも立ち向かえないよな。」


 ケントをけしかける為の見え見えの挑発である。


「そうなのか?そうか……俺に足りないのはそういう事だったのか。」


 お?まさか信じたのか?


「分かった。それで更なる高みに登れるならしっかり自分の気持ちを言葉にしなきゃいけねぇな。

 ……メイさん、俺はメイさんの事を誰よりも想っている。この気持ちだけは絶対に譲れねぇ。だから……これからも俺の傍で支え続けてくれないか?」


 おお!マジか!スゲェかっけェェェェ!!

 ケント!見直したぞ!


「ケント……凄くありがたいけどね……レイジさんにいいように操られてどうするの?」


「え?それってどういう……」


 メイは流石に冷静だったな。まあ、ケントの素直な気持ちを聞けたのでいいでしょ。


「レイジ!てめぇコルァ!」


 ケントの怒りの声と皆の笑い声がそこら中に木霊している。

 そのタイミングで医療室へ入ってきたギルド長ロランドは、その状況についていけずに困っていた。


「あ!ロランドさん!どうも。」


「此処は賑やかだな。医療室ってもっとしんみりとした雰囲気だったはずだが。」


 流石に騒ぎ過ぎたな。申し訳ない事をした。


「まあいい。ワイバーンを見させてもらった。あれは毎年この季節になったら2週間だけこの地に滞在する個体で、通称モンスターイーターと呼ばれていた魔物だ。

 今までも様々な冒険者や軍も討伐に向かったのだが、何れも失敗に終わっていた。最初の討伐作戦から15年、漸く討伐に成功したのだ。本当に感謝する。ありがとう。」


 そんな特別な魔物だったのか。てか、そんなのがいるなら先に言って欲しかった。


「それ、貰ったリストに書いてなかったんですけど、どういうことですか?」


「あー、それなんだが……申し訳ない。先日の行方不明騒ぎですっかり忘れてしまっていたのだ。本当に申し訳ない。」


 単純に忘れてただけとか……まあ、しょうがないか。


「っと、それでだな、依頼の件だが、まだ何も完了報告を受けてないのだが、依頼には手をつけてなかったのか?」


 それか。本来依頼完了証明の為、魔物の指定部位を持ってくるのだが、オレはアイテムボックスに魔物を丸ごと持ってきてるからな。

 ちょこっと出して終わりという訳にはいかないのだ。


「オレには特殊な能力があるので、魔物をそのまま持ち運べるのですよ。ただ、今日はもう勘弁してもらっていいですか?そう簡単に、はいどうぞって出せる訳じゃないので明日にでもまた持ってきます。」


「分かった。それで構わない。終わってる依頼だけ教えてくれ。今回居なかった魔物はワイバーンによって食われてもう居ないかもしれないが、調査が終了するまでは依頼を継続するつもりだからな。」


 20にも及ぶ依頼から討伐済みの魔物を伝え、ギルドはそれを受理する体制を整えておいてくれるようだ。

 これなら明日来た際にはスムーズに事が運ぶだろう。魔物の売却は……まあ、その時に考えるか。


「それと、あのワイバーンだが、基本的には討伐したお前達に所有権がある。運搬費と解体費、それと手数料は貰うが、ギルドに売却してくれると助かる。」


「ワイバーンの肉って美味いんですか?」


「んー……どうなんだろうな。食べた事が無いのでホントかは分からん。まさか食うつもりなのか?」


 未知の味か。まあ、無理に食う事もないか。

 今後の装備素材として少しだけ貰っておきたいから、それだけ残して後は売却だな。


「いや、今のを聞いて食べるのは諦めました。えーと、鱗と皮を全体の2割程貰います。後は爪と牙も2本ずつ。残りはギルドに売却で。」


「自分達の強化素材は残すか。正しい判断だな。ありがたい。明日来た際にはその金を渡せるようにしておこう。」


 また大金が入ってくるかな?まあ、金はある分には困る事はないからな。


 因みに今夜はこの医療室への宿泊を勧められたが、這ってでも帰ると言い結局ケントに肩を借りて、獅子の咆哮亭へと帰る事になった。

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