第110話 大量の依頼討伐
久々に魔物の討伐依頼を受けに行くこの日、皆の行動は素早かった。
オレも陽が昇る前に起床してはいるのだが、誰よりも遅い起床だったのだ。
オレが起きた際には、皆が全ての準備を終え待ってる状態だったのだから流石に慌てた。
慌てないでゆっくりでいいと言われても、そういう訳にもいかない。
なんだろうな。この後ろからつつかれてる感じがどうも落ち着かないのだ。
準備を終え食堂へ向かうと、実はまだ準備中で入ることも出来ない。が、オレ達を見ると、普通に通してくれて朝食を取ることが出来た。
絶対気を使ってくれたんだろうな。ありがたいことだ。
朝食を終えて外に出てもまだ薄暗い。多分商人の馬車がギルドに集まってる時間だ。
まあ、その方が依頼が多く残ってるだろうし、都合がいいだろう。
ギルドに到着すると、案の定商人の馬車で溢れかえっていた。
この街から行商人が向かうのはロードプルフ、ライトレイクともう一つ、フェルビナという街がある。
フェルビナは此処から北東、ファスエッジ山脈の切れ間に位置する街で、北の港街との貿易を繋ぐ役割を担っているらしい。
今の予定にはそっちへ行く予定はないが、その内行ってみようか。
ギルド内も人は多いが、依頼掲示板には人がいない。
この時間は護衛依頼で集まる人ばかりだとハッキリ分かるな。
今出てる討伐依頼は……
【イビルワームの駆逐】【オオダンゴムシの駆除】【アーマークロウ討伐】など見た限りでは結構な数が出ている。
「随分多いな。どれにする?」
オレ達のパーティランクはブロンズランクだ。一番多く依頼は出ているが、だからこそ選ぶのに迷ってしまう。
そんなオレ達に一人の男が話しかけてきた。
「皆さん、先日は本当に助かった。ありがとう。」
此処、ヘルゼスト冒険者ギルドのギルド長、ロランドだ。
ギルド長であるロランド自ら一冒険者に話しかけるだなんて、そんな事あるのか?
「見たところ……魔物の討伐系で探しているのか?結構な数が出ているだろう?この街はロードプルフとライトレイクを繋ぐ街ではあるのだが、常駐している冒険者は少ないのだ。
その上、先日の事件に人手を取られていたからな。討伐依頼は溢れている状態だ。
受けてくれるならそこの受付で出ている依頼魔物の出現場所を纏めてもらおう。そしたら依頼を受けずとも討伐対象部位を持って来るだけで依頼達成とする。どうだ?受けてもらえないか?」
魔物の出現場所を教えてもらえて、依頼を受けなくてもそれを持って来れば以来達成か。条件はいいな。皆が良ければ受けた方がいいと思うが。
「オレは受けた方がいいと思うけど……どうだ?」
「いいと思います。受けましょう。」
ミルファを中心に満場一致のようだ。
「是非お願いします。討伐依頼であれば何でもいいと思って来たので。」
「助かる。では、受付に魔物の出現ポイントを纏めてもらうので少し待っててくれ。」
受付嬢は相当急いでくれたらしく、僅か15分で討伐依頼魔物の出現ポイントを一つに纏めてくれた。
「これが今出てる依頼の全てだ。魔物の強さでランク分けされてるから、無理そうなのはほっといてくれて構わないからな。」
「ありがとうございます。行ってきます。」
全部で20種程出てる依頼は東西の作物地帯に多く分布され、南東の清恋湖周辺や、南西の森周辺にも魔物が出現しているようだ。
「そうだな。東から行ってみるか。」
こうしてオレ達は魔物を討伐すべく、街を出て行った。
「こうやって歩くとなかなか遠いな。馬でもあれば楽なんだけどなー。」
ケントの気持ちは分かる。が、この依頼の為に馬車を出しても邪魔だし、馬のレンタルはこの街ではやっていない。
ここは徒歩しか手段はないのだ。
そうして歩いていき、街の東のポイントに到着した。
周辺には畑が広がり、農業を営んでる人達が仕事に取り掛かろうとしている。
「この辺に3種の討伐対象の情報があるんだけど……」
見渡す限りには魔物は出ていない。いや、出ていたら今頃パニックになってるだろう。
農家の人達が目の前で普通に仕事をしているのだ。いる訳がない。
「ちょっと調べてみるか。」
オレはメニューからマップを開く。
先日行方不明の子供達の捜索の際入手したマップレベル7.
これで分かるのは人物だけではない。魔物も表示されるのだ。
これを使えば、周辺にいる魔物は全て分かるはずだ。
「この辺はいないな。もう少し遠いのか。……見つけた!南だ。六匹程固まっている。行くぞ!」
これは楽だな。わざわざ探す必要がない。ダンジョンでレベリングする際にもかなり役立つに違いない。
「見つけたのです。ミミズと蟻とジャガイモなのです。」
ルナがいち早く発見し、一気に距離を詰めていく。
「ミルファ!頼んだ。」
「任せてください。」
オレ達の接近に気付いた魔物は、直ぐに此方に向かってこようとしていた。が、そこにミルファの先制の矢が飛んでいく。
ジャイアントアントに命中し、残るはイビルワームとストンポテトだ。
ストンポテトはファスエッジダンジョンでも戦ったただのジャガイモである。簡単に倒せる魔物だ。
これは傷ませないようにルナが殴り倒した。
そして残るはイビルワームだが、これはさっき依頼書で見た魔物だ。ブロンズランク依頼になってるという事はそこそこ強い魔物だ。
「ケント、そいつはブロンズ依頼だからな。油断するなよ。メイ!ケントにガードを!」
「は、はい!」
「っしゃあ。久々の強敵ってか。行くぜ!」
メイがガードを掛けると、ケントがパルチザンを振るう。
その奥にいるもう一匹のイビルワーム。オレはソイツの相手をする。
「さて、準備運動相手には丁度いいな……んじゃ、やるか!」
鋁爪剣を取り出すと、炎を纏わせる。
そして、次の瞬間にはイビルワームは細切れになっていた。
「うん。絶好調!」
ケントの突きがかなりの頻度でイビルワームを傷つけてはいるが、なかなか倒すには至らないようだ。
実はこのイビルワーム、斬撃以外の耐性が異常に高かった。
パルチザンを使うケントの攻撃は刺突が主体だ。その為、ダメージとしてはそれ程与えてはいなかったのだ。
しかし、このパルチザンの前所持者であるパウロであれば、このイビルワームは難なく倒しているだろう。
その違いは槍の使い方にある。パウロはパルチザンを斬殴突と状況に応じて使い分けていた。
だが、ケントは突くのみである。これではイビルワームは倒せないだろう。
そこにはスキルレベルも関係してるのだが、意識すれば出来ない事ではない。ここがケントが今後槍使いとしてやっていけるかの分岐点であった。
「くっそ……当たってはいるのに全然手応えがねぇ。どうすれば倒せる……?」
攻撃は継続しながらケントは考える。
そこに飛び込んできたのは、オレがイビルワームを細切れにする姿だった。
斬れば倒せる。そう判断したケントは少しだけ槍を短く持ち、なぎ払った。
「ギュオオオォォー」
初めて上げた叫び声に手応えを掴むと、そのまま突進していく。
怒り狂うイビルワームはそんなケントにその身をぶつけるべく、鞭のようにしならせ攻撃を仕掛けてきた。
だが、その攻撃もケントの予測通りだった。パルチザンを地面に刺し棒高跳びの要領で上に躱すと、その勢いのままパルチザンで斬りつけた。斬りつけた勢いでそのまま二撃目、三撃目と繋げていく。
この動き、ケントは意識してやっていた。パウロが得意としていた槍技、『風車』を見よう見まねで放ってみたのだ。
五撃目が当たると、イビルワームは呻き声を上げながらその場に倒れた。
「ケント!大丈夫?怪我はない?」
真っ先に駆け寄ったのはメイだ。そう言えば、まともな戦闘を見るのは初めてなのかもしれないな。
それだったら心配も仕方ないか。と思ったのだが、それを見るミルファとルナの目は冷ややかだった。
「メイさん、ケントが一撃も浴びてないのは見てて分かるじゃないですか?心配なのは分かりますけど、それはダメですよ。
メイさんはこのパーティのヒーラーを担ってるんですから全体をしっかり把握して下さい。」
元々ヒーラーをしていたミルファにとって、状況を見ずにケントの下へ駆け寄ったメイの行動はヒーラーとしてはあるまじき振る舞いなのだろう。
その行動一つ一つを真っ先に指摘していた。
「ごめんなさい。最後危なかったのを見たら気が動転しちゃって……」
「しっかりして下さいね。頼りにしてるんですから。」
そう言われたメイは気を引き締め、その表情にも覚悟が見て取れた。
多分、今後はもっと視野を広く持てるだろう。
マップで確認してもこの周辺にはもう魔物はいないようだ。このまま清恋湖周辺を見てくるか。