第109話 耳飾り
「あれ?レイジじゃん。」
ケントとメイもこのヒルゼストに来ていたようだ。
「お前達も来ていたのか?」
「ああ、今来たばっかりだけどな。大通りで街の雰囲気を楽しんでたんだ。
露店で買い食いしたけど、どれもこれもとにかく辛いな。この街での食事は要注意だぜ。」
それは分かる。さっきオレも痛い目にあったからな。
まあ、教えないけど。此処でも辛い思いした方が面白いだろう。
「それじゃ、オレ達も大通りに行ってみるわ。また後でな。」
まだ時間はあるし、面白そうだから大通りへ行ってみるか。
◇
大通りはそこそこ賑わっている。
いや、人口1万人の街でこれなら、相当賑わってる事になるのか。
通りの店を見ているが、香辛料専門店がかなり多い。此処までで既に三店舗見かけているくらいだ。
一応今後の料理の事を考え、売ってる香辛料は全種類買っておいた。
中でもオレが知ってる物に関しては、少し多めに購入してある。
食材に関しても、ロードプルフには売っていなかった物が多数存在しているようだ。
例えば茄子だな。これはロードプルフには売っていなかったし、食べてもいない。
後は果物が豊富だと思う。ロードプルフには数点しか売っていなかったが、此処には様々な種類の果物がある。これは色々買っておいた方がいいだろう。
進んでいくと露店が並ぶエリアに来たようだ。
此処がケントが買い食いした場所だな。
見てみると食べ物の店が7割を占めているが、中にはアクセサリーや雑貨の店もあるようだ。
「レイジさん!あのお店……あれってもしかして。」
ミルファが一軒の店を見て驚いている。見てみると確かに見覚えが……
そうだ!ミルファにヒスイのイヤリングを買った店だ。
どうやら色々な街を回っている行商人だったらしい。
あの時は世話になったしな。行ってみるか。
その店を覗くと、相変わらずアクセサリーメインで商売をしてるようだ。
商品は以前と少し品揃えが変わっており、メノウを使った商品が増えていた。
「いやね、暫くロードプルフにいたんだけど、メノウが大量に採れたようで多めに入手出来たんだよ。
それを加工してこうやって売ってるんだ。この街を皮切りに、色々な街で売っていくつもりだよ。」
それは多分オレ達が大量納品したからだろうな。
こうやって商品になってると、貢献したという気持ちが出来て嬉しくなる。
そんな中、面白い品を見つけた。
「これってミルファのイヤリングと同じ形だな。」
ミルファに買ったイヤリングとは石違いのイヤリングだ。
「ホントですね。コハクですか。」
「あ!何処かで見たと思ったらロードプルフでイヤリングを買ってくれたお客さんだね。
それも僕が加工した物でね。その形は僕のオリジナルなんだ。」
だから同じ形なのか。
ミルファはあのイヤリングの毒無効の効果に助けられた事もあったからな。
イイ品なのは間違いないだろう。
「それは麻痺無効が付けられているよ。どうだい?確か以前も値引きしたよね。じゃあ……今回もガッツリ値引きして3万Gトコを2万Gでどうだい?お得意様サービスだ!」
おお!以前は3万Gを2万5千Gだったからな。それ以上の値引きだ。
「なあ、ルナの耳ってイヤリングを付ける事は出来るのか?」
ルナのイヌミミにイヤリングとはどうなのかと思ったが、想像した限りでは似合いそうだ。
「うーん……やってみないと分からないのです。でも、付けてる獣人は見た事あるのです。」
「そっか。じゃあこれ貰えるか。」
買ったイヤリングはそのままルナに付けてあげる事にした。
ミルファに始めてプレゼントしたイヤリングの色違いだ。差別もなく丁度いいだろう。
「これ……いいのです?」
「ミルファの耳、見てみ。石が違うだけで同じ物だ。ミルファと同じようにルナもオレにとって大事な人だからな。」
恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
こんな事するもんじゃないな。
「じゃあ、これは私とルナからレイジさんにです。」
ミルファから渡されたのはこれもまた同じデザインのピアスだ。
ただ、こちらの方が小さい分精密さが半端ない。
オレの耳には左耳にしか穴は空けてないので、左耳だけに付けてみる。
「どうだ?変じゃないか?」
「ふふっ。似合ってます。」
「カッコいいのです。」
「ありがとう。嬉しいよ。」
「ウチもなのです。ありがとなのです。」
これで俺たち三人は皆お揃いの耳飾りをしてる事になった。
なんか新しい絆で結ばれた気分になる。
「僕はこれからライトレイク経由でヒュバルツへ帰るんだ。良かったらまた店に来てくれ。」
「ああ。また世話になるよ。いい買い物をさせて貰った。ありがとう。」
「いえいえ、こちらこそ。お買い上げありがとうございました。」
この店とはまたどこかで会える気がするな。
その後は極力辛くなさそうな店を探しては買い食いを続けた。
結果としては全て辛い!これがヘルゼストの食文化だと思って諦めよう。
「ふふっ」「えへへっ」
二人共さっきからずっとこの調子だ。
笑ってるのはいい事だから、全然構わないんだけどね。けど、流石に不気味だと思うぞ。
「レイジさんとお揃い~♪」「レイジくんとお揃い~♪」
あ、そういう事だったか。
このお揃いの耳飾りの所為で、テンション上がりきっちゃってるのね。
あ~、そこ危ないぞ。あらら、スキップし始めたよ。ほら、他の人の迷惑になってるから。
オレの心配を他所に、獅子の咆哮亭に着くまで、二人はこのままだった。
「あ、お帰りなさいませ。お連れの方は既に戻っております。食事の時間にはお呼びしますので、ごゆっくりお休みください。」
「えーと、そんなに気を使わないでください。普通に接して頂いた方がオレ達もリラックス出来るんで。」
気を使われ過ぎてて逆に落ち着かなくなってきたからな。
別に特別に扱われたい訳じゃないから、過剰な接待は心苦しい。
チヤホヤされるのは嬉しいけどね。だが、度を過ぎるのはちょっと引けてしまう。
気持ちだけ受け取っておきますから、どうか普通にしてください。
「ただいまー。」
「おかえりー。あれ、食べてきたか?」
「おう。辛いのしかねぇな。流石にシンドかったわ。」
「なははっ。だよなー。一気に食ったら絶対気絶するぞ。」
オレとケントがそんな話で盛り上がってる中、女性三人はヒルゼストからの絶景についてで女子トークを咲かせていた。
「でもよ、3泊分予約してるけど、これ以上この街で観るようなモンはないと思うぞ。」
「観光だけしてどうすんだよ。オレ達は冒険者だぞ。本来の目的を忘れるなよ。」
「冒険者としての本来の目的……て事は……」
「明日はギルドで依頼を受けて魔物狩りだろ。」
「へへっ。やっと冒険者らしい事が出来るって訳だ。」
「という訳だから、皆いいか?」
女性陣も久々の討伐依頼にどことなく嬉しそうだ。
戦闘に飢えてたのかと言いたくなる。
まあ、そうでなきゃ冒険者なんてやってないよな。