第106話 事件解決!
現在地から子供達がいるであろう場所まではおよそ5キロメートル程。
一般的に考えたら約30分といったトコか。オレの今の体力値で考えたら、20分切れると思うが、誰も付いてこれないだろう。
ミルファとルナが低レベルの為体力が心配だが、今までの経験でカバー出来てるようだ。
「ルナ、この後少し戦闘もあるかも知れない。今のままじゃ近接戦闘は厳しい。一旦ジョブを戻すぞ。」
ルナのジョブの内、獣戦士はそのままで騎士を武闘家に付け替えておく。
これで従来以上の強さになってるはずだ。
「ミルファはジョブは弄らないからな。絶対前には出ない事。いいか?」
「はい。大丈夫です。」
まあ、相手は二人だ。元よりオレ一人で十分なんだけどな。
問題は子供達が人質にならない様に立ち回ることだろう。
このメンバーで戦えばその心配も無いと思うが。
走り始めて20分程で目的地に動きが見られた。
どうやら全員でその場を離れるようだ。
あと10分くらいで着くのにタイミングが悪い。
オレ一人で先行するしかないか。
「向こうに動きがある。どうやら場所を変えるようだな。オレが先行して足止めしてるから急いで来てくれ。いいか?」
「いえ、一緒に行きます。スピード上げても付いて行きますから。」
「俺だってまだ余裕あるぜ。こんな早さじゃまだまだいけるからな。」
「すみません。足引っ張ってるのは私ですよね。必ず追いつくので気にせず行ってください。」
メイだけは厳しいか。これは体力値ではなく経験則やブランク的な問題だろう。時間と共に勘を取り戻せば大丈夫だと思うが、今は無理か。
「メイにはウチが付いて行くのです。ウチは匂いで追えるので問題ないのです。」
「そうか。ルナ、宜しく頼む。じゃあ行くぞ。」
オレ達は更にその速度を上げ、その距離を縮めていく。
だが、残り1キロメートルを切った時、マップからその反応が消えた。
「マップから八人の反応が消えた。地上に出たのかも知れない。急ぐぞ。」
実際このスピードで走るのは相当辛い。マラソンのトップランナーよりも速い速度で走っているのだ。
心臓が悲鳴を上げてるのが手に取るように分かる。本当にキツい。
反応が消えてから3分後、その反応が消えたポイントに到着した。
脇に逸れた道には上に昇る階段が設置されている。
「此処だ!此処から上に出てったんだ。」
階段を昇って出て行った先には沢山の岩に囲まれた荒地だった。
「こんなカモフラージュをしてたのか。見つからない訳だ。」
直ぐにマップを確認すると僅か100メートル先に十人程の反応がある。
どうやら仲間がいて合流したようだ。いや、馬車でも待機していて出発しようとしているのか。急がないとマズイかもな。
「既に仲間と合流してる。馬車で出発したらマズイぞ。急ごう。」
岩の隙間から光点の方角を覗き込む。
いた。子供達が馬車に乗るのを拒んでるようだ。今のうちに近づけるか。
裏の林の中を回り、馬車へと近づいていく。
気付かれてはいない。このまま接近しよう。
その距離20メートル。これ以上は確実に見つかる。
一気に攻撃を仕掛けるか。いや、子供を人質にされたらどうする?
ならば魔法で……子供に被害が及ぶ可能性があるか……
安全に子供を救出する方法に悩み、時間だけが過ぎていく。
もう子供達を馬車に載せ終わりそうだ。
と、その時、オレ達が来た岩の方から叫び声が響き渡った。
「お前達、そこまでなのです。早く子供達を放すのです。」
ルナとメイが追いついたようだ。
犯人達がルナ達に釘付けになってる。今しかないな。
「行くぞ!」
オレとケントが同時に飛び出し、ミルファが弓を構える。
20メートルでミルファが的を外す事はありえない。
オレ達が犯人に近づく前に御者台の一人を打ち抜く。勿論殺さないように狙いは肩だ。
二射目も同じ相手の足に刺さる。打ち抜かれた相手は叫びながら倒れていく。
叫び声でオレ達に気付いた犯人だったが、既にその距離は5メートル。どうするか考える時間もないだろう。
オレは最後の子供を馬車に連れて行こうとしている犯人の腕を切り落とし、その子供を救出すると近くにいたもう一人の足を斬りつける。
ケントは馬車前方にいた一人の両肩を突き刺し、一瞬で制圧に成功した。
「よっしゃあ!子供達の救出完了だー!」
犯人四人を縛り上げてから切り落とした腕を治してやると、犯人から話を聴く事が出来た。
結論から言うと、こいつらは闇奴隷斡旋業者で、高く売れる子供を攫っては売り捌いてきた犯罪者で間違いないようだ。
此処にいる子供は六人。全員無事と見ていいだろう。
メイとルナが駆け寄ってきて子供達の無事を確認している。
「子供達を無事助け出せて良かったです。」
無事に救出出来た子供達を見たミルファは目に涙を浮かべている。
ルナもメイもケントまでもが、凄く喜んでいる。
考えてみれば全員孤児院育ちだ。更にルナに至っては、育った孤児院が奴隷斡旋をしていたのもある。
こういう事件には思う所もあるのだろうな。
「あの……えーとね。助けてくれてありがとう。」
一人の女の子がオレにお礼を言ってきた。
本当に無事で良かったな。
「どういたしまして。君、お名前は?」
「私、イオナ。5歳だよ。」
イオナ!この子が獅子の咆哮亭のエルニエルとマーサが探してた副料理長の子供だ。
「そうか。イオナちゃん。獅子の咆哮亭の皆が心配してたよ。お父さんとお母さんが待ってる。一緒に帰ろうか。」
「……うん。ありがとう!」
イオナの目が一気に輝き、子供らしい笑顔で大きく頷いた。
子供達は御者台に乗せ、犯人四人は荷台へ。
ミルファに御者を任せ、ルナとメイは馬車の横を歩く。オレとケントは後方で犯人の見張りだ。
御者台は少々手狭だが、子供と犯人を一緒に乗せる訳にもいかないだろう。少しの間これで我慢してくれ。
街の門は思いの外近かった。いや、マップで見てたから知ってはいたが、それも踏まえて近く感じたのだ。
衛兵にこれまでの経緯を説明すると、一人が冒険者ギルドへと走っていった。
ギルド長に事の経緯を伝えに行ったのだろう。
ギルドから誰かが来るまではオレ達も足止めだな。
「ねえねえ、まだおうちにかえれないの?」
「おなかすいたよー。」
「なあ、おっぱいさわらせてー。」
マセガキが一人混ざってるな。
それにしても、子供達が精神的にも限界だ。食べ物で気を引いておくか。
出したのは以前作ってそのままのピザだ。腐ってないのかって?
アイテムボックスの中では時間の経過が無いのだ。
このピザも見ての通り焼きたてそのままの状態を保っている。
「ほら、皆で仲良く食べるんだぞ。」
ピザを出してあげると、一斉に食べ始めた。
あっという間にピザが減っていく。まさか30センチサイズのピザ二枚で足りないとは思ってもみなかった。
あ!無くなってしまう。最後の一切れに手を掛けた。その時……
「遅くなった。子供達を保護したと聞いたが……おお、レイジ!お前だったか。流石はシルバーランクだ。感謝するぞ。
今職員がこの子達の保護者を呼びに行っている。ギルドで待つ事にしよう。」
ギルド長は子供達を連れ、ギルドへと歩き出した。
「やっぱり俺達も行かないとダメなのかな。ちょっと面倒いわ。」
「レイジさん、あと少しです。頑張ってください。」
何事も終わった後の事後処理って嫌だよな。仕事もそうだけど、料理とかも。
愚痴ってても仕方ない。行こうか。
ギルドでは職員が慌ただしく動いている。
事件が解決した事で、今まで携わってきた冒険者への報酬や、領主への報告、被害者へのアフターケアなどやる事が多そうだ。
「レイジさんとその御一行ですね。此方へお願いします。」
ギルド職員に連れられ向かった先はギルド長室だった。
そこまで大袈裟な事なのかと、驚きを隠せない。
「いや、わざわざ来てもらってすまない。お前達が居たから解決したんだ。一番功績という事で特別報酬を渡そうと思ったのだ。これだ。受け取ってくれ。」
渡されたのは小さい袋と、指輪が五つ。
袋は多分金だな。中を見てみると、金貨が10枚。100万Gだ。
そして指輪だが、鑑定してみると、技能の指輪といって、スキルの成長が早くなる効果があるようだ。
これは最高の報酬ではないか!複数のジョブを同時に育てる事が出来るオレは、その分スキルの成長が遅い。
これがあればその欠点を補って成長していく事が出来るだろう。
しかも五個という事は全員分だ。適当なタイミングでダンジョンに篭ってレベリングしてもいいな。
やる事がまた増えたが、嬉しい悩みと思っておこう。
「このタイミングでこの街に来てくれて本当に助かった。ありがとう。」
ギルド長はオレ達に感謝し、礼を述べた。
そして部屋から出て入口前のロビーへ向かうと歓喜の声が響き渡る。
「冒険者様、ウチの子を助けて頂いたそうで……本当に……本当にありがとうございます。」
子供達の親がギルドに着いていたようだ。
全員が口々にお礼と感謝を伝えに来る。
こう言って貰えると、やってよかったと思えるな。
イオナの親も来ている。両親に会えて嬉しそうだ。うん。良かったな。
オレ達はそんな人々の中を照れながら潜り抜け、子供達に別れを告げると、獅子の咆哮亭へと戻っていった。
最後に子供達が一斉に言ってくれた、「ありがとう」という言葉は、一生オレの中に残るだろうな。
祝!20万PV達成~♪
日頃からの愛読、感謝致します。
このヘルゼスト編はもう少し続きます。