第103話 ヘルゼストの街
本日2話投稿。もう1話は夜になります。
ロードプルフを出発して三日。まだまだライトレイクの街には着きそうにない。
だが、マップを確認したところ、その前にあるヘルゼストという街まであと僅かという所まで来ている。一旦この街に立ち寄ろうか。
初日の夜に全員のジョブを見直し変更した為、魔物の討伐には少々苦労するかに思えたのだが、意外にも余裕を持って倒す事が出来てるようだ。
何があっても対処出来るように準備はしている。ケントも元々のジョブだった戦士はそのままに騎士を追加しただけなので、能力的には寧ろ上がってるはず。
ただ、現れる魔物の殆どが、ミルファによって倒されているのだ。
ミルファは完全にレベル1になってる。それでも命中スキルがある為弓の精度は高く、ミスリルの弓という威力が高い武器を使用している為に現れる魔物は一撃で倒されていく。
そんな状況にルナもケントも暇そうだ。
「ミルファちゃんばっかり狡いのです。ウチももっと戦いたいのです。」
「ホントだよな。俺たちだって新しい力を試してみたいのにな。」
ルナとケントはずっとこの調子だ。完全にいじけてしまっている。
一応オレはルナを、メイがケントを慰めてはいるが、そろそろ限界かも知れない。
「ミルファ、次に魔物が出たら二人を向かわす。もう限界だわ。」
「はい。了解しました。」
少し苦笑いをしながらミルファは頷いていた。
この直後、五匹のゴブリンがいたので、ルナとケントに討伐を任せたのだが、ケントが三匹倒した事にルナが膨れてしまい少し大変だった。
メイも一緒になってルナに謝ってる姿は、悪さをしでかした子供の保護者みたいで少々笑えてくる。
最終的には頭を撫でてあげたら、一瞬でおちついたのだが。今後ルナのあやし方としてこの方法は覚えておこう。
そしてこの日の正午過ぎ、漸くヘルゼストの街が見えてきたのだ。
「ここがヘルゼストか。ロードプルフよりは格段に小さいな。」
「それでも1万人程が暮らしている街ですから。ギルドだってありますよ。」
「詳しいな。メイは来たことあるのか?」
「ええ。以前冒険者をしていた時に。もう何年も前ですけどね。」
やはり来たことがあるのか。
だが、その目は遠くを見つめたままだった。
その時に何かがあった。それは間違いないだろう。それを聞く程野暮な男ではないけどな。
「おいレイジ。この間から思ってたけど、なんでメイさんを呼び捨てにしてんだ?さんを付けろよ。」
ケントが妙な所で突っかかってきた。メイは全然若く見えるし、皆と同様に接した方が気兼ねしなくていいと思うのだが。
まあ、オレがメイの名前を呼ぶ度にピクピクしてたから、その内文句を言われるとは思ってたけどな。
「別にいいだろ?問題あるか?」
「大アリだ。メイさんはこの中ではダントツで年上だ。少しは敬った接し方で……」
ああ、やっちゃった。ケントよ、隣にいるメイを見てみろ。年齢の事に触れるからゴゴゴゴゴ……って文字が見えてるぞ。
「ケント。ダントツで年上で悪かったわね。そういう目で私を見てたって分かったわ。」
「え?メイさん?いや、そういうつもりで言ったんじゃなくて……」
ご愁傷様です。たっぷりと説教受けてください。
「やっぱりケントは馬鹿ね。救いようがないわ。」
ミルファとルナまでもが呆れ顔だ。少し可愛そうだとは思うが、自業自得だ。
ヘルゼストが見えてから30分。街の入口前に到着した。
ロードプルフと違って入口は一つだけのようだ。
ロードプルフの街には五つの入口がある。
貴族専用、商人用、一般用、冒険者用、そして一番小さな徒歩専用だ。
オレたちは普段徒歩専用を使っていたのだが、たまに馬車や乗馬で通る際には少々チェックが面倒だった。
このヘルゼストには大きめの通用門だけしか見受けられない。
街の大きさ的にはこれで十分という事か。
「よし、止まれ!ようこそ、ヘルゼストへ。冒険者か?ギルドカードの提示をお願いしたい。」
オレたち五人、全員のギルドカードを衛兵に渡した。
「え?シルバーランク冒険者でしたか。失礼しました。確認出来ましたので此方はお返しします。
馬車内の確認だけさせて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
シルバーランクだと分かると、露骨に態度が変わった。
てか、シルバーランクの力って凄いな。ゴールドランクが三人もいる環境にいたから結構舐めてた感があった。
いや、悪いのはあの馬鹿の所為って事にしよう。そうに違いない。
「問題ないぞ。確認してくれ。」
「はい。大丈夫です。しかし珍しいですね。一番ランクが高い方が御者を務めるなんて……あ、失礼しました。お通りください。」
そうか。傍から見たらそうなるんだな。
しかし、昨日はミルファとルナで交互に御者をしていたし、……ケントとメイにも覚えてもらうか。
街の中に入り、すぐ脇には馬車を止めるスペースがある。
宿にもあるようだが、格安宿など、そのスペースが確保されていない場合もあるので、街として協力しているようだ。
オレたちも荷物は無いので此処に止めさせてもらうとしよう。
ケントたちの荷物も既にアイテムボックス中にあるので持ち歩くのは武器だけだ。
「先ずは宿を確保しておくか。メイはいいトコ知ってる?」
「ごめんなさい。安い宿なら分かるけど、オススメは出来ないわ。」
「探し回るより先にギルドに行って、そこで聞いた方が早いか。」
「そうですね。ギルドへ行ってみましょうか。」
「行くのです。」
ミルファとルナがオレの両腕に組み付きギルドへと歩き出した。二人共その顔はどこか不満げである。
多分、二人を差し置いてメイに聞いた事への不満なのだろう。この街を知っているのがメイだけなんだから仕方ないと思うのだが。
ケントは先程メイに怒られてから何も言わなくなった。完全にメイに従順になっている。
尻に敷かれるとはこういう事を言うのか?
ギルドへ行く際に、皆から一つ忠告をされた。
「レイジさんの丁寧な対応は凄く共感がもてますが、ギルド内ではもう少し強気な態度でいた方がいいですよ。今までと違ってこれからはこのパーティのリーダーなんですから。」
謙るなという事か。善処しよう。
ヘルゼストの冒険者ギルドはロードプルフに比べるとかなり小さく感じる。
魔物被害などは少ないのか。あまり期待せずに中に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ。当ギルドのご利用は初めてでしょうか?」
「ああ。さっきこの街に着いた。旅の途中だが、何か依頼あるなら受けようと思ってな。」
うん。我ながら偉そうな話し方だな。
まあ、これでいいのだろう。
「えーと、それなら一つ急を要する依頼があるのですが……」
この受付嬢の話だと、子供の行方不明事件が多発しており、この十日程で既に6人の子供が居なくなってるという。
現在も街の兵士の他に20人程の冒険者も捜索に出ているが、痕跡すら見つからない状況らしい。
「数日でも結構ですので捜索に協力して頂けませんか?報酬は日払いで支払いますので。」
「どうする?オレは受けても構わないけど。」
「絶対受けましょう。子供の命に関わる問題です。これを見て見ぬ振りなど出来ません。」
メイが俄然やる気だ。孤児院のシスターとして、これは見過ごせないようだ。
「子供が行方不明だなんて、誘拐だったら犯人を許せません。やりましょう。」
「助けるのです。」
そう言えばこのパーティは全員孤児だったな。尚更こういう事件に敏感なもかも知れない。
「メンバーの総意だ。受けさせてもらう。」
「ありがとうございます。では、現状で把握している内容を説明指せて頂きます。こちらに来てください。」
受付嬢に付いていくと、何やら捜査本部みたいな部屋に入っていった。
「ギルド長。偶然いらした旅の冒険者が協力してくれるそうです。」
「うん?旅の冒険者だと?珍しいな。いや、協力感謝する。私がヘルゼスト冒険者ギルドのギルド長をしているロランドだ。よろしく頼む。」
「ギルド長でしたか。オレはレイジ。このパーティのリーダーをしています。」
「冒険者らしくない柔らかい物腰だな。年齢もまだ若い。まだ新人かな?」
「まあ、新人っちゃあ新人ですね。オレはリーダーをしてますが、冒険者としてはまだ二ヶ月ですから。」
「ふむ……その割には随分強いな。ギルドカードを見せてもらってもいいか?」
オレはギルドカードを見せた。
ロランドはそれを見た瞬間ニヤッっと笑い、納得の表情でギルドカードを返してくれる。
「シルバーか……納得だ。それじゃあ、現在の状況を説明する。」
ロランドの説明では行方不明の子供は皆、街の東部に住んでいる子供らしい。
そしていずれの子も友達と遊んでいて、その後一人になった瞬間から行方が分からなくなってるという事だ。
兵士や冒険者はこの街の東部を中心に捜索しているのだが、未だ手掛かりすら見つかっていないという。
「レイジはこの街の人間じゃないからな。聞き込みには向かないだろう。なので周辺の捜索を手伝ってもらいたい。逆にこの街を知らないからこそ分かる事もあるかも知れないからな。」
「分かりました。善処致します。」
「今日はこの時間からだと録に捜索も出来ないだろうから、明日から頼む。
朝ギルドで受付してから開始してくれ。」
「分かりました。ところで、真っ直ぐギルドに来たんで宿もとってないんですよ。それなりの宿を紹介してくれませんか?出来れば飯の美味いトコで。」
「飯が美味いトコか……ならば獅子の咆哮亭だな。シェフの腕前は超一流だ。だが辛いから気をつけろよ。」
場所は地図を書いてもらい、それを受け取った。
時間はまだ早いが、旅の疲れもあるだろうし少しゆっくりしてもいいだろう。
ギルドから獅子の咆哮亭までは歩いて20分程の距離だ。
奇しくも街の東に位置していた。
「いらっしゃいませ~。食事はまだやってませんが、お泊りでよろしかったでしょうか?」
「ああ。五人で――」
何部屋取るか考え、皆の顔を見てみる。
ケントとメイは腕を組んで一緒の部屋とアピールしているな。
後は……別にする訳にはいかないよな。
「ダブルを二部屋お願い出来るか?」
「えーと、ダブルで三人同じ部屋でよろしかったでしょうか?」
「それで頼む。」
「畏まりました。三階の奥二部屋をお使いください。こちらが部屋の鍵になります。ごゆっくりどうぞ。」
余計な事を突っ込まれずに済んで良かった。
とりあえず食事までは部屋でゆっくりしよう。