第102話 今後を踏まえたジョブ編成
「じゃあ次はルナだな。」
ミルファのジョブを変更し終えて、ルナと向かい合う。
「ちょーっと待ってくれよ。」
そんなオレをケントが止めに入ってきた。
「今のは?」
「ん?」
「今の何?」
「何が?」
「いや、ミルファのジョブを変えなかったか?」
「おう。変えたな。」
「…………」
「…………」
「オカシイだろ!ジョブってのは神殿で変えるものだろ!個人が易々と変えれるようなもんじゃないぞ。」
うーん、仕方ない。説明しておくか。
「そうだな。ケントも、ルナも、メイも同じパーティという事で覚えておいて欲しいんだ。
但し、絶対に他言しないでくれ。いいか?」
三人とも首を傾げながらも受け入れた。
「先ずオレは異世界から転生してきたんだよな。で、その際に神様に特別なスキルを渡されたんだ。
その一つが今使ったジョブだ。これを使えば自分とパーティメンバーのジョブを変える事が出来る。」
「はあ。他言するなって言うから何かと思ったら、神様?笑えるな。で?本当は?」
「ケント、レイジさんの言ってる事は本当の事だよ。シームルグ様に聞いたから間違いないんだ。
エイルさんたち、ロードウインズのメンバーは全員が聞かされたから……」
「じゃあレイジくんは神の使いなのです?」
「あー、それは違うと思うぞ。神様が選定して選ばれた事には違いないけど、元々は違う世界のただの人間だしな。」
聞かされたのは、神に選ばれこの世界に舞い降りたのがオレだという事。
後は、そういった存在は歴史上存在していなかったという事だけだ。
「すみません。一応私は神様を信仰するものなので、なんて言っていいのか分かりませんが、嘘では済まされませんよ。はっきり言って神を冒涜してるとしか思えませんから。」
メイは怒りの形相でこちらに問いかけてくる。
孤児院のシスターと言っても教会の所属だ。信仰心は人一倍強いのだろう。
「メイはシームルグの事は分かるのか?」
「一応は。知識として知っているだけですが。」
「じゃあ、会って直接聞いてくれ。」
「え?」
これ以上オレが説明しても無駄だと判断し、シームルグに説明を丸なげする事にしたのだ。
我ながらいいアイデアだと思う。
そして、光と共にシームルグが姿を現す。
「漸く呼び出したか!我を心配したりはしなかったのか!」
あ、そう言えば、フギンとムニンと戦って、爆発に巻き込まれてから呼び出してなかったな。
大丈夫だって言ってたから、勝手に問題ないと思ってた。
「悪い。その事は謝る。あと、シームルグのお陰で助かった。ありがとな。」
「お、おお。素直なレイジはなんか……まあいい。今日は用があって呼んだんだろう?」
今何を言おうとしたのか。多分いい事ではないのは分かる。
「ああ、今いるメンバーがこれから一緒に行動するメンバーで、あの事話しても信用しないんだよ。
シームルグから説明したら信じるかと思ってな。」
シームルグは信用を得られない事には理解を示し、メイを中心にその神秘的な姿でオレの事を説明していた。
これなら間違いなく信用するだろう。信用しないなら逆に信仰心を疑うけどな。
メイはシームルグの言葉を真剣に聞き、その言葉を受け入れた。
「全て本当の事だと理解しました。疑ってしまい申し訳ありません。」
「信じてもらえて良かった。けどマジで他言無用でな。面倒事は勘弁だし。」
「それよりもレイジよ。我に対する感謝とかもっとないのか?フギンとムニンを倒せたのも我の尽力があってこそだと思うのだがなぁ。」
「ああ。本当に助かった。これからも宜しく頼むな。」
「お、おお。素直だな。まあいい。見た感じだと近いうちに我の下へ来そうだしな。小言はその時にしておくか。ではな。」
どういうことかと尋ねようとしたが、シームルグはそのまま消えてしまった。
少しモヤモヤしたままだが、とりあえずメイの理解は得られた。
皆のジョブ変更の続きをしようか。
「という訳でオレは皆のジョブを好きに変更出来る。更に言えば、パーティメンバーはジョブを二つ付けれるんだ。ミルファはこれを使って今は狩人と魔道士になってるんだわ。
ルナは今後どう成長していきたい?」
「ウチは……分からないのです。とりあえずお金を稼ぐ手段ってだけで冒険者をやっているのです。自分がなりたいジョブとか、考えた事がないのです。」
お金を稼ぐ手段として冒険者をやってる者は少なくない。寧ろ大半を占めているだろう。
だがその多くは、自らが強くなってく事に喜びを感じているのは間違いないと思う。
ルナはまだそうなってないだけだろう。
「じゃあ、ルナのこれからの道を一緒に考えていこうか。」
「はいです!レイジくんが一緒に考えてくれるなら、何になっても嬉しいのです。」
なんか、凄く懐かれたな。そんな好かれる事はした覚えはないんだけど。
「じゃあルナが今なれるジョブを見ていくぞ。」
ルナのジョブを変更画面にして、出てきたジョブを確認していく。
現在の武道家に戦士やシーフ、大工などが並ぶ中、一際目を引くジョブがあった。
獣戦士。獣人だけしかなれないジョブだ。
「ルナ、獣戦士ってどうだ?てか、知ってた?」
「はいです。獣人だけの専門職なのです。そこから獣騎士になって、更に凄いジョブになれるらしいのです。」
そこからの派生ジョブもあるなら最高じゃないのか?獣騎士なら騎士としても経験が必要かもしれない。
「いいじゃんか。もう一つは騎士が良さそうだけど……ないな。確か槍スキルを持ってないとダメだったか。」
「じゃあケントの槍を借りてスキルを取ってくるのです。」
そう言うと、ケントに槍を借りに行ってしまった。
ケントはパウロの形見であるパルチザンを貸すのを渋っていたが、ルナの強引さに根負けしたようだ。
「次はケントだな。ケントは今後、槍主体の戦闘スタイルに変えていくんだろ?そうなると騎士職だろうな。」
「ああ、俺もそう考えている。先の事は分からないけど先ずは騎士になって、その後はその時になったら考えるさ。」
「だったら戦士はそのままで騎士を追加するだけでいいか。皆のレベルが1になってるからケント頼みになると思うけどな。頼むわ。」
「任せとけよ。槍も使いこなせるようにならなきゃいけねぇし、それくらいやんなきゃな。」
ケントもやる気十分だ。これで当面はレベル1の女性陣を後方待機させながらでもレベリングが出来るはずだ。
「後はメイだけど、回復と支援職で問題ないか?」
「はい。私は戦闘は全く出来ないので、その分サポートは任せて戴けるように頑張ります。」
「じゃあ、修道女はそのままで神官を追加でいいな。」
一応メンバー全員のジョブ変更を終え、残っているルナの様子を見に行く。
一心不乱に突き、払いと様々な用途に応じた動きで槍を振るい続けている。
そうした様子のルナを、ジョブ設定場面にしたまま見守り続ける。
そうしたまま一時間、漸くルナのジョブに騎士が加わった。
「ルナ!もういいぞ。槍スキルを獲得したみたいで騎士に変更可能になったわ。」
ルナの動きが止まり、此方へ近づいてくる。相当激しく動き回っていた為、肩で息をしているようだ。
「もういいのです?」
「ああ。頑張ったな。もうジョブの変更も済ませてあるから、ゆっくり休め。」
「良かった……のです……」
ルナは安心したのか、目の前で倒れ込みながら眠ってしまった。
通常二時間は掛かるスキル獲得を一時間で終わらせるくらいだ。相当激しく動き回っていたのだろう。
オレはルナを抱き抱え、そのまま小屋のベッドに寝かせておいた。
さて、オレが神様によって異世界から来た事を話したついでだ。俺の持つ残りの能力についても話しておくとするか。
「オレが神様に与えられたユニークスキルは三つ。一つは今使ったジョブだな。使用者であるオレは現時点では五つのジョブを付けているんだ。
二つ目がマップ。単純に現在地とその地図が分かるスキルになる。ダンジョンで迷わないのはこのスキルのおかげだ。
三つ目がまだ未取得状態なんだ。どれもイマイチで、悩んだまま二ヶ月が経ってしまったけど、一度ジョブが進化したから、三つ目のスキルにも追加があったりしないかと思ってこのまま様子見してるんだ。」
ケントとメイはそんなオレの話を真剣に聞いている。
実際にシームルグに会い、神に選ばれたとの説明があった効果は凄まじく、二人にはもう疑う気持ちが全く無いようだ。
「それ以外だと、普段から使ってるアイテムボックスと、最初から鑑定がスキルにあった事くらいだな。」
「お前って思ってた以上に規格外だったんだな。強さより便利さに重きがあるみたいだけど、ジョブが五つあればその強さも納得だわ。」
「勿論これらは全て他言無用でな。信用してるからな。」
「任せとけよ。」「勿論です。」