第101話 ミルファのジョブ
オレの名前はレイジ。シルバーランクの冒険者だ。
異世界に転生して二ヶ月、オレ達は先程ロードプルフの街を離れ、世界を巡る旅の第一歩を踏み出した。
今オレは馬車の御者台に座っている。気ままな旅なので御者などは雇っておらず、自分で御者をしながらの旅だ。
「風が気持ちいいですね。とってもいい天気。」
このオレの右に座っているのはミルファ。金色のボブヘアーに赤いヘアバンドがトレードマークの女性だ。オレの……一番大切な人だな。
「暖かくて眠たくなるのです。」
左に座る犬の獣人はルナ。茶髪のミディアムロングヘアーにケモミミがキュートな女性。
この子もオレの事を想ってくれる大切な人だ。
オレ達は今、東にあるライトレイクという街を目指している。
オレ達がいたロードプルフから東には大森林、通称東の森が広がっている。
此処には様々な魔物がひしめき合い、オレもまだ少しだけしか入って行けていない。
この森を北から迂回しながらライトレイクを目指している訳だが、到着まで何日掛かるのだろうか?
「そう言えばこっちって、以前依頼で行ったミゲレート村がある方ですよね。」
そう言えばミゲレート村はこの方角だったな。
急ぐ旅でもないので寄ってもいいが、あそこの食事事情だと寄らなくても別にいいかな。
「あそこの名産って木耳だったよな。欲しかったら寄ってくけど、どうする?」
「キクラゲって何なのです?」
「そっか、ルナちゃんは食べた事無いんだったね。」
ミルファがルナに木耳の説明をしている。
後ろの荷台にいる二人もその言葉に耳を傾けてるようだ。
「ミルファちゃん詳しいのね。凄いわ。」
「いつの間にか知識豊富になってやがる。俺より頭いいんじゃないか?」
荷台でミルファの話を感心して聴いてるのがケントとメイ。
ケントはミルファとは幼馴染で、オレ達とはブロンズランク試験で意気投合し、今回パーティに加わることになった。
メイはケントの恋人でミルファとケントが育った孤児院でシスターをしていた。
メイを置いて行けないと言うケントを誘う為ミルファがメイを誘ったところ、二人で来てくれる事になったのだ。
「ケントよりバカは何処にもいないでしょ。」
「なんだとこら!」
「まあまあ、それよりも木耳ってのを一度食べてみたいですね。」
ミルファとケントが喧嘩になりそうなのを止めるメイは、興味があるようだ。
「じゃあ、寄ってみるか。オレの持ってる分だとギリギリっぽいし。」
「やったのです。美味しいものが食べれるのです。」
「いや、美味しいものはどうだろうな。あの村は木耳だけで他に何もないから。」
そうなのだ。ミゲレート村は毒の生産で成り立ってる村であり、基本は質素な村だ。
美味しい食事は期待出来そうにないのである。
「じゃあ寄らなくてもいいのです。」
耳が垂れ、スカートも萎んだ。多分尻尾も垂れたのだろう。
ルナは落ち込んだのが直ぐわかるな。
「そう言えば、今更だけどルナっていくつだ?」
ミルファとケントは最初に鑑定したので知ってるが、ルナとメイの歳は知らなかった。
鑑定すれば分かるが、女性にそれは失礼だろう。
最初にミルファを鑑定した事は、一緒に住んだ際に話をして謝っておいたからな。
女性相手に許可なく鑑定はしないと、今では決めているのだ。
「ウチは17歳なのです。」
「お!オレと一緒か。」
「そうなのです?一緒なのは嬉しいのです。」
「メイは……聞いていいのかな?」
これはルナ以上に気になる事だった。
オレは20歳前くらいと思っていたのだが、話を聞くとどうもそれだと年が合わないのだ。
もっと上なのか?それとも若い頃からシスターだったのか……
「レイジこら!メイさんに年齢聞くとか失礼な事してんじゃねーぞ!」
ケントがうるさい。少し邪魔だな。失敗したか?
「ケント!少し落ち着こうか。私の年齢よね。25歳よ。おばさんでごめんね。」
「え?嘘!」
思ったより上でかなり驚いた。
この見た目でエイルやマリーと同じ年だとは……
マリーは綺麗な女性であり年相応の大人の女性だった。だが、メイはとにかく若作りだ。
黒髪ロングでモデル体型。それでいて童顔とは、ケントが惚れるのも無理もないな。
ただ、オレにはもう一つ気になってる事がある。
それはケントの武器だ。
先日皆で武器を買いに行った時には、これ以上の大剣は装備出来ずに武器の購入は諦めていたはずだ。
だが、今持っている武器は大剣ではなく槍だ。
しかもその槍は……
「――なあケント。その槍って……」
「これか?……パウロさんのパルチザンだ。今朝出発前にダニエルさんが託してくれたんだ。
俺みたいなヤツじゃ自分の身も録に守れないだろうから、パウロさんに見守ってもらえってな。」
それは建前であり、実際はケントを評価しての事だとオレは分かった。
先日ダニエルと話した際に、ケントの才能についての話をしていたからな。
「今はまだこの槍も装備出来ないけど、その内必ずこの槍を使いこなしてみせるさ。」
大剣もそうだったが、装備出来ないのは武器スキルかジョブの所為だろう。
これからパーティとしてやってくのに、オレのスキルや能力を全員に周知しなくてはいけないだろうし、ケントのジョブを変えておくのもいいかもしれないな。
「ケントはこれからどんなジョブでやっていく気なんだ?槍に適性のないジョブじゃ意味ないだろ?」
「そう言えばそうだな。……考えてなかったわ。そうか、ジョブ次第では装備出来るかもしれないんだな。」
「あの、レイジさん。私もジョブについて相談が。」
ミルファが相談とは、どうしたのだろうか。
聞くと、五人パーティで回復職が二人はおかしいし、新武器のアメジストの弓を装備する為にも、ジョブを変えていきたいらしい。
確かに今のままでは、ミルファの司祭にメイの修道女と回復・支援職が二人という状況で、下位職であるメイの存在は埋もれてしまうだろう。
パーティバランスを考慮してもミルファを弓専門職にするのはいいかもしれない。
中級白魔法のスキルは残るので、支援も出来るだろうしな。
「そうだな。今は御者をやってる訳だし、夜にでも見てみようか。」
オレとミルファのやり取りを他の三人は何の話か分からずに、首を傾げて聞いているだけだった。
まあ、それが普通だ。多分この世界に神殿を通さずにジョブを変えれるのはオレだけだろうからな。
道中現れるゴブリンやフットラビットなどの魔物の殆どはミルファの弓で倒していき、何の問題もなく旅の初日は進んでいく。
ユニークスキルのマップで確認する限りは、このペースなら後五日もあればライトレイクに到着するだろう。
適当な場所で野営の準備をし、先日買った魔物よけも使う事にした。
まだ必要ないかもしれないけど、新しいものって使いたくなるよな。
そしてここからが皆の吃驚タイムにしよう。
オレがアイテムボックスから取り出したのは一軒の小屋だ。
ファスエッジダンジョン50階層で、オレとミルファが寝泊りするのに使ってたものである。
これを見た三人の顔は、驚きを通り越して引きつっていた。
まだまだ序の口なのだが気にしない。最初が肝心だって言うしな。
小屋の中にはオレ達が使っていたベッドが置いてあるが、もう一つ追加しておこう。
食後、落ち着いた頃合いを見てジョブについて切り出した。
「で、ジョブだったよな。この状態でレベルが1になるのは辛くないか?」
「大丈夫です。皆いますから。」
「そうか。でもその前にちょっと試したい事があるんだよな。ちょっと待ってくれ。」
現在のスキルジョブのレベルは6だ。これが7になればパーティメンバーもジョブが2つに出来る。
それを使えばミルファは司祭のまま狩人を付ける事が可能になる訳だ。
残りの250ポイントを一気に振り分け、スキルジョブのレベルが7になった。
「よし、いいぞ。これでミルファもジョブを二つまで選べるから。」
ミルファは元々知っているのでなるほどと頷いてるが、他の三人は意味が分かっていない。
どうせ全員ジョブを二つにするんだから、その都度説明するとしよう。
「その手があったんですね。忘れてました。」
「オレもだよ。今思い出したんだからな。これなら司祭を残せるだろ?」
「うーん……いえ、司祭は残しません。狩人と魔道士にします。」
「え?なんでそんな……」
オレはその二つからの派生ジョブを思い出した。
「そうか、魔弓士か!」
オレも付けているジョブ、魔弓士。このジョブのレベル20で使えるようになった魔力矢というジョブスキルがある。
これは魔力を矢として飛ばす事が出来るスキルだった。
多分、ミルファが今使ってる武器のミスリルの弓との相性を考えても最適だろう。
そこまで成長するにはかなりの魔物を討伐しなくてはいけないけどな。
オレもその意図が分かり、ミルファをその二つのジョブに変えた。
「これでミルファは狩人と魔道士になったぞ。そうだな……あの岩目掛けてストーンでも撃ってみようか。」
ミルファも感覚で分かるようだ。魔力をコントロールし、ストーンを放つ。
威力は低いが普通に黒魔法を唱える事が出来た。
口を開けたまま放心状態になってる三人に説明して、全員のジョブを見直してやるか。
新章に突入という事で、メインメンバーの紹介が入っています。
今後も引き続きよろしくお願いします。