第98話 冒険者は武器を買う
いい朝だ。
今日は皆で武器を見に行く予定を立てている。
昨夜、その話をロードウインズのメンバーに伝えたら、三人揃って付いてくると言い出した。
ルナとケントとで行く予定だと伝えたら、
「だったらブラッドローズとマッドネスサイスも全員一緒に誘っちまえばいいな」
と言い出し、あろう事か夜にも関わらず、それを伝えに家を飛び出して行ったのだ。
結果として全員了承。かなりの大所帯で武器探しツアーを行う事になった。
「おはよーでーす。」
昨日と全く変わらないテンションでルナがやってきた。
ただ、昨日と違うのはその後ろから来た美女軍団だ。
その中に一人本来いないはずの人が混ざっている。
「レイジ!此処に住んでいたのか。そういえばロードウインズだったな。それがあの強さの秘密でもあるのかな。」
シルバーメイルを身に纏うその姿は一人しかいない。
最強のシルバーランク、ベロニカだ。
「ベロニカさんこそ、なんでブラッドローズの皆さんと?」
「ソニアさんに頼まれてな。新人が育つまででいいからブラッドローズにいてくれって。断れる訳がないだろう?」
聞くと、ベロニカは元ブラッドローズのメンバーで、1年前に独立したらしい。
今回ソニアとルナの二人が抜けるが新人は一人しか育てる事が出来ないので、その新人が一定レベルまで育つまではベロニカがパーティをのバランスを取るようだ。
「それは言わない約束よ。後でお仕置きね。」
ああ、ソニアのお仕置き……凄い気になる。
既に12名となっており、このメンバーでマッドネスサイスと合流するようだ。
人数が多いので集合場所をギルドに変更してある。
ギルドでは既にマッドネスサイスのメンバーはオレ達を待っていた。
「来たな。今回は誘って頂きありがたい。あのスタンピードで結構武器もやられていたんだ。
買い換えなきゃいけなかったんだが、そんな気分にもなれなくてな。」
「いきなり誘って悪かった。来てくれて良かったよ。」
マッドネスサイスの新リーダーのダニエルがディルと言葉を交わしている。
同じ狙撃手として元々交流があった二人だ。
「いつの間にこんな事になってたんだ?朝ダニエルさんが来て、武器買いに行くのに一緒に来るって言うんだ。吃驚したわ。」
ケントが驚くのも無理ないと思う。昨夜急に決まったのだから。
マッドネスサイスのメンバー5名を加え、総勢17名で武器を買いにバルザムの店へと出発した。
それにしても凄いメンバーだ。
この街にいるシルバーランク以上の冒険者の内、ブリュードルとラッセル以外は全員集合してるとか、今後二度と目にする事のない光景である。
武器屋や鍛冶職人が多く集まるこの通りではまさしくヒーローのオールスターが一堂に会した状態だ。
人々の視線を集めながら進んでいくのは爽快だな。
先頭を歩くエイルが店を見つけ、中に入っていく。
「じいさん!久しぶりだな。遅くなったけどちゃんと来たぞ。」
エイルが奥で作業している人物を呼ぶように声を掛けた。
すると、その声に反応するように、一人のドワーフの老人がやってきた。間違いない。この人がバルザムだ。
「おお!エイルとディル、それとレイジだったかの。よく来たわい。
それにしても、随分沢山の人を連れてきたの。」
総勢17名もいるのだ。誰だって驚くよな。
そんなバルザムに、今回の目的を伝えた。
「あのスタンピードでな。では、儂の知ってる限りの専門家を紹介しようかの。」
バルザムは其々の武器別で得意とする鍛冶師を紹介してくれるようだ。
片手剣、両手剣、槍、斧、弓などその武器を作るのを得意とする鍛冶師。
皆は其々の使用する武器を伝え、その鍛冶師の店へと向かっていく。
オレ達はオーダーで作ってもらうより、既存する大量生産の武器から選ぶ方がいい。
「バルザムさん、弓と棍でそこそこいい商品ってないですか?」
「弓と棍か……棍ならコイツはどうかの?」
棚から出したのは小さい突起が幾つか付いた銀に輝く棍だった。
質はそこまで良くないが、ミスリル製だ。鑑定でもミスリルメイスとなっている。
「今使ってるのより少しだけ重いのです。でも……魔力?があるのです。」
「嬢ちゃんは魔力を読めるのかの?そのとおりじゃ。
ミスリルは魔力を通しやすい鉱石での。制作時に魔力を込めておく鍛冶師もおるのじゃよ。」
そうなのか。ミスリルとはファンタジー武器の定番素材だよな。
確かに魔法鉱石って表現もあったかもな。
「それと弓となると……おお!そうじゃ。」
バルザムは奥へ引っ込んでいき何かを物色しているようだ。
五分後、戻ってきたバルザムは、その手に紫に輝く弓を手にしていた。
「これを扱えるかの?扱えるなら売ってやるわい。」
ミルファはその弓を受け取り弦に指を掛けた。
数回弾いてみた後、実際に矢を取り出し構えてみる。
「ごめんなさい。私にはまだ扱えないようです。お返しします。」
「ふむ……いいだろう。その弓、アメジストの弓とこっちのミスリルの弓を売ってやるわい。」
扱えないと言ってるのに売るとはどういう事なのだろうか。
いや、ミルファはまだ扱えないと言っていた。
つまり、今後使える可能性があるという事なのだろう。
バルザムはそう考えたのか。
「嬢ちゃんの構えからは、一流弓士に備わっている気配と同じものが感じられたのじゃよ。
もっと鍛えなされ。近い将来、必ずこの弓を扱えるはずじゃよ。」
「……いいのですか?ありがとうございます。」
「金はどうせ足りないだろうから出世払いでの。」
「おいくらでしょうか?」
「そうじゃの~。負けに負けて合わせて2000万Gってトコかの。」
「じゃあこれでお願いします。」
ミルファの出した20枚のプラチナ貨に目を丸くして驚くバルザム。
「嬢ちゃん……払えるのかい?これはたまげたわい。」
「じゃあこれなのです。」
ルナもミスリルメイスを購入するべくバルザムに渡す。
「ミスリルメイスはミスリル武器の中でも比較的安いのじゃ。そうじゃな……15万Gでいいわい。」
「これでいいのです。ミルファちゃんみたいな値段だったら買えなかったのです。」
やはりミルファのあの値段を見て少し恐怖を覚えていたようだ。
あの値段はアメジストの弓の値段が大半を占めているのだろう。
「ところでレイジ、お前さん武器は買わんのか?」
「ああ。オレは自作したからな。」
「あの時も言ってたの。見せて貰う事は出来るかの?」
全然問題はない。アイテムボックス内の鋁爪剣を取り出しバルザムに見せる。
「んん?これは……アルミ?いや違うな。見た事のない金属じゃ。芯には魔物の爪かの?
この発想は見たことないの。いやいや、素晴らしい。」
「金属はジュラルミンっていう、アルミを基盤とした合金ですね。アルミの軽さに強度はかなり上がってると思います。」
「合金……錬成かの?うむ。いい剣じゃ。だが、技術がイマイチだの。もっと精進じゃな。」
やはり本職からしてみると、技術面が悪いと分かってしまうようだ。
「しかし、合金とはの~。素人がそこにたどり着くとは、その発想力の底が知れんの。」
「合金ってそんなに使われないんですか?」
「あるにはある。じゃが、扱うのは高名な鍛冶師ばかりじゃ。割合を変えるだけで全く別の物になってしまうのじゃ。なかなか手は出せん。
有名なのはダマスカス鋼じゃな。アダマンタイトを使っている超合金じゃな」
ダマスカス鋼にアダマンタイト。実際にお目にかかれる日は来るのだろうか。
元々の職業柄、そんなファンタジー鉱石にはかなり興味があるからな。
それらを探すのもこれからの目標になるだろう。うん、楽しみが増えた。
エイルとディルは武器を変えはしないようだが、マリーが杖を新調したらしい。
聖属性の力を魔力変換し、無属性弾として攻撃が可能な杖との事だ。
杖専門工房の主がゴールドランクの司祭マリーの熱烈なファンだったようで、家宝とも言える杖を譲ってくれたらしい。金額は秘密との事だ。
他の人達も其々の武器を新調したり、オーダーして戻ってきている。
そんな中ケントも戻ってきたが、明らかに元気がない。
聞くと、ケントの使用武器である大剣は強化すればする程重くなる。
ケントの力ではその重量に耐え切れず、装備すらままならなかったようだ。
実はその原因はジョブにある。
その武器のスキルレベルでも多少は装備できるものもあるが、その多くはジョブで決まる。
大剣を装備するには、重戦士や狂戦士などの中級ジョブ以上にならなければいけない。
現在使っているバスターソードは初心者武器で万人が扱える為、問題ないが、これ以上の武器を求めるならば、それ相応の実力が必要という事だろう。
つまり、カッコイイからという理由で武器を選ぶなという教訓だろうな。
ケントの場合は今後、どのようなジョブになっていきたいかを考えてから、武器を選んだ方がいいだろう。
残念だが今回は保留という事で。ご愁傷様でした。
今回17人中、10人が武器を購入した。
全員の武器を見てオレが驚いたのは、最もポピュラーな武器だと思っていた片手剣がオレとベロニカしか使っていないという事だ。
理由を聞くと、それじゃあ面白くないとの事だ。確かに納得出来る。
まあ、そうなると逆に片手剣がレアな武器になるだろう。だからこそ、オレは片手剣でいこうと思う。
とりあえず、オレの新たなパーティのメンバーになるミルファとルナは、無事に武器を新調出来たので良かった。
これで準備は整った。何時でも出発できるな。
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後数話で第一章も終わり、第二章へ突入します。
今後も益々目が離せないよう話を作っていきたいと思います。