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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第六章「当て馬リベンジャーと結び目ワールド」
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『彗星』

前回のあらすじ


お手!



背中を替々に任せた尾方はステップして戦場を軽く俯瞰する。


「さて、あと誰が来てる...?」


瞬間、鋭い殺気が尾方の体を一閃する。


反射で身を翻した尾方の寸での所を神速の刃が通り過ぎる。


「ッッとと。容赦ないねキヨちゃん」


膝をバネにふわりと着地した尾方は顔見知りに挨拶をする。


「流石ですね尾方さん。私の初太刀をかわせる人は天使にだってそう居ませんよ」


「おかげ様でなんとかこれぐらいまではね」


尾方はにへらと緊張感なく笑う。


「...尾方さん。投降するつもりはありませんか?」


「あらら、なんでまた?」


「知っているんでしょう。この作戦のこと。分かっているんでしょう?」


「うん。知ってる。そして分かってる」


「...だったら」


清の言葉のとおり、幹部達はともかく、戦闘員の人数差は凄まじく。


既に戦場の情勢は傾きかけていた。


そんな事は、もちろん尾方の目には現実としてしっかり認識されている。


「でもね、キヨちゃん」



諦められないんだよ。



先ほどと違って酷く乾いたような笑顔。


計り知れない感情を押し潰したような。


苦い苦い。


笑顔。


清はその顔を見て、奥歯を噛み締める。


「尾方さん...私は...」


「うん、分かってる」


「でも、私は...」


「大丈夫、わかってる」


大天使は大太刀の柄に震える手を添える。


「戒位第三躯『正義』の天使、正端 清」


「メメント・モリ『戦闘員』、尾方 巻彦」


手の震えが止まり。


清の目に正義が宿る。


刹那。


清の手が柄に触れるか触れないかの刹那。


彗星が飛来した。


スタジアムの中央。


巨大なクレーターと轟音を伴って現れた影は、煙の中でゆらりと揺れる。


瞬間、煙が吹き飛ばされ。


「戒位第二十九駆ッ!!『筋肉の天使』筋頭 崇ッ!! 推ッ!! 参ッ!!」


中から筋骨隆々の大男が現れた。


「おじきッ!? なんで!?」


戦闘中の國門もこれには顔色を変える。


そう、メメント・モリの幹部達はあの暴力を知っている。


問答の埒外。


理外の筋力を。


悪魔一同に絶望の色がよぎる。


悪いどころじゃない旗色が、これではさらに悪く...


「事情により悪魔に味方するッッ!! 許せよッッ!!!」


はい?


快活にとんでもない言葉を言い放った筋頭に、再度戦場が凍る。


しかし、


「ぬんッ!」


軽く振るった重い一撃が天使の一団を薙いだ時、それは現実だと誰もが悟った。


「おう、尾方の。久しいな?」


事も無げに尾方の後ろに跳躍してきた大男は快活に笑う。


「えーっと、筋頭さん? お気は確かで?」


尾方は片手で頭を押さえながら呆れ顔で言う。


「応ともさ! 諸々承知の上よ!」


何の憂いもないかのように大男は笑顔を崩さない。


「一応聴きますけど誰の差し金です?」


「ん? 替々のジジイ。見事言いくるめられたわい!」


こりゃ一本取られたとばかりにまた笑う。


尾方が替々を呆れ顔で観ると、鎖をかわしながらこちらに手を軽く振った。


「筋頭さん...これ詐欺です。申し訳ない」


「応ッ! 諸々覚悟の上よ! 気にするな!」


「...」


尾方は口を紡ぐ。


全力で闘ったからこそ分かる。


この男の性根。


言葉ではなく行動で現天使の体制に物申してきた。


だからではなく。


私と闘った事で彼は決めてしまったのだろう。


この選択を。


だとしたら自分は―――


「尾方の」


思い悩む尾方に筋頭は笑いかける。


そして、


ズッパァァァァン!!


ビンタした。


数メートル飛んだ尾方は数瞬の気絶から目覚める。


「いっっった!?? えッ!? 痛ッ!? え!? 痛い?? えっ??」


この世の痛みとは思えない痛みに尾方は混乱し転げまわる。


「目は覚めたか?」


「意識が墜ちてましたが??」


涙目の尾方は若干キレぎみである。


しかし、筋頭は満足げに言う。


「尾方! 俺はいずれ『こう』していた! 良いのだ!」


自分に言い聞かせるように筋頭は言う。


「でも今じゃなかったんじゃないです? 機会を窺っていたんでしょう?」


頬を擦りながら尾方は言う。


「応ッ! だがな! 所詮は俺の我侭だ! その我侭がこの機会ならお前たちの助けになるのだろう? 正に一石二頭よ!!」


「石でなにを仕留めてるんですかね...」


尾方は立ち上がり呆れ顔に戻る。


「...ところでなんでビンタしたんですか?」


「ノリよ! なんかあるだろう? そういう時!」


尾方の体育会系嫌いが加速する音がした。


「じゃあもう無理難題吹っかけますよ筋頭さん」


「応さッ!」


構えなおす二人。


「筋頭さんはキヨちゃんのお相手と。戦闘員の手薄な箇所の救援を頼みます」


「心得たッ!!」


「...いや二つ返事て」


「俺の筋肉なら雑兵への手出しなど片手間よ。わかっちょろうが?」


むんッと巨大な力こぶを光らせる筋頭。


「...そうでしたね。では、後任せます」


「応ッ!!」


ズンッと足を地面に沈める筋頭。


そこへ後ろを向いた尾方が付け足す。


「あと、どうも。気合入りました」


それだけ言うと尾方は跳躍した。


筋頭は満足げに笑う。


そして、


「さて、待たせたの清さん」


戦場に向き直る筋頭を。


半身で待つ正義が対峙する。


「俺が勝ったら按摩券貰おうかのう」


ゆったりと腕を回す筋頭に正義は真顔で応えた。


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