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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第五章「白星ルーザーと急襲アンダーグラウンド」
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『【偶像の天使】と【縁の天使】』

前回のあらすじ


地下アイドル(物理)


 偶像(アイドル)の天使

 瑠花 留佳(ルカ☆ルカ)


 彼女は間違いなくこの世界で最も有名な天使である。


 国民的アイドル兼大天使。


 なんと言っても大天使であることを公表し、その上で惜しみなくアイドル活動を行っていることが大きいだろう。


 世論が天使側になんとなしに偏っている要因の一端を担っているのは間違いない。


 ファン達は口を揃えて言う。


 彼女こそが真のアイドルであると。


 その理由は数あれど皆が皆、最後にこう口を結ぶ。


彼女(アイドル)は不滅である」と。


 この言葉の意味が言葉そのままの意味であることを知るのは彼女と戦場で対峙した者のみだ。


 何時からか存在し、また存在し続ける彼女は今日も唄う。


 不変を不偏に普遍を不変に。


 天使ありきのこの世を、不滅と唄う。



 ――――――とあるアイドル雑誌の一文より



「あら、誰かと思ったらマコトちゃんじゃん? 元気?」


 先ほどの絵文字は何処へやら、フリルが騒がしいほど付いた『いかにも』な服を着た少女は気さくに尾方に語りかける。その声は朗らかに優しい印象を受ける。


「ええ、まぁ、おかげさまで? なんとか生き永らえさせて貰っておりますよ。お久しぶりですがるか姉さんもお変わりないようで、いや、まんまの意味でね」


 尾方は油断なく半身に隠れた右腕に白い羽を握っている。


「あはは、まぁそこが私のアイデンティティですから。久しぶりかぁ。なんだかんだ君がメメント・モリに在籍中は逢えなかったもんね。となると君の墜天のあれこれを手引きした時以来か~。色々あったけど無事でよかったよマコトちゃん」


 本当にそう思っているのだろう。瑠花は二カッと快活に笑う。


「その節はどうも。あと尾方巻彦ですよ私は。して、本日はどの様な御用向きで? 握手会? ライブ? ライブなら上にステージがありますよどうぞ」


「いつの間にか口が回るようになったねマコトちゃん。必要最低限の事しか喋らない堅物を絵に描いたようだった君がさ」


 リズミカルにステップを踏んだ瑠花は残っていた丸椅子にフワッと座る。


「勿論、天使として来たのさ。悪魔さん」


 ――――――。


 空気が引き絞られるような緊張感が辺りに広がる。


 尾方がせめて先手をと手に力を入れたその瞬間、


「ゴホッ! ゴホッゴホッ! ゴホッッ!! ゲッホッッ!!!」


 瑠花の開けた洞穴からヨロヨロと人影が出てきた。激しく咳き込みながら。


「江見塚先生!? なにしてるんですかこんな所で!?」


 それを見た尾方は緊張感も忘れて羽を投げ出して男に駆け寄る。


「ああ、白貫君...死に目に君に逢えるなんて...私の人生も捨てた物じゃなかったなぁ...」


 普通に口から血を吐いているなにやら風水やらを語りだしそうな細目の男は、か細い声で言う。


「ルカ姉さん!? 江見塚先生まで連れてくるなんてどう言うつもりですか!! 本当に死んじゃいますよ!」


「ほらほら、白貫誠出ちゃってるから。抑えて抑えて。いや、〆が着いて来たいって言ったから渋々担いで来たのよ。途中で落としたっぽいけど」


「いや、落とされた後、まだ私でも行けると思って気紛れに全力ダッシュしてみたんですよ...甘かった...肺が...痛いとかじゃない...筋頭さんに雑巾みたいに絞られてる感じ...」


「階段四段で脇腹押さえてた人がなに言ってるんですか!?」


 尾方は心配そうに男の背中を擦る。


「いや、大丈夫だ白貫君...ごほッ、大丈夫だ、ありがとう」


 ヨロヨロと壁に手を付いて立ち上がった男は、息を整える。


「ふぅ、久しぶり、いや、はじめましてかな...尾方巻彦君」


「...ええ、江見塚〆大天使殿」


 慌てふためいていた尾方もこの言葉で現実に引き戻される。


「しっかし、大天使が二躯って...戦争でもするおつもりですか?」


 冗談交じりに言う尾方の言葉にはどこか願いが押し込められているようだった。


「だったらまだ良かったんだけどね...」


 江見塚はその返答に申し訳なさそうに視線を落とす。


「...六躯だ」


「はい?」


「今回の作戦、メメント・モリ殲滅作戦。大天使の総参加数『六躯』。過去に比肩する作戦もない大事件なんだよこれは」


「......はい?」


 尾方の目の焦点が合わない。理解していない訳ではない。だが、理解した結果を尾方の脳が拒んでいる。


「...尾方君」


 声をかけられふと我に返る尾方。


 そんな尾方に諭すように江見塚は言う。


「私と瑠花君はね。この作戦に懐疑的な意見を持つ二人なんだ。勿論、善神の正義を信じている。信じてはいるが、それを理由に自分の正義を無視する事は出来ない」


「まぁ、むっかしからだけれどもね~善神の突然の独善はさぁ。でも今回は流石に一言あるって。そう言うやつ」


 天使二人の言葉を受けて、尾方の目に色が戻る。


「ははは...敬虔なあなた方二人をしてそれを言われるとは、流石の善の神も形無しですね」


「他の天使たちに申し訳が立たないかな? 正直御身のご意向に背くのなんて初めてだから動悸が止まらないよ」


「〆の動悸については別の理由だけれどもね。さて、時間もないし簡潔に説明するね」


 ほっと椅子から降りた瑠花は歩きながら語る。


「あくまでワタシ達は天使だ。本作戦への参加を辞退は出来ない。故に有益な情報を前もって渡しておく。〆。」


 言われて江見塚はするりと袖から冊子を取り出す。


「これは本作戦の概要です。と言っても大雑把なものでして、参加する大天使と開始時間ぐらいしか参考にならないでしょうけど」


 尾方はサッと目を通し、深い溜息を吐いて頷く。


「あと我々二人についてはバレない程度に手を抜こう。仮にもあの筋頭さんを退けた組織だ、大天使も苦戦だってするだろう」


「それ説得力あります? ルカ姉さんが苦戦って大事件では?」


「そこはほら、ファンデの乗りが悪い日もあるって事で」


 瑠花は化粧用のコンパクトをパチンと閉じて見せる。


「あと、これは懸念事項なんだが」


 そこまで言って江見塚は躊躇を見せる。


「どうぞ、先生。今はどんな情報だって欲しい」


 尾方に促され、江見塚は頷く。


「悪海組の一件以降、色無いろなし ぜんの動向が掴めていない。万が一があると思って欲しい」


「あ、それなら大丈夫ですよ。一発拳骨したら泣いて帰ったので。暫く部屋から出てこないかと」


「そうか、それは―――」


 はい?

 

 もしかしなくてもあの尾方が片腕を失った事件。

 

 あの事を言っているのだろうか。


 事の顛末そんな感じだったの?

 

「は...い???」


 江見塚は絶句し、瑠花は爆笑している。




 暫く呆けていた江見塚は何かを呑み込む様に深く溜息をして口を開く。


「そうだった、そうだったね。君はあの白貫誠で彼女が色無善であるならそうなるか。まだ、そうあれるのか」


 どこか嬉しそうに江見塚は言う。

 

「だったらそっちは大丈夫だ。あと懸念があるとすれば」


「天禄ですよね?」


 被せるように尾方が言う。


 瑠花が頷いて続ける


「正解。そう、見上みかみ 天禄てんろく。マコトちゃんの永遠のライバルだからね。今回の主導者も彼だからねぇ」


「ライバルなんかじゃないですってば...天禄は僕なんかよりずっと優秀でしたしね」


「知らないって怖いわ~」


 ニヨニヨと悪戯っぽく笑う瑠花にハテナを飛ばす尾方。


「とりあえず、見上君には気をつけてね尾方君」


「はぁ、そりゃあまぁ大天使を相手に油断も何もありませんからねぇ?」


 どうやらよく分かっていない尾方を他所に、大天使二人は壁の穴の方へ歩を進める。


「では、私達はこれで一旦失礼しますね。作戦時間まで一時間ありますし。また後で会いましょう」


「じゃあ、仕事モードのワタシをお楽しみに。ファンになってもいいよ」


 惜しむ様子もなく踵を返す二人。

 

 尾方は慌てて口を開く。

 

「あ、ルカ姉さん。江見塚先生。まずお礼を、ありがとうございました。あなた方の心の正義に感謝を」


 しかしその目は鋭さを見せる。

 

「しかし、その正義は、あの事実を、まだ善しとした正義なのかな?」


 その口ぶりは、白貫から尾方へと徐々に変貌していく。

 

「だとしたら...やっぱり僕は悪魔になるしかなかったよ」


 その時、大天使二人の無線に通信が入る。

 

「『サクセンカイシジカンクリアゲ:ホンジコクヨリソクジカイシ』」


 瞬間、大きな地響きがメメント・モリ本部を襲う。

 

 そして、

 

 ドドッッ!!

 

 白い羽が回りに舞う尾方は瑠花の回し蹴りと江見塚の突きを同時に受け止めていた。

 

「「知った口を聞くな青二才が」」

 

 二人の衝撃をビリビリと受けてそれでも尾方はあくどく笑う。

 

「メメント・モリ...戦闘員! 尾方巻彦!」

 

「戒位第4躯、【偶像の天使】瑠花 留佳!」

 

「戒位第6躯、【(えにし) の天使】江見塚 〆」

 

「「「勝負!!!」」」

 

 

 かくして、メメント・モリ殲滅作戦。その火蓋が切って落とされた。

 

 この戦いを境に、シャングリラ戦線の情勢は大きく変わる。

 

 後の世にも語られる天下分け目の戦い、その幕開けである。

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