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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第五章「白星ルーザーと急襲アンダーグラウンド」
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『急襲アンダーグラウンド』

前回のあらすじ


副総統、爆誕


「死ぬにはいい日だ...」


心底そう思っているような、肺のそこから搾り出したような声が、部屋にこだまする。


説明しよう。


拗ねているのである。


ここはシャングラ戦線メメント・モリ現アジト。


そのメインスタジアムの下にあたる地下室で、パイプ椅子に深く座った中年、尾方巻彦は、これでもかとうな垂れていた。


「もう、尾方ちゃん。いつまで拗ねてるの? いい加減諦めて胸張りなさいよ偉くなったんだから」


この個室はスタジアムの控え室らしく、セットの鏡を使って髪を整えている搦手が言う。


「そうじゃぞ、第一俺は反対だからなお前が副総統なんて。すぐ辞めさせるき今は準備しなや」


國門は悪態を吐きながらネクタイの位置をチェックしている。


「まぁ尾方あれさ。年貢の納め時と言うやつさ。諦めろとは言わないけれど、受け入れるべきだろうねぇ」


老紳士はいつもの調子でコップに紅茶を注いでいる。


「ま、あれッスよおっさん。人生何事も経験ッスよ。役所通してるから給与もアップしますし、悪い事ばかりじゃないですって」


液晶越しに葉加瀬がお菓子を咥えながら言う。


落ち着かない部屋の一同を一瞥し、尾方は今日何度目かわからない大きな溜息を吐く。


「いや、分かってますよ? 組織の為に必要な忖度だって言うのは僕にだって分かってますよ。僕が言うのもなんだけどあらゆる方面に僕の存在は便利だし。矢面に立てるなら適任だしね」


拗ねてる。


まぁ、尾方の言っていることは一理ある。尾方巻彦という存在を№2に立てるメリットは多い。


まず知名度。悪魔・天使問わず、この男は良くも悪くも有名人である。同時に、重役嫌いも周知の事実だ。


つまり尾方巻彦の昇任は周りからはこう見える。尾方巻彦をカリスマで腹心にまで持っていったリーダーが居る。


また組織内から見ても、尾方巻彦の重用は、メメント・モリの復権という目的が明確化されている象徴にもなる。


とまぁ軽く考えただけでもメリットの塊。ごり押しする価値はある。


まぁ、でも、しかし。


「姫子さんがそんなことまで考えてるわけないじゃないッスか」


そう。別に姫子は前述したメリットを考え尾方巻彦を副総統に任命したわけではない。


「姫子さんは、おっさんに助けて欲しいって思ってお願いしてるんスよ」


葉加瀬の言葉に、尾方は押し黙る。


そしてキュッと一度口を閉めると、間を少し置いてか細い声で言う。


「...そうだよね。ありがとう、わかってる」


その目には少し決意の色が揺らいでいた。


しかし、


「それはそれとして挨拶はイヤだぁー!! 面倒くさい人前に出たくない文章考えたくない面倒くさい!!」


駄々こねだした。


「ぎゃーぎゃーうるさいわ! いい大人が我侭通そうとしなや!」


國門がネクタイを投げつける。


「國門少年。おめでとう。今日から君がメメント・モリの副総統だ。現副総統権限で任命するよ」


「今日任命されたばかりじゃろうがわれ! そんな不幸の手紙みたいな階級いらん! 少なくともお前からはいらん!」


「副総統に逆らうのか?」


「全力で手放そうとしちょる権威かざすなや!」


いい大人が二人でネクタイのキャッチボールをしている。


「はいはい、もうそろそろ集会始まるわよ。みんな準備して」


引率のおね...お兄さんがパンパンと手を鳴らす。


それを合図に皆席を立ち、部屋から出る。


「尾方はここでギリギリまで挨拶考えてていいヨ。どうせ居ても寝るだろうしネ」


替々が紙とペンを尾方に渡しながら言う。


「え? ええ、それなら...」


尾方がそれを受け取る。


「それだとこいつ逃げるんじゃなかか?」


「それは...そうかもネ」


「あ、いいものあるわよん」


そう言うと搦手は手の内からなにかを取り出した。


「じゃん、手錠~」


手馴れた手つきでパイプ椅子と尾方の手を手錠で繋ぐ。


「ええ...なにするの搦手さん。でもこれ」


慣れた手つきでパイプ椅子を床に溶接する。


「うそん」


「ちなみにその手錠、プラチナが使われてて滅茶苦茶高いから壊したら弁償してねん」


「なんて」


「じゃあ、出番になったら私さんから連絡するんで大人しくしてるんスよー」


バタンッ




一人部屋に取り残された中年は、椅子にまた深く座る。


そして、10秒ぐらいで折った紙飛行機を眺めながら、虚ろな目で考えていた。


「(どう逃げるべきか)」


そう、諦めていないのである。


普段は比較的良い方向に働く諦めの悪さだが、無論悪い方向にも全力である。


顎に手を当て、髭の剃り残しをなぞりながら、男は思考する。


「(まずこの手錠、これはもう壊すしかない。椅子のほうをどうこうするのは大きな音を立てるリスクが高く、気づかれたら終わりだ。しかしプラチナか...どれぐらい高いのだろうか。丁重に壊した後に換金したら元はとれるだろうか。弁償したくない。あとは脱出方法だが、まぁどう考えても普通に部屋から出るのはアウトだろうな。スタジアムまでは一本道だし。流石に見張りは居そうだ。となると)」


尾方は部屋を見渡す。


「(ドリルでもあれば壁に穴を開けて逃げれるんだが、いや、普通に音で駄目か。確か昔に読んだ漫画で徒手格闘で壁に穴を掘って脱獄してる奴がいたな。正装使えば僕でも...いや、だから音がだな...)」


その時、


微かに、岩が砕けるような、何か硬い物同士がぶつかる様な、そんな音が尾方の耳に入ってきた。


「(そうそうこんな音が...なんだ?)」


その音は少しづつ確かに大きくなりながら尾方に迫って来る。


「(...)」


そして直近まで来た音は、そこで動きを止める。


尾方の疑問が警戒に変わる。


次の瞬間、


ドガガガグシャ!!!


壁の一部が盛り上がり、押しのけられるようにひしゃげる。


砂埃をも押しのけながら一つの影が部屋の中に飛び込んで来た。


「戒位第4躯☆ アイドルの天使(ㆁᴗㆁ✿) RUKA☆RUKA(✿╹◡╹) 今日も元気に粛清しちゃうぞ(∩`-´)⊃━✿✿✿✿✿✿」


「あれ、ルカ姉さん。いま地下アイドルやってるの?」


手錠を事も無げに千切った尾方の手には、白い羽が握られていた。

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