『日常の終わり』
前回のあらすじ
う〇娘育成は上振れてる時こそしっかり休め
①
悪の神プロデュース特別企画!
『尾方巻彦の一日!』
はっじまっるよぉー!
はい、ということでね。
最近この物語の主人公である尾方巻彦以外に焦点を当てていたわけだが、
ここで一回初心に帰り、尾方巻彦、このおっさんを追い掛け回してみようと思う。
なんか最近株をあげているっぽいおっさんの株を暴落させるのが目的のこの企画。
是非お付き合い頂きたい。
②
「ん...んん...んが」
PM0:00 起床
わかりにくいがまぁ真昼間の0時だ。
昼起きは基本。
尾方巻彦は閉店で追い出された行きつけのスナックのシャッター前で目を醒ます。
商店街には既に大勢の人が往来しており、尾方を見て見ぬふりしたり、横目に通りすぎたりしている。
「ああ、朝か。皆さんおはようございますですね、あーどっこいしょ」
重い腰を重々と上げた尾方はボキボキと怖くなるぐらい体を鳴らす。
「はぁ、ネム...」
虚空を見つめる中年。
文字通り呆けている。
しかも五分ぐらいずっと。
「あっ」
しかし、何かを思い出したかのようにハッとする尾方。
そして少し考えると、意を決したように歩き出す。
中年、真昼間に足早で行動開始である。
③
PM0:35 パチンコ屋入店
そう、今日は新台入れ替えの日だね。
いや知らないよ。
なんだこのおっさん。
昼まで寝てたのになにも口に入れずにパチ屋に直行って。
私の想定を越える大暴落を予感させる滑り出しに私も冷や汗を禁じえない。
果たしてこの話が終わったときに彼は主人公足りえているのだろうか。
いつのまにか血渋木君辺りに主役を取られているんじゃないだろうか。
「ん~♪ こりゃ吉日だぁね」
しかも当てている。お約束的にしっかり大損こいて欲しい。
すると尾方の隣の空席に男が座り言う。
「釣れますか?」
「大物が釣れたようだのう」
二人でニッと笑う。
やめてくれ。
年齢がばれる漫画のネタを中年二人がパチ台に座ってやるのはやめてくれ。
怒るぞ。
筋頭呼ぶぞ。
「今回はお久しぶりでもないですかね鵜飼さん」
「お前が少女に首根っこ掴まれて連行されて以来だな」
ん?
ああ、この男は何時かの。
詳しく言うと五章②辺りに出ていた尾方の類友っぽいおじさんではないか。
「で、尾方。用事って?」
火をつけてない煙草を咥えた鵜飼は言う。
「いや、なんのことはない仕事の依頼ですよ」
パチンコ台を見据えた尾方はどこか上機嫌だ。
「仕事ぉ? 俺の職業知ってるよな? 探偵だぞ探偵。浮気調査か? 迷子犬探しか?」
寂れたおじさん探偵は呆れたように言う。
「鵜飼さんにしか出来ない仕事さ」
「ふぅーん、いくら積める?」
「出世払いでどうかな?」
「出世欲ゼロのやつがなに言ってるんだよ」
煙草を上下に揺らしながら鵜飼はうっすらとパンチコ台を眺める。
「はぁ、一文無しに金せびっても仕方がねぇか」
「面目ない」
申し訳なさそうな尾方の横にはパチンコ玉が山のように積まれている。
「今後、俺に出来そうな仕事は俺に回せ。仕事の斡旋を条件に呑んでやってもいい」
「おお、うちの雑件とかも回しちゃうかもよ?」
「相応の金払うなら別にいい。暇なんだよ。こんな町で探偵しててもな」
いよいよ、火のつけることのなかった煙草をケースにしまいながら席を立つ鵜飼。
「あれ? 話聞いてくれないの?」
「メールでいい。記憶力ないんでな。文章で残しといてくれ」
「仕事斡旋の件も文章に残しとくかい? 契約書とかいる?」
「嘘つけないやつと契約書交わしてどうすんだよ」
「信頼されてるなぁ」
「心配してるんだが」
病的だしと鵜飼は呟くと踵を返した。
そして軽く手を振ると店内を後にする。
尾方はその後ろ方を軽く一瞥すると、
満足そうにパチンコ台に座り直した。
③
PM3:00 悪道邸
パチンコ屋を後にし、お菓子の入った袋をぶら下げた尾方は、その足で悪道邸に立ち寄っていた。
無論、特に食べる予定のないお菓子を消費する為である。
「お邪魔しま~す。姫子ちゃん居る~?」
まるで屋台の暖簾を潜るように軽く上司の家に立ち入る尾方。
「おお!! おかえり尾方!! 自ずと訪れるとは珍しい!! 此方に寄れ!!」
目を爛々に輝かせた組織の長は、オヤツの煎餅を食べてる真っ最中であったが、尾方を見るや否やほうじ茶を慌てて置いて隣の椅子をポンポン叩いた。
誘われるままに隣に座る中年。
「ほら、ヒメ。お菓子いっぱい貰ったからさぁ。代わりに食べてよ」
「むむ、さてはハロウィンじゃな尾方? イタズラ拒まれすぎじゃろ」
「おやおや、ヒメには今のおじさんが仮装してるように見えるのかい? 一体なんの仮装に見えるのか気になるなぁ~」
「仮装をするもなく悪魔じゃろ」
「確かに...」
尾方は新鮮な視線に感心する。
「そんなことより尾方よ。時間はあるか?」
「行けたら行きます」
「用件も聞いてないのに来ない寄りの返事するのはやめよ」
「行けなくても行きます」
「急に覚悟決まりすぎて逆に来なそうな返事もやめよ」
「卍」
「曖昧の極地の造語に逃げるのもやめよ」
姫子は軽く溜息をすると尾方の腕を掴む。
「ボス命令じゃ。今夜シャングリラでメメント・モリ決起集会を行う。出席しとくれ」
神妙な顔で見つめられ、尾方はたじろいでしまう。
「い、いや、心配しなくて組織絡みの行事には参加しますよ? そこまで白状じゃないですよおじさん」
姫子は顔を綻ばせ心底嬉しそうに笑う。
「そうか! 出てくれるか! では、長の挨拶後に尾方から一言貰いたいんじゃが大丈夫かの?」
「おじさんから一言? 一本締めすればいいの?」
「いやいや、旧メメント・モリ代表者挨拶じゃよ。あるとなしとでは締まりが違うじゃろう?」
尾方の手にジワっと汗が滲む。
「あ、あはは、ご冗談を。おじさん一般戦闘員よ? 生き残りでもノーカウントレベルでしょ?」
「旧ではの。新生メメント・モリでは違うぞ」
「いや、こっちでも僕は一般戦闘員d」
「いんや、今朝市役所に申請して来た。晴れて副総統じゃぞ尾方は」
「...え?」
「ようこそ尾方副総統」
尾方巻彦の意識はここで途絶えている。
観る日が悪かったとしか言いようがないが。
尾方の一日はここに終わる。
傍目に見れば、ろくでもない一日ではあるが、
だが、こんな一日でも、この男は噛み締めるだろう。
もう後戻りを出来ない男は、
ここに確かに、日常があったことを。
それでも振り返り続ける。
いつだって過去は優しいと尾方は言う。
それはそうだ。
君の未来は、いつだって厳しいのだから。
④
《天使教会:共同作戦遂行許可証》
● 同日11:32 申請起案 ●
● 同日16:12 受理 ●
● 同日22:00 決行 ●
実行場所:シャングリラ戦線他
対象組織:メメント・モリ
備考:大天使の出座を許可する。
全組織員の死没を持って作戦の履行完了とする。