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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第五章「白星ルーザーと急襲アンダーグラウンド」
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『密談はディナーの後で』

前回のあらすじ


手の平クルクル情勢不安定

 ①


 さて、待たせてしまったようだがお次は誰恥じる事無いメメント・モリ一家の最高齢。


 謎多き老紳士、悪道替々の様子を覗いてみることにしよう。


 ところ変わってここは...


 どこだろうここ? 


 なんかやたら狭い部屋にぽつんと丸机が一つ。


 真上からポツンと差す光がこれまた寂しげな雰囲気をかもし出している。


 そして机には向かい合った二人の老人の姿があった。


 片や見知った顔、物腰柔らかそうな老紳士、悪道替々。


 対して、もう一人の老人は対照的な印象を抱かせる風体である。


 着ている服は着物だろうか、煌びやかではないが、その色使いの淡さは年季を感じさせる。


 整えられた濃い顎鬚を擦るその老人は、口をへの字に曲げて押し黙っている。


 すると、悪道替々が口を開いた。


「わざわざ呼び出してしまって申し訳なかったねぇ。『宗吾』兄」


 宗吾。確かに替々はその名を口にした。


 そう、悪道替々の正面に座るムスッとした顔に更に皺を寄せている老人、


 彼は【大天使】悪魔の天使『悪道宗吾』その本人である。


 への字の口を固く結んだ悪道宗吾は、目の前のお茶で少し喉を湿らせ大きく溜息を吐く。


「お互いの立場はわかっとるんだよな? 気軽に呼び出しよってからに」


 遠慮の無いため息から察するに、この密談はこれが初めてというわけではないらしい。


 渋い顔の大天使を余所に、替々は封筒を机に載せる。


「この封筒は?」


 悪道宗吾は怪訝そうな顔をする。


「我々の長男様、そのマル秘情報と言ったところかな」


「総司の?」


 そう、総司とは悪道総司。


 前メメント・モリの長である。


 つまり、悪道替々は三人兄弟であり、


 長男:悪道総師


 次男:悪道宗吾


 末子:悪道替々


 ということである。


 なんとも、まぁこりゃなんともな三兄弟である。


 シャングリラ界隈を騒がせる影に悪道あり


 とは、誰が言ったか。まぁいいえ得て妙である。


「今んなって何故情報なんてよこす? 前に聞いた時はだんまりだったのによ」


「事情が変わったんだよ。今は少しでも情報が欲しいのさ」


「それで情報交換ってか。大天使のワシ相手に」


「悪道家次男の貴方に聴いているのさ」


「どの口が言うか。勘当同然に出て行った癖に」


 悪道宗吾は封筒に手を伸ばし、軽く書類に目を通す。


 そして溜息を吐くと、ジッと替々の顔を見た。


「実際のところ...総司は。どうなったんだと思う?」


「さて、どうにでもなるでしょうな。彼の立場は我々とは一線を画していた。然らば、伸びる手もまた上からでしょう」


 目を軽く伏せた悪道宗吾は、間を置いて口を開く。


「...正直な話をするとな。天使側にとってメメント・モリは『不干渉』対象だった。三大組織の一角にして、だ。触るな触れるなのお触れが毎日でた」


「そこまでは知っているよ。残り二つに対して我が組織は余りにも天使からの襲撃が少なかったからねぇ。露骨に」


「だがな、ある日。突然そのお触れが出なくなった。明確に突然メメント・モリが天使の敵になった瞬間があった」


「......」


 替々は押し黙る。


「さて、情報交換だ弟よ。あの境はなんだ。メメント・モリであの時なにがあった」


 替々は暫くコーヒーを注いだコップの縁を眺めていたが、不意に、こぼれる様に呟いた。


「思えば、あれが始まりだったのかも知れないね」


「あれ?」


 こぼれた言葉を悪道宗吾が拾って返す。


 すると、替々は重い口をゆっくりと開いた。


「起こった事実はちっぽけなものだったさ。でもね。結果が、結果が大きすぎた」


 替々の持つコップが微かに波を立てる。


「宗吾兄、二人の神の目的は知ってるかな?」


「...なんとなくはな。人類の再興だろ?」


「まぁ、概ねその通り。ところがね。神々はあの日を境に、『人を人足らしめることを諦めたのさ』」 


 バチンッッ!!!


 激しい音を鳴らして照明が揺れる。


 無論私からの警告。


 さすがに喋り過ぎ。


 知った口を聞く物じゃない。


 やれやれと大げさなジェスチャーした替々は立ち上がる。


「じゃあ、宗吾兄。お返しの情報は電話でいいよ」


「...やぶ蛇もやぶ蛇じゃあ仕方がないのう。ほれ、スマホ出せ。LINE交換するぞ」


「宗吾兄...私、家電しかないんだよねぇ。あとスッと着物の裾からスマホ出すの面白いからやめて」


「こんの時代遅れが。ワシが買ってやる。アプリ入れちゃるから暇せんでいいぞ。今流行のは馬が人の娘になってのう」


「いや、この歳で兄にスマホ奢って貰うとかないデス。帰りますネ」


「遠慮なんかしなや。ワシの推しはこの薙刀もっちょるこの」


「結構。結構デス」


 新宿のしつこいキャッチから逃れるように部屋から早足で出て行く替々と、それをスマホ片手に追いかける宗吾。


 会談開始の荘厳な雰囲気はどこへやら。


 謎の部屋には私だけが取り残された。


 

「諦めてなんかいない」


 感情的に出た言葉ではない。


 これは、事実に対する決意。


 私はまだ、成し遂げる最中である。

 

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