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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第五章「白星ルーザーと急襲アンダーグラウンド」
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『守本書店前にて』

前回のあらすじ


中年、真骨頂 

「さて、限定戦闘範囲は抜けたかな...ここまで逃げたら問題ないでしょ」


 小廻からまんまと逃げおおせた尾方は、軽く肩を回すと抱っこしていた姫子を降ろす。どこか満足げな姫子は手早く服を正す。

 

「別によいが、尾方なら逃げる事もなかったじゃろうに。勝てたじゃろ?」


「なにを言ってるんですかねこのお姫様は...戒位十躯の大天使様だよ? おじさんなんて一蹴されて終わりさ」


「こっちはメメント・モリの尾方巻彦じゃぞ? 遜色ないじゃろ?」


「遜色が輝いておりますよヒメ」


「遜色ってどんな色なのかの?」


「さぁ? 勝手なイメージだけど緑とかそんなんじゃない?」


「ほむ、要するに引け目をイメージする色じゃろ? それこそ白とかなんじゃないかのう?」


「引け目が白? なんでまた?」


「どんな色も混ざれば薄くしてしまうじゃろう? 色目線でいけば薄くなるのって個性を奪われるイメージがあるんじゃよな」


「色目線て...流石はお姫様だ。世界を彩っておられたとは」


「ヒメコブラックとかよくないかの?」


「お、噂の遜色の正体かな?」


「誰が引け目じゃ誰が」



「遜色はそもそも色の事ではないわ」



道端で立ち話をしていた二人の間に割って入る奇特な影が一人。


「店長!?」


それは尾方のアルバイト先である古本屋の店長。守本一であった。


「あ、お主はいつぞやの...」


 姫子が突然の闖入者に言及しようとするが、


「遜色の『遜』は劣っていると言う意味があるわ。そして遜色の『色』はこの場合、色彩の事ではなく佛教語で言う所の『色』、つまり『色法』で『存在』を表すの。つまり、遜色とは『劣った存在』と言うことよ。これに否定の『ない』が付く事によって劣った存在でない。引けをとらないと言う意味になるの」


 捲くし立てる捲くし立てる。姫子は途中までなにか言おうとしていたが、段々と話の内容を聴き入り。

 

「なるほどのぉ~」


 ポンっと手を叩いて感心してしまった。尾方は話の内容が全く頭に入って来なかったらしく居心地が悪そうに苦笑いをする。


「はい、ご教授ありがとうね店長。っで、なんだけど、何故ここに?」


「...ここが何処かをしっかり認識してからもう一度その台詞を言ってもらおうかしら」


 尾方は怪訝そうな顔をして軽く周りを見渡す。すると、直ぐ横に『守本書店』と看板が置いてあった。


「何故(僕らは)ここに?」


「私が知るわけないでしょう? 突然店先に現れて話しはじめた不審者に注意喚起を促しただけです」


「あらら、知らないのかい店長? 知り合いは不審者足り得ないんだよ?」


「そうね。知り合いの不審者になるものね」


「そうそう、通報し慣れてる既知の...いや、アルバイトでしょアルバイト。ここの店員なんだけどその不審者さんは」


「不審な店員なのね」


「不審者は一旦置いておかない?」


「無理よ。尾方巻彦の枕詞だもの」


「僕を和歌で詠む時は気をつけないとだね...」


 古本屋の二人が質問答をしていると、


「のうのう」


 今度は姫子が割って入って来る。


「ワシを紹介してはくれんのかの?」


 少し疎外感を味わって寂しがっている少女が一人。尾方はこれからこの少女を上司だと説明しなければならない。なに言ってんだコイツ感が凄い。

 

 しかし、

 

「あ、店長。こちら僕の直属の上司。メメント・モリの悪道姫子総統になりま~す」


 尾方巻彦はなんなくやって退ける。そう、恥も外聞もこの男には暑い日に着るセーターの様なモノ。つまり、不必要なのだ。

 

「あら、隠し子ではなかったのかしら?」


 いつかの話を覚えていたのか、守本は無関心そうながら疑問を口にする。


「そだよ。親父の隠し子。晴れてメメント・モリ総統の後釜に納まりましたとさ。ちゃんちゃん」


「こら尾方。その擬音だと終わりのようではないか。始まりじゃぞ始まり」


「テテテテ・テッテッテー」


「それドラクエの宿屋じゃろ?」


相変わらずの二人が相変わらずのやりとりをしている。その様子を、守本は無表情で眺めていたが、


「少しいいかしら総統さん」


 そう言って話を遮る。


「ほぬ、店長さん。なにかの?」


「守本一よ。守本でいいわ」


 守本は淡々と言う。


「組織を引き継いだ件、やめておきなさい。そんな無駄なことに時間を費やすのは、そこの中年悪魔だけで良いと思うの」


 そこには感情は感じられない。ただただ淡々と。そこに心配とか、侮蔑とか、そんな意思は一切無い。

 

 ただそう思っているから言う。その様なニュアンスが感じられた。

 

「貴方を侮っているから言っているわけではないわ。ただ、重すぎるのよ。そこ(メメント・モリ)は誰にとっても。人間にはね」


 姫子はこの言葉を守本から目を逸らさずジッと聴いていた。横で苦笑いで場を流そうとしている尾方よりはよっぽど真剣に聴いていた。そして、少し考える素振りを見せた姫子は口を開く。

 

「確かに、ワシにはとてもとても無理じゃし、端から見れば時間の無駄かも知れん。それどころか皆を巻き込んで共倒れなんて事もあるじゃろう」


 そこまで言うと、姫子は一歩下がって尾方の背中を軽く叩く。


「しかし尾方がおる」


「...尾方巻彦は貴女が思っているような人物ではないわ」


「どんな人物でも構わん。ワシが買っているのは実績。一年間組織を一人で背負い続け、絶望の淵の見ず知らずの少女すら救ってみせた。その実績じゃ」


「彼の過去を知っても同じ事が言えるかしら?」


「過去は関係ない。今の尾方を買っておると言うておるではないか?」


 バチバチと火花が散っている。尾方巻彦はもう耐えられなくなって携帯で競馬の情報を真剣な顔で調べていた。

 

「そう」


 心なしか語尾に感情が篭り始めていた守本はすぅっと力を抜く。

 

「それならいいわ。部外者が御免なさいね」


 また感情のない抑揚の無い言葉に戻る。


「いやいや、いいのじゃ尾方の上司であればワシの先輩に当たるからの」


 守本は踵を返す。


「じゃあ、私は仕事に戻るわ。また顔を出しなさい」


「ほれ、尾方。言われとるぞ。なにを無視しとるか」


「貴方もよ」


 その返事に姫子は目をパチクリとさせる。

 

 しかしすぐ笑顔になる。

 

「うむ、守本店長も是非今度メメント・モリに来てくれ。歓迎するぞ!」


 そこまで聴くと、守本はスゥッと店内へ消えて言った。


「さて、有意義な時間であったの。さて、尾方。人の陰に隠れて携帯を弄っておるんじゃない。人を使って人から隠れるなんて失礼の極みじゃぞ?」


 その時、

 

「あれ、守姉? いねぇの?」


 店内から見覚えのある男が出てきた。守本書店のアルバイト。血渋木 昇である。

 

 瞬間、

 

 姫子は尾方の背中に蝉の様に張り付く。

 

「...」


「人を使って人から隠れるのは...なんだって?」

 

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