中年ニューイヤーと年越しプリンセス
あけおめでございます
ことよろであります
本年の抱負は休まぬ執筆
どうぞよろしくです
①
「尾方ぁ、悪の組織も『明けまして御目出度い』のかの?」
それは初詣の帰り道。
後ろを歩くヒメが突然そんな事を僕に訊いて来た。
またこのお姫様は突然なにを言い出すのやら。
「御目出度いに決まってるじゃない? なにか引っかかることでもあるのかい?」
僕は決まってこの手のヒメの質問には、素直な返答をする。
このお姫様はその場凌ぎや嘘にやけに聡いからだ。
それに曲りなりにも僕のボスだ。
義理は通したい。
「いや、しかしのう。悪の組織とは世界にルールより我を通す無法者じゃ。神社も歓迎せんのではないか?」
「悪の神様がいるじゃない? アイツにお願いするなら筋も通るんじゃない?」
僕は死んでも嫌だけどね。とは口に出さなかった。
「そもそも善の神、悪の神様がいるのに、その実いるかどうかわからない神様にすがるのはなぜなんじゃ?」
「あんな思い通りにならない神様なんかよりもっと都合がいい神様が欲しいんじゃないの?」
「ふーむ、なにやら腑に落ちんのう。神とは一体なんぞや。元々二柱おわすのじゃろう? その神様の手前、勝手に増やしたりするかのう? ワシはなにに手を合わせておったのかのう?」
あ、面倒くさい。変なところでこのお姫様は鋭角にこの世界に疑問を投げかけるから困る。
正直なところ、誰に言われたでもなく、自分でその疑問に辿り着いたのであれば、僕はそれに答える義務がある。
しかし、あくまで義務。義理じゃない。義務なんて知った事ではない。僕は悪魔なのだから。
答えたくないのであれば答えない。それがいい。それでいい。
「昔は二柱だけじゃなくてそりゃあ数多の神々がおわしたそうよ。その頃の名残だぁね」
義理は通す。僕はそれとなく正解でも嘘でもない灰色の返答を置いておく。
「ふう、む...」
ヒメは僕の顔をジロリと覗き込んで来る。
僕は明後日の方向を向く。
「ま、どうでもいいがの。ワシ等の復讐にはトンと関係の無い話じゃ」
余り深入りしすぎるのは良くないと思ったのか、軽くヒメは踵を返す。
そして、首だけこちらに振り返ると言う。
「して尾方よ。初詣のお願い。しっかり組織の繁栄を祈ったであろうの?」
「え、いや、競馬が...。あー、もちろん組織の反映を祈りましたよ」
義理よりも大切なモノも時にはある。
柔軟性のある中年社会人に僕はなりたい。
「いまなにか言いかけなかったかのう? あと反映って誤字っちょるぞ」
「人の発言を自然に言語化するのやめてくれない。あと、反映であってるよ。僕が願ったのは仕事っぷりが賞与に直に反映される組織だから」
最初はほとんどワンマンアーミーだったのだ。なにか見返りを求めてもバチは当たらないんじゃないだろうか。
「ふむ、ふむ...それは、確かに何かあってもいいかも知れんのう」
僕の軽口に対して、我が組織のボス様は前向きに検討してくれているらしい。
真面目だなぁ。
誰かを思い出しそうになり、僕はそっとその蓋を閉める。
「まぁまぁ、出世払いでいいよヒメ」
「組織の長に出世はあるのかの?」
「ボスの出世は組織の成長と歩合制さ。期待してるってこと」
これは本当だ。期待というより希望の意味合いが強いけど。
今はまだごっこにも似た歪な組織だけれども。
僕は希望する。夢想する。
この人が、なにかを、どうしようもないこの世界のなにかを変えてくれるんじゃないかと。
そして、僕に引導を渡してくれるんじゃないかと。
出逢ってまだそこまで長くない。しかも年端もいかない少女に。いいおっさんがなにを期待してるんだって僕だって思うけれど。
それでも期待せずにはいられない。
「うむ! 期待してくれ尾方巻彦! 必ずメメント・モリを悪魔一の大組織まで成長させてみせよう!」
この人は、僕と同じ挫折を知って尚、前を向いている人なのだから。
「ところで尾方、お年玉は?」
「いや、組織図的におじさんがもらう側でしょ?」
「えぇ...真顔でいいよったぞこいつ...」